第107回日本選手権10000mが12月10日、来年8月にフランス・パリで行われるオリンピック競技大会の日本代表選考会を兼ねて開催される。会場となるのは、2021年にオリンピックが開催された東京・国立競技場。2025年にやってくる世界選手権の舞台でもある。日本選手権10000mとしては、昨年5月に行われた第106回大会に続いての実施だ。
トラック&フィールド種目における今年度(第107回)の日本選手権は、別日程で実施した混成競技も含めて6月に行われたが、10000mのみ会期をずらして、記録を狙いやすい気象状況が期待できる12月に設定するカレンダーが組まれた。これによって、パリを目指す選手たちは、来年5月3日に予定されている第108回日本選手権10000m(静岡)との二本立てで、オリンピック参加資格獲得へのチャレンジが可能となっている。
パリオリンピックの出場資格は、近年の世界大会と同じく、ワールドアスレティックス(WA)が設定する参加標準記録の突破者に加え、種目ごとに設定されたターゲットナンバー(出場枠)を上限として、1カ国3名で設定されたWAワールドランキング(Road to PARIS)の上位者に与えられる。日本代表選手の選考は、日本陸連が定めた代表選考要項( https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202309/21_112524.pdf )に則って進められ、第107回大会では、参加標準記録(男子27分00秒00、女子30分40秒00)の突破が条件となるものの、最大で3名が即時内定者としてアナウンスされる可能性を秘めている。また、標準記録のクリアがならなかった場合も、来年7月2日に確定するWAワールドランキングでの出場を見据え、記録・順位ともに少しでも好成績を挙げておきたいところだ。
果たして、女子やり投の北口榛花(JAL、ダイヤモンドアスリート修了生)、男子マラソンの小山直城(Honda)、赤﨑暁(九電工)、女子マラソンの鈴木優花(第一生命グループ)、一山麻緒(資生堂)に続く内定者は何人誕生するか? また、パリオリンピック、さらには2007年以来の日本開催となる東京世界選手権に向けて、躍進してくるライジングスターは現れるか? ここでは、エントリーリストに基づき、注目選手を紹介していこう。
※エントリー状況、記録・競技会等の結果は、11月29日時点の情報で構成。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト、アフロスポーツ
【女子10000m】
女子については、この大会で、10000mにおける内定条件のうち、2つの項目で該当者が出る可能性がある。一つは「ブダペスト世界選手権8位以内の最上位者が、参加資格有効期間内に参加標準記録を満たすこと」、もう一つは、男子と同様に「今大会優勝者で、大会終了時点までに参加標準記録を満たすこと」である。前者に該当するのはただ一人。ブダペスト世界選手権で7位入賞を果たした廣中璃梨佳(JP日本郵政G)だ。来年6月30日までの間に参加標準記録をクリアすれば、その時点で代表内定と、いわば王手をかけた状況にある。
女子10000mの参加標準記録は30分40秒00。女子については、31分25秒00だった2022年オレゴン世界選手権時から、今夏のブダペスト世界選手権に際して大きく引き上げられており(30分40秒00)、パリオリンピックに向けては、その記録が据え置かれた。とはいえ、日本歴代記録でこれを上回っているのは2選手のみ。世界では今季ケニア・エチオピア勢を中心に複数の選手がクリアしているが、アジア圏内で到達している者はゼロと、男子ほどではないにせよ、やはり難易度の高い記録といえる。女子も現段階(11月29日)では参加標準記録突破者はいない。前述した2項目のいずれにおいても、この大会で即時内定を得るためには、当日に参加標準記録を突破することが必須となる。想定されるのは、①廣中が参加標準記録を突破して優勝した場合、②廣中を含む複数が参加標準記録を突破して廣中以外の選手が優勝した場合の2つ。①のパターンでは廣中のみが、②では優勝者と廣中の2名が、パリ行き代表切符を獲得することになる。
エントリーが発表された11月24日の時点では、女子の参加は、オープンでの出場となるジュディ・ジェプングティチ(資生堂)を含めて28名だったが、11月28日の段階で、8月のブダペスト世界選手権マラソン代表(19位)で、10月に行われたマラソングランドチャンピオンシップにも出場(4位)した加世田梨花(ダイハツ)が、MGCファイナルチャレンジでのマラソン代表権獲得に集中するため出場辞退することを表明しており、本稿執筆時点では27名でのレースとなることが見込まれる。
1カ国3名で設定されたWAワールドランキング(Road to PARIS)におけるターゲットナンバーは女子も「27」で、現段階ではランキングスコア1266ポイントで20番目の廣中のみが圏内に位置。32番目の五島莉乃(資生堂、1171ポイント)と、35番目の小海遥(第一生命グループ、1168ポイント)までが日本勢のトップ3を占め、約30ポイント弱で木村友香(積水化学、1141ポイント)と川口桃佳(ユニクロ、1140ポイント)が僅差で続く。国内競技会では高い大会カテゴリーである日本選手権では、加算される順位スコアも大きくなるため、この大会での記録と順位によっては逆転も可能。さらに、同じく10000mの代表選考競技会となっている来年5月開催の第108回日本選手権には、マラソンでのオリンピック挑戦を終えた面々のなかから、10000m代表権争いに参戦してくる選手が出てくることを考えると、より獲得ポイントが得られる今回の日本選手権で、少しでも高いポイントを得ておきたい。
個々の顔ぶれを見る限り、やはり優勝候補の最有力となるのは廣中だ。自己記録は、昨年のオレゴン世界選手権10000m決勝(12位)でマークした30分39秒71。これは日本歴代2位となる記録で、前述した「日本で参加標準記録を上回る自己記録を持っている選手」の1人である。今年は、アキレス腱を痛めた影響で、春先こそ立ち上がりに苦しんだが、5000mと10000mの2種目に出場した8月の開催されたブダペスト世界選手権までにきっちりと仕上げて、10000mでの7位入賞に結実させた。同じく5000mと10000mの2種目に出場した秋の杭州アジア大会では、陸上女子のキャプテンにも任命され、2種目ともに銀メダルを活躍。11月26日に行われた全日本実業団女子駅伝では、最長区間の3区(10.6km)を担当して33分04秒で区間賞獲得と順調な仕上がりぶりを見せている。標準記録を突破すれば、自己記録は自ずと更新されることになるだろう。新谷仁美(積水化学)が持つ日本記録は30分20秒44。ここに迫っていくようなパフォーマンスが見られるようだと、会場は大きく盛り上げるはずだ。廣中といえば、前半から積極的に押していくレースを得意とする印象が強かったが、今季は、前半を抑え気味に入って、ラストで勝負していく展開にも取り組んでおり、実績・経験だけでなくレースパターンの幅も広げている。2年後の東京世界選手権の舞台となる国立競技場で、どんなパターンを選択してパリ行きチケット奪取に挑むかも見どころの一つとなりそう。この種目では2021年の第105回大会から連勝を続けており、今回勝てば3連覇となる。
廣中以外の選手が、この大会で内定を得るためには、参加標準記録を突破したうえで、廣中に先着しなければならない。非常に敷居の高い条件となるが、その一番手を挙げるとしたら五島だろう。中央大時代には4年時の2019年にユニバーシアード(現ワールドユニバーシティゲームズ)10000mで銀メダルを獲得した実績も持つが、その存在が広く知られるようになったのは2021年の秋あたりから。同年12月には10000mで当時日本歴代6位タイ(現7位タイ)に浮上する31分10秒02をマークしてオレゴン世界選手権の参加標準記録を突破すると、翌5月に行われた日本選手権10000mで3位となり代表切符を獲得。その後は、オレゴン世界選手権(19位)、ブダペスト世界選手権(20位)と2大会連続で出場を果たすなど、この2年で上位候補に必ず名前の挙がるアスリートへと変貌した。今年は2月にスペインのロードレース10km(男女混合)で30分55秒をマーク。昨年樹立したハーフマラソン(1時間08分03秒=女子単独)に続き、2種目で日本記録を保持することになった。ブダペスト世界選手権は、オレゴン大会に続いて満足のいく結果は得られなかったが、その悔しさを胸に奮起し、パリオリンピックでの活躍を誓って今大会に備えてきた。11月26日の全日本実業団駅伝では1区(7km)を担当して区間1位。廣中が保持していた区間記録も5秒更新し、士気を高めている。前半から果敢に前に出て、先頭を引っ張っていくタイプ。今回、廣中がどんな戦術をとるにしても、五島は序盤から上位を牽引する一人となることだろう。最後まで廣中に食らいつくことができれば、2年ぶりの自己記録更新、日本人6人目の30分台突入も見えてくる。
今季日本代表を経験した選手では、7月のバンコク・アジア選手権10000mで金・銀メダルを独占した小海(自己記録32分01秒83)と川口(自己記録31分57秒81)がエントリー。11月にドバイで行われたアジアハーフマラソン選手権を制した柳谷日菜(ワコール)や、5000mを主戦場とし、世界ロードランニング選手権(ラトビア・リガ)に出場(5km、14位)した渡邊菜々美(パナソニック)が10000mでどんな走りを見せるかも興味深い。
このほか、今年に入って1500m、3000m、5000mで著しい進境を見せている樺沢和佳奈(三井住友海上、5000m15分19秒98)に加えて、中国・成都で行われたワールドユニバーシティゲームズで、ともに5000m・10000mの2種目に出場した山﨑りさ(日本体育大、5000m3位・10000m5位)・村松灯(立命館大、5000m11位・10000m9位)などの若手が、このレースでどんなステップを踏んで、次へとつなげていくかを予測しながら観戦のも楽しみの一つになりそう。5000mで15分23秒87の室内アジア記録(2022年)を保持している矢田みくに(エディオン)も24歳になったばかりの選手で、10000mでも31分34秒39(2020年)の自己記録を持っている。今年のシーズンベストは、5000m15分44秒34、10000m32分55秒32にとどまっているが、これらはともに秋になってマークした記録。常に好位置でレースを進める印象の強いだけに、さらに状態が上がっているようだと、上位戦線を彩ることになるだろう。
逆に、すでに高い実績を残している選手としては、2016年リオデジャネイロ(18位)と2015年北京世界選手権(20位)で10000mに出場している高島由香(資生堂)、2019年日本選手権覇者で、2017年ロンドン世界選手権(5000m)、2019年ドーハ世界選手権(10000m=欠場)代表の楠莉奈(積水化学、旧姓鍋島)、2019年ドーハ世界選手権5000m代表の木村、山ノ内みなみ(しまむら)の名前が並ぶ。高島は今年35歳となったが、10月には5000mで15分26秒33と、9年ぶりに自己新記録をマーク。11月26日の全日本実業団駅伝ではマラソンの有名どころが顔を揃えた5区(10km)で区間2位の新谷に9秒の差をつける31分48秒で区間賞と好調だ。小柄な身体から繰り出すリズミカルなピッチが持ち味。2017年に出している自己記録(31分33秒33)に迫る走りが見られるかもしれない。楠と木村は現在、新谷も所属するTWOLAPSを練習拠点として、横田真人氏に師事。5000mでのパリオリンピック出場をターゲットにしている木村は、この秋は1500mで安定した記録を残している。昨年マークしている自己記録(31分51秒05)を上回るような走りがみられるようだと、今回のレース自体も、そして、来季の5000m戦線も、いっそう熱いものになるだろう。
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【特設サイトURL】
【第106回日本選手権・10000mアーカイブ】
【大会概要】
■大会名:第107回日本陸上競技選手権大会・10000m■開催日程:12月10日(日)
■開催会場:国立競技場
■開始時刻:16:03 女子10000m、16:43 男子10000m
■実施種目:男子10000m、女子10000m
詳細はこちら(大会要項)
【日本選手権10000m 申込記録】
■申込記録男子:28分16秒00 女子:32分30秒00(5000m:15分40秒00)
■申込記録有効期間
2022年1月1日から2023年11月19日まで
■ターゲットナンバー
男子:30名 女子:30名
詳細はこちら(大会要項)
【パリ五輪 参加標準記録】
■参加標準記録男子:27分00秒00 女子:30分40秒00
■参加標準記録有効期間
2022年12月31日から2024年6月30日まで
【パリ五輪 日本代表内定について】
パリ2024オリンピック日本代表選手選考ガイド(画像をクリック!)
※パリ2024オリンピック競技大会 トラック&フィールド種目日本代表選手選考要項より抜粋
1)ブダペスト2023世界陸上競技選手権大会で3位以内の成績を収めた日本人最上位の競技者で、参加資格有効期間内に、ワールドランキング対象競技会において参加標準記録を満たした競技者。
2)1)に該当者がいない種目において、ブダペスト2023世界陸上競技選手権大会で8位以内の成績を収めた日本人最上位の競技者(廣中璃梨佳)で、2023年11月1日から2024年6月30日までに、ワールドランキング対象競技会において参加標準記録を満たした競技者。
3)第107回日本選手権・10000m優勝者で、第107回日本選手権・10000m終了時点までに参加標準記録を満たした競技者。
- 普及・育成・強化
- 第107回日本陸上競技選手権大会・10000m
- 高島由香
- 楠莉奈
- 木村友香
- 新谷仁美
- 山ノ内みなみ
- 廣中璃梨佳
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