タイのバンコク・スパチャラサイ国立競技場で行われた「バンコク2023アジア陸上競技選手権大会」は、7月16日に5日間の日程を終えて閉幕しました。この大会で日本は、合計37(金16、銀11、銅10)のメダルを獲得。メダルテーブルにおいて参加国中トップの成績を収めました。大会の全日程が終了した7月16日には、今大会のチームリーダーを務めた山崎一彦強化委員長がメディアの取材に応じ、大会を総括しました。要旨は、以下の通りです。
◎山崎一彦強化委員長 総括
今大会で獲得できたメダルは、金16、銀11、銅10で合計37。アジア選手権は、その位置づけが昔とは変わってきているし、参加する国も増えているので、単純にメダルの数だけで過去と比較するのは難しいが、今回の結果はおそらく最高レベルといえると思う。この大会に向けては、おそらく日本が一番高い目標設定で臨んできていて、本気度も私たちが一番高かったと感じている。また、今年のブダペスト世界選手権と、来年のパリオリンピックに向けてということで、選手もコーチもみんなが計画的に考えていて、このアジア選手権を重要視していた。また、思い返せば去年、今シーズンのカレンダーを検討した段階で、日本選手権を6月上旬に設定して、アジア選手権までに1カ月のスパンを置いたことは、調整しやすかったのではないか。通常であれば、ブダペスト(世界選手権)のことも考えて組むとしたら6月下旬に日本選手権を設定するのがセオリーであったと思うのだが、それを上旬にしたことで、日本選手権では記録は出ない者もいたと思うが、このアジア選手権で良い結果を出すことができたと思う。
また、選考の仕方も明確であったことで、世界選手権で活躍できるグループ(このなかには、今大会を回避した選手もいたが)、ブダペストを確実に狙える人たちがチャレンジするというグループ、そしてアジアで頑張ろうというグループの3段階で設定ができていた。金メダル、メダル、入賞というところが、その選考された人たちの決定の順番の通りに、ほぼ来ていたということは、私たちが見込んでいた設定通りで、その点は現場のコーチたちも理解してくれて、大会に臨んでくれた。
記録については、まず、女子走幅跳の秦澄美鈴選手(シバタ工業)の6m97は一番で、世界選手権の入賞またはメダルレベルに到達したといえる。こうしたアジア選手権のようなピットの状態があまり良くない状況で、この大記録を出せたことは、私が強化委員長になったときに方針として掲げた「海外できちんと記録を出す、順位を取る」という点を考えると、本当に素晴らしい記録で、驚異的なものだと思った。
あとは、男子400mの佐藤拳太郎選手(富士通)が45秒00をマークして、早々とブダペスト世界選手権、パリオリンピックの参加標準記録を切った。これは、世界選手権では準決勝で戦うレベルだと考える。また、男子のスプリントにおいて、400mだけでなく、100m(栁田大輝、東洋大学、ダイヤモンドアスリート)・200m(鵜澤飛羽、筑波大学)を制し、100m・200m・400mの3種目を、どれもハイレベルな記録で完全制覇することができた。これは非常に素晴らしい結果だといえる。
また、女子やり投を制した斉藤真理菜選手(スズキ、61m67)の記録も入賞レベルの到達しそうだということもある。この種目では北口榛花選手(JAL)もいて、北口選手、斉藤選手の順番になるかもしれないが、そういう選手が出てきて、このアジア選手権で結果を残している点がいいなと思った。こうした種目はほかにもあって、男子110mハードルでは泉谷駿介選手(住友電工/日本記録保持者)がいて、今回は高山峻野選手(ゼンリン)が優勝しているし、男子3000m障害物でも三浦龍司選手(順天堂大学/日本記録保持者)がいて、今回は青木涼真選手(Honda)が優勝している。レベルに応じて、それに続く選手がいるという種目は、日本としては大きな強みだと思うし、安定感が出てくると考えている。
長距離については、この暑さでは記録は臨めないが、5000mと10000mは、男女ともに優勝ができている。条件が悪いことはわかったうえで乗り込んできて、そこできちんと走って、勝てている点はとても素晴らしい。そういう意味で、ここに来たのは、「その上」を見ている人たちだったのはないかと私は感じていて、記録だけでなく、勝負していくことを目指している人たちが、ここで結果を残したことが良かったなと思った。
競歩についても、今回は男子が金、女子が銅。どちらも世界大会でメダルを獲得したり入賞したりするトップの層までには届いていないが、その次に続いていく層として、本人たちが意識しながら取り組んでいる点がいいと思う。
今回、ブダペスト世界選手権に向けて弾みがつくといえる結果は出ているのだが、そのなかで、強化コーチだけでなく、けっこう専任コーチやスタッフの皆さんが冷静で、何よりも選手がとても冷静に受け止めているなという印象を受けた。強化委員会としては、世界選手権に向けて、「メダル、入賞」というのが一番の評価になり、「参加する」ことよりも「勝負する」こと。その「勝負」も、「せめて入賞ラインに持っていくこと」を必要として、そういった意識レベルを、これまで皆さんに高めてもらってきたし、強化コーチ間でも「出ることに命を懸けるのではなくて、出てどうしようかということに命を懸けてもらいたい」とうことを共有している。そういうところを双方できちんと理解できてきたことが、この結果にも繋がっているのはないかと思うし、そこは評価できるところなのではないかと考える。
今回は、暑さが厳しいことで負担が大きかったり、体調を崩したりした者も出てはしまったが、でも、こういった条件のなかで戦っておくことも必要。勝負の世界なので、リアルのなかできちんとやること、きちんと勝ちきることが大事になってくる。そういう条件のなかで、きちんと記録を出すことが一流選手としては大切だと思っている。また、選手たちの様子を見ていると、とてもいい雰囲気というか、和やかな雰囲気ができていた。昔は、「こうしなきゃダメだ」とか「こうしなきゃ」とかいったことが多かったが、以前に比べると、「海外だから、どうしよう」みたいな感じが、だいぶなくなってきているように見受けられ、選手たちに頼もしさも感じている。
この大会を終えて、世界選手権の代表入りが想定される人数は、だいたい想定内に入ってきていると思うので、順当に来ているように感じている。一方で、全体の強化という点でみると、弱点の種目がはっきりしてきているので、その意識づけを高くしなければならない。目安となるのは、「アジアのメダルが取れるかどうか」になってくると考えていて、「入賞レベル」では足りない。そうした「足りていないレベル」の層を、今後、どうするか考えることは必要だし、まだ「どうする」と言えていないところが日本としての弱さでもあると感じている。
まずは、求められる結果を得られなかった種目や選手には、その「足りていない点」を強烈に感じてほしいし、そのうえで、次に何をするのかを考えてほしいと思う。(談)
※本内容は、現地時間の7月16日に日本選手団の競技終了後、囲み取材に対応した際の山崎強化委員長のコメントをまとめました。より明瞭に伝えることを目的として、一部、修正、編集、補足説明を施しています。
文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)
【バンコク2023アジア選手権】
>>https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1760/
◆日本代表選手紹介男子編
https://www.jaaf.or.jp/news/article/18527/
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◆陸上 日本代表オフィシャルサイト
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