Day3:8月21日(月)イブニングセッション
ブダペスト世界選手権2023の大会3日目は、イブニングセッションのみの実施で、18時40分からの女子棒高跳予選から競技が開始されました。この日も、朝から厳しい暑さとなり、夕方のセッションが始まった段階の気温は34℃。日没から1時間ほど経った20時30分を過ぎたあたりで、ようやく30℃を下回ってくるなかでの競技となりました。このセッションでは、3種目の決勝のほか、2種目で予選が、4種目で準決勝が行われるタイムテーブル。日本チームは、女子400mハードル予選、男子400mハードル準決勝、そして男子110mハードルの準決勝・決勝と、ハードル陣が次々と登場しました。
そして、この日、男子110mハードルで泉谷駿介選手(住友電工)が、日本スプリントハードル界を新たな時代に導く偉業を達成しました。3組2着+2の進出条件で20時05分から行われた準決勝の第1組に登場した泉谷選手は、0.2mの向かい風のなか冷静なレース運びで、Daniel ROBERTS選手(アメリカ)をかわして13秒16で先着。全体で3番目のタイムで、決勝進出を決めたのです。シニアの世界大会における男子110mハードルにおける決勝進出は、オリンピック、世界選手権を通じて史上初の快挙です。1時間35分後という短いインターバルで行われた決勝で、2連覇中のGrant HOLLOWAY選手(アメリカ)が左隣となる6レーンに入った泉谷選手は、日本人初のメダル獲得の期待が集まるなかスタート。「(スターティング)ブロックを蹴った瞬間に両ふくらはぎが攣ってしまって、焦りまくった」(泉谷選手)というトラブルに見舞われながらも、身体の使い方を変えることで対処して、最後までレースを続行。上位争いに絡むことは叶わなかったものの最後まで走りきり、5位・13秒19(±0)でフィニッシュしました。
男子110mハードル準決勝では、3組に出場した高山峻野選手(ゼンリン)は13秒34(-0.1)・5着でのフィニッシュとなり、2019年ドーハ大会に続き、あと一歩のところで決勝進出ならず。予選で隣レーンの選手による走路侵害の救済措置により準決勝に駒を進めていた横地大雅選手(Team SSP)は、腰にアクシデントを抱えた様子でのレースとなり、14秒93(-0.2)・9着でレースを終えました。
男子400mハードル準決勝には、予選で48秒71のシーズンベストをマークしていた黒川和樹選手(法政大学)が出場。3組2着+2の進出条件のクリアに挑みました。2組目に入った黒川選手は、前半から速い展開となったなか、自身も積極果敢な走りを見せて4着・48秒58でフィニッシュ。決勝進出にはわずかに届かなかったものの、2021年にマークした自己記録を0.1秒更新するとともに、予選で0.01秒まで迫っていたパリオリンピック参加標準記録(48秒70)を大きく突破しました。
女子400mハードル予選には、ともにWAからのインビテーションにより、大会直前に出場が決まった山本亜美選手(立命館大学)と宇都宮絵莉選手(長谷川体育施設)が登場。山本選手は2組で57秒76、宇都宮選手は4組で57秒98と、ともに8着でのフィニッシュとなりました。
<8月21日:イブニングセッション競技後コメント>
◎山本亜美(立命館大学)
女子400mハードル 予選2組8着 57秒76
今までで一番、前半を(飛ばして)行った自信がある。自分では7台目くらいまでは周りと同じくらいの雰囲気で行けたかなと思っていて、「やば、準決勝行ける!」とか思いながら走っていたのだが、ラスト3台くらいで脚が止まって…(笑)。「あーあ」という感じだった。
前半から行くことは最初から決めていた。いつものレースをしたところでも、このくらいのタイムしか出せないし、「そんなん、一番しょーもないな」と思ったので。前半から行って後半までもたせて55秒台を狙うか、(オーバーペースで後半)死んで59秒台くらいになっちゃうか。そうなってもいいから挑戦しようと前半から行った。
もっとばーっと抜かされることをイメージしていたが、300mあたりまでは粘れていたのかなと思う。ただ、ラストは、完全に(動きが)止まってしまった。いつもは(インターバル間を)17(歩)で行ききるのだが、最後は18(歩)になってしまって、もうドタドタ走って…(笑)。それでこのタイムが出せたのかという感じ。もっと遅いと思っていた。
<今後、前半から行くレース展開に取り組んでいくべきと感じたのでは? との問いに>
やっていくべきだと思った。今日は「前半、行く」とがむしゃらに力だけで行ったけれど、同じスピードでも、もうちょっと力感を抜いて走ることができるはず。今回、このくらい前半から行っても、「ああ、あれくらいしかバテへんのや」と感じることができて、前半から行くことに恐怖がなくなった。もう1回こういうレースをしたいなと思った。
<この経験で、世界を目標にしていこうと思えたのでは? の問いに> こんな弱い私に、経験させてもらって、「本当にありがとうございます」という感じ。国内では、こういう緊張感も、こういうレース展開もできないので走れて良かった。こんなに負けたのは初めてだけど(笑)、とても楽しかった。(出場が決定している秋の)アジア大会こそ、55秒台を出したい。走るまでは「世界なんて(自分の力ではとんでもない)」と思っていたが、一回出たら、「東京(世界選手権)も出たいな」と思った。今度は、インビテーションではなく、自分の力で出たい。
◎宇都宮絵莉(長谷川体育施設)
女子400mハードル 予選4組8着 57秒98
世界大会に出たい一心で、400mハードルに集中すると決めて(取り組んできたが)、それが本当に良かったのか、自分でもわからなくなる時期があったし、(七種競技で日本歴代4位となる5821点の自己記録を持つ)混成をやっていたときのほうがよかったんじゃないか」と言われることもあったし、自分でもそう思うときもあった。だから、どういう形であれ、代表に決まったときは本当に嬉しかった。正直、勝負できるような力を準備してこられなかった悔しさは、今、ふつふつと湧いてきているのだが、自分にとっては本当に大切な、意味のある世界選手権になったかなと思っている。
同じ組に優勝候補がいたし、スタジアムの雰囲気も経験したことのないような雰囲気で、その場に呑まれるというよりは、すごくわくわくした気持ちでスタートラインに立つことができたし、最後は力がもたなかったが、前半はけっこう自分では積極的なレースができた。ラストの課題等は見えたが、悔いのないレースはできたと思う。
かなりスピード面では調子が良くて、1~3台目の入りは練習でも抜群に良かったので、そこそこ行けるかなという自信があったので、そこは敢えて力まずに行き、バックストレートで速い選手の力を借りて流れに乗り、それによって5台目から7台目をリズムアップするところだけを意識した。が、考えていた通りにはできなかったので、そこである意味、力を全部使ってしまい、最後は(失速してインターバルが)1歩増えてしまう感じになってしまった。
<準決勝進出への可能性をどう考えていたか? の問いに>
私の場合、56秒6とか、56秒5というタイムを、年に1回出せるかどうかいうところなので、実力としてはまだまだ足りない。(参加)標準記録(54秒85)はかなり高いが、それに近いくらいのタイム…日本記録(55秒34、久保倉里美、2011年)が見えるレースを年に何回かできるくらい(の力)でないと、準決勝(進出)というところは厳しいなと思っていた。なので、今回は、あまりそこは考えず、自己ベストに精いっぱいチャレンジするというところに集中した。
実際に走ってみて、もう一段階、二段階、レベルアップした力が必要だなと改めて思った。来年はインビテーションではなく、標準記録や(WAワールド)ランキングによる出場で、安心して挑めるように、パリ(オリンピック)にチャレンジしたい。
◎黒川和樹(法政大学)
男子400mハードル 準決勝2組4着 48秒58
=自己新記録、東京オリンピック参加標準記録突破
嬉しさ半分、悔しさ半分。PB(パーソナルベスト)が出たことは嬉しいのだが、48秒5で止まったしまったのが、ちょっと悔しい。ゴールしたとき、前(1着選手の速報タイムが)、47秒3だったので、48秒前半が出ているかなと思っていた。
外(のレーンを走る)3人が速いことはわかっていたので、ついていくというよりは、自分から前に出ちゃってレースをつくっていけたらなと思っていた。しかし、(彼らは)思っていた以上に速くて(笑)、「うわ、はえーわ」と思った。それで前半は(思っていたようには)行けなくて、後半もうまく切り替えることはできたものの、(最後に)つなげきれなかったなという思いはある。
流れに乗っちゃった感があるので、自分がもうちょっとグッと行っていれば行けていたのかなと思う。しかし、たぶん行っていたら後半死んでいたな、と(笑)。なので、結果的に、ついていったことは正解だったのだろうと思う。
今季は、前半シーズンから自分の走りがわからない状態で、いきなり世陸だったので、予選はけっこうびくびくして臨んでいた。しかし、前半から行ったら意外と行けるもの。なので、バーンと飛び出した。ライ・ベンジャミン選手(アメリカ)と5~6台目まで並走できたときに、「これ、着で通れる」と思った。
大会に向けても、自分の調子はわからない状態だった。世陸は行けないものだと思っていたので、(結果的に世界選手権直前の試合となった)7月29日の田島(記念)に出る前も、強化練習としてウエイトトレーニングをガンガンに、がっつりやっていた。逆に、それで、ここにピーキングが合ったのかなと思う。
<パリオリンピックの参加標準記録も突破したが、との投げかけに>
いつかは切れるかなと思っていた(笑)のだが、切れてとりあえずホッとしている。あとは来年の日本選手権でしっかり決めれば出られるので。でも、日本選手権に合わせるというよりはパリオリンピックに照準を合わせたい。今回みたいな形で全然いいと思っているので。「パリが最終目標」というところにしっかり焦点を合わせて、取り組んでいけるようにしたい。
◎泉谷駿介(住友電工)
男子110mハードル 準決勝1組1着 13秒16(-0.2)=決勝進出
※決勝までの時間が短いため、ミックスゾーン対応を行わず(決勝後のコメントをご参照ください)。◎横地大雅(Team SSP)
男子110mハードル 準決勝2組9着 14秒93(-0.2)
※レース後、医務室へ向かったため、ミックスゾーン対応は行わず。
◎高山峻野(ゼンリン)
男子110mハードル 準決勝3組5着 13秒34(-0.1)
スタートはかなり反応良く出ることができたが、1台目と2台目(の踏み切り)が近くなりすぎて浮いてしまい、流れができずに、そのままずるずる行ってしまった。前半でリズムがつくれなかったぶん、中盤・後半もタレてしまったので、そこは修正するところかなと思う。前半は、(ハードルへのアプローチを)前に乗り込むイメージで行ったのだが、踏み切り位置が詰まりつぎて上に跳んでしまった。そこが良くなかった。
(プラスで決勝進出した選手の記録とは)0.1秒の開きがある。タイム的に見ると、進出は無理だったなと思った。決勝に進むためには、13秒2台を悪くても出さなければいけないというところがある。しっかり調整して合わせたとしても、13秒2が出るかはわからなかったので、(通過の)壁はまだ高いなと感じている。
<2019年ドーハ大会、今回と肉薄したファイナルへの思いは? の問いに>
決勝進出に対しては、あまり強い思いはなかったのだが、ただ、シンプルに、(準決勝で)ついていけば、ベスト(自己記録13秒10)くらいは出ると思っていた。それが思ったよりついていけなかったなと感じている。なので、負けたショックよりも、記録面でのショックが大きい。
<決勝進出を実現させるために、必要なことは? の問いに>
特に変えるところはあまりないのだが、アプローチの仕方か。(世界大会で使われている)モンド(社製)ハードルと、(国内で使われている)ニシ(社製)ハードルとでは、アプローチの仕方が全然違ってくる。感覚的には、ニシハードルからモンドハードルに変わると、0.1~0.2秒くらい(タイムが)遅くなる感覚があるので、海外のハードルに対応・適応できるかというのが今後の課題になってくる。前提として、まずぶつけないことと、あとは恐怖心を消して思いきり突っ込めるかということが大事になると思う。秋にはアジア大会があるので、そこにしっかり合わせたい。
◎泉谷駿介(住友電工)
男子110mハードル 決勝5位 13秒19(±0)
とても楽しいレースだった。楽しい気持ちでいっぱいだった。緊張感は特になく、いつも通りの感じで臨むことができた。そこはメンタルが強くなったかなと思う。
<レースを振り返ってください、の投げかけに>
スタートから両足ふくらはぎが攣ってしまったり(笑)、(はがれた)腰ナンバー(カード)がずっと手についていたり(笑)、いろいろと気になるところがある状態だった。でも、うまく使うところを切り替えて走ることができたので、そのなかではいい走りができたかなと思う。攣ったのは、(スターティング)ブロックを蹴った瞬間。もう焦りまくっちゃって(笑)、周りのことなんか気にしていられなかった。これ以上、足が攣らないようにと、腸腰筋のあたりを使って走り、(ふくらはぎをカバーするために)足首を固めて(地面に)タッチするような感じに切り替えた。それもあってハードリングがどうだったかも記憶にない。
<その状態で5位になったことをプラスに捉えるとどう思うか? の問いかけに>
プラスには捉えたいが、本番は1本なので、そのなかでもしっかり上位に食い込んで、メダルは取りたかったという気持ちはある。
(準決勝から決勝の間は1時間30分前後と短かったが)トレーナーさんに治療してもらって、アップも軽めにやった。準決勝は、ハードリングが浮いてしまって、けっこうふわっというハードリングになってしまったのだが、そのぶんインターバルでしっかり稼ぐ感じの走りとなったので、まあまあかなという感じ。最初に、前に出られるのはわかっていたので、そこは落ち着いて対処できたし、冷静に走れていたと思う。
準決勝の感じで、けっこう調子が良かったので、(13秒)0台を出したらメダルはあるかなと思った。ハードリングがふわっとしていたので、決勝では、踏み切り角度とか(を調整したり)、もうちょっと気持ちを入れて走ることを意識しようと考えていた。
<決勝の隣レーンはホロウェイ選手だったが、意識はしたか? の問いに>
ちょっとは意識したが、後半落ちるだろうなと思っていた。でも、(自分の)足が攣ってしまったので、(レース中は)もう見ている暇はなかった(笑)。レース後は、優勝した人たちが盛り上がっていたので、「すごいな、自分も来年、そこに立ちたいな」と思いながら見ていた。メダルは近いように遠い。トップ選手は本番に強いなと改めて感じた。
決勝の舞台に立つことができて、まずは第一目標達成で、けっこう嬉しい気持ちはあるのだが、5位ということで、来年につなげられればいいと思っている。でも、(予選・準決勝・決勝と)3本しっかり走れる体力や筋肉をつくらないといけないなということを感じた。ここで決勝の舞台を経験できたことは大きいので、この経験を生かして、まずはしっかり3本走れる身体つくりをして、来年に臨みたい。
<あと1年で、オリンピックのメダルを取れる自信はつかめたか? の問いに>
このまま行って、自分の力を出しきれれば、もしかしたらあるんじゃないかと思っているが、意識はしないで、しっかりとアベレージを上げていくことが第一。ホロウェイ選手は、予選・準決・決勝で、しっかりとタイムを上げることができている。そういうふうになりたい。あと、欲をいうなら、12秒(台)が欲しい。今後、転戦もあるので、そこで出したいなと思っている。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト
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