「セイコーゴールデングランプリ陸上2024東京」(セイコーGGP)が5月19日、2021年に実施された東京オリンピックの会場で、来年に行われる「東京2025世界陸上」(東京世界選手権)の舞台にもなる東京・国立競技場で開催されました。
ワールドアスレティックス(WA)が実施する「コンチネンタルチアー」シリーズにおいて、最高位カテゴリの「ゴールド」に位置づけられているこの大会。当日は、前線の移動が早まった影響で、前日までの快晴から一転して雲が厚く垂れ込める天候で、気温こそ高くも低くもなかったものの、湿度が高く、競技するにはやや重苦しさを感じるコンディションとなりました。しかし、会場には2万人を上回るファンが観戦に訪れ、観客席の1階層がほぼ満員となる盛況に。レースや試技が行われるたびに、惜しみなく寄せられる拍手と歓声、そしてハイパフォーマンスへの大きなどよめきが、アスリートたちを大いに鼓舞しました。
今年も男子9、女子6の全15種目が行われ。世界水準で活躍する国内外のトップアスリートが熱戦を繰り広げました。このうち日本勢は6種目で優勝。5種目で今季日本最高がアナウンスされたほか、男子110mハードルと400mハードルの2種目でパリオリンピック参加標準記録を上回る好記録が出ています。
女子やり投・北口、最終試技で逆転V
シーズンベストの63m45
ブダペスト世界選手権メダリストが揃う豪華な顔ぶれが実現した女子やり投は、今大会において、大きく注目を集める種目となりました。そのなかでも、ひときわ熱い視線が注がれたのは金メダリストの北口榛花選手(JAL、ダイヤモンドアスリート修了生)であったのは言うまでもないでしょう。北口選手は、今季は4月27日に行われた蘇州ダイヤモンドリーグを62m97で優勝してシーズンイン。帰国後に出場した水戸招待(5月5日)も61m83で制して、この大会に臨んできました。
1・2回目を60m20、60m19と安定して60mラインを越える記録を出したものの、トリ・ピーターズ選手(ニュージーランド)が1回目に61m16をマークしたことで、前半の試技は2番手で終えることに。しかし、5回目の試技で、先週、今季世界最高となる66m70の南米新記録をマークしたばかりのフロル・デニス・ルイス・ウルタド選手(コロンビア)が62m06を投げてトップに立つと、3位に後退した北口選手も62m02と記録を伸ばし、再び2位につけます。そして、会場内の視線を集めるなかで放った最終投てきでは、シーズンベストの63m45をマーク。観客を大きくどよめかせるとともに、昨年7月のシレジアダイヤモンドリーグから続く連勝を「10」に増やしました。今後は、再びヨーロッパに戻って転戦したのちに、日本選手権を迎える予定です。
男子400mハードルは豊田が快勝!
日本歴代5位の48秒36をマーク
男子400mハードルは、昨年の段階でパリオリンピック参加標準記録(48秒70)を突破している黒川和樹選手(住友電工、48秒58)と豊田兼選手(慶應義塾大、48秒47)、そして5月12日の木南記念で48秒58をマークして3人目の突破者になったばかりの筒江海斗選手(ST-WAKO)が揃って出場。木南記念で48秒83の自己新を出すなど上り調子にある出口晴翔選手(ゼンリン、ダイヤモンドアスリート修了生)、昨年、参加標準記録に迫る記録をマークしている児玉悠作選手(ノジマT&FC、48秒77)、さらには、こうした面々を抑えて昨年の日本選手権を制した小川大輝選手(東洋大、48秒91)と、超大激戦が予想される日本選手権の前哨戦ともいえるような顔ぶれでのレースとなりました。
そのレースを制したのは、豊田選手です。序盤をやや抑え気味で入ったという豊田選手は、徐々にリズムを上げていく展開で中盤から抜けだすと、ホームストレートで他選手を突き放してフィニッシュ。今季世界7位となる48秒36をマークして、日本歴代5位へと浮上しました。1週間前の関東インカレは400mに出場して、準決勝で45秒57の今季日本最高(当時)をマークしたばかり。連戦による疲労から脚に不安を抱えていたというなか、地力がさらに上がったことを証明する走りを披露しました。大接戦となった2位争いは、ラストで筒江選手を0.01秒かわした出口選手が48秒91で先着し、筒江選手が48秒92・3位で続く結果になっています。
男子100mを制したのは栁田
サニブラウンは予選で10秒07
10秒00のパリオリンピック参加標準記録を巡って、複数選手による好勝負・好記録が期待されていた男子100mは、波乱もあったなかでの決勝結果となりました。
トラック種目で唯一、予選・決勝の2ラウンド制で行われたこの種目。予選では、スタートのやり直しがあったものの、1.0mの追い風に恵まれた2組で、ブダペスト世界選手権で6位入賞を果たしているサニブラウンアブデルハキーム選手(東レ、ダイヤモンドアスリート修了生)が10秒07、同じくブダペスト世界選手権代表で昨年の日本選手権チャンピオンである坂井隆一郎選手(大阪ガス)が10秒10と好タイムをマークし、順当に決勝へと駒を進めましたが、決勝は、その2選手がともに脚にケイレンを起こすトラブルに見舞われてしまいます。両者とも大きなダメージには至らなかったものの、8・9位(サニブラウン選手10秒97、坂井選手12秒34)でレースを終える形となりました。
そんななか決勝を制したのは、ブダペスト世界選手権100m代表で、4月27日の初戦でサニブラウン選手と並ぶ10秒02の今季日本最高をマークしていた栁田大輝選手(東洋大、ダイヤモンドアスリート)でした。予選は10秒31(-0.7)と、のちに自身が「ぱっとしないレース」と振り返る滑りだしでしたが、決勝ではきっちりと修正。周りでアクシデントが起きたなか、自身に集中する走りで混戦を抜けだし、10秒21(-0.1)でフィニッシュし、セイコーGGP初優勝を飾りました。
男子200mでは、昨年アジア選手権で金メダルを獲得し、ブダペスト世界選手権でも準決勝に進んだ鵜澤飛羽選手(筑波大)が、ホームストレートに入ってくるあたりでリードを奪い、20秒40(-0.3)で優勝を果たしました。しかし、勢い余ってフィニッシュ直後に転倒するアクシデント。救護室に運ばれたのち病院に搬送されたことで状態が心配されましたが、診察により大事はないことが判明しています。
110mハードルは村竹、400mは佐藤
日本記録保持者が貫禄の勝利
男子110mハードルでは、泉谷駿介選手(住友電工)とともに13秒04の日本記録を保持する村竹ラシッド選手(JAL)が、序盤で出遅れながらもレースを立て直して13秒22(-0.6)で快勝。ミスがあったなかでも、この種目のパリオリンピック参加標準記録の13秒27を上回る結果を残しました。
男子400mには、44秒77の日本新記録を筆頭に、昨年、パリオリンピック参加標準記録(45秒00)を3回クリアするパフォーマンスを残している佐藤拳太郎選手(富士通)が出場しました。日本チームのオリンピック出場権を懸けて臨んだ5月4~5日の世界リレー(バハマ)では、男子4×400mリレーの予選・決勝、そして男女混合4×400mリレー決勝と3レースを走っている佐藤選手ですが、400mのフラットレースでは今大会が初戦となります。その影響もあってか、イメージしていた走りが序盤からできず、レース後は「修正点と改善点しかない」と反省しきりでしたが、そのなかでもきっちりと優勝。今季日本最高の45秒21をマークしていました。
女子1500mには、日本記録保持者(3分59秒19、2021年)の田中希実選手(New Balance)が出場しました。序盤はペースメーカーについてレースを進めましたが、想定よりもペースが落ちたこともあり800mを過ぎたところで先頭に立ち、ラスト1周をトップで回って逃げきりを図ります。しかし、ホームストレートでサラ・ブリングス(オーストラリア)、ジョージア・グリフィス(オーストラリア)、プリティ・チェプキルイ(ケニア)の3選手にかわされて4位でフィニッシュ。レース後は、「タメをつくれるかが課題だったが、思ったよりつくれなかった。ラストを押しきる力がなかった」と振り返っていましたが、兵庫リレーカーニバルでマークしたシーズンベストを更新し、4分07秒39の今季日本最高でレースを終えています。
また、中国の吴艳妮(ウ・イェンニ)選手が今季アジア最高となる12秒80(-0.6)で制した女子100mハードルの日本人トップは、田中佑美選手(富士通)。2位でフィニッシュし、今季日本最高となる12秒90をマークしました。
男子やり投は、ディーン、﨑山が80mオーバー
橋岡は、7m97で4位
男子やり投では、5月10日のドーハダイヤモンドリーグ(79m34)からの連戦で「身体に張りがあった」というディーン元気選手(ミズノ)が、2回目に81m38をマークしてトップに立つと、「これまでの経験上、この状態で一番怖いのがケガ」と、その後の試技を自重し、勝負の行方を見守る戦略をとりました。しかし、勝負では、6回目の試技で、キャメロン・マッケンタイヤ選手(オーストラリア)が自己新記録の82m01を投げて逆転を喫し、再逆転かなわず2位。ディーン選手は、悔しさを滲ませつつも、「投げたい思いはあったが、しっかり我慢できた」と振り返り、「前半で、狙っていた通りの技術で81m台を投げられた。これで次は3回目に84~85m台と上げていける」と着実に課題をクリアできたことを評価していました。なお、やり投では、3位の﨑山雄太選手(愛媛競技力本部)も80m07と、シーズンベストを80m台に乗せています。
また、男子走幅跳で、3月にパリオリンピック参加標準記録(8m27)を突破する8m28をマークしている橋岡優輝選手(富士通、ダイヤモンドアスリート修了生)は、7m97(+1.0)で日本人最上位の4位。この日は6回のうち有効試技は2回という内容でしたが、ファウルの跳躍では日本記録(8m40)に迫るパフォーマンスを見せる場面も。「ここまで助走が走りきれていないことが課題だったが、今日は、自分のなかで“走る”というところで、しっくりくるものがあった。記録はついてこなかったけれど、次につながると思う」と前を向く結果となりました。
このほか、男子走高跳は日本人3選手による瀬古優斗選手(FAAS)が2m24をクリアした日本選手による同記録勝負を制して3位に、男子5000mは遠藤日向選手(住友電工)が13分20秒28で4位に、女子100mは君嶋愛梨沙選手(土木管理総合)が11秒49(-0.3)で3位、女子5000mは樺沢和佳奈選手(三井住友海上)が15分20秒94で5位、女子三段跳は船田茜理選手(武庫川女子大)が13m32(+0.1)で5位と、それぞれが日本人最上位の成績を残しました。
日本人優勝者および注目選手のコメントは、本稿とは別に、大会特設サイトのニュース欄( https://goldengrandprix-japan.com/2024/news/ )において掲載しています。あわせてご覧ください。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト/アフロスポーツ
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