2024.01.19(金)選手

【ダイヤモンドアスリート】第3回研修レポート:世界で活躍するアスリートを支えるマネジメントについて



国際的な活躍が期待できる資質を備えた次世代競技者を、中長期的な視野で多面的に強化・育成することによって、より高い競技力の獲得と、豊かな人間性を持つ国際人として将来的に社会やスポーツ界の発展に貢献できる人材を輩出することを目指して、日本陸連が2014-2015年から実施いている「ダイヤモンドアスリート」制度。 
昨年末には10期目がスタートし、第10期ダイヤモンドアスリートに認定された栁田大輝(東洋大学)、佐藤圭汰(駒澤大学)、西徹朗(早稲田大学)、北田琉偉(日本体育大学)、澤田結弥(浜松市立高校)、永原颯磨(佐久長聖高校)の6選手に向けた各種プログラムが行われてます。

12月19日には、味の素ナショナルトレーニングセンターにおいて、国際人としての素養や豊かな人間性を高めることを期して、個の成長を重視して実施する「リーダーシッププログラム」の第2回、第3回の研修が行われ、栁田・西・北田の3選手が現地で、また澤田・永原の2選手がオンラインで参加しました。

第3回リーダーシッププログラムは、プロスポーツ選手のマネジメント業務等を手がける株式会社UDN SPORTS(ユー・ディー・エヌ スポーツ)の伴野力哉代表取締役を ゲスト講師に招いての研修が行われました。
伴野さんは現在42歳。プロサッカーチームのベガルタ仙台で働いたあと、スポーツメーカーのアディダスジャパンに入社。同社から日本サッカー協会に出向する形で、選手の合宿や世界大会出場の帯同や、選手の契約に関する業務などを担当したのちに、独立して、UDN SPORTSを設立したという経歴の持ち主です。



伴野さんがもともとサッカー出身ということもあり、契約している選手は同社契約第1号アスリートで、昨年12年ぶりにヨーロッパから拠点を戻してセレッソ大阪で活躍している香川真司選手をはじめとして、サッカー選手が非常に多く、冨安健洋選手(アーセナルFC)や長谷川唯選手(マンチェスター・シティWFC)などヨーロッパで活躍する15~20名を含めて、現在は約120名のサッカー選手のマネジメントにあたっているといいます。陸上競技では、ダイヤモンドアスリートの修了生でもある100mのサニブラウンアブデルハキーム選手(東レ)、走幅跳の橋岡優輝選手(富士通)と契約。このほか、バドミントンの桃田賢斗選手(NTT東日本)やスポーツクライミングで活躍する楢﨑智亜・明智兄弟など、サッカー以外のアスリートのマネジメントも行っています。ここでは、ダイヤモンドアスリートたちの先輩にあたるサニブラウン選手と橋岡選手のケースを例に話が進んでいきました。

サニブラウン選手との最初に出会いは、彼が高校生の頃。知人を通じて話をしたのが最初だったといいます。その際、当時、ドイツのサッカーチームに所属していた香川選手が同席してくれる機会に恵まれ、そこで香川選手が「日本を背負って、海外に出て生活し、その国の文化に慣れ親しみつつ、アスリートとして活躍するのは簡単なことではない。ただ、誰かがそれをやらなければ、目の前の扉は開かない。あなたが次世代のために何ができるかを考えて挑戦しておいたほうが いいんじゃないか」とサニブラウン選手にアドバイス。伴野さんは、「それが(アメリカに)行くきっかけになったかどうかはわからないけれど、たぶん何かしら彼(サニブラウン)のプラスとなって、現在に至っていると思う」と言います。サニブラウン選手は、その後、フロリダ大学に進学し、2019年ドーハ世界選手権のあとにプロとして活動することを決断。まず大学を休学し、トレーニングの拠点を同じフロリダにあるタンブルウィードTCのレイナ・レイダーコーチのもとに移して環境を整え、現在に至っています。

写真:フォート・キシモト

また、橋岡選手の場合は、2020年東京オリンピックを目指していくなかで、マネジメントの必要性を考え大学時代に契約。大学卒業後も契約を継続し、現在は富士通で競技を続けています。2年前からは以前から志向のあったアメリカに拠点を置いてのトレーニングに着手。サニブラウン選手と同じレイダーコーチのもとで、トレーニングを積んでいく生活をスタートさせ、現在は、パリオリンピックに向かってトレーニングをしている状況です。

写真:フォート・キシモト

続いて、話題は、UDN SPORTSが展開している事業の話に。同社では、アスリートのマネジメントのほか、社会貢献活動、AR(エージェント、代理人)と、大きく3つの業務を展開しています。伴野さんは、「サッカーの代理人業を行っているが陸上のARの業務は、やっていないので参考にはならないかもしれませんが…」としつつも、同社で実施していること、進めていくうえで心掛けていることなどを、次のように紹介していきました。

<マネジメント>
・「アスリート(プレイヤー)として自分が競技に取り組んで飛躍する際、最終的には自分一人となるが、そのために、どんな人のサポートが必要で、どんな人とつきあっていくかを考えることは大事。それらはコーチ、トレーナー、栄養士、メンタルケア、税理士や弁護士、家族、協会、出身校や行政など、非常に多岐にわたる。私自身は、そうした周囲の人々と選手の間に入って円滑な関係をつくることは、マネジメントの仕事のなかでも非常に大切な役割だと考えている。
・メディア/スポンサー/SNS対応:アスリートの肖像権は、当人が努力を払って高い評価を得ることによって得られる貴重な権利。マネジメントにおいては、そのアスリートの肖像権を守るための活動も大切な仕事となる。それは対メディア、対スポンサーにおいて露出される内容のチェックや金銭面やスケジュールの管理だけでなく、選手当事者が発信するSNSの管理も含まれる。

<社会貢献活動>
・アスリートが子どもたちに与える影響は大きい。「アスリートが、社会を変える。あなたと変える。」をコンセプトに、社会貢献の輪を広げていくことに取り組んでいる。陸上教室やサッカー教室などのほかでは、小児がんの子どもたちを訪ねてコミュニケーションをとる、アジア地域でのワクチンの寄附や孤児院の食事寄附などの活動も会社として行っている。
・社会貢献活動のケースとしては、サニブラウン選手の発案で「子どもたちに夢を与える社会貢献活動」「子どもが海外にチャレンジできるような競技レベルを高める活動」を意図した企画が、東京オリンピック以降にスタートしている。3年計画で実施して、1年目はクリニックを、2年目の2023年にはクリニックと大会を開催。この大会の優勝者には、Zoomを使ってサニブラウン選手がアメリからアドバイスを送る取り組みを継続中で、3年目となる2024年には全国大会を開く計画を立てている。こうした取り組みは、出会ったころのサニブラウン選手にはなかった発想。大学でスポーツマーケティングを勉強したり、トップアスリートして多くの競技会に出場したりしていくなかで培われたもの。そこに人間としての成長を感じている。
・こうした取り組みはとても意義のあるものではあるが、アスリートの活動をないがしろにしてまで行うものではない。まずは、選手として専念できる態勢やチームをしっかりつくり、競技に100%コミットすることが最優先。そのうえで、それ以外の部分で取り組むというスタンスをとれるようにすることを心掛けている。

<お金にまつわる話>
・アスリートとして活動するなかで得られるお金には、さまざまなパターンがあるが、その入り方によっては契約が生じる。その契約内容によって、入ってくるお金の割合が変わることを、きちんと認識してほしい。最終的にお金は個人に紐づくもの。知らないままで契約するのが一番怖いこと。わからないことを聞くべきだし、もし、契約書が生じたのであればその内容を理解し、不明点を確認できるような選手になってほしい。
・活動拠点が日本か海外かによっては、税金の払い方が国ごとに異なってくる。すべてを理解する必要はないが、「税金がかかる」ことの認識は持っておこう。必要であれば、税理士やマネジャーなどスペシャリストの力を借りることも考える。

<アスリートに求められること>
・アスリートとマネジメント側のつきあいは、お金だけのつきあいではない。選手がパフォーマンスを上げて、いい活躍をするのは、マネジメントする者にとって何にも代えられない幸せといえる。長期的・中期的・短期的な目標は、選手だけのものでなくマネジメントや指導者と一緒に歩んでいくもの。皆さんも、そうした目標をしっかり持って取り組んでほしい。
・冒頭に述べた「周囲にどんなサポートができる人を置くか」というのは、競技レベルや戦う舞台の水準が高まるほど、より高度な専門性を持った人材が必要となり、起用することになる。ただし、最終的にはすべては選手個人に紐づいてくるものなので、「誰かに任せたからいいや」ではなく、ある程度の認識は持っておくべき。競技に集中して取り組むことは大事だが、それ以前に「人としての活動や理解」が必要。そういうスタンスを忘れずにいてほしい。


こうした「アスリートとマネジメントのリアル」を聞くことができたダイヤモンドアスリートたちからは、「自分はそういう経験が全くない立場だったので、今回の話を聞いて、こんなに多くの方が手厚くサポートしてくれることになるんだということを実感した」「今までマネジメントのことについて、全然考えたことがなかったので、とても勉強になった」といった感想が出たほか、「将来的に契約や税金の問題の対応は、自分でやったほうがいいのか? マネジメント契約をしたほうがいいのか?」といった具体的な質問も。この問いに対して、伴野さんは「自分でできるなら、自分でやるべき。無理に契約する必要はない。マネジャーと選手の関係はイーブン。必要と思ったら利用すればいい。まずは自分で決められることが大切」と応えました。



閉会に当たって、室伏ダイヤモンドアスリートマネジャーは「サニブラウン選手と橋岡選手のマネジメントをしておられることもあって、すごく身近に感じたのではないかと思う。また、“ここでしか聞けない話”もあって、とても豪華な内容を紹介していただいた」と伴野さんに感謝。「今日の話は、皆さんの近い将来にやってくることで、そのうち必ず自分のこととして、考えていかなければならないフェーズに入ってくる。選手としての活動だけでなく、自分の未来の投資の話や、取り組んでいる競技の人気を高めるためにどうするかなどは、こうした専門家の方の手を借りると、漠然とイメージしているビジョンも、より叶えやすくなるのかなと思った」とコメントしました。そして、「最後にひと言を」という室伏マネジャーの声がけでマイクを持った伴野さんは、「皆さんであれば、本当に1年や2年、もしかしたら半年くらいで、“見る景色が変わること”が絶対にある。そうなったときに、自分がその環境に耐えられる、合わせられるような準備はしておいたほうがいい。それは、マネジメントを受ける受けないとかの話ではなく、皆さんの思いや気持ちの面で意識を変えられること。初心の気持ちを忘れずに頑張ってもらいたい」とダイヤモンドアスリートたちを鼓舞し、研修を終了しました。

文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)


【第10期ダイヤモンドアスリート】その才能で世界を掴め!

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