「日本インカレ」の通称で知られる日本学生陸上競技対校選手権大会の第87回大会が9月6~9日、神奈川県川崎市の等々力陸上競技場において行われました。
期間中は快晴に恵まれたものの強い風が常に吹き荒れるコンディション。この影響もあって、記録的には、日本体育大学が女子4×100mRで樹立した44秒59の日本学生新記録を含めて大会新記録4つ、大会タイ記録2つにとどまりました。
しかし、各種目で対校戦ならではの熱戦が繰り広げられ、男子は、6連覇中の日本大学が96.5点を獲得して7年連続21回目の総合優勝。女子は103.5点を獲得した筑波大が4年ぶりに王座を奪還し、25回目の優勝を果たしました。
ここでは、5つの視点から活躍が光った選手をピックアップ。その結果をご紹介します。
◎注目の男子100mを制したのは!?
1.4mの向かい風のなか上位が100分の1秒差で続く接戦となった決勝を制したのは、慶應義塾大の4年生、永田駿斗選手。
向かい風2.2mとなった予選を自己記録(10秒36)に迫る10秒39で1着通過すると、準決勝では10秒31(-0.3)の自己新をマークして全体でもトップで決勝へ進出。決勝では、立ち上がりの段階で、ロンドン世界選手権4×100mR銅メダリストの多田修平選手(関西学院大)やダイヤモンドアスリートの宮本大輔選手(東洋大)といった序盤を得意とする選手を押さえてリードを奪い、そのまま逃げ切って10秒34で先着しました。
長崎出身の永田選手は、100mで小学生のころから全国大会で活躍し、大村玖島中3年時の2011年全日中では100m優勝・200m3位。諫早高1年時の2012年には国体少年B100mを制し、翌2013年には世界ユース選手権の日本代表にも選ばれ、メドレーリレー(100m+200m+300m+400m)では銅メダル(2走)を獲得している選手。
その後、思うような結果が出せない時期が続きましたが、昨年の国体で10秒38をマークして高校時代に出した自己記録(10秒42)を塗り替えると、今年4月の織田記念で10秒36に更新するなど、再び地力を上げてきていました。
今回の結果に結びつく一番の契機となったのは、5月の関東インカレ後、OBである小池祐貴選手(ANA)のはからいで、小池選手が指導を仰ぐ臼井淳一コーチのもとで一緒に練習を行うようになったこと。
「今までがむしゃらに走っていたのだが、リラックスして走るための力の入れどころがわかるようになってきた」と7月ごろから感じるようになった変化は、この大会の予選・準決勝を経て、「今まで自分の走りをしても勝てないと思っていたライバルたちとの差が埋まっていることを確信した」と思うまでの手応えに。
「多田くんが前半行くことはわかっていたが、僕も前半は得意だし、後半も調子がよかったので、最後までリラックスして走ることを心がけた」という決勝は、「最後はちょっと力んでしまったので、完璧とはいえないが、ゴール手前までは自分の走りができたと思う」と、ほぼイメージ通りのレースを展開。主将として臨んだ大学最後のインカレで、6年ぶりの全国タイトルを勝ち取るという最高の結果を手に入れました。
2位には10秒35で宮﨑幸辰選手(東北大)が続き、多田選手は終盤での逆転がかなわず10秒36・3位でフィニッシュとなりました。また、多田選手同様に予選・準決勝と1着で通過し、優勝候補の一角にも上がっていた宮本選手はラストでかわされ、10秒45・6位という結果でした。
1人は、7月にタンペレ(フィンランド)で開催されたU20世界選手権男子走幅跳で金メダル(8m03)を獲得した橋岡優輝選手(日本大、ダイヤモンドアスリート)。今季は、日本選手権でU20日本歴代2位タイとなる8m09の自己新記録をマークして2連覇を達成。アジア大会にも出場し、メダル獲得はならなかったものの8m05で4位の成績を収めています。
優勝候補の筆頭に上がっていた昨シーズンは肉離れにより出場がかなわず、今回が日本インカレ初出場。総合7連覇を目指す母校のポイントゲッターとしてはもちろんのこと、U20日本記録(8m10)、日本記録(8m25)の更新も期して試技に挑みました。
残念ながら昨年8m09(U20日本歴代2位タイ)の大会新記録で優勝した津波響樹選手(東洋大)は故障で欠場。全28選手が出場した決勝は、追い風基調となるように、正面スタンド前の走幅跳ピットを100mのスタート地点側の砂場に向かって跳ぶ形で行われましたが、風向も強さも一定しない非常に難しいコンディション下での試合になりました。
橋岡選手が競技後、「一番感覚が良かった」と振り返った1回目の試技は、8mを超える跳躍でしたが、惜しくもファウル。しかし、向かい風(-0.8m)となった2回目の試技で7m93をマークしてトップに立つと、4回目には7m97(+1.3)まで記録を伸ばします。5・6回目の跳躍で8m台が期待されましたが、どちらも向かい風のなかでの跳躍となり、7m76(-0.5)、7m77(-2.2)と記録を伸ばすことはできず競技終了となりました。
ミックスゾーンでは、「自分らしい跳躍が、最終的に1本もできなかった」と不満が残る様子を見せた橋岡選手。「向かい風を“モノにしきれなかった”という部分がある。そんななかでも自分の力をしっかり発揮できるように修正していけるようでなければ…。自分の未熟さが出たかなと思う」と反省の言葉が続きました。今シーズンは、この大会が最後の競技会。今後は、少し休養をとって、来季のための冬期練習へ向かうとのことです。
もう1人の“世界チャンピオン”は、5月に太倉(中国)で行われた世界競歩チーム選手権の男子20kmWを制し、団体でも金メダルを獲得した池田向希選手(東洋大)。日本インカレでは男子10000mWに出場し、40分35秒34で初優勝を果たしました。
「本当は、4000mで出て、6000mまでに(後続との差を)離していくつもりだったが、1人では行けなかった」と振り返ったように、池田選手は4000m手前でいったん先頭に立ちますが、リードを広げきることができず、その後は、チームメイトの川野将虎選手(東洋大)と交互に前に出てレースを進めていきます。
残り8周となったところで、トップ争いはこの2人に絞られ、一騎打ちの様相となりました。池田選手は、8500m過ぎの追い風が吹くバックストレートで仕かけて川野選手を逆転すると、その差を7秒以上に広げてフィニッシュ。「インカレには特別な思いを持って臨んでいた」ということもあってか、レース直後に心境を問われると、笑顔で「ホッとした気持ち」と答えました。
世界競歩チーム選手権での優勝は、8月のアジア大会20kmを制したWang Kaihua選手(中国)はじめ、銀メダルを獲得した日本の山西利和選手(愛知製鋼)を含めたアジア大会上位選手に先着しての結果です。しかし、「勝ったと言っても(アジア大会とではレース)環境が違う。世界で勝ったといってもたまたまのこと。“勝ちたい”という強気な思いは持ちつつも、驕ることなく取り組みたい」と言います。
次のレースは、10月の国体10000mWで、その後は、来年2月に行われる日本選手権と3月の全日本競歩に向けたトレーニングに入る予定。来季の目標は世界選手権とユニバーシアードの代表入り。「1時間18分台を目指したい」と意欲を見せました。
まず、男子3000mSCを8分31秒98の大会新記録で優勝した塩尻和也選手(順天堂大)。アジア大会では、序盤から積極的なレースでセカンドベストとなる8分29秒42をマークして銅メダルを獲得しています。3連覇中で迎えた最後の日本インカレでは、2周目で先頭に立つと、2000m手前でペースアップ。残りの1000mを独走する圧巻のレースを展開。大会記録を19年ぶりに更新するとともに、この種目では2006~2009年の菊池敦郎選手(順天堂大)以来となる2人目の4連覇となりました。
大会タイ記録をマークしたのは、男子400mのウォルシュ・ジュリアン選手(東洋大)と女子七種競技のヘンプヒル恵選手(中央大)。
ウォルシュ選手は、アジア大会では400mと4×400mRに出場。1走を務めた4×400mRで銅メダルを獲得しました。日本インカレでは、昨年ケガからの復活を果たして連覇を守った400mで3連覇に挑戦。「攻めのレースではなく、勝ちにいくレース」を展開したウォルシュ選手は、ホームストレートで競り合いとなった伊東利来也選手(早稲田大)をラストでかわし、45秒75でフィニッシュ。2004年に山口有希選手(東海大)が樹立した大会記録に並びました。200mは予選突破ならなかったものの、アンカーを務めた4×400mRは3分06秒34で快勝。この種目でも3連覇を達成しています。
ヘンプヒル選手は、昨夏、左膝を痛めて手術したことで、日本インカレも欠場を余儀なくされ、3連覇を逃していました。今季に入って競技会に復帰し、アジア大会代表にも選ばれましたが、体調がよくても結果に結びつかないという状態に陥り、アジア大会は5654点で6位に。「身体よりも心がつらい」という苦しみを抱えつつ、日本インカレに臨んでいました。
この大会でも、6m00をマークした走幅跳以外では、満足のいく結果を残せなかったといいますが、5550点を獲得して3回目の優勝。これは昨年、山﨑有紀選手(九州共立大、現スズキ浜松AC)に更新された大会記録と同記録で、再び大会記録保持者となりました。七種競技のほかにも、100mHと走幅跳に出場。走幅跳では5位入賞を果たしました。
その筆頭といえるのが、男子110mHの泉谷駿介選手(順天堂大)。予選では、1.1mの向かい風にもかかわらず、ラストを流してU20日本記録(13秒73)に0.04秒まで迫る13秒77の好記録をマーク。向かい風1.8mとなった準決勝も13秒87でトップ通過を果たすと、向かい風1.1mのなか行われた決勝では13秒75をマーク。U20日本記録の更新はなりませんでしたが1年生チャンピオンとなり、4連覇への挑戦権を手にしました。
神奈川・武相高校の出身で、昨年の八種競技インターハイチャンピオン。今季は、アジアジュニア選手権は三段跳で出場して銅メダルを獲得し、U20世界選手権では110mH(ジュニア規格)に出場して銅メダリストとなっています。将来のビジョンを問われて、「学生のうちにオリンピックを狙って、日本記録も出して、世界で戦えるようになりたい」と答えた泉谷選手。「どの種目で?」という質問には、「まだ、そこは整理がついていない。将来的にはどちらかに集中することになるかもしれないが、三段跳も好きなので、今はどちらも両立してやっていきたい」と述べました。2000年1月生まれの泉谷選手は、2019年もU20のカテゴリーに残ります。来季も両種目での活躍が期待できそうです。
女子で活躍が目を引いたのは、ダイヤモンドアスリートの髙松智美ムセンビ選手(名城大)。1500mと5000mに出場して2冠を達成しました。今季は、アジアジュニア選手権1500mで銀メダルを獲得したあと、日本選手権1500mでは初優勝。その後、U20世界選手権は5000mに出場し、積極的なレースを繰り広げて7位入賞を果たしています。
この日本インカレでは、両レースともにスローペースとなるなか先頭には出ずに様子をうかがう展開を選択。1500mでは1200m地点を3分40秒で通過したのを機にポンと飛び出すと、そのままリードを大きく奪い、4分25秒50でフィニッシュ。4400mで上位争いが3人に絞られた5000mは、残り350mで前に出て16分06秒83で、2つの学生タイトルを手に入れました。
5000mのレース後、「ラスト1周で行きたかったが余力がなかったので、前に出てもあまり上げすぎないで、ラスト200mでしっかり前に行った。自分もしんどかったが、周りのみんなも息が荒かったので“みんな一緒。最後の粘りの勝負だ”と思って頑張った」と振り返った髙松選手。
名城大で練習するようになって生じた変化として、「最初から飛び出すのではなく、冷静にレース展開を見守る走りができるようになってきた」ことを挙げましたが、一方で、「でも、周りの力の助けられているなと実感している。もっと自分がペースを握れるようにならないと」とまだまだ満足はできていない様子。
現段階では「5000mよりもまだ、1500mのほうが向いているかなと思う」としながらも、「5000mでも1500mのスピードは必要。そういう意味では1500mから5000mまでしっかり走れるようになりたい」と話していました。
このほかには、アジア大会で女子800m、4×400mR(4走)でともに5位の成績を収めている塩見綾乃選手(立命館大)がラスト勝負を制して2分05秒88でV。100分の1秒差で2位となった4×400mRでは、2走を務めてトップに立つ好走も見せ、母校のトラック優勝に貢献しました。また、女子10000mWは、橘あぐり選手(中部学院大)が47分31秒33で制しています。
最も活躍が目を引いたのは、日本体育大の3年生、広沢真愛選手。200m、400m、4×100mR、4×400mRに出場し、4冠を達成しました。
大会初日に400mの予選を通過した広沢選手(4×100mRの予選には別走者が出場)は、2日目には400m準決勝を走ったのちに4×100mRの3走を務め、ここでリードを奪って日本体育大の44秒59の日本学生新記録樹立に貢献します。3日目には4×400mRの予選を走った3時間後に400mの決勝に臨み、学生歴代4位となる53秒72をマークして個人種目での全国初優勝を果たすと、3時間半弱のインターバルで200m予選に挑んで無事に通過。
200m準決勝から始まった最終日は、やはり3時間半の間隔を空けて行われた200m決勝で序盤からリードを奪うと、3.1mの向かい風に各選手がホームストレートでスピードが鈍るなか、その差をさらに広げて24秒19で圧勝。そして、1時間45分後に行われた4×400mRではアンカーを務め、1走の湯淺佳那子選手がレース中に脚を痛めるアクシデントに見舞われる苦しい展開のなか、6位でバトンを受けた広沢選手は、バックストレートで2校をかわし、最後の直線でさらに2校を抜いて2位に浮上。先頭を行く立命館大に猛追しながらほぼ同時にフィニッシュ。0.01秒差となる3分39秒39で先着して、4つ目のタイトルを勝ち取りました。
4冠の感想と問われ、「もう、人生、今日で終わりなんじゃないかというくらい」と感無量の面持ちで答えた広沢選手。「ここで満足しちゃダメだけど、学生で4冠できたことは本当に自信につながる。ケガなく4日間走り切れたのは、先生やみんなが支えてくれたから。自分だけでは4日間走れなかったと思う」と周囲に感謝する一方で、「人一倍、自分は誰にも負けないくらい陸上のことを考えていると思っている。今までの1日1日やってきたことが、しっかり今日、かなったのかな」と充実感をにじませていました。
このほかでは、初日に男子10000mを制したケニア人留学生のレダマ・キサイサ選手(桜美林大)が、3日目に行われた5000mを連覇して2冠を獲得。記録は13分49秒80と28分28秒48でした。また、女子の投てきでは、郡菜々佳選手(九州共立大)が砲丸投は15m60で2連覇、53m31をマークした円盤投でも2年ぶり2回目の優勝を果たし、念願の2冠を達成しました。
文:児玉育美/JAAFメディアチーム
写真提供:フォート・キシモト
期間中は快晴に恵まれたものの強い風が常に吹き荒れるコンディション。この影響もあって、記録的には、日本体育大学が女子4×100mRで樹立した44秒59の日本学生新記録を含めて大会新記録4つ、大会タイ記録2つにとどまりました。
しかし、各種目で対校戦ならではの熱戦が繰り広げられ、男子は、6連覇中の日本大学が96.5点を獲得して7年連続21回目の総合優勝。女子は103.5点を獲得した筑波大が4年ぶりに王座を奪還し、25回目の優勝を果たしました。
ここでは、5つの視点から活躍が光った選手をピックアップ。その結果をご紹介します。
◎注目の男子100mを制したのは!?
永田駿斗(慶応義塾大)
昨年は、桐生祥秀選手(当時東洋大、現日本生命)による9秒98の日本記録樹立に沸いた男子100mですが、今年は、大会2日目に行われた予選では5m台の向かい風の組も出る悪コンディション。準決勝・決勝が行われた3日目は、やや収まりはしたものの、すべてのレースが向かい風のなかで行われる状況となりました。1.4mの向かい風のなか上位が100分の1秒差で続く接戦となった決勝を制したのは、慶應義塾大の4年生、永田駿斗選手。
向かい風2.2mとなった予選を自己記録(10秒36)に迫る10秒39で1着通過すると、準決勝では10秒31(-0.3)の自己新をマークして全体でもトップで決勝へ進出。決勝では、立ち上がりの段階で、ロンドン世界選手権4×100mR銅メダリストの多田修平選手(関西学院大)やダイヤモンドアスリートの宮本大輔選手(東洋大)といった序盤を得意とする選手を押さえてリードを奪い、そのまま逃げ切って10秒34で先着しました。
長崎出身の永田選手は、100mで小学生のころから全国大会で活躍し、大村玖島中3年時の2011年全日中では100m優勝・200m3位。諫早高1年時の2012年には国体少年B100mを制し、翌2013年には世界ユース選手権の日本代表にも選ばれ、メドレーリレー(100m+200m+300m+400m)では銅メダル(2走)を獲得している選手。
その後、思うような結果が出せない時期が続きましたが、昨年の国体で10秒38をマークして高校時代に出した自己記録(10秒42)を塗り替えると、今年4月の織田記念で10秒36に更新するなど、再び地力を上げてきていました。
今回の結果に結びつく一番の契機となったのは、5月の関東インカレ後、OBである小池祐貴選手(ANA)のはからいで、小池選手が指導を仰ぐ臼井淳一コーチのもとで一緒に練習を行うようになったこと。
「今までがむしゃらに走っていたのだが、リラックスして走るための力の入れどころがわかるようになってきた」と7月ごろから感じるようになった変化は、この大会の予選・準決勝を経て、「今まで自分の走りをしても勝てないと思っていたライバルたちとの差が埋まっていることを確信した」と思うまでの手応えに。
「多田くんが前半行くことはわかっていたが、僕も前半は得意だし、後半も調子がよかったので、最後までリラックスして走ることを心がけた」という決勝は、「最後はちょっと力んでしまったので、完璧とはいえないが、ゴール手前までは自分の走りができたと思う」と、ほぼイメージ通りのレースを展開。主将として臨んだ大学最後のインカレで、6年ぶりの全国タイトルを勝ち取るという最高の結果を手に入れました。
2位には10秒35で宮﨑幸辰選手(東北大)が続き、多田選手は終盤での逆転がかなわず10秒36・3位でフィニッシュとなりました。また、多田選手同様に予選・準決勝と1着で通過し、優勝候補の一角にも上がっていた宮本選手はラストでかわされ、10秒45・6位という結果でした。
◎2人の“世界一”が学生チャンプに
橋岡優輝(日本大)、池田向希(東洋大)
この大会には、今季、“世界一”の称号を手に入れている2選手が出場し、それぞれに初の学生タイトルを獲得しました。1人は、7月にタンペレ(フィンランド)で開催されたU20世界選手権男子走幅跳で金メダル(8m03)を獲得した橋岡優輝選手(日本大、ダイヤモンドアスリート)。今季は、日本選手権でU20日本歴代2位タイとなる8m09の自己新記録をマークして2連覇を達成。アジア大会にも出場し、メダル獲得はならなかったものの8m05で4位の成績を収めています。
優勝候補の筆頭に上がっていた昨シーズンは肉離れにより出場がかなわず、今回が日本インカレ初出場。総合7連覇を目指す母校のポイントゲッターとしてはもちろんのこと、U20日本記録(8m10)、日本記録(8m25)の更新も期して試技に挑みました。
残念ながら昨年8m09(U20日本歴代2位タイ)の大会新記録で優勝した津波響樹選手(東洋大)は故障で欠場。全28選手が出場した決勝は、追い風基調となるように、正面スタンド前の走幅跳ピットを100mのスタート地点側の砂場に向かって跳ぶ形で行われましたが、風向も強さも一定しない非常に難しいコンディション下での試合になりました。
橋岡選手が競技後、「一番感覚が良かった」と振り返った1回目の試技は、8mを超える跳躍でしたが、惜しくもファウル。しかし、向かい風(-0.8m)となった2回目の試技で7m93をマークしてトップに立つと、4回目には7m97(+1.3)まで記録を伸ばします。5・6回目の跳躍で8m台が期待されましたが、どちらも向かい風のなかでの跳躍となり、7m76(-0.5)、7m77(-2.2)と記録を伸ばすことはできず競技終了となりました。
ミックスゾーンでは、「自分らしい跳躍が、最終的に1本もできなかった」と不満が残る様子を見せた橋岡選手。「向かい風を“モノにしきれなかった”という部分がある。そんななかでも自分の力をしっかり発揮できるように修正していけるようでなければ…。自分の未熟さが出たかなと思う」と反省の言葉が続きました。今シーズンは、この大会が最後の競技会。今後は、少し休養をとって、来季のための冬期練習へ向かうとのことです。
もう1人の“世界チャンピオン”は、5月に太倉(中国)で行われた世界競歩チーム選手権の男子20kmWを制し、団体でも金メダルを獲得した池田向希選手(東洋大)。日本インカレでは男子10000mWに出場し、40分35秒34で初優勝を果たしました。
「本当は、4000mで出て、6000mまでに(後続との差を)離していくつもりだったが、1人では行けなかった」と振り返ったように、池田選手は4000m手前でいったん先頭に立ちますが、リードを広げきることができず、その後は、チームメイトの川野将虎選手(東洋大)と交互に前に出てレースを進めていきます。
残り8周となったところで、トップ争いはこの2人に絞られ、一騎打ちの様相となりました。池田選手は、8500m過ぎの追い風が吹くバックストレートで仕かけて川野選手を逆転すると、その差を7秒以上に広げてフィニッシュ。「インカレには特別な思いを持って臨んでいた」ということもあってか、レース直後に心境を問われると、笑顔で「ホッとした気持ち」と答えました。
世界競歩チーム選手権での優勝は、8月のアジア大会20kmを制したWang Kaihua選手(中国)はじめ、銀メダルを獲得した日本の山西利和選手(愛知製鋼)を含めたアジア大会上位選手に先着しての結果です。しかし、「勝ったと言っても(アジア大会とではレース)環境が違う。世界で勝ったといってもたまたまのこと。“勝ちたい”という強気な思いは持ちつつも、驕ることなく取り組みたい」と言います。
次のレースは、10月の国体10000mWで、その後は、来年2月に行われる日本選手権と3月の全日本競歩に向けたトレーニングに入る予定。来季の目標は世界選手権とユニバーシアードの代表入り。「1時間18分台を目指したい」と意欲を見せました。
◎エース選手、4年目のインカレ
塩尻和也(順天堂大)、ウォルシュ・ジュリアン(東洋大)、ヘンプヒル恵(中央大)
今回、誕生した大会新記録およびタイ記録のうち、個人種目でマークしたのは3人の4年生選手。3人とも日本代表選手としてアジア大会に出場しており、帰国直後ながら、その疲れを見せることなく、母校のエースとして活躍しました。まず、男子3000mSCを8分31秒98の大会新記録で優勝した塩尻和也選手(順天堂大)。アジア大会では、序盤から積極的なレースでセカンドベストとなる8分29秒42をマークして銅メダルを獲得しています。3連覇中で迎えた最後の日本インカレでは、2周目で先頭に立つと、2000m手前でペースアップ。残りの1000mを独走する圧巻のレースを展開。大会記録を19年ぶりに更新するとともに、この種目では2006~2009年の菊池敦郎選手(順天堂大)以来となる2人目の4連覇となりました。
大会タイ記録をマークしたのは、男子400mのウォルシュ・ジュリアン選手(東洋大)と女子七種競技のヘンプヒル恵選手(中央大)。
ウォルシュ選手は、アジア大会では400mと4×400mRに出場。1走を務めた4×400mRで銅メダルを獲得しました。日本インカレでは、昨年ケガからの復活を果たして連覇を守った400mで3連覇に挑戦。「攻めのレースではなく、勝ちにいくレース」を展開したウォルシュ選手は、ホームストレートで競り合いとなった伊東利来也選手(早稲田大)をラストでかわし、45秒75でフィニッシュ。2004年に山口有希選手(東海大)が樹立した大会記録に並びました。200mは予選突破ならなかったものの、アンカーを務めた4×400mRは3分06秒34で快勝。この種目でも3連覇を達成しています。
ヘンプヒル選手は、昨夏、左膝を痛めて手術したことで、日本インカレも欠場を余儀なくされ、3連覇を逃していました。今季に入って競技会に復帰し、アジア大会代表にも選ばれましたが、体調がよくても結果に結びつかないという状態に陥り、アジア大会は5654点で6位に。「身体よりも心がつらい」という苦しみを抱えつつ、日本インカレに臨んでいました。
この大会でも、6m00をマークした走幅跳以外では、満足のいく結果を残せなかったといいますが、5550点を獲得して3回目の優勝。これは昨年、山﨑有紀選手(九州共立大、現スズキ浜松AC)に更新された大会記録と同記録で、再び大会記録保持者となりました。七種競技のほかにも、100mHと走幅跳に出場。走幅跳では5位入賞を果たしました。
◎活躍光った1年生
泉谷駿介(順天堂大)、髙松智美ムセンビ(名城大)ほか
ルーキーの活躍が光った種目もみられました。その筆頭といえるのが、男子110mHの泉谷駿介選手(順天堂大)。予選では、1.1mの向かい風にもかかわらず、ラストを流してU20日本記録(13秒73)に0.04秒まで迫る13秒77の好記録をマーク。向かい風1.8mとなった準決勝も13秒87でトップ通過を果たすと、向かい風1.1mのなか行われた決勝では13秒75をマーク。U20日本記録の更新はなりませんでしたが1年生チャンピオンとなり、4連覇への挑戦権を手にしました。
神奈川・武相高校の出身で、昨年の八種競技インターハイチャンピオン。今季は、アジアジュニア選手権は三段跳で出場して銅メダルを獲得し、U20世界選手権では110mH(ジュニア規格)に出場して銅メダリストとなっています。将来のビジョンを問われて、「学生のうちにオリンピックを狙って、日本記録も出して、世界で戦えるようになりたい」と答えた泉谷選手。「どの種目で?」という質問には、「まだ、そこは整理がついていない。将来的にはどちらかに集中することになるかもしれないが、三段跳も好きなので、今はどちらも両立してやっていきたい」と述べました。2000年1月生まれの泉谷選手は、2019年もU20のカテゴリーに残ります。来季も両種目での活躍が期待できそうです。
女子で活躍が目を引いたのは、ダイヤモンドアスリートの髙松智美ムセンビ選手(名城大)。1500mと5000mに出場して2冠を達成しました。今季は、アジアジュニア選手権1500mで銀メダルを獲得したあと、日本選手権1500mでは初優勝。その後、U20世界選手権は5000mに出場し、積極的なレースを繰り広げて7位入賞を果たしています。
この日本インカレでは、両レースともにスローペースとなるなか先頭には出ずに様子をうかがう展開を選択。1500mでは1200m地点を3分40秒で通過したのを機にポンと飛び出すと、そのままリードを大きく奪い、4分25秒50でフィニッシュ。4400mで上位争いが3人に絞られた5000mは、残り350mで前に出て16分06秒83で、2つの学生タイトルを手に入れました。
5000mのレース後、「ラスト1周で行きたかったが余力がなかったので、前に出てもあまり上げすぎないで、ラスト200mでしっかり前に行った。自分もしんどかったが、周りのみんなも息が荒かったので“みんな一緒。最後の粘りの勝負だ”と思って頑張った」と振り返った髙松選手。
名城大で練習するようになって生じた変化として、「最初から飛び出すのではなく、冷静にレース展開を見守る走りができるようになってきた」ことを挙げましたが、一方で、「でも、周りの力の助けられているなと実感している。もっと自分がペースを握れるようにならないと」とまだまだ満足はできていない様子。
現段階では「5000mよりもまだ、1500mのほうが向いているかなと思う」としながらも、「5000mでも1500mのスピードは必要。そういう意味では1500mから5000mまでしっかり走れるようになりたい」と話していました。
このほかには、アジア大会で女子800m、4×400mR(4走)でともに5位の成績を収めている塩見綾乃選手(立命館大)がラスト勝負を制して2分05秒88でV。100分の1秒差で2位となった4×400mRでは、2走を務めてトップに立つ好走も見せ、母校のトラック優勝に貢献しました。また、女子10000mWは、橘あぐり選手(中部学院大)が47分31秒33で制しています。
◎複数タイトルを獲得した選手たち
広沢真愛(日体大)ほか
ダイヤモンドアスリートの髙松選手が1500m・5000mで2冠となったことは、すでにご紹介しましたが、ほかにも複数のタイトルを獲得した選手がいます。最も活躍が目を引いたのは、日本体育大の3年生、広沢真愛選手。200m、400m、4×100mR、4×400mRに出場し、4冠を達成しました。
大会初日に400mの予選を通過した広沢選手(4×100mRの予選には別走者が出場)は、2日目には400m準決勝を走ったのちに4×100mRの3走を務め、ここでリードを奪って日本体育大の44秒59の日本学生新記録樹立に貢献します。3日目には4×400mRの予選を走った3時間後に400mの決勝に臨み、学生歴代4位となる53秒72をマークして個人種目での全国初優勝を果たすと、3時間半弱のインターバルで200m予選に挑んで無事に通過。
200m準決勝から始まった最終日は、やはり3時間半の間隔を空けて行われた200m決勝で序盤からリードを奪うと、3.1mの向かい風に各選手がホームストレートでスピードが鈍るなか、その差をさらに広げて24秒19で圧勝。そして、1時間45分後に行われた4×400mRではアンカーを務め、1走の湯淺佳那子選手がレース中に脚を痛めるアクシデントに見舞われる苦しい展開のなか、6位でバトンを受けた広沢選手は、バックストレートで2校をかわし、最後の直線でさらに2校を抜いて2位に浮上。先頭を行く立命館大に猛追しながらほぼ同時にフィニッシュ。0.01秒差となる3分39秒39で先着して、4つ目のタイトルを勝ち取りました。
4冠の感想と問われ、「もう、人生、今日で終わりなんじゃないかというくらい」と感無量の面持ちで答えた広沢選手。「ここで満足しちゃダメだけど、学生で4冠できたことは本当に自信につながる。ケガなく4日間走り切れたのは、先生やみんなが支えてくれたから。自分だけでは4日間走れなかったと思う」と周囲に感謝する一方で、「人一倍、自分は誰にも負けないくらい陸上のことを考えていると思っている。今までの1日1日やってきたことが、しっかり今日、かなったのかな」と充実感をにじませていました。
このほかでは、初日に男子10000mを制したケニア人留学生のレダマ・キサイサ選手(桜美林大)が、3日目に行われた5000mを連覇して2冠を獲得。記録は13分49秒80と28分28秒48でした。また、女子の投てきでは、郡菜々佳選手(九州共立大)が砲丸投は15m60で2連覇、53m31をマークした円盤投でも2年ぶり2回目の優勝を果たし、念願の2冠を達成しました。
文:児玉育美/JAAFメディアチーム
写真提供:フォート・キシモト
第87回日本学生陸上競技対校選手権大会
http://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1275/関連ニュース
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