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2021.07.30(金)

【記録と数字で楽しむ東京オリンピック】女子5000m

7月30日(金)から8月8日(日)の10日間、国立競技場と札幌(マラソンと競歩)を舞台に「第32回オリンピック」の陸上競技が開催される(ている)。

日本からは、65人(男子43・女22)の代表選手が出場し世界のライバル達と競い合う。

無観客開催となったためテレビやネットでのライブ中継で観戦するしかなくなったが、その「お供」に日本人選手が出場する26種目に関して、「記録と数字で楽しむ東京オリンピック」をお届けする。

なお、これまでにこの日本陸連HPで各種競技会の「記録と数字で楽しむ・・・」をお届けしてきたが、過去に紹介したことがある拙稿と同じ内容のデータも含むが、可能な限りで最新のものに更新した。また、五輪の間に隔年で行われる世界選手権もそのレベルは五輪とまったく変わらないので、記事の中では「世界大会」ということで同等に扱い、そのデータも紹介した。

記録は原則として7月28日判明分。
現役選手の敬称は略させていただいた。

日本人選手の記録や数字に関する内容が中心で、優勝やメダルを争いそうな外国人選手についての展望的な内容には一部を除いてあまりふれていない。日本人の出場しない各種目や展望記事などは、陸上専門二誌の8月号別冊付録の「東京五輪観戦ガイド」やネットにアップされるであろう各種メディアの「展望記事」などをご覧頂きたい。

大会が始まったら、日本陸連のTwitterで、記録や各種のデータを可能な範囲で随時発信する予定なので、そちらも「観戦のお供」にしていただければ幸いである。





・予選 7月30日 19:00 2組5着+5

・決勝 8月2日 21:40

田中希実(豊田織機TC)
廣中璃梨佳(日本郵政グループ)
萩谷楓(エディオン)


25年ぶりの入賞なるか?

廣中璃梨佳(日本郵政グループ)、田中希実(豊田織機TC)が参加標準記録(15分10秒00)をクリアして、萩谷楓(エディオン)がワールドランキング37位で出場する。トリオでの出場は、1996年のアトランタから7大会連続だ。なお、標準突破済みで日本選手権2位で出場資格があった新谷仁美(積水化学)が10000mに専念するため、萩谷に出場権がまわってきた。

田中は、5000m決勝がある8月2日の午前9時35分から1500mの予選が組まれている。その12時間後が5000m決勝というスケジュールだ。通常であれば入賞を狙う本命種目の5000mに絞るところだが、現段階では1500mにも出場する予定とのこと。6月27日の日本選手権では、800m決勝(3位・2.04.47)の僅か34分後にスタートした5000mにも出て、一時は2位の新谷の前を走るなどの驚異的なタフネスぶりで3位(15.18.25)だった。そんな田中にとっては、「12時間もあれば……」といったところだろう。

21年の世界リストでは、エチオピアの3人が14分10秒台、ケニアの2人とイギリスのマコーガンが14分20秒台。参加標準記録適用期間内(19年5月1日~20年4月15日、20年12月1日~21年6月29日)の記録では、19年のドーハで1500mと10000mを制したS・ハッサン(オランダ。エチオピア生まれ)の14分22秒12も入ってくる。ただし、ハッサンは1500m・5000m・10000mの3種目にエントリーしているが、1500m予選と同じ日に決勝がある5000mを回避する可能性もある。

いずれにしても、参加資格記録で日本記録(14.53.22)を上回る選手が14人いてレベルは高い。
そんな中で日本人トリオが入賞を目指す。


◆五輪&世界選手権での入賞者と日本人最高記録◆
この種目は、世界選手権では1995年から(それ以前は3000m)、五輪では1996年から実施されるようになった(1984~92年は3000m)。入賞者は、以下の通り。
1996 五輪 4位 15.09.05 志水見千子(リクルート)=日本新
1997    8位 15.21.19 弘山 晴美(資生堂)

日本人最高記録は、
五輪が、
15.09.05 志水見千子(リクルート)1996年 4位 =日本新

世界選手権は、
14.59.92 福士加代子(ワコール)2005年 12位


◆五輪&世界選手権での先頭の1000m毎とラスト400m・200m、1・8位の記録とその差◆
以下は、5000mが採用された1995年からの世界選手権での先頭走者の「1000m毎のスプリット」「ラスト400mとラスト200m」「1位・8位の記録とその差」をまとめたものである。
年  ~1000m ~2000m ~3000m ~4000m ~5000m Last400&200  1位記録 8位記録 差
1995  2.51.95 3.01.53 3.04.72 3.02.87 2.45.40 61.5  28.8  14.46.47 15.08.05 21.58
1996五輪3.06.15 3.02.61 2.59.26 2.57.23 2.54.63 70.14 34.7  14.59.88 15.17.33 17.45
1997  3.11.74 2.58.66 2.58.22 3.02.21 2.46.85 61.9  29.5  14.57.68 15.21.19 23.51
1999  3.00.43 2.55.47 2.56.83 2.59.68 2.49.41 61.4  29.4  14.41.82 15.03.47 21.65
2000五輪3.03.84 2.53.50 3.01.19 2.55.27 2.47.39 60.01 28.6  14.40.79 14.50.31  9.52
2001  3.10.06 3.03.47 3.03.72 3.04.43 2.41.71 60.4  29.04 15.03.39 15.19.55 16.16
2003  3.04.25 3.05.63 2.59.00 2.57.57 2.45.27 60.1  29.7  14.51.72 14.54.98  3.26
2004五輪3.12.26 2.53.31 2.46.66 2.55.53 2.57.89 68.56 32.7  14.45.65 15.07.23 21.58
2005  3.02.53 2.51.32 2.58.77 3.01.78 2.44.19 58.19 28.1  14.38.59 14.45.14  6.55
2007  2.59.22 3.05.47 3.07.30 3.01.06 2.44.86 58.58 28.13 14.57.91 15.03.86  5.95
2008五輪3.39.20 3.06.21 3.12.72 3.06.64 2.36.63 59.54 30.2  15.41.40 15.49.03  7.63
2009  3.06.02 3.05.02 3.04.01 3.00.74 2.42.18 58.62 28.8  14.57.97 15.11.12 13.15
2011  3.02.10 3.05.00 3.03.87 3.02.63 2.41.76 58.68 29.17 14.55.36 15.09.35 13.99
2012五輪3.07.58 3.09.77 3.10.40 2.57.06 2.39.44 60.20 29.7  15.04.25 15.14.55 10.30
2013  3.10.78 3.03.24 3.04.33 2.50.66 2.40.90 59.82 29.31 14.50.19 15.14.70 24.51
2015  3.01.65 3.04.62 2.49.36 2.43.62 2.47.68 66.97 33.72 14.26.83 15.08.00 41.17
2016五輪2.59.86 3.00.50 2.47.44 2.51.95 2.46.42 65.59 33.3  14.26.17 15.00.69 34.52
2017  3.18.61 2.48.59 2.50.64 2.51.90 2.44.91 60.44 29.92 14.34.86 14.58.33 23.47
2019  2.56.90 2.55.58 2.51.89 2.59.69 2.41.66 58.43 29.67 14.26.72 14.44.92 18.20

「優勝者と8位の差」は、数秒から40秒以上と大会によって開きがあるが、この10年あまりの状況からすると「8位入賞ライン」は、「15分00秒±15秒前後あたり」である。

優勝者は途中で独走にならない限りは、ラストの1000mを2分40秒ちょっと、ラスト2000mを5分30~40秒あたりで走っている。ラスト2000mは1500m4分10秒前後のスピードだ。また、独走になった場合を除くとラスト400mも60秒以内のことが多い、当然ラスト200mも28秒台や29秒台だ。

「優勝」や「メダル」を目指すには、上述のようなラスト1周のスパート力がないことには厳しい。

が、「入賞」ならばその条件がかなり下がる。
どういうペースでレースが展開されるかにもよるが、3000mあるいは4000mまでを3分前後でいってラスト2000mを5分台、ラスト1000mを2分50秒から55秒あたりでカバーできれば、「入賞ライン」が見えてくることが多い。

2015年の北京世界選手権では鈴木亜由子(日本郵政グループ)が、8位(15.08.00)と0秒29差の9位。19年のドーハでは8位と9位が0秒26差で、これが世界選手史上最少の「8位と9位の差」。鈴木の0秒29差は歴代2位の僅差で、その時点では最も悔しい9位だった。

この時の鈴木の1000m毎は、3.01.77-3.04.60-3.02.76-3.01.83-2.57.44。4000m地点では、8~11位の4人の集団の2番目の位置につけていた。ラストの直線での瞬発的なスピードがないため最後に僅かに競り負けたが、「入賞を狙うための展開」としては素晴らしいレースをした。

今回の田中は、瞬発力があってそれまでのペースにもよるが、ラスト400mも63秒前後でカバーできそうである。距離は3000mだが、今年7月10日に8分40秒84の日本新をマークした時は、ラスト1000mを2分46秒9、ラスト400mを62秒7でカバーしている。また、20年7月18日に8分51秒49で走った時は、ラスト1000mを2分42秒9、あと2周で一気にスピードアップしてその1周を61秒7(30秒0と31秒7)でカバーし、ラスト800mが2分07秒5だった。最後の200mでスピードが落ちた(33秒6)ものの、ラスト1周(4600m)から残り200m(4800m)までも32秒2で走った。こういう一気の切り替えができるのが田中の強みで、世界大会の5000mでのアフリカ勢のペースアップにも対応できそうだ。さすがにラスト1周の58~59秒台やラスト200m28秒台などは厳しいだろうが、入賞争いで競り負けることはほとんどないだろう。

廣中には田中ほど瞬発的なスピードはないが、20年12月の日本選手権で田中(15.05.65)に最後で突き放されて2位(15.07.11)だった時のラスト1000mは、2分53秒3(田中は2分51秒4)でカバーしている。

また、萩谷も20年7月のディスタンスチャレンジ網走大会で15分05秒78の自己ベスト(4位=日本人2位。1位は田中で15分02秒62)の時は、ラスト1000mが2分52秒1(田中は2分50秒0)だった。


◆日本新の可能性も……◆
「記録よりも順位優先」の五輪であるが、当日の気象状況やレース展開によっては、福士加代子(ワコール)が05年7月8日にローマでマークした日本記録(14分53秒22)の16年ぶりの更新の可能性もある。

自己ベストは、廣中が歴代3位の14分59秒37(20年9月20日/全日本実業団2位)、田中が歴代4位の15分00秒01(19年10月5日/世界選手権14位)、萩谷が歴代7位の15分05秒78(20年7月15日/ディスタンスチャレンジ・網走)だ。

直近の世界大会だった19年ドーハ世界選手権の決勝は、21時25分のスタート時の気温が27℃、湿度71%の中でレースが行われ、
1)14.26.72=大会新
2)14.27.49
3)14.28.43
4)14.29.60
5)14.36.05
6)14.40.47
7)14.44.57
8)14.44.92
という世界選手権史上最もハイレベルなものとなった。

「27℃・71%」というと「蒸し暑い」ということになるが、ドーハの競技場にはトラックを取り囲むスタンドの壁から冷風が送られるような冷房装置が設置されていた。よって、走る選手にはかなり快適な気温だったようだ。

一方、国立競技場には、観客の熱中症予防のために185基の送風機が設置されているようだが、スタジアム全体を冷やして気温を下げるようなものではないらしい。

8月2日21時40分に決勝が行われる時の国立競技場の気温や湿度がどうなるのかは、その時になってみないとわからないが、2015年以降の過去6年間の21時40分の東京の「天気・気温・湿度」を気象庁HPから調べてみた。それが、下記である(国立競技場のある場所ではなく、気象庁がある千代田区のデータ)。

【2015~20年の8月2日21時40分の東京の気象データ】
・天気は、21時00分のもの
年 天気 気温  湿度
2015 曇り 29.5℃ 76%
2016 曇り 25.8℃ 89%
2017 曇り 22.0℃ 77%
2018 晴れ 29.9℃ 77%
2019 快晴 28.0℃ 85%
2020 晴れ 24.8℃ 82%

以上の通りで、「29.5℃」や「30.1℃」というのもあり、湿度もすべて70~80%台。今回も「蒸し暑い条件」になるかもしれない。

よって、序盤はスローペースの展開になるかもしれない。
参考までに日本記録の目安となるペースを示しておく。

福士の日本記録(14分53秒22)の時の1周毎や1000m毎のペースのデータを探したが、ローマでのレースで着順も12位だったため、残念ながら見つけられなかった。
そんなことで、新谷と廣中が揃って14分台で走った20年9月の全日本実業団のデータを紹介する。福士の日本記録との差は「2秒61」なので、十分に参考にはなろう。

なお、以下のデータは、「寺田的陸上web」で陸上ファンには知られている寺田辰朗氏が、各地点を日本人のトップで通過した選手(といっても、廣中か新谷のどちらかだが)のタイムを計測したものだ。なお、複数の日本人が同時に14分台をマークした唯一のレースであり、新谷の14分55秒83は、日本人が国内でマークした最高記録でもある。

<2020.9.20/全日本実業団・日本人先頭のペース>
日本人
距離 先頭  通過 400毎 1000毎
400m 廣中  1.12.8 72.8
800m 〃   2.26.6 73.8
1000m 〃   3.02.5    3.02.5
1200m 〃   3.38.2 71.6
1600m 〃   4.49.6 71.4
2000m 〃   6.01.3 71.7 2.58.8
2400m 〃   7.13.8 72.5
2800m 新谷  8.24.8 71.0
3000m 〃   9.00.9    2.59.6
3200m 〃   9.37.0 72.2
3600m 〃  10.49.0 72.0
4000m 〃  12.01.3 72.3 3.00.4
4400m 〃  13.13.3 72.0
4600m 〃  13.49.0
4800m 〃  14.22.9 69.6
5000m 〃  14.55.83(66.8)2.54.5
・前半7.31.6+後半7.24.2(前後半差△7.4)
・ラスト200m、32.9
・ラスト2000m、5.54.9
・ラスト3000m、8.54.5
(前半2500mは、2400mの通過から筆者による推定)

基本的には、400mを72秒、1000mを3分00秒の「15分00秒ペース」のほぼイーブンで刻み、ラスト400mで「5秒を削り出した」というペース配分だった。最も効率よくというか、無駄な力を使わずに「14分台」を出すための素晴らしいペースであったといえよう。


野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)

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