2024.08.09(金)選手

【記録と数字で楽しむパリオリンピック】男子4×400mリレー:悲願の「メダル」なるか!?



8月1日(木)から11日(日)の11日間、フランスの首都パリを舞台に「第33回オリンピック」が開催される。

日本からは、24種目に55名(男子35名・女20名)の代表選手が出場し、世界のライバル達と競い合う。

現地に赴く方は少ないだろうがテレビやネットでのライブ中継で観戦する方の「お供」に日本人選手が出場する全24種目に関して、「記録と数字で楽しむ2024パリオリンピック」をお届けする。

なお、これまでにこの日本陸連HPで各種競技会の「記録と数字で楽しむ・・・」をお届けしてきたが、過去に紹介したことがある同じ内容のデータや文章もかなり含むが、可能な限りで最新のものに更新した。また、記事の中では世界選手権についても「世界大会」ということで、そのデータも紹介している。

記録は原則として7月21日判明分。ただし、エントリー記録などは五輪参加標準記録の有効期限であった24年6月30日現在のものによった。
現役選手の敬称は略させていただいた。

200mから1500mにおいて、予選で落選した選手による「敗者復活戦」が導入され、これによって予選で敗退した何人かが復活して準決勝に進出できることになった。
ただ、各種目での敗者復活戦の組数や何人が準決勝に出場できるのかなどの条件がこの原稿執筆時点では明確にされていない。よって、トラック競技の予選・準決勝の競技開始時刻のところに示した通過条件(○組○着+○)は、「敗者復活戦」がなかったこれまでの世界大会でのものを参考に記載したため、パリではこれとは異なる条件になるはずだ。

日本人選手の記録や数字に関する内容が中心で、優勝やメダルを争いそうな外国人選手についての展望的な内容には一部を除いてほとんどふれていない。日本人の出場しない各種目の展望などは、陸上専門誌の8月号の「パリ五輪観戦ガイド」や今後ネットにアップされるであろう各種メディアの「展望記事」などをご覧頂きたい。

大会期間中は、日本陸連のSNS(=旧Twitter orFacebook)で、記録や各種のデータを可能な範囲で随時発信する予定なので、そちらも「観戦のお供」にしていただければ幸いである。

現地と日本の時差は、7時間で日本が進んでいる。競技場内で行われる決勝種目は、日本時間の深夜から早朝にかけての競技である。
猛暑の中での睡眠不足にどうぞご注意を!


男子4×400mリレー

(実施日時は、日本時間。カッコ内は現地時間)
・予選 8月9日 18:05(9日 11:05) 2組3着+2
・決勝 8月11日 04:00(10日 21:00)


悲願の「メダル」なるか!?

22年オレゴンで2分59秒51のアジア新記録で4位入賞を果たした日本チームが、五輪を含めてこの種目では獲ったことのない「メダル」に挑む。
23年ブダペストでは400mに出場した3人全員が準決勝に駒を進め、32年ぶりの日本新に3人全員が自己新で走り上昇気流に乗っていた。しかし、好事魔多しというべきか、マイルリレーでは1走からレースの流れに乗れず組の5着でプラスの4番目でまさかの予選落ち。決勝には0秒16及ばなかった。

パリ五輪の400m代表3名とリレーにエントリーしている2名の2024年ベストと自己ベストは以下の通り。

中島佑気ジョセフ(富士通/45秒16。45秒04=23年)
佐藤風雅(ミズノ/45秒61。44秒88=23年)
佐藤拳太郎(富士通/45秒21。44秒77=23年)
吉津拓歩(ジーケーライン/45秒57=24年)
川端魁人(中京大ク/45秒77。45秒73=22年)

今季の400mの記録の上位4名の合計は、「3分01秒65」。
1996年以降に日本記録がマークされた時のレース前の4人の400mシーズンベストの合計は以下の通り。

1996年アトランタ五輪「3分00秒76」日本新で5位入賞46秒00・46秒03・46秒23・46秒38=「3分04秒64」
2021年東京五輪・予選「3分00秒76」日本タイ45秒61・45秒75・45秒85・45秒94=「3分03秒15」
2022年オレゴン世界選手権「2分59秒51」アジア新で4位入賞45秒27・45秒40・45秒73・46秒07=「3分02秒47」

今回の合計タイム「3分01秒65(45秒16・45秒21・45秒57・45秒61)」は、アトランタより2秒99、東京より1秒50、オレゴンより0秒82速い。
実際のリレーの記録との比較は、
アトランタ3分04秒64-3分00秒76=3秒88アップ
東京3分03秒15-3分00秒76=2秒39アップ
オレゴン3分02秒47-2分59秒51=2秒96アップ
だった。リレーのタイムがアップするのは、2走以降は加速付きでスタートでき、オープンになってからは人の後ろで空気抵抗を軽減できたりもするからだ。

なお、アトランタの時には、「3秒88」もアップしているが、46秒23は100・200mが専門の伊東浩司さん、46秒38は400mHが専門の苅部俊二さんの記録。
五輪までに400mを走る機会がほとんどなかったので、タイムが残っていなかったがともに45秒台の実力があったはず。実際にマイルリレーの決勝では、1走・苅部45秒88、2走・伊東44秒86で走り、400m専門の小坂田淳45秒08・大森盛一44秒94とつないで5位入賞を果たした。
以上のことから、短縮できたタイムは、東京やオレゴンの時と同程度の2秒台だったと考えられる。

これらのことからして、フラットの合計タイムが「3分01秒65」の今回は、「2分58秒台も可能」ということになりそうだ。


◆世界選手権&五輪での入賞歴と最高記録◆

1932五輪5位3.14.6日本記録(3.16.8)を上回ったが「日本記録変遷史」には未収録
1996五輪5位3.00.76=アジア新
20037位3.03.15 
2004五輪4位3.00.99 
20224位2.59.51=アジア新

「世界選手権」での最高記録は、
2分59秒51 2022年決勝4位=アジア新


◆4×4000mリレー出場国の2024年400mベストの上位4名の合計記録◆

「表1」は、4×400mRに出場する16カ国について、リレーにエントリーしている各国5名の今回のパリ五輪400m決勝終了時点(現地時間8月7日)での2024年のシーズンベストを調べ、「上位4名の合計タイム」の順に並べたものだ。
なお、2024年に400mを走っていない選手については、「--.--」とした。参考までに、2024年の各国の層の厚さを知るために「10位」の記録も付記した。

4×100mRと同様にリレーにエントリーしている5名以外の他種目(200m、800m、400mHなど)の選手を起用してくる可能性もある。
また「表1」で4番目の南アフリカは、400m世界記録(43秒03=16年)保持者W・ファン・ニーケアクの名前がないが、本番に起用されるのは間違いないだろう。また、アメリカの5番目は200m19秒71の選手。ナイジェリアは200m20秒80、ドイツは100m10秒25の選手だ。

【表1/2024年400mベストによるリレーエントリー上位4名の合計および国内10位記録】
国名順)合計記録1位2位3位4位5位10位記録
USA1)2.55.9143.4044.1044.1044.31--.--1)44.68
GBR2)2.57.7343.4444.2244.7045.3745.812)45.70
BOT3)2.58.0644.1044.4344.5444.9945.393)45.74
RSA4)2.59.1744.3144.8045.0145.0545.334)45.92
BEL5)2.59.9044.1544.9845.3245.4546.199)46.59
BRA6)3.00.2644.5245.1645.2645.3245.817)46.29
NGR7)3.00.4344.4144.9745.3645.69--.--14)46.73
JPN8)3.01.6545.1645.2145.6745.6145.776)46.00
FRA9)3.01.8645.0545.1745.6745.9745.975)45.97
GER10)3.02.4345.0345.4045.9746.03--.--8)46.42
TTO11)3.02.9343.7846.3046.3946.4647.5315)47.37
IND12)3.02.9845.5445.6945.7646.0046.0211)46.62
ITA13)3.03.0244.7545.9245.9446.4146.6412)46.67
ZAM14)3.03.0343.7446.1846.5146.6046.7016)47.83
ESP15)3.03.6345.5745.6046.0646.4046.4512)46.67
POL16)3.03.6945.5945.7346.1646.2146.5610)46.61

日本の合計タイムは「3分01秒65」で8位。22年オレゴン世界選手権で2分59秒51のアジア新で4位に入った時のフラットの合計は「3分02秒47」だったが、リレーでは2秒96短縮しメダルまであと0秒79と迫った。23年ブダペストの時の4人の合計は「3分00秒23」で4番目だったが、本番では1走から流れに乗れず3分00秒39(1組5着)でよもやの予選落ち。

パリで悲願のメダルを獲得するには、合計タイムで上位にいる少なくとも5カ国を抜き、下の国のどこにも負けてはいけない。
上述の通り、23年は合計3分00秒23で日本は4番目だったが、今回は2分台が5チームとレベルがアップしている。

「表2」は、日本が4位に入賞した22年オレゴンで世界選手権での同様のデータで、リレーの決勝に出た8カ国のフラットの合計とリレーの記録だ。
ただし、フラットレースの上位4名がリレーの決勝を走っていない場合もある(ベルギーの4番目は21年の記録)。

【表2/2022年400mベストによるリレーエントリー上位4名合計と1600mリレー決勝の記録とのタイム差】
国名順)合計記録1位2位3位4位
USA1)2.55.7343.5643.7044.1344.34-->1)2.56.17(▽0.44)
JAM3)3.00.4844.8744.9745.2145.43-->2)2.58.58(△1.90)
BOT4)3.00.5844.8745.0345.2545.43-->6)3.00.14(△0.44)
BEL5)3.01.2245.1245.1845.3645.56*-->3)2.58.72(△2.50)
JPN7)3.02.4745.2745.4045.7346.07-->4)2.59.51(△2.96)
FRA8)3.02.6145.4445.4745.7145.97-->7)3.01.35(△1.26)
TTO9)3.02.8044.7945.4145.8646.74-->5)3.00.03(△2.77)
CZE13)3.03.7445.5545.7846.0546.36-->8)3.01.63(△2.11)

オレゴンでは日本はフラットの合計タイムでは7位(3分02秒47)だったが、2秒96短縮してアジア新記録の2分59秒51で、五輪を含む世界大会での史上最高成績となる4位入賞を果たしたのだった。

走順・400mSBリレーのスプリット(差)
1走・45秒4045秒63(▽0秒23)佐藤風雅
2走・45秒7345秒28(△0秒45)川端魁人
3走・45秒2743秒98(△1秒29)ウォルシュ ジュリアン
4走・46秒0744秒62(△1秒45)中島佑気ジョセフ
計・3分02秒472分59秒51(△2秒96)
という結果だった。上記のリレーのスプリットは、日本陸連科学委員会が動画から分析したデータで、レース当日に大会HPで速報された数字とは異なる。速報値は、1走から順に45秒73・45秒19・43秒91・44秒68だった。

なお、1走は通常の400mと同様にスターティングブロックからのスタートなので、2走以降のように加速によるタイムの短縮はない。
過去の世界大会で各選手の400mフラットレースのシーズンベストとリレーでのスプリットを分析した筆者のデータによると、2走以降は、加速がつくのと2位以下で人の後ろを走ることによって空気抵抗が軽減されることなどから、平均的にはフラットの記録よりもひとり0秒7程度、トータルで2秒ちょっと前後の短縮が見込まれるという結果だった。
しかし、オレゴンの決勝ではウォルシュと中島は1秒以上も速いスプリットで走り、チームとしては2秒96も短縮して2分59秒51のアジア新記録でフィニッシュした。
そんなことからも今回の日本チームのシーズンベストの合計タイム3分01秒65からすると、「2分58秒台」は可能であろう。400m代表の3人が本来の走りをできれば「2分57秒台」も……、である。

毎回のことながら、「2組3着+2」の予選が大きな関門だ。
これまでには「2分台で走っても決勝に進めなかった」ということもあったので、予選から全力投球が必要だ。
21世紀以降の五輪&世界選手権の「決勝進出の最低ライン(通過最低記録)」と「決勝に進めなかった最高タイム(落選最高記録)」は以下の通り。

通過最低落選最高
20013.01.423.01.65
20033.02.353.02.89
2004五輪3.03.323.03.35
20053.02.863.03.17
20073.02.493.02.59
2008五輪3.00.743.01.26
20093.03.233.02.78
20113.00.973.01.54
2012五輪3.02.623.02.86
20133.01.093.01.73
20152.59.802.59.95
2016五輪3.00.433.00.82
20173.01.883.01.98
20193.01.403.02.05
2021五輪2.59.373.00.25
20223.03.133.03.14
20233.00.233.00.33
   
最高記録2.59.372.59.95
五輪最高2.59.37(2021)3.00.25(2016)
世選最高2.59.80(2015)2.59.95(2015)
「決勝に進めなかった最高記録」は、15年北京世界選手権での2分59秒95(ボツワナ。予選2組5着)。
この組は2分59秒80までが決勝進出というハイレベルで、予選2組トータルで9国が2分台、3分00秒台2国、01秒台で2国が走った。
また、東京五輪も通過最低記録が2分59秒37とオレゴンで4位入賞だった日本記録(2分59秒51)を上回る過去最速のタイムだった。「+2」は、2分58秒91と2分59秒06。実際には東京で決勝に進めなかった最も速いタイムは3分00秒25だったが、もしかしたら、予選2組の3着と4着が同タイム着差ありの場合は「2分59秒37でも落選」という可能性もあった訳だ。東京での日本チームは予選2組で日本タイ記録(3分00秒76)をマークしたが、「+2」の4番目の5着だった。

2022年オレゴンの通過ラインはコンディションなどもあって「3分03秒13」と2009年以来の低い水準だったが、23年ブダペストは「3分00秒23」。今回のパリでは東京五輪と同じく「2分台」が要求されることになるかもしれない。
「表1」のフラットの合計のボーダーライン(7~9番目)のタイムは、オレゴンの時よりも2秒前後、ブダペストの時よりも1秒前後アップしている。



◆世界選手権&五輪での1・3・8位の記録◆
1位3位8位 
19833.00.793.03.63DNF 
1984五輪2.57.912.59.323.02.82 
19872.57.292.59.16DNS 
1988五輪2.56.163.00.563.04.69 
19912.57.533.00.103.05.33 
1992五輪2.55.742.59.73DNF 
19932.54.292.59.993.05.35 
19952.57.323.03.18DNS 
1996五輪2.55.992.59.42DNS 
19972.56.653.00.26DQ(1位アメリカ2.56.47がドーピングで失格)
19992.58.913.00.20DQ(1位アメリカ2.56.45がドーピングで失格)
2000五輪2.58.682.59.23DQ(1位アメリカ2.56.35がドーピングで失格)
20012.58.192.59.71DQ(2位アメリカ2.57.54がドーピングで失格)
20032.58.963.00.53DQ(1位アメリカ2.58.88がドーピングで失格)
2004五輪2.55.913.00.903.02.49 
20052.56.912.58.07DQ(6位トリニダードトバゴ3.01.60が走者変更違反で失格)
20072.55.563.00.053.07.40 
2008五輪2.55.392.58.81DQ(3位ロシア2.58.06がドーピングで失格)
20092.57.863.00.903.02.73 
20112.59.313.00.10DQ(4位ロシア3.00.22がドーピングで失格)
2012五輪2.56.722.59.40DQ(5位ロシア3.00.09がドーピングで失格)
20132.58.713.00.88DQ(3位ロシア2.59.90がドーピングで失格)
20152.57.822.58.513.03.05 
2016五輪2.57.302.58.493.03.28 
20172.58.122.59.00DQ(8位フランス3.01.79がドーピングで失格)
20192.56.692.58.78DNF 
2021五輪2.55.702.57.273.00.85 
20222.56.172.58.723.01.63 
20232.57.312.58.71DQ 
     
最高記録2.54.292.57.273.00.85 
五輪最高2.55.392.57.273.00.85 
世選最高2.54.292.58.073.01.63 

五輪&世界選手権の決勝での「着順別最高記録」は、以下の通り。
順)五輪 世界選手権 
1)2.55.392008=USA2.54.291993=USA
2)2.56.601996=GBR2.56.751997=JAM
3)2.57.272021=BOT2.58.072005=JAM
4)2.57.882021=BEL2.58.512015=JAM
5)2.58.462021=POL2.59.922023=IND
6)2.58.762021=JAM3.00.402023=NED
7)2.58.812021=ITA3.01.232023=ITA
8)3.00.852021=TRI3.01.632022=CZE
以上の通りで21年東京五輪が史上最高のレベルで7位までが2分58秒台以内で走った。

さきに400mフラットレースの合計タイムよりもリレーでは2秒ちょっと短縮できる可能性とオレゴンでは日本チームが2秒96も速く走ったことを述べた。
これからすると、今回の日本チームは「2分58秒台」あたりで走れる力がありそうということになる。

史上最高レベルだった21年東京五輪では、2分57秒台でもメダルに届かなかったが、他の大会では「57秒台」ならばすべてメダルを手にすることができいる。
今回出場する16チームのうち、パリ五輪の400mフラットレースで「シーズンベスト(自己新を含む)」をマークした選手がいる国は、6国。うち圧巻はアメリカで3人全員が決勝に進んだ。

フラットに出場した日本の3選手は本人にとっても「不完全燃焼」のレースだったようだ。「敗者復活戦」を回避して「マイルリレー」に集中することになった。
先頃、現役引退を表明したウォルシュ・ジュリアンは、オレゴン世界選手権でフラットが予選45秒90、準決45秒75。リレーの3走では予選44秒99、そして決勝は43秒98の快走だった。今回のマイルメンバーが「バトンの力」でそんな走りをできれば、悲願の「メダル」をたぐり寄せられるかもしれない。



野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)


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