2019.05.08(水)大会

【木南記念】男子100mは山縣選手が国内初戦を制す。多田選手も順調な仕上がり


 第6回木南道孝記念陸上は5月6日、日本グランプリシリーズでグランプリ「大阪大会」として、今秋にカタールで開催されるドーハ世界選手権の日本代表選考会を兼ねて、大阪市のヤンマースタジアム長居において行われました。

 10連休最後の1日となったこの日、大阪は朝から快晴に恵まれ、気温も午前の段階から24℃超え、初夏を思わせる日差しとなりました。午後にはやや風が強まるコンディションとなりましたが、男子6種目(100m、200m、400m、800m、110mH、400mH)、女子6種目(400m、800m、10000m、100mH、400mH、やり投)、合計12のグランプリ種目が行われました。

 女子やり投で、ダイヤモンドアスリート修了生の北口榛花選手(日本大)が64m36の日本新記録、学生新記録を樹立。秋に開催されるドーハ世界選手権(61m50)、そして2020年東京オリンピック(64m00)の参加標準記録をともに突破したほか、グランプリ4種目で7つの大会新記録が誕生する盛り上がりを見せました。




◎男子100mは山縣選手が国内初戦を制す。多田選手も順調な仕上がり

男子100mには、山縣亮太選手(セイコー)と多田修平選手(住友電工)の2選手のほか、海外招待選手として100mで9秒89の自己記録をもつMichael RODGERS選手、9秒93のCameron BURRELL選手、静岡国際男子200mを制したTrentavis FRIDAY選手ら、アメリカの選手がエントリーしたことで、大きく注目を集めましたが、BURRELL選手、FRIDAY選手は欠場となり、RODGERS選手も予選(1組1着、10秒28、-1.2)のみ走って決勝を棄権したため、勝負は「山縣選手と多田選手の対決」という構図に。予選は多田選手が1組でRODGERS選手に次いで2着(10秒30)、山縣選手が2組2着(10秒24、+0.6)でそれぞれ通過。一度スタートのやり直しがあったのちに、追い風0.1mのなか行われた決勝では、スタートでやや先行した多田選手を、終盤でかわした山縣選手が10秒21で優勝、多田選手が10秒28で続く結果となりました。 

山縣選手は、今季は、3月22日にアメリカの大会に出場して10秒18(+2.1)でシーズンに突入。第2戦となったアジア選手権は、予選を10秒30(-0.2)、準決勝を10秒18(+1.2)と順調に決勝へ駒を進めたものの、右脚ハムストリングスに違和が生じたため大事をとって棄権していました。しかし、帰国後の診察で問題はないことが判明し、その後、順調に回復。当初の計画通り、この木南記念で国内初戦を迎えていました。

「予選で、すごく起き上がりが早くて、最初から2次加速の走りになっていたので、しっかり前傾をかけて走るようにした」という決勝は、「今回も(10秒)1台前半から0台を狙いたかったのだが…」と考えていただけに、「タイムがよくなかったので、満足はいかなかった」と、フィニッシュ後に苦笑いする場面も見られました。

「予選、決勝と2本走って、その1本1本ですごくいい刺激が身体に入ったと思うし、多田くんと一緒に走って、彼のスタートの速さやキレ、ピッチの速さを間近で体験できたので、そういうのと比べると、自分はもうちょっと足りないものがあるなという感じる部分もあった」と振り返る一方で、「1レースごとの課題が見えてきたなというのがあるので、それを繰り返していくうちに、タイムと身体の状態を上げていきたい。課題があるので、次に向けては、何か修正しては臨めると思う」と前向きなコメントを残しました。 

一方、出雲陸上、織田記念に続いて国内3戦目となった多田選手は、社会人になって初めて出身地でもある大阪でのレース。スタントからは予選から大きな声援が寄せられました。予選後は、「織田(10秒21=シーズンベスト)よりも状態はいい。自己ベストを狙えるなら狙いたい」と意欲を見せていましたが、決勝では「1~2歩目くらいでつまずいて体勢を崩してしまった」と痛恨のミス。織田記念の予選のあと、スタート時に頭を起こして構える姿勢から首を落として構える姿勢に変更したことで、低い姿勢でスムーズに出られる手応えをつかんだと話していましたが、その感覚を完全に体得できるほどの練習時間がとれなかったことが影響したようで、「(10秒)1台や0台を目指してやっていたので行けるという手応えはあったのだが、バランスを崩したことでだいぶロスしてしまったなと思う」と振り返りました。

しかし、「トータルとしては、状態は本当にいい感じでは来ているので、もっともっとまだまだ行ける」と見通しは明るい様子。このあと、世界リレーを経て、5月19日には再び長居でゴールデングランプリに出場します。「今回、自分の武器であるスタートでミスしてしまったので、そこをさらにキレを上げていくようにしたい。一気にスタートから中盤で抜け出して、そのスピードを維持できたらいいなと思う。もちろん優勝を目指しているし、ベスト(10秒07)を狙いたい。9秒台も出したいなと思う」と先を見据えていました。


 

 

◎男子400mHはミズノ勢がワン・ツー、女子400mHは宇都宮選手が2連覇

5月3日の静岡国際に続いて行われた男子400mHは、3組タイムレース決勝で行われ、最終3組目はミズノ同士の争いとなりました。ホームストレートで、野澤啓佑選手が松下祐樹選手との競り合いを制し、50秒52と初戦のシンガポールオープンでマークしていたシーズンベスト(50秒59)を更新してグランプリシリーズ2連勝。レース後、野澤選手は、「着実に(調子が)上がってきている」と、晴れやかな笑顔を見せた一方で、「ここで調子に乗っちゃうと痛い目に遭う。今日の結果はここで忘れて、日本選手権までの練習をしっかりやりたい」と、世界選手権代表入りを目指して、終盤の落ち込みをさらになくすべくトレーニングに取り組んでいく意向を示しました。 

一方、0.05秒差の49秒57で2位となった松下選手も、アキレス腱痛に苦しんだ昨年のシーズンベスト(49秒82)を上回ってのフィニッシュに、「冬場、スピードを落とさず、200m、250mといった距離の走る練習にしっかり取り組んできたことで、スピードの下限値が上がった。これから、今の状態をもう一段階引き上げていきたい」と手応えをつかんだ様子。2015年北京世界選手権、2016年リオ五輪と連続出場を果たしている松下選手は、「代表入りはもちろんだが、決勝で戦いたい。準決勝で48秒5台をマークすることを頭に置いた練習している」と、こちらもドーハ世界選手権での快走を狙っています。


 

男子と同じで、静岡に続いて行われた女子400mHは、3組目を走った宇都宮絵莉選手(長谷川体育施設)がセカンドベストの57秒05で、静岡を制した小山佳奈選手(早稲田大、57秒77)に先着して大会2連覇を達成。4位でフィニッシュしたアジア選手権で出した57秒38のシーズンベストも上回りました。

七種競技でも日本歴代4位の5821点(2018年)の自己記録を持ち、日本女子初の6000点突破有力候補の1人として数えられている選手ですが、昨年の木南記念で日本歴代9位となる56秒84をマークして優勝したことで、一気に400mHでも注目を集める存在に。昨年は、失敗があって4位に終わった日本選手権混成(女子七種競技)の1週間後に行われた日本選手権400mHを57秒37で初優勝。この種目でアジア大会の日本代表に選出され、ジャカルタでは400mH(7位)のほか、女子4×400mR、男女混合4×400mRにも出場し、ともに3走を務めて5位の成績を残すなど、ロングスプリンターとしての活躍も見せています。 

58秒68で3位にとどまった静岡国際では、日本選手権混成に向けて七種競技の練習を進めながら迎えた大会であったとしつつも、「うまくないレースをしてしまった」と内容そのものを反省するコメントを残していましたが、この大会でのレース後は、「走りの部分が、いい形で動けた。間(インターバル)をしっかり走ることができたので、余裕を持ってハードリングもできたし、ある意味、自分らしい、ダイナミックなレースが久しぶりにできたかなと思う」と笑顔。次戦となる5月19日のゴールデングランプリで、「しっかり調整して、タイム(56秒00=ドーハ世界選手権標準記録)を狙って」いくことを目指しているというだけに、「それを考えると、今日、同じ(ゴールデングランプリが開催される長居)競技場で、こういう走りができたことは、気持ちの面でもリハーサルになってよかったと思う」と好感触をつかんだ様子。また、日本選手権混成が今季初戦となる七種競技についても、「ヨンパー(400mH)の試合が増えているので、偏ってしまっているところはあるけれど、それはスタミナとかの面にプラスになると考えている」と、こちらでも活躍を期している様子。「そこは誰よりも早く出したい」と6000点突破に向けても強い意欲を見せました。

 


 

◎ダイヤモンドアスリートのクレイ選手、高校生ながら男子800mで圧勝!

男子800mには、ダイヤモンドアスリートで、昨年の秋、高校2年生ながら1分47秒51の高校新記録(=U18日本記録)を樹立しているクレイ・アーロン竜波選手(相洋高)が出場。クレイ選手は、今季は4月20日に1500mで高校歴代3位、U18日本歴代2位となる3分44秒86の好記録をすでにマークしていることもあり、800mでの記録更新なるかが注目されました。

今回は、アジア選手権1500mに出場した田母神一善選手(中央大)がペースメーカーを務め、最初の1周を52秒で通過。クレイ選手は、田母神選手にぴたりとつく形で400mを通過していきましが、400m手前あたりで3位に浮上してきた村島匠選手(福井県スポーツ協会)ら後続との差がかなり開いてしまっていたこともあり、550mを過ぎたあたりで田母神選手がレースを終えるとクレイ選手の“一人旅”となる展開に。バックスレートがかなり強い向かい風となる状態になっていたこともあり、ここでペースを落としてしまいました。クレイ選手は最後まで粘り、後続を寄せ付けないままフィニッシュしましたが、記録は1分49秒03にとどまりました。 

「1周目は余裕を持って、ついていくことができたのだが、ラスト300mでの切り替えが、いつもよりははっきりできなかったかなと思う。2周目(のペース)が落ちてしまったのが、ちょっと悔しい」とレース後は、少し悔しそうな表情も浮かべたクレイ選手。すでに夏の沖縄インターハイに向けた予選会もスタートしており、5月第2週末から2週に分かれて神奈川県大会も行われますが、クレイ選手は世界リレーの日本代表に選出されたため、神奈川県大会はシード扱いとなり、世界リレーに臨むことになっています。

日本チーム唯一の高校生となる世界リレーでは、新たに行われる2×2×400mRに出場の予定。「まるで“4プラ4”(400m+400m)の練習のよう。たぶん、相当きついんじゃないかなと思うが…」と言って報道陣を笑わせつつも、「緊張する面もあるが、楽しみな思いもある。高校生だが、シニアに負けない走りをしたい」と頼もしい言葉を聞かせてくれました。また、種目は違うもののメダリストの先輩選手たちと同じチームを組むことに対しては、「大きな舞台での行動などをしっかり見て、いろいろなことを学んできたい」と瞳を輝かせていました。


 

 

◎110mHと100mHでハイレベルなレースが展開

この大会は、ハイハードルの第一人者として活躍し、現役引退後は数多くの要職を務めてスポーツ界に貢献して木南道孝氏の功績を称えて2014年から行われていますが、男女スプリントハードル(男子110mH、女子100mH)では、その大会にふさわしい好記録が誕生しています。

男子110mHは、予選1組でFreddie CRITTENDEN選手(アメリカ)が13秒49(+0.3)の大会新記録をマークすると、追い風0.3mの条件で行われた決勝では、13秒38まで記録を更新して優勝。2位争いは、織田記念で激しい優勝争いを繰り広げた石川周平選手(富士通)と泉谷駿介選手(順天堂大)が再び大接戦を展開。石川選手が13秒50と織田記念でマークした自己記録を0.04秒更新して先着し、泉谷選手は自身ハイハードルで今季3回目の13秒5台となる13秒58・3位でフィニッシュしました。 

また、女子100mHも、予選3組に入ったEvonne BRITTON選手(アメリカ)が13秒11(-0.9)で大会記録を更新すると、決勝でも圧倒的な強さを見せて13秒01(+0.5)の大会新記録でフィニッシュ。2・3位は紫村仁美選手(東邦銀行、13秒22)と青木益未選手(七十七銀行、13秒27)がそれぞれシーズンベストで続き、4位には福部真子選手(日本建設工業)が13秒31の自己タイ記録で、5位・田中佑美選手(立命館大、13秒33)、6位・藤森奈那選手(明治大、13秒39)も自己新記録をマークしてのフィニッシュとなりました。なお、織田記念で日本人トップの2位となっている田中選手は、予選でも13秒34(+0.5)の自己新をマークしており、織田記念の決勝から3連続で自己記録を塗り替える好調ぶりとなっています。 

このほか、ともに3組タイムレース決勝で行われた男女400mは、女子は青山聖佳選手(大阪成蹊AC)が53秒42の大会新記録で優勝、男子はオーストラリアのAlexander BECK選手が46秒17をマークして優勝しましたが、2位には静岡国際を制した河内光起選手(近畿大)が46秒26で続き、再び日本人トップの座に収まっています。女子800mも海外招待のBrittany MCGOWA選手(オーストラリア)2分03秒94で優勝。日本人トップの2位には静岡国際800m覇者の塩見綾乃選手(立命館大)が、その静岡とぴったり同じ2分04秒00をマークして競技を終えました。また、男子200mは、静岡5位の原翔太選手(スズキ浜松AC)が20秒79(+0.4)で優勝。徐々に調子を上げてきている様子をうかがわせる結果を残しています。


文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト

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同競技場(ヤンマースタジアム長居)にて、次はセイコーゴールデングランプリ陸上2019大阪 (5/19)開催!

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