日本陸連は5月16日、5月19日に東京・国立競技場で開催した「セイコーゴールデングランプリ陸上2025東京」(以下、GGP)に出場するトップ選手を招いて都内の小学校を訪問。児童たちと触れ合う機会をつくりました。
この小学校訪問に、男子短距離のサニブラウンアブデルハキーム(東レ、ダイヤモンドアスリート修了生)、アンドレ・ドグラス、ジェローム・ブレーク(以上、カナダ)の3選手が参加。トークショーや実技体験など、約90分にわたって交流しました。
◆◆◆
今回の小学校訪問は、「陸上」の力を活用しながらSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献することを中長期計画「JAAF REFORM」に明示している日本陸連が、国際的な水準で活躍する国内外のトップアスリートとの交流体験を通じて、SDGsの実現に不可欠な多文化共生を子どもたちに知ってもらう機会として実地されるとともに、昨年度から始動した『RIKUJO JAPAN』プロジェクトにおける「陸上に触れる場や機会を創出していく」アクションの一つとして行われました。
サニブラウン選手は、日本が誇るトップスプリンター。2015年世界ユース選手権で100m・200m2冠を達成するなど早い時期から世界水準で活躍し、世界選手権には2015年北京大会から5大会連続出場、2022年オレゴン大会男子100mで日本人初の決勝進出を果たすと、2023年ブダペスト大会でもファイナリストとなり、2大会連続入賞を達成しました。オリンピックにも東京・パリの2大会に出場。昨年のパリ大会では9秒96の自己新記録をマークしています。
また、ドグラス選手は、東京オリンピックにおいて、男子200mで金メダル、4×100mリレーで銀メダル、100mで銅メダルと3つのメダルを手にした選手。2016年ブラジル大会でも200mで銀、100mと4×100mリレーで銅メダルを獲得。昨年のパリオリンピック4×100mリレーではアンカーを務めて母国に金メダルをもたらしました。このほか世界選手権でも5つのメダルを獲得。現在30歳と、ベテランと呼ばれるようになりましたが、長く世界の最前線で活躍してきたスプリンターです。同じくカナダのブレーク選手も30歳。ドグラス選手とともに4×100mリレーで直線区間(主に2走)のスペシャリストとして実績を残してきました。オリンピックではパリ大会で金、東京大会で銀メダルを獲得。世界選手権でも2022オレゴン大会で金メダリストとなっています。
この豪華な顔ぶれが、東京・国立競技場が見える位置にある新宿区立四谷第六小学校を訪問して行われた交流プログラムは、1~5年生の児童が参加したトークセッションと、4・5年生の児童が参加した実技体験セッションの2部構成で行われました。体育館で行われたトークセッションには、別の学校行事により不在となった6年生を除く306名が参加。まず、3選手が、それぞれ挨拶したのちに、進行役を務めた日本陸連指導者養成委員会の岸政智ディレクターが、各選手に質問を投げかけていきました。
日本の印象や出身国との違いについて、カナダから来たブレーク選手とドグラス選手は、「実はアニメが大好きなので日本に来ることを楽しみにしていた。今回もポケモンストアに行くなど、日本をエンジョイしている」(ブレーク選手)、「私も日本の文化が好き。ポケモン、遊戯王、ナルトなど、日本のアニメもよく見る」(ドグラス選手)と、ともにアニメ好きであることを明かし、子どもたちのハートをぐっとつかみました。このほかドグラス選手は「カナダは、雪がたくさん降って、とても寒い国」と自国を紹介。「カナダと日本で生活や文化の違いを感じることはあまりない」と話したブレーク選手は、「でも、やはり言葉が異なることが私にはバリアになっている。日本語を勉強してきたら、もっと楽しめるかなと思う」と話しました。また、現在、アメリカに拠点を置いてトレーニングに取り組んでいるサニブラウン選手は、「アメリカの子どもたちと日本の子どもたちの違い」と問われて、「アメリカの子どもたちも、日本の子たちみたいにみんな元気でパワフルな子たちが多い。スポーツが好きな子も多いので、あまり変わらないのかなと思う」と答えていました。
また、「試合の前の“勝負メシ”は?」の質問に対して、「試合の前に食べるのは、チキンや野菜、ごはんなど、なるべくシンプルなもの。あとは“自分が幸せになるような物”を食べることを心掛けている」(ブレーク選手)、「炭水化物が大事だと思っているので、試合前はパスタやうどんを食べるようにしている。栄養のあるものをいっぱい食べて、いっぱい寝て、元気いっぱいで朝起きて、試合に出るのが大事」(サニブラウン選手)、「試合前は、タンパク質や炭水化物、野菜を摂るようにしている。炭水化物はパスタ、お米、麺類。タンパク質は、鶏肉、魚、ステーキをたくさん食べる。野菜はあまり好きではないが、大好きなブロッコリーをたくさん食べる」(ドグラス選手)といったように、それぞれに節制しつつも、バランス良く、しっかり食べている様子を示しました。
続いて、4人の生徒が代表としてステージに上がり、それぞれに質問していきました。「スポーツ選手になったきっかけは?」という問いに対して、ブレーク選手が「陸上競技は自分の努力次第で結果が良くなっていく正直なスポーツなので、自分に合っているのではないかと思って陸上選手になった」と回答。また、サニブラウン選手は「失敗しても、やめたい気持ちにはならないのか?」という質問に、「自分も失敗はいっぱいしているけれど、失敗から学べることはものすごくいっぱいあって、失敗することで新しい自分を見つけたり、わかったりすることもある。失敗を怖がるのではなく、“あー、失敗しちゃったな。次、どうしようかな”と考えて頑張ることが一番大事だと思う」と答えました。また、「毎日、ルーティンでしていることはあるか?」という英語での質問に対してはドグラス選手が、「私は週に5日トレーニングしていて、そのうち1~3回はジムでウエイトトレーニングしている。でも、家に帰ったら皆さんと同じように過ごしている。子どもが2人いるので、宿題を一緒にしたり、朝、学校に行く準備したりしている」と、自身の日常の一端を披露。また、最後に出た「スタートで出遅れないためにはどうしたらいいか?」という陸上に関する質問には、「実は私もスタートが苦手。自分はスタートがうまくいかなかったとしても、後半で挽回できる方法を考えるようにしている」(ブレーク選手)、「スタートは自分も最初はものすごく苦手で、5年くらい練習して、やっと上達したかなと思えるようになった。ピストルの音を“聞く”のではなくて、“身体で反応する”感じ。ヨーイのあとは、“音が聞こえたら出る”という意識で臨むといいと思う」(サニブラウン選手)、「まずはしっかり集中する。あとはピストルの音に“反応する”ことを学んでほしい。そして、“絶対に上手になる”という意思を持って、コーチと協力しながら、毎日繰り返して練習していくことが大事」(ドグラス選手)と、3選手それぞれが、自身の例も踏まえながらアドバイスしました。
トークセッションのあとは、校庭で、身体を動かしながら交流する時間に。このセッションは、4年生59名と5年生70名、計129名の生徒が参加して行われました。岸ディレクターの声かけで軽い準備運動を行った生徒たちは、「速く走るためのワンポイントアドバイス」として、選手たちから、自身がウォーミングアップで実践している動きつくりを1つずつ伝授。サニブラウン選手は、もも上げドリルの正しい姿勢とリズムを、ブレーク選手は特に脚の後面をストレッチしていくドリルの方法を、ドグラス選手は膝を前と横にリズミカルに交互に上げて進んでいくCスキップの方法を、それぞれ紹介しました。その後、デモンストレーションとして、サニブラウン選手が、クラウチングスタートの姿勢からスタートしていく場面の動きを披露しました。
最後に行われたのが、各学年を4チームに分けてのシャトルリレーです。20mほどの直線距離を、4年生は直線(片道)を走って次走者にバトンを渡し、5年生は1往復して次走者にバトンパスして繋ぎ、チームごとの速さを競う形式のリレーです。3選手と岸ディレクターは、白、赤、緑、青の各チームに分かれて、担当チームを熱く応援。他チームの進み具合を確認しながら、バトンを待つ生徒に声をかけたり、全身を使ったジェスチャーも交えながら走っている生徒に「速く、速く!」と呼びかけたりと、熱い応援で競走を盛り上げました。
あっという間に終了時間となり、3選手は、2日後に行われるセイコーゴールデングランプリでの目標や意気込みを、それぞれにコメント。生徒たちからの「ありがとうございました。頑張ってください!」の挨拶で締めくくられました。最後は、生徒たちが花道をつくって、ハイタッチで3選手を送り出し、すべてのスケジュールが終了しました。
海外招待選手を代表して、メディアの取材に応じたドグラス選手は、「こうした子どもたちとの交流は、カナダではやったことがあるが、海外で外国の子どもたちと触れ合う機会はこれまであまりなかったので、私自身がとても楽しかった」と笑顔。「こういうイベントはとても良い機会。子どもたちが、自分たちのヒーローになるような人たちと会うことで、インスピレーションをもらって、将来、陸上の選手になってくれたらいいなと思う」と話しました。
「みんな、本当に元気が良くて、力をもらえた」と振り返ったのはサニブラウン選手です。「今、日本にいる期間が、ものすごく短くなっているので、“行けるときに、少しでも”という気持ちで参加した」と、試合直前のタイミングにもかかわらず今回のプログラムに応じた理由を話しました。そして、「世界のトップ選手と触れ合う機会なんて、なかなかない。こういう経験がきっと一生の思い出になるんじゃないかと思う」とコメント。「こうした経験がきっかけで、ここにいる子どもたちのなかから、オリンピックに出るとか、スポーツに限らず、自分の夢を追って叶える子が出てきてくれたら…。こういう小さなところから陸上競技、スポーツ自体を活性化していきたい」と未来を見据えていました。
文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)