Day1:8月19日(土)モーニングセッション
8月19日、ブダペスト世界選手権2023が開幕しました。この大会は、本来であれば隔年で行われますが、前回のオレゴン大会が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大で1年延期されたため、昨年に続いての開催。ハンガリーの首都ブダペストにおいて、8月27日まで9日間の日程で行われます。大会初日の8月19日は、午前8時50分、ブダペスト市内の観光スポットとして知られる英雄広場を発着点とする周回コースで行われる男子20km競歩から競技が開始されることになっていました。しかし、雷を伴う激しい雨の予報が出たために、スタートまで20分という直前のタイミングで、2時間の出発時刻遅延が決定する波乱の幕開けとなりました。
雨がまだ残るなかでのスタートとなった男子20km競歩には、前回のオレゴン大会まで2連覇中の山西利和選手(愛知製鋼)を筆頭に、東京オリンピック、ドーハ世界選手権と2大会続けて銀メダルを獲得している池田向希選手(旭化成)、5大会連続出場中の高橋英輝選手(富士通)、そして今回が初の代表入りである古賀友太選手(大塚製薬)の4名が出場。レースは、池田選手が序盤から前に出て、一時は大きくリードを奪いましたが、終盤で後続に追いつかれて逆転されると、その後は徐々に順位を下げていく展開となりました。逆に、初出場の古賀選手は終盤で順位を上げて日本人トップに躍り出ましたが、入賞ラインには届かず12位(1時間19分02秒)でフィニッシュを迎えました。池田選手は1時間19分44秒で15位、高橋選手が1時間20分25秒で21位と続き、山西選手は、1時間21分39秒・24位でレースを終える結果となりました。
ドナウ川に面して建設されたナショナルスタジアムで行われる午前のセッションも、この雷雨の影響により、すべて1時間繰り下げて実施されることになりました。日本勢最初のトラック種目となったのは、フルエントリーが実現した男子3000m障害物。予選3組で各組上位5着までが決勝に進出する条件で行われ、日本記録保持者の三浦龍司選手(順天堂大学:3組4着8分18秒73)に加えて、1組を5着でフィニッシュした青木涼真選手(Honda)が8分20秒54のシーズンベストで自身初めて決勝に進出。今大会が世界選手権初出場の砂田晟弥選手(プレス工業)は2組11着(8分38秒59)でレースを終えました。
フィールド種目では、7月のアジア選手権で6m97の日本記録を樹立したばかりの秦澄美鈴選手(シバタ工業)が走幅跳予選B組に出場しました。秦選手は、1・2回目をともにファウルする苦しい滑りだしに。追い込まれて臨む形となった3回目も6m41(-0.8)に留まりました。予選通過記録は6m80だったものの、これをクリアできた選手は、A・B組を通じて全部で3選手。決勝進出ラインとなった12番目の記録は6m61でした。
女子1500m予選には、田中希実選手(New Balance)と後藤夢選手(ユニクロ)が出場。1組に入った田中選手は、シーズンベストの4分04秒36をマークし、6着でフィニッシュして予選を突破。2日目の午後のセッションで行われる準決勝へと駒を進めました。また、後藤選手は4分10秒22で予選12着という結果でした。
午前のセッションに出場した選手のコメントは、下記の通りです。
<8月19日:モーニングセッション競技後コメント>
◎古賀友太(大塚製薬)
男子20km競歩 決勝12位 1時間19分02秒 =シーズンベスト
世界の強豪のトップ選手たちと競い合えたことが楽しくて、楽しみながらレースができたという感想は持っているが、最後の一番大事なラスト5kmあたりで離れてしまった。目標は入賞だったが、もう少し粘りが足りず、それが果たせなかったことに悔しさが残る。
今日は調子もよくて、身体も動いていたので、きつさもありながら少し余裕を持ちながらという良い状態で15kmまでレースを進めることができていた。しかし、途中にペースの上げ下げが何度かあり、そこで体力を使ってしまった。そこに自分の力不足を感じる。
(雷雨予報の影響による遅延は)スタートラインに入る直前くらいに2時間ほど空くと伝えられたので、高まっていた緊張や集中力を抜き、一度リラックスしてから、もう一回高めていくことを意識した。最初のときは舞い上がるような気持ちがけっこう大きかったので、(逆に)時間が空いたことで少し落ち着くことができたと思う。
細かな(ペースの)上げ下げのあるレースは、日本ではあまり経験していなかったが、今回、周りの選手が何回もペースも上げて「されたら嫌なこと」をしてくるという印象を持った。そういうレースを経験できたことも、自分にとってはとても大きかったと思う。
私自身は、日本選手をマークしていれば、入賞圏内は行けるかなという目論見でレースをしていた。目論見通りにはならなかったが、後ろから徐々に(上位選手を)拾っていくような形となり、レース展開としては理想の感じで進められたかなと思う。
来年にはパリオリンピック、その翌年には東京世界陸上と、世界大会は引き続き開催されていくことになる。私は今回が初めての代表入りで、次も絶対に入れるという保証はない。日本自体のレベルが高いので、私も引き続き自分のレベルも上げていきながら、切磋琢磨して日本のレベルを上げていければなと思う。
◎池田向希(旭化成)
男子20km競歩 決勝15位 1時間19分44秒
(序盤から先頭に立ち)まるで勝つことを狙ったようなレース展開になったが、「狙っていた」というよりは、流れで前に出る形だった。コンディションを見ながら、「このペースで、ある程度行けるだろう」と判断してレースを進めたのだが、最後は完全に脚が止まってしまった。
一人で先頭を歩いていたときは、途中途中でスタッフの方々が、秒差を教えていてくれたので、ある程度、後続との差は知ることはできていた。そこは20kmをトータルで考えていたので、追いつかれたとしても、もう一度(ペースを)上げられるかなという頭でいた。うまく合わせられず、失速してしまうことになった。
うまく行かなかった原因は、トータルの力不足。調子自体は、本当に良くて、ここまでいい形でスタートラインに立たせてもらえていたので、もちろん金メダルを狙ったレースになったが、そこがうまくアジャストすることができなかった。
20km競歩は、2019年のドーハからずっとメダルを取り続けていて、今回もメダルまたは複数メダルの獲得というところをチームとしても目標にしていた。今回出られなかったメンバーもいるなかで、こういう結果になってしまって申し訳ないなという気持ちと、もう一度、日本チーム全体で底上げをして、来年以降にメダルを取りに行きたいという気持ちでいる。
途中まで先頭を歩けたというところは、今まで全くこういうレース展開で歩くことができなかったので、そういう意味では一つ学ぶことできた。これも失敗の一つとして、次に生かすことができたらなと思う。
◎高橋英輝(富士通)
男子20km競歩 決勝21位 1時間20分25秒
自分の思うような結果、周りの求める結果を出せずに、申し訳ないなと思う。ただ、個人としては、もっと上を求めてはいたものの、準備してきたことは出せたかなと思うし、これが最後(の日本代表)になってもいいというような思いで臨み、1歩1歩しっかり歩くことができた。悔いはない。
レースには、気温が下がったので、ある程度スピードが出るかなという思いで臨んだ。池田選手が前に出たとき、本当は(自分も)一緒に行ければ良かったのだが、そこはなかなか苦しかった。また、そこから先のところでは、海外勢との間に地力の差というか、タフさのようなものの差が出たように感じる。
こういう結果で、サポートの方々や、日本の期待に、チームとして答えることができなかった。ただ、(今後)自分が代表になれてもなれなくても、パリ(オリンピック)に向けては、チームとして力を合わせていくことが、パリで結果を残すために一番近づけると思うので、そこに向けては頑張りたいと思っている。
◎山西利和(愛知製鋼)
男子20km競歩 決勝24位 1時間21分39秒
この結果は、(レースを終えたばかりの)今、説明がつかないというか、自分のなかで原因がわからない。残念だなという気持ち。(普段と違ったのは)5kmくらいのところだったかなと思う。もう少し余裕を持って、あのペースで(他選手に)つけたらよかったのだが、(脚が)止まってしまった。
この数カ月のコンディショニングやピーキングに関しては、それほど間違いなくできていると思うのだが、例年と大きく違っていたのは、冬期練習の入りが遅かったこと。言い訳がましくなるので、ここであまり適当なことは言いたくないが、年間を通して、(1km)4分を切るレースペースの練習頻度や、距離、ボリュームといったところが足りなかった。
また、動きについても、ペースに対しての反応が良くなかった。単純にレースペースに対して余裕を持てていないと(動きに)硬さが出てしまう。そこは本当に単純に体力的な部分で、今日のような4分を切って3分50秒くらいのところでキープしていくという練習を、この1年トータルで見たとき、(通常であれば)神戸(の日本選手権20km)に向かう12月、1月、2月の流れでしっかりできるのだが、今年はそれができなかった。辿っていけば、そういうところ(に原因)があるのかもしれない。
<日本チームとして、優勝も入賞もなしに終わったことについての感想を問われて>それは本当にゆゆしき事態だし大きな問題。ただ、池田の前半の飛びだしとかには、本当に彼の決意を見たし、僕も次の神戸で(来年のパリオリンピックの)代表権を巡って勝負しなければならないので、チャレンジしていかなければならない。同時に、日本のなかで勝負していても世界では戦えないということもわかってきたので、世界に出ていくような経験の機会など、「どうやって世界と勝負していくか」ということを、日本チームとしても総合的に考えていかなければならないと思う。
(優勝タイムが)1時間17分32秒というのは力があることは間違いないし、レベルは上がっている。また、(今後)35kmがなくなりそうで、(パリオリンピックで予定されている)リレー種目への対応も必要となってくると、これまで分散していた戦力が、特に今年は本当に20kmに集中してきていて、より競争率が高くなっていることを感じる。
来年のパリオリンピックに向けては、今年足りなかった体力を根本的なところからつけていくしかない。あとは、気持ちのセットをもう一度し直して、「燃えるもの」を持ってパリに行きたい。
◎青木涼真(Honda)
男子3000m障害物 予選1組5着 8分20秒54 =シーズンベスト、決勝進出
(東京)オリンピックも合わせると3回目の世界大会。もうそろそろ決勝に行きたいなというか、行かないと自分の目標に辿り着かないので、今回行くことができたら、パリ(オリンピック)と東京世界陸上に向けて、自分の思い描く走りに近づくのではないかと思っていた。通過ラインとしては、一つ安心した。
レースは、最初、マークしようと思っていた選手がいたのだが、その選手がずっと後ろに控えていたので、ターゲットを変えた。(新たにマークすることにした)その選手の動きに合わせて前に出たりしながら走った。相手のほうが格上だったが、最終的にもその選手に勝つことができた。うまくハマったという感じである。
ラスト勝負となった最後は、「勝てるかな」という不安は少しあったが、ラスト1周まで自分が(決勝進出争いに)残っているという高揚感と、これで自分がうまく戦えたら自分のレベルを確認できる機会という気持ちがあり、半分大丈夫かなと思いながら、半分ワクワクする気持ちでラスト1周に臨むことができた。それが最後まで(身体が)動いた要因なのかなと思う。
決勝は全く未知となるが、かといって何も用意しないで臨んでしまっては、この機会が無駄になってしまう。自分の力をどうやったら生かせるかをコーチと相談しながら、自分でも考えながら、残りの期間を過ごして決勝に臨みたい。
◎砂田晟弥(プレス工業)
男子3000m障害物 予選2組11着 8分38秒59
世界との差を痛感したし、隣の選手の足が絡まってしまったために、大事な後半のところでコケてしまったことが今回のレースの反省点。
(転倒したのは)後半1500m以降でペースアップしていこうとするところ。頭の中が真っ白になり、何も考えられない状態になってしまった。そこで対応することができなかったことが、自分のなかの課題でもあるのかなと思う。
コンディション的にはよかったが、転倒したことで(ペースを)上げるべきところで上げられなかったことが悔しい。来年のパリ五輪では、予選に出るだけでなく、決勝進出を目標にしていきたいなということを、今回のレースで感じた。
◎三浦龍司(順天堂大学)
男子3000m障害物 予選3組4着 8分18秒73 =決勝進出
予選を通過できたことは、すごく嬉しいし、やっと自分がしたいレースのスタートラインに立てたなと思う。レースプランとしては、前半位置取りで無駄な体力を使わないように走ってリズムに乗ることを意識していた。そこはうまくできたのではないかと思う。とりあえず決勝に残るということに集中して走った。ラストは、必要以上に疲労を残すこともないかなと思ったから、(上位を)無理に追わなかった。
最後でペースが上がっていく段階で、上位の3人についていくことができなかったので、そこは力の差を感じるところ。しかし、予選と決勝とでは変わってくると思うので、決勝では勝負していけるようにしていきたい。
決勝は、思いきって楽しんで走れるのではないかと思う。自分ができる最高のパフォーマンスをしたい。世界陸上はタイムというよりは順位が大事。そこを追求していきたい。揺さぶられることは多少仕方がないと思うが、自分の持ち味は最大限出して、最後までしっかりと粘りのある走りをしていきたい。
◎田中希実(New Balance)
女子5000m 予選1組6着 4分04秒36 =シーズンベスト、準決勝進出
最初から行くか後半で上げるかという部分で、今年は引き出しをつくりすぎたぶん自分のなかに迷いがあった。また、最近、地力はあるが出し方がわからないという状態が続いているので、そこが(レースに)出てしまった。そこは、明日に向けて修正し、今後はどういうレースをしたいのかを狙い定めていくようにしたい。
(決勝進出条件が)着取りとなったなかで通過はできたものの、ラストに力を抜いての着取りではなく、本当にいっぱいいっぱいの通過で、ラストではフォームも崩れていた。(東京)オリンピックのときのような駆け抜ける感じのゴールができなかったのは残念。あまりイメージの良い通過ではなかったと思っている。
(準決勝に向けては)今日は変に位置取りで動きまくって、こういう走りになってしまったので、そこを修正すれば明日は思ったよりも動くかもしれない。今日の反省を生かして、気持ちと身体の部分を、しっかりつなげられるようにしたい。
◎後藤夢(ユニクロ)
女子1500m 予選3組12着 4分10秒22
率直に、「もっと(上位選手に)絡みたかった」というのが一番の感想。田中選手のレースを少しだけテレビで見てからスタジアムに入ったので、少し緊張感もあったのだが、初めてということを言い訳にはしたくないという思いがある。シンプルに「力をつけて、また戻ってきたい」という気持ち。
海外のレースでは、これまでタイムを狙っていく試合に出ることが多かったのだが、今回は順位が大事というレース。ただ、「駆け引きする」ところ以前に、まず(戦いに)絡めるだけの余裕度がなかった。土台がまだちゃんと仕上がっていないなということをすごく感じた。
各通過のタイムは、ベストくらいですべて通過しているのだが、そこでまだ余裕をつくることができていない。こういう大きな舞台で戦うには、心も身体もまだ弱かったなと思う。
日本では、あれだけ大差で負けることはあまりなかったので、新鮮な気持ちもあった。また、きつくはあるが、走りながら「あそこで走りたい」ということを強く感じた。
◎秦澄美鈴(シバタ工業)
女子走幅跳 予選B組13位 6m41(-0.8)
(前回の)オレゴンのときは記憶がないくらいに、あっという間に終わった3本だったが、今回は、前回のように「何もさせてもらえなかった」というよりも、自分のいい跳躍を、しっかり記録にすることができなかったというところで、本当に悔しい気持ちと言葉にならないような思いがある。
まずは、1本目が(ファウルとなって)いい出だしではなかった。そこで3本をうまく波に乗せられなかったなという印象である。特に、助走でしっかりスピードにしっかり乗ることができなかったと思う。
今日はすごく調子も良くて、通過ラインとなる6m80あたりくらいまでは跳べるんじゃないかという手応えを持って臨んでいた。今回は1本1本、しっかりと勝負をかけにいくといような意識で跳んでいて、2本目では本当にうまくいい助走、いい跳躍ができたのだが、足を(踏切板に)合わせられずにファウルとなってしまった。3本目は、助走の出だしの部分を少し調整して、2本目と同じような感覚で行けば、絶対に合うと思っていたのだが、そこでいいジャンプができなかった。去年は、頑張って自己ベストを跳ばないと予選を通過できない状況だったが、今年は結果を見たら(6m)61が通過のライン。不可能ではない記録だし、今年の記録を見てもアベレージとして跳べている試合も多いので、十分に決勝に進めた試合だった。そこを取りこぼすというのは、まだまだ自分の力が及んでいないのだと思う。
パリ(オリンピック)でも同じことにならないように、課題として挙げた1本目の走りをもう一度見つめ直していきたい。「予選を突破する」ということを壁に思わないように、気持ちの面も技術の面も、しっかりと詰めていくようにしたい。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト
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