日本陸連は、2024年度から「陸上でスポーツ界、ニッポンを変えていく」をスローガンに掲げるプロジェクト『RIKUJO JAPAN』を立ち上げました。これは、「走る・跳ぶ・投げる・歩く」という基本動作を持つ陸上が、競技としてだけでなく、あらゆるスポーツの土台となることや、人々の健康促進や地域の活性化に大きく貢献できるポテンシャルを秘めていることに着目し、「陸上を通じて、ニッポンの未来を明るく、元気にしていこう」とするプロジェクト。2年目となる2025年度は、活動をさらに加速させていくことを目指しています。
5月11日には、その第一弾として、新しいスタイルのスポーツイベント『SPEED STAR 30m Dash Challenge』を、東京駅前・行幸通りで開催しました。
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『SPEED STAR 30m Dash Challenge』は、「30mのタイムトライアル」という、ものすごくシンプルなアクションをメインに据えたイベントです。
幼いころの「かけっこ」遊び、体育や運動会でのリレーなど、子どものころは日常にあったはずの「全力疾走」は、年齢を重ねるにつれて経験できる場面が少なくなっていきます。たくさんの人々に風を切って思いきり走る爽快感を味わってもらいたい。子どもから大人まで年齢に関係なく誰もが気軽に、また、さまざまなスポーツジャンルの垣根を越えて、みんなで一緒に楽しめる場をつくることはできないか…。そんな模索から選ばれたのが「30mダッシュのタイムを競う」という発想でした。原点は、誰もが取り組めて、誰もが楽しむことのできる「かけっこ」。陸上競技という従来の枠を超えて、たくさんの人に“30mダッシュの最速=SPEED STAR(スピードスター)”に挑戦してもらおうじゃないか。『SPEED STAR 30m Dash Challenge』は、こんな思いから誕生しました。
第1回の会場として選ばれたのは、東京・丸の内にある行幸通り。日本の表玄関といえる東京駅と皇居前内堀通りを結ぶ大きな通りです。陸上ファンには「東京マラソンのフィニッシュ地点」といえば、すぐにわかることでしょう。会場は、当日午前0時から約7時間をかけて設営され、早朝には、全天候型ウレタン走路が敷かれたAフィールドと、青色の人工芝走路が敷かれたBフィールドの2つのフィールドが完成。その後は、計測機器の配線作業や綿密なチェック、MCやスタッフによるリハーサルや最終確認などが行われ、午前11時、世界で初めてとなる「30mダッシュ」のイベントがスタートしました。
天気も、前日の雨模様とは打って変わって快晴に。広がった青空には刷毛でさっと払ったような薄い雲がところどころに広がり、初夏を思わせる日差しが降り注ぎます。まず、オープニングが、Aフィールド側に設けられたステージで行われ、スポーツDJとして数多くのスポーツイベントを手がけるDJケチャップさんと、リレフェス(みんなでつなごうリレーフェスティバル)のフロアMCやASICS「MoveHerMind」グローバルサーベイアンバサダーなど、数々のスポーツ場面で活躍している元ヘプタスリート(七種競技者)の宇佐美菜穂さんがMCとして登壇しました。2人は、ノリの良い絶妙な掛け合いでイベントの趣旨説明や予定されているプログラムを紹介し、会場のワクワク感を高めていきます。さらにスペシャルゲストの朝原宣治さんと塚原直貴さんの来場がアナウンスされ、2人もステージへ。ご存じ、2008年北京オリンピック男子4×100mリレーで銀メダルを獲得した日本が誇る名スプリンターです。ここで、朝原さんは小学生を対象としたキッズかけっこクリニックで講師を務めたあと、他競技の名アスリートを招いてのトークショーに登壇することを、また、銀メダルを手に登壇した塚原さんは、かけっこクリニックをサポートするほか、「初代SPEED STAR」の座を狙って、午後から行われるスポーツ別タイムトライアルに出場することが紹介されました。
さて、イベントは、AフィールドとBフィールドの2箇所に分かれて進行していくプログラムが組まれました。「SPEED STAR」を巡るタイムトライアルは、全天候型ウレタン走路が敷かれたAフィールドで行われます。今回は、「企業別タイムトライアル」「スポーツ別タイムトライアル」「一般タイムトライアル」の3部門が実施されました。
最初に行われたのが、「企業別タイムトライアル」です。これは、企業ごとに3~4人のチームを組んで参加し、各自がタイムトライアルに挑戦。チーム内上位3選手の合計タイムで企業別のトップを競うとともに、最も速かった人物を決定する仕組みです。このトライアルには開催地である丸の内に勤めるビジネスパーソンを中心に募集し、15社から17チームが参加しました。トライアルに挑む際には、DJケチャップさんが、企業の紹介とともに参加者のスポーツ経験なども質問。トライアルは、1人ずつ行われるため、観覧エリアから見守る人や通りがかった人々も含めて、挑戦者は周囲から大きな注目を集めるなかで走っていくことになります。会場の都合により雷管を用いることはできなかったものの、東京陸上競技協会の審判員がスターターを務め、電子ホイッスルによる合図でスタートしていく形がとられました。
最低人数の3名を揃えることができなかった明治安田生命チームには、「じゃあ、私が走りますよ!」と、なんと有森裕子副会長が助っ人を買って出ました。オリンピック女子マラソンで2大会連続(1992年・1996年)のメダル獲得を果たしたレジェンドです。イベント等で共演することの多いDJケチャップさんは「有森さんが短距離を走るのは見たことないんですけど!」と紹介すると、有森さんは「今日は、珍しいものが見られますよ」と茶目っ気たっぷりに返してスタート。見事な「30mダッシュ」を披露して5秒92でフィニッシュし、会場から大きな拍手を集めました。この日、有森副会長は、3部門すべてのタイムトライアルを走路の側で見守り、誰よりも大きな声で出走者たちを鼓舞。また、トライアルに挑む小学生たちに声をかけてリラックスさせたり、さらには会場周辺をまわって呼び込みをかけたりと、あちこちを所狭しと動き回って盛り上げに尽力していました。
企業別タイムトライアル個人ランキングで、見事トップの座を勝ちとったのは、企業別タイムトライアルで最初に挑戦したチーム「セレスポ」の望月雅史さんです。望月さんは、いきなり4秒34の好タイムをマーク。その後に続いた挑戦者たちの逆転を許しませんでした。企業別ランキングは、参加した3人がともに元スプリンターで、4秒70、4秒53、4秒45と全員4秒台を叩きだした「東京海上日動Aチーム」が13秒68で1位に輝きました。終了後には表彰式が行われ、個人チャンピオンの望月さんには桐の箱に収められた「ゴールデンバトン」とSPEED STAR 30m Dashの文字がデザインされた「チャンピオンフラッグ」が、チームチャンピオンの東京海上日動Aチームにはクリスタル製のトロフィーが、田﨑博道日本陸連専務理事から贈られました。学生時代は100mをやっていたという望月さんは、感想を求められると「まさか勝てるとは思っていなかったので嬉しいです」と笑顔で応えていました。
Aフィールドで企業別タイムトライアルが佳境を迎えるころ、Bフィールドでは、小学生を対象とする「キッズかけっこクリニック」が行われました。クリニックは、低学年(1~3年生)40名と高学年(4~6年生)40名に分かれて、2セッション行われるタイムテーブル。メイン講師を朝原さんが務めたほか、サポート役として塚原さんとともに同じく午後のスポーツ別タイムトライアルにも参加する高橋萌木子さん(ロンドンオリンピック4×100mリレー代表)、そして現役時代には2016年・2019年のパシフィックリーグ盗塁王にも輝いているプロ野球界屈指の俊足・金子侑司さんがスタッフに加わるという超豪華な顔ぶれが実現しました。それぞれ30分という短い時間でしたが、速く走るために大切な、正しい姿勢や腕の振り方、もも上げの注意点、地面からの反発を使って身体を弾ませていく方法などを朝原さんがわかりやすくレクチャー。子どもたちは教えてもらったポイントを心掛けながら、鮮やかな青色の人工芝走路を駆け抜けました。
Bフィールドは、このクリニックが終了したあとは、「30mダッシュ体験コーナー」に早変わり。事前申し込み不要で、当日、その場で参加ができるとあって、観覧に訪れたり、たまたま通りかかったりした人々など、274人が30mタイムトライアルに挑戦しました。計測されたタイムの数字を貼り付けた記録ボードを手に、家族で嬉しそうに記念撮影する光景も。お父さんとお兄ちゃんの父子対決する姿や、歩き始めたばかりの娘を側で見守りながら走るお父さん、懸命にかけっこする息子を動画撮影しながら並走するお母さんなど、それぞれが楽しそうに「全力疾走」に取り組んでいました。
かけっこクリニックが終了すると、ちょうどAフィールドで行われる「一般タイムトライアル」の時間となります。まず、低学年の子どもたちがAフィールドへ移動し、お父さん、お母さんが応援するなか、1人ずつ順番に30mダッシュに挑みました。低学年の部が終わるころに、高学年の子どもたちがAフィールドへ。クリニックでの動きつくりが、ちょうど良いウォーミングアップになるとともに、そこで学んだことが実戦に生かせる仕組みです。
低学年の部で個人トップに輝いたのは、小学3年生の「こうたろう」くん。5秒80をマークしました。プレゼンターを務めた塚原さんからゴールデンバトンとチャンピオンフラッグを受け取ったこうたろうくんは、心境を聞かれると「とっても嬉しい」とコメントしました。DJケチャップさんが参加した子どもたちに向かって、「今日、頑張れたと思う人、手を上げて」と投げかけると、全員が元気よく手を上げる場面も。塚原さんも、「集中するって、けっこう大事。しかも、こんなにみんなに囲まれたなかで全力を出せたのは、本当に素晴らしいこと」と子どもたちを称えました。
低学年の部に続いて行われた高学年のタイムトライアルでは、5年生の「りょうすけ」くんと6年生の「ゆい」ちゃんがぴったり同じ5秒43のトップタイムをマーク。2人のチャンピオンが誕生することになりました。低学年部門と同じく塚原さんからゴールデンバトンとチャンピオンフラッグを受け取り、フラッグを身にまとって塚原さんとともに記念撮影を行いました。ゆいちゃんは、普段は水泳とダンスをやっているそう。そんななかでの好タイムに、分野を問わないポテンシャルの高さを印象づけました。また、りょうすけくんは、将来の夢を聞かれて「陸上選手です」ときっぱり。表彰台付近で見守っていた陸上関係者を喜ばせました。
「今日は、母の日。ここへ連れてきてくれたお父さん、お母さんに感謝しよう」という言葉とともに表彰が終わると、子どもたちは観戦エリアで見守っていた家族の元へ。スキンシップをとりながら、「楽しかったよ!」「よく頑張ったね!」と笑顔で会話している様子が印象的でした。
これらキッズ向けに用意されたイベントについて、「楽しかったです!」と感想を話してくれたのは、小学校1年生の「りく」くんです。タイムトライアルで見せた美しい疾走フォームに惹かれて、終わったあとに声をかけてみました。今日は、元ハードラーのお父さん、「陸上大好き」と話してくださったお母さん、高学年の部に参加したお兄ちゃんと一緒に、家族で来場しました。空手とピアノとスイミングを習っているそうですが走ることも大好きで、「お兄ちゃんが陸上教室をやっている横で、走っています」とお母さん。「スパルタン(アメリカ発祥の障害物レースで、ランニングとさまざまな障害物を乗り越えていう競技)に出て1位になった」(りくくん)こともあるのだそうです。やってみたいスポーツを聞いてみると、「サッカーとか、バスケとか、バレー。空手も、スイミングも好き」と1つ1つを数えながら答えてくれました。
一般タイムトライアルのあとには、トップアスリートによるトークショーが行われました。登壇したのは、スペシャルゲストの朝原さん、サッカーの岡野雅行さん、ハンドボールの玉川裕康選手の3名。サッカー元日本代表の岡野さんは1997年フランスワールドカップ予選で、日本を初のワールドカップ出場に導くゴールを決めた人物。また、日本ハンドボールリーグ「ジークスター東京」でキャプテンを務める玉川選手は、昨年のパリオリンピックをはじめ、世界選手権でも代表経験を持つ現役トップハンドボーラーです。岡野さんといえば、爆発的なダッシュ力を武器に、俊足を生かしたプレースタイルが有名でしたし、また、ハンドボールは「ものすごく展開が速いので、陸上と同じようなダッシュ力が必要」(玉川選手)という競技特性を持ち、実は朝原さんも中学までハンドボール部だったという縁も。DJケチャップさんは、このイベントの「30mダッシュ」にちなみ、陸上、サッカー、ハンドボールすべてでパフォーマンスに大きな影響を持つ「走り」について、各アスリートから貴重な言葉を引きだしていきました。
午後からは、「スポーツ別タイムトライアル」がAフィールドで行われました。陸上だけでなく、さまざまなスポーツの現役・元トップアスリートたちが、それぞれにチームを組んで30mダッシュのスピードを競おうというもの。企業別タイムトライアルと同様に、1チームを3~4名で構成してチャレンジし、各チーム上位3名の合計タイムが最も良いチームを表彰するとともに、最速タイムをマークした個人に「SPEED STAR」の称号が授与される形で実施されました。
参加に応じてくれたのは、アイスホッケー、アメリカンフットボール、ゴルフ、サッカー、スポーツクライミング、チアリーダーズ、3×3バスケットボール、ハンドボール、7人制ラグビー、野球、陸上競技の11競技で、単独・混合含めて全17チームがエントリー。出場者には、オリンピック・デフリンピックのメダリストや日本代表経験者、マスターズ世界記録保持者、実力と人気を備えたプロ選手と、男女を問わず中学生から60代までの名アスリートが勢揃い。「運動会の部活対抗リレー」の超豪華バージョンといった様相になりました。また、トライアルの時間に合わせて、各チームを応援する人々が観戦エリアに大集合。団旗や小旗、名前入りタオルや、手作り“推しうちわ”を手に熱い声援を送り、それぞれのスポーツを愛する人たちの熱量を知ることもできました。
タイムトライアル開始にあたって、まず、参加する17チームを、1チームごとに紹介。フィニッシュ地点に登場した出場者たちは、一人ずつ名前や実績を紹介されるなか、観覧エリアの前を通過してスタート地点へ向かっていきました。全員で記念撮影を行ったのちに、いよいよタイムトライアルのスタートです。全9組で行われ、1組につき2チームが、1レーンと2レーンに入って、一人ずつ交互に走っていく方法が採られました。
陸上からは混合で3チームが出場。陸上Aは、元プロ野球選手で組んだ野球チームともに1組目に入ったため、2022年ブラジルデフリンピック男子100m金メダリストで、11月に開催される東京デフリンピックで世界新記録での連覇を目指している佐々木琢磨選手が、「スポーツ別タイムトライアル」全体のトップバッターを務めました。このほか、出場者は、キッズかけっこクリニックでサポートにも当たった元プロ野球盗塁王の金子さんやトークショーに出演したサッカーの岡野さん、さらにはサッカー元日本代表の坪井慶介さん、東京オリンピック七人制ラグビー日本代表の加納遼大選手といったトッププレイヤーが参戦。年長者では、プロ野球で黄金期の西武ライオンズをリーダーとして牽引した「ミスターレオ」こと石毛宏典さんや、サッカー元日本代表で名解説者として活躍している松木安太郎さんも姿を見せました。出走前のチームアピールを行った石毛さんは、観覧エリアからのリクエストに応えて30mダッシュも披露。また、松木さんは、DJケチャップさんからのいきなりの振りにもかかわらず、見事なトークタイムを展開し、集まった人々を魅了しました。
最も応援団が熱かったのは、アジアリーグアイスホッケー混合チームとして、4チームから4選手がエントリーしたアイスホッケーだったかもしれません。「氷(上)でも、陸(上)でも頑張りたい」と、それぞれが自チームのユニフォームを身にまとい、ショルダーパッドを着用して疾走しました。また、普段は応援する側であるチアリーダーズ界からは、アメリカンフットボールの横浜ベイクレーンズの専任チアリーダーたちが参加。「私たちの相棒なので、一緒に走ってみました」と両手にポンポンを持って、颯爽と30mを駆け抜けました。陸上Bチームでエントリーしたリオオリンピック50km競歩銀メダリストの荒井広宙さんは、競歩で30mダッシュにチャレンジして6秒87をマーク。トライアル後のインタビューでは、「私、50kmが専門だったので、ちょっと距離が短すぎましたね」と答えて、会場を笑わせました。
さて、トライアルが進むにつれて、個人ランキングの順位も変動。最速タイムは、有力候補が名前を連ねた陸上Cが走る9組目の1つ前の第8組で、スピード競技混合チームで4選手が臨んだスポーツクライミングから飛び出しました。2月に行われた同競技のスピードジャパンカップで初優勝を果たしたばかりの20歳・藤野柊斗選手が、鋭い反応から高速ピッチを繰りだしフィニッシュ。初めて4秒2を切る4秒15でタイマーを止めたのです。藤野選手は、2022年の世界ユース選手権で、同競技日本人初の金メダルを獲得している実力者。ロスオリンピックでの活躍が期待される新鋭が、高い運動能力の一端を披露する形となりました。
この4秒15を上回ることができるかに注目が集まった最終第9組は、陸上Cチームのみのトライアル。スペシャルゲストの塚原さんと、オリンピック2大会連続出場(2012年・2016年)をはじめ100mから400mまでこなすマルチスプリンターとして活躍した高瀬慧さんが臨みました。トップタイムともに、「3秒台」を期待する空気が流れるなか、2人は集中した面持ちでそれぞれスタート。40歳になったばかりの塚原さんは4秒33、36歳の高瀬さんは4秒28と、どちらも好タイムをマークしましたが、藤野選手が出した4秒15を上回ることができません。DJケチャップさんの提案により、エキシビションの形で再チャレンジが行われましたが、塚原さんは途中で動きが乱れて4秒36とタイム更新ならず。高瀬さんは全体2番目に相当する4秒18へと引き上げたものの逆転には0.03秒届きませんでした。なお、この陸上Cでは、ロンドンオリンピック女子4×100mリレー代表の土井杏南選手も出場し、女子最速となる4秒66の好タイムをマーク。また、このイベントの“生みの親”でもある日本陸連の田﨑博道専務理事も挑戦し、6秒19でフィニッシュしました。
全17チームのタイムトライアルが終了して、この日、4回目となる表彰式へ。まず、チーム別チャンピオンが発表されました。なんと、3×3バスケットボールAで出場した「TOKYO VERDY.EXE」と、トークショーに登壇したキャプテン玉川選手がサポートに回ったハンドボールの「ジークスター東京」の合計タイムが奇しくも13秒13の同タイムとなり、2チームが優勝することになりました。朝原さんからクリスタルのトロフィーを受け取った両チームは、この勝利について感想を求められると、ともに「一番嬉しいのは、陸上さんに勝てたこと」と会場を沸かせるとともに、陸上陣を悔しがらせる場面も。“本業”では今後、TOKYO VERDY.EXEは5月17~18日にシーズン開幕戦(御茶ノ水:ワテラス)を控えており、ジークスター東京は4年連続進出を果たした2024-25リーグHプレーオフ(6月13~15日:国立代々木競技場第1体育館)に挑みます。両チームとも、「ぜひ、会場へお越しください」とステージから呼びかけました。
そして、最後に行われたのは、初代「SPEED STAR」の表彰です。4秒15でスポーツ別タイムトライアルの個人ランキングトップに輝いたのは、スポーツクライミングの藤野選手。朝原さんからゴールデンバトンとチャンピオンフラッグが贈られました。
藤野選手はトライアルのあと、「まさか優勝できるとは思っていなかったので本当に嬉しいです。普段は“壁”を走っているのですが、今回は“地上”を走るということでけっこう緊張していました。こんな速いタイムが出せると思っていなかったので、自分が一番驚いています」とコメント。4秒15という好タイムの要因として、「スピードクライミングのトレーニングは、陸上に近いトレーニングがあるので、その成果が今回のタイムにつながったのかな」と言います。「昔から、50m走は6秒前半とか、割と速いほうだったけれど、陸上を本格的にやったことが全然なくて、せっかくの機会なので参加してみようかな」と出場を決めたそう。表彰式の際には、11月には大阪で第2回大会が予定されていることが公表されましたが、「もし、呼んでもらえるなら、ぜひ参加したいですね。ディフェンディングチャンピオンとして臨むとともに、3秒台に挑戦したい」とにっこり。スポーツクライミング界は今年、陸上と同じ9月に、ソウル(韓国)で世界選手権が開かれます。「“本業”でも頑張ります!」と藤野選手は、頼もしい言葉を聞かせてくれました。
こうしてすべてのプログラムが終了。Bフィールドで行われた「30mダッシュ体験」出走者を含めて、実に509名の人々が、東京のど真ん中で、30mダッシュにチャレンジした1日となりました。また、ただ「30mの全力疾走」のために集まった幅広い分野のさまざまな背景を持つ人々が、笑顔で交流している様子が各所で見られ、それぞれが楽しい時間を過ごした様子も窺えました。前述したように、すでに今年11月に大阪(梅田)で第2回大会を開催することが確定しており、今後は、日本陸連主催を問わず、場所や機会があれば全国各地で開催して「30m走」を日本中に広げていくことを目指しています。
今後の「SPEED STAR 30m Dash Challenge」に関するアクションは、日本陸連公式サイト内の「RIKUJO JAPAN」と特設ページにて、随時ご案内していく予定です。ぜひ、ご期待ください。
「走る・跳ぶ・投げる・歩く」が軸となっている陸上は、マザー・オブ・スポーツ。私たち日本陸連は、こうした機会をきっかけに、「陸上の楽しさを多くの人に知ってもらって、スポーツを大好きになってもらって、日本を元気にしていきたい」という大きな願いを持っています。その最初の一歩となる第1回大会を、素晴らしいお天気にも恵まれたなか、ここ行幸通りで開くことができて本当に良かったです。
正直なところ、陸上を含めて各スポーツ界ともにシーズンが始まっているこの時期に、東京の表玄関とも言うべきこの場所をお借りしてイベントを実施するのは、簡単なことではありませんでした。検討すべきことも多く、一時は開催は難しいのではないかと考えたこともありました。
そんななか実現することができたのは、相談をしにいった先で、「そうだね」「いいね」と共感を持ってくださる方がいたからです。スポーツへの情熱を持って応援してくださる方々が、私たちのこのイベントに対する思いを、いろいろな人に伝え、それがどんどん繋がっていったことによって、気がついたら、こんなに多くのスポーツ界から、たくさんの方々が参加してくださいました。私の役割は、人と人を繋いでいくことだと思っているのですが、今回の開催に際して、それができたのかなと嬉しく思っています。
もちろん、「トップアスリートを育てて、最高の競技会を開く」ことは我々日本陸連の使命。それもがっちりやるけれども、誰もがみんなで楽しめる、こうした機会をどんどん増やしていくことも、これからの陸上界にとって、とても大切なことだと考えています。今回、Bフィールドで実施していた「30mダッシュ体験」のコーナーも、とても盛り上がっていたそうで、おじいちゃんおばあちゃんが、お孫さんと一緒に走る場面もあったと聞いています。そうした風景を、この東京のど真ん中で実現することができたのは、本当に喜ばしいことですね。来場してくださった皆さまに感謝するとともに、開催に協力してくださった皆さまに、心から御礼申し上げたいと思います。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
朝原宣治
ストリート陸上は、私もいくつか企画・開催したことがあるのですが、今回の『SPEED STAR 30m Dash Challenge』は、本当に良いイベントになりましたね。一番良かったなと思ったのは、まるで部活対抗のような感じで、いろいろな競技から出場者が集まったことです。残念ながら陸上は負けてしまったけれど(笑)、従来の陸上関係のイベントにはなかったような、さまざまなファン層を、観覧エリアで見ることができました。参加してくれた各競技団体の方々も応援に来てくださっていましたし、また、企業別では会社の仲間が、子どもは子どもで家族みんなが応援に来て、一緒に楽しんでいました。そういう光景が、とてもいいなと感じました。
タイムトライアルを見ていて思ったのは、「1人1人で走るよりも、やっぱり並んで走ったほうが面白いかなあ」ということ。会場スペースやタイム計測の難しさなどもあるかもしれないけれど、大阪で開催を予定している次回、実現できたらいいなと思いますね。
また、私は、今回、陸上クリニックの指導を担当しました。30分という短い時間ではあったけれど、みんな熱心に取り組んでくれたし、そのあとに挑戦したタイムトライアルで一所懸命走っている姿がとても可愛らしかったですね。低学年の子どもたちに「かけっこ、好きな人」と聞いたら、ほとんどの子どもが手を上げてくれたのですが、実はこれ、高学年になるにつれて、だんだん走ることが嫌になる子が増えていくんですよ(笑)。なので、かけっこが好きなままでいてもらえるように、こういうイベントで、「かけっこは勝っても負けても楽しいものなんだ」ということを、もっともっと広げていきたいですね。