写真提供:フォート・キシモト
名古屋ウィメンズマラソン2018は3月11日、ジャカルタ・アジア大会日本代表選考会、2020年東京オリンピック代表選考に向けた「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)シリーズ2017-2018」を兼ねて、愛知県名古屋市の名古屋ドームを発着点とする42.195kmのコースで行われました。
レースは、25kmでペースメーカーが外れたあとバラリー・ジェメリ選手(ケニア)が仕掛けて大きくリードを奪いましたが、38km過ぎにメスケレム・アセファ選手(エチオピア)が追いつき、逆転。アセファ選手がそのまま逃げ切り、2時間21分45秒で優勝しました。日本勢は、マラソン初挑戦の関根花観選手(日本郵政グループ)が、終盤が単独走となる難しい展開のなかよく粘り、初マラソン日本歴代4位となる2時間23分07秒の好記録をマークして日本人最上位の3位でフィニッシュ。2019年9月以降に開催が予定されているMGCへの出場を決めました。また、4位には岩出玲亜選手(ドーム)が2時間26分28秒で、5位には野上恵子選手(十八銀行)が2時間26分33秒で続き、MGCチケットを獲得しました。
スタート時の気象状況は、天候晴れ、気温8.3℃、湿度48%、東北東の風0.3m(主催者発表のデータによる)。日差しのわりには空気が冷たく、この時期の名古屋にしては珍しく風もなく、絶好といえるコンディションのなか、レースは午前9時10分にスタートしました。ペースメーカーは、5km17分00秒前後で進む者が3名、5km17分30秒前後で進む者が1名用意され、前者は最大25kmまで、後者は最大ハーフまでつく設定です。
トップグループは、20人(ペースメーカー3人を含む)で1つの集団を形成して、最初の5kmを17分02~05秒で通過。ペースメーカーのすぐ後ろに外国人招待選手が続き、その後方に岩出玲亜選手(ドーム)、関根花観選手(日本郵政グループ)、小原怜選手(天満屋)らを先頭とする日本人選手11人が位置する形となりました。その後、日本人選手の隊列がやや縦長になると、集団の後方にいた竹地志帆選手(ヤマダ電機)が8km過ぎでつけなくなり、田中華絵選手(資生堂)、清田真央選手(スズキ浜松AC)、も遅れがちに。先頭が10kmを33分51秒(5~10kmは16分48秒)で通過して直後の給水を終えると、さらに集団の分裂が進みます。11km手前の段階で、先頭集団はペースメーカーについたメリマ・モハメド選手(バーレーン)、バラリー・ジェメリ選手(ケニア)、メスケレム・アセファ選手(エチオピア)、チェイエチ・ダニエル選手(ケニア)、関根選手、岩出選手、小原選手の全10人に。やや遅れて土井友里永選手(富士通)が、さらに少し遅れて野上恵子選手(十八銀行)が単独で位置し、その後ろに吉田香織選手(TEAM R×L)、前田彩里選手(ダイハツ)、加藤岬選手(九電工)が3人で続く展開となりました。
先頭集団は10人のままで15kmを50分49~50秒(10~15kmは16分58~59秒)で通過すると、次の20kmまでの5kmも16分59秒~17分00秒(通過タイム1時間07分48~49秒)とイーブンで進み、中間点を1時間11分32~33秒で通過。ここでペースメーカーが1人外れて9人となりました。22kmを少し過ぎると、ジェメリ選手が下り坂を使ってペースを引き上げようとする動きを見せ、これに対応できなかった小原選手が、ダニエル選手ともに後退。さらに集団の後方に位置していた岩出選手も24.8km手前で遅れ始めたところで25kmを迎えます。この間の5kmは16分48秒にペースアップ。1時間24分36秒で通過したペースメーカー2人がレースを終え、ジェメリ選手、アセファ選手、モハメド選手、関根選手が1時間24分37秒で、岩出選手が3秒遅れで通過しました。
レースが動いたのは、その直後。関根選手が給水時の動きでいったん先頭に押し出されましたが、ドリンクを飲み終えたジェメリ選手が25.4kmでスパートすると、25~26kmの1kmを3分16秒に引き上げる走りでぐんぐんリードを広げ、これをアセファ選手、モハメド選手、関根選手がそれぞれ単独で追う展開となったのです。関根選手は26.4kmでモハメド選手に追いつき、その後3位に浮上すると、27km以降はジェメリ選手、アセファ選手、関根選手がほぼ等間隔となって“一人旅”でレースを進めていく形となりました。ジェメリ選手は25kmからの5kmを16分15秒にペースアップして30kmを1時間40分52秒で通過、アセファ選手が17秒差で続きます。関根選手は、この5kmを16分台(16分56秒)でカバーし、アセファ選手から24秒差となる1時間41分33秒で30kmも通過しました。
写真提供:フォート・キシモト
この隊列は、35km地点でも変わらないままで、トップのジェメリ選手が1時間57秒35秒、2番手のアセファ選手が1時間57分51秒で通過しました。しかし、その後、ジェメリ選手のスピードに陰りが見え始めると、アセファ選手がその差を徐々に詰めていきます。アセファ選手は38kmで追いついて並走に持ち込むと、その後、ジェメリ選手を突き放してリード。2時間14分37秒で通過した40km地点では、逆に19秒の差をつけました。アセファ選手は、最後の2.195kmも7分08秒と危なげなく走りきり、2時間21分45秒の自己新記録で優勝を果たしました。
アセファ選手は、2008年・2012年と1500mでオリンピックに出場、2013年から本格的にマラソンへ転向した選手。昨年は、マラソンは3レースに出場。ロッテルダムマラソンを2時間24分18秒の自己新記録で制したほか、10月のヒューストンマラソンでも2時間24分38秒(3位)と、2時間24分台を2回マークしていました。レース後の会見で、「実は飛行機に乗り損ねて、日本への到着が1日遅れて、大会前々日の夜になってしまった。その疲れが残っていたので、自重して、少しずつ勝っていくことを考えていた」と明かしたアセファ選手。25km過ぎでのジェメリ選手のスパートについては、「そのまま走り続けることができないだろう」と考え、自身のペースで追うことを選択。「39kmまでには追いつくだろうと考えていたが、彼女の様子を見ていて、36km付近ですでに勝てるだろうと思っていた」と振り返りました。
日本人トップとなったのは関根選手。単独で前を追う展開となった終盤は、さすがに徐々にペースが落ち、表情も厳しくなってきましたが、30~35kmを17分00秒のペースで通過すると、その後も懸命の粘りを見せて35~40kmを17分09秒、最後の2.195kmを7分25秒でカバー。35~40kmを17分21秒、ラスト2.195kmを7分52秒までペースダウンした2位のジェメリ選手との差を縮め、3位でフィニッシュラインを駆け抜けました。関根選手は、初マラソン日本歴代4位となる2時間23分07秒をマーク。女子で4人目のMGCファイナリストとなりました。
4位には32.8km過ぎでモハメド選手をかわした岩出選手が日本人2位となる2時間26分28秒でフィニッシュしました。また、5位で続いたのは、10kmすぎで先頭集団から離れ、その段階で9番手(ペースメーカー除く)にいた野上選手。落ちてくる選手をかわしていく走りで少しずつ順位を上げ、35.6kmで小原選手をとらえて日本人3位に浮上すると、30km以降では日本人2位の岩出選手を上回るペースを刻み、2015年のこの大会で出した自己記録2時間28分19秒を更新する2時間26分33秒をマーク。この両選手が「2時間28分00秒以内で日本人上位1~3位」の条件を満たし、MGCチケットを獲得しました(MGC獲得者3選手のコメントは別記)。
レース後に行われた日本陸連の記者会見には、尾縣貢日本陸連専務理事、瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダー、河野匡日本陸連強化委員会長距離・マラソンディレクターの3氏が登壇。尾縣専務理事はレースを振り返り、「期待をされていた前田さん、小原さん、清田さんが、このレースで力を出しきれなかったことに、マラソンの難しさを感じた。ただ、力のある選手たちなので悲観はしていない。一方で、関根さんは、トラックから本当にうまくマラソンに移行してくれた。大阪国際女子マラソン優勝の松田さん(瑞生、ダイハツ)とともに、持っているスピードを生かしながら、さらにスタミナを高めて、ぜひこのまま突っ走ってもらいたい」とコメントしました。また、瀬古リーダーは、「若い関根選手が最後まで走りきってくれた。大阪の松田選手といい、こういうどれくらい伸びるかわからない選手がしっかり勝ち残ってくれたことは、リーダーとして嬉しい。岩出選手もやっと復活してくれた。彼女も若いので、これからに期待している。また、野上選手は32歳。オリンピックは総力戦なので、こういうベテランも出てきて、若い選手を引っ張ってもらいたい。若い人もいればベテランもいるといういい流れに来ていると思う」と喜びつつ、「ただ、欲を言うのなら、あと3人くらいは来てほしかった。(今回MGCを獲得できなかった)小原選手、清田選手、前田選手は、力のある選手なので、来年度(2018-2019シーズン)ぜひチケットを取っていただいて、盛り上げていってもらいたいと思う」と今後に期待しました。
河野ディレクターは、2017-2018シーズンの国内MGCレースを総括。男子については、ロンドン五輪の選考が行われた2011年度からの過去6年と今年度とで、トップ記録および上位10傑・20傑・30傑の各平均記録を比較した結果から、「約1分上がったという実感があり、確実に進歩は遂げたかなと思っている」と評価。「ただ、それが世界と戦い、東京五輪でメダルを取ることにつながると考えるのは甘い。まずはMGCのファーストステージを抜けた選手を中心に強化し、また、来年度から始まるセカンドステージでの戦いをよく見ながら、五輪に向けての対策を考えていきたい」と述べました。また、女子については、「選手層から考えれば、(MGC出場権獲得者が)6人というのは寂しい」と言いつつも、「収穫といえるのは、五輪中間年ではマラソンで取り組まなかったかもと思う22~23歳の選手たちが、初マラソンで評価できる結果を残したこと。東京五輪だけでなく、その次にもつながると思う」と評価。一方で、「五輪で戦う上でトップレベルの結果を複数回残していくことが大切」とする観点では、実績をもちながら力を発揮できなかった選手が出た今大会について、「調整不足の情報は入っていて、そこを経験でどうするかと考えていたが、そういったものが結果に出ることを再認識した」とコメント。こうした課題を踏まえつつ、「次の段階に持っていけるように、我々強化サイドとしては、現場とタッグを組み、強い日本のマラソンができ上がるようにやっていきたい」と、まとめました。
【MGC出場権獲得者コメント】
◎関根花観選手(日本郵政グループ)
3位 2時間23分07秒 =日本人1位
今日は、つけるところはついていこうという思いで、最初は余計なことは考えずに、ただ前のペースメーカーを追って、集団のなかでどれだけ力まずに走れるかということだけを意識していた。
ペースメーカーが外れてレースが動いたとき(25.4km)に、自分が前の集団につくのかつかないかという場面になった。本当はついていきたかったが、今の自分の力ではまだまだ。そこでついたら後半に響くと思い、自分のペースで行くことにした。そうしたことで後半(ペースを大きく)落とさずに押していけたのかなと思う。また、1人で走る場面が長かったが、今回は、どの練習もランニングコーチなしで、自分のペース感覚でずっと練習してきていたので、1人になってからは「いつもの練習通り」と思うようにして走った。それをやってきたから走れたのかもしれない。
とはいえ、レースが動いた27~30kmのあたりで、「まだあと10kmちょいある」という気持ちになったのと、身体もきつくなってきてしまったこともあって、「ここのまま行けるかな」という不安が押し寄せてきて、ラスト10kmからは何度か心が折れそうになった。マラソンはきついときと楽になるときの波があると聞いていたので、「楽になるまで我慢しよう」と思って我慢して本当に身体が動く瞬間があったので、「我慢してよかったな」と思ったり、最後のほうは「長かったマラソン練習ももうちょっとで終わり。練習でやった50kmに比べたら、あと数kmだ」と考えたりと、自分で奮い立たせながら走った。最後はもう無我夢中だった。
初マラソンで2時間23分07分という結果を得たが、去年の名古屋ウィメンズで2時間21分36秒をマークした安藤さん(友香、スズキ浜松AC)や大阪国際女子マラソンで2時間22分44秒をマークした松田さん(瑞生、ダイハツ)など、私よりも高いレベルで走っている選手はたくさんいるので、これで満足してはダメだという思いがある。しかし、一方で、今回、MGCの出場権を取れたことで、MGCまでにいろいろなレースを経験できるなとも考えている。これからの1年半で、国内だけでなく、いろいろな海外のレースなどに出て経験を積み、精神的にも実力的にも、もっと強い選手になれたらなと思う。
◎岩出玲亜選手(ドーム)
4位 2時間26分28秒 =日本人2位
ペース設定が17分00秒と聞き、それほど速くはないと思ったので、25kmまで余裕をもっていければと思っていたのだが、23kmくらいでいきなり脚に重みを感じ、きつくなってしまった。そこまではすごく余裕があったのだが、思っていた以上に(脚を)使っていたのだなと思った。ペースメーカーが外れてからは早い段階で1人になったが、なるべくペースを落とさないようにしようということと、最低でも(2時間)25分台は目指していこうということを考えて走った。30km以降からは給水ボトルに、2時間24分でゴールするための通過タイムを書いてあったので、それを見て、自分がどのくらい遅れているかは把握できていた。そのなかで、ちょっとでも頑張ろうと思っていた。
MGCは、取る予定だったさいたま国際女子マラソンで取れず、「次(のレースで)取れるだろう」と思う気持ちがあった半面、「せっかく1本マラソンを走ったのに取れなかった」と自分のなかで悲しい気持ちがあった。なので、今回は、MGCは必ず取ると決めていた。練習は12月から再開。最初は大阪国際女子マラソンをターゲットにしていたが、合宿中にハムストリングスに違和感が出て思うようなトレーニングができなかったので、名古屋にスライドさせた。そのぶん、目標値も大阪よりも上げて頑張ろうと思って臨んでいた。
MGCを獲得して、ホッとした部分もあるが、ここからが大切。獲得できたからこそ、これからさらにいろいろなことに挑戦できると思っている。これからの時間を有意義に使っていきたい。
◎野上恵子選手(十八銀行)
5位 2時間26分33秒 =日本人3位
目標としていたMGC出場権獲得と長崎県記録(2時間26分55秒、扇まどか、2008年)を更新することができて本当に嬉しい。ペースメーカーが17分で行くということで、レース前は、それにできるだけついていき、あとは粘ってゴールしたいと考えていた。しかし、10km過ぎで、「このペースではついていけない」と思ったので、自分のペースで走ることに切り替えた。ペースは(目標をクリアするために)2時間26分50秒を考えて、1km3分28秒くらいとすることを基準にした。3分30秒に落ちたこともあったが、(ハイペースで行った)前半の貯金が少しあるということで、諦めないでしっかりと最後まで行くことができた。ただ、後半で上げることをイメージしていたが、考えていたよりは上がらなかったなという感じ。そこが今後の課題かなと思う。
1人で練習することが多かったので、ペースをつくって走ることへの自信はあった。それが冷静に判断して、10km過ぎで自分のペースに切り替えられたことにつながったのではないか。1人で走れるのが自分の強みかなと思う。
今後の課題としては、前半速いペースになったときに、後半落ち込んでしまうことが多いので、そこで耐えきれる力をつけていくこと。トラックや駅伝も入れながら、そういうところを磨いていきたい。
文:児玉育美/JAAFメディアチーム
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