2022.07.29(金)大会

【オレゴン世界選手権】男女競歩総括コメント(今村文男シニアディレクター)


オレゴン世界選手権における男女競歩の活躍について、日本陸連は、20kmが終了した7月15日に、競歩の強化を担当する今村文男シニアディレクターの囲み取材を実施、35kmが終了した7月24日には、同種目について総括コメントを出しました。ここでは、その両方をまとめる形でご紹介しましょう。
総括の要旨は下記の通りです。

◎今村文男シニアディレクター(男女競歩担当)

・男女20km競歩について

東京オリンピックが一つの節目となって、パリに向けたスタートの世界選手権なので、そういった意味では、今まで活躍した選手に加えて、藤井菜々子選手の6位入賞、住所大翔選手の8位入賞と、若い選手も育ってきているという実感のあったレースであった。
男子20kmのメダル争いについては、ここ最近の主要な国際大会は、金メダルから銅メダルまで数十秒の差が多く、紙一重といえる状況が続いている。今回に関しても、仕掛けどころやペースの上げ下げ、そして歩型などによっては、どうなるかわからないというのも事実だったのかなと思う。
そのなかで、山西利和選手のレース展開は、前回大会に続く連覇がかかっていたことと、去年の東京オリンピックでは金メダルを狙って、残念ながら…といったら失礼かもしれないが、銅メダルとなった悔しさをリベンジとして達成することができた。本人が新しい1ページを開いた優勝だったかなと思う。
2位となった池田向希選手が最後のところは勝ちきれなかったのは、歩きの硬さであったりレースの運び方であったりによるかと思う。見た目の勝った負けたというよりも、ペースの上げ下げ、そして微妙な位置取り、そういったことで結果的に先着したのは山西選手だったということ。試合巧者で横綱相撲なのだが、それを感じさせないようなレースをしていて、そういう意味でも結果的に圧勝だったのだろうとみている。
この大会に向けては、オレゴンの気象条件、ここに向けてまでの取り組みなどを精査しながら、大きく分けると国際審判員への対策と、オレゴンも暑いのではないかということで急きょ取り組んだ暑熱対策、そして、長時間の移動と時差が生じることに対応する選手のコンディショニングという面に注意を払った。また、すべてを全員一緒に行うというのではなく、各個人の状況やチームの支援などをうまく加味しながら、それぞれのチーム事情や個人の状況に応じて準備を行った。早く入国して、こちらでコンディションを整える場合も、例えばポートランドでコンディショニングした選手もいれば、オレゴンに入ってコンディショニングした選手もいるし、逆に都合がつかず、選手団の第1陣と同じ7月10日に入国した選手もいる。その一方で、時差調整を事前にするとか、暑さ対策ということでは、みんなで必要な情報を共有しながら準備できたことがよかったのではないかと思う。
パリオリンピック(の強化)に向けては、まだ歩型の判定が確認できるサマリーシートを見ていないのだが、それが一番のキーワードになってくると思う。サマリーは見ていないため詳細は不明の状態だが、山西選手をはじめ、出場4選手のそれぞれレッドカードが1枚出ている。ただ、国際審判員も非常に精査されて少なくなっているので、レッドカードこそ1枚だが、去年のオリンピックのようにレッドカード2枚で、注意が5枚も6枚も出たという背景もある。そういった意味では、国際審判対策だけでなく、競技力向上の観点やケガのリスクを考えても、注視していきたい。

・男女35km競歩について

女子35kmに関しては、園田世玲奈選手1人の出場だったが、目標が入賞ということではあったが、初出場ということ、渡航は初めてというなかでの目標設定であった。調整期間が今回は非常に猶予をいただいて10日間くらいあったなかで、自分の思うような調整方法とは異なるような状況だったが、そのなかでも自分のやるべきこと、そしてレースに向けたコンディショニングということでは、しっかりと準備ができたかなということで、そのうえで出場したレースでも、メダル圏内はやはり目標にしつつも、しっかりと自分のコンディション…例えば、エントリーリストや自己記録から4位集団でしっかりと歩を進めたことは非常に評価できる。こういう大きな国際大会では、なかなか自己記録を目標にするのは難しいのだが、そういったコンディショング、レースの展開、ペースの配分が非常によかったかなと思う。ただ、残念ながらリードしていて、最後のところで入賞から9位に順位を落としてしまったことは、逆に次の自分の取り組みや目標に向けてモチベーションになるのではないかと評価している。
男子35kmに関しては、東京オリンピックが終わってからパリに向かっては、私たちも男子競歩では、35kmで戦っていく選手を、50kmを専門種目とする選手ではなく、20kmから35kmにシフトしていくことを考えている。そういう意味で、今回は、特に20kmのトップエンドの選手が活躍できた大会だったと思っている。
銀メダルを獲得した川野将虎選手は、しっかりと昨年の東京オリンピック50kmのレースの経験であったり、うまくいかなかった課題点を克服したりしながら、給水や暑熱対策等がしっかり準備できた。そして、コンディション面に関しても、チームスタッフや専任トレーナーの配置によって心身ともに安定した状況でレースに臨めたというのが好結果につながったのではないかと思っている。最後、あと1秒というところで金メダルを逃したが、これも「勝負の綾」というもの。ラップライムを見てもわかるように、最後は男子の20km競歩のラストの展開を見るような残り2km、1kmのペースアップは見事だった。来年のブダペスト世界選手権で35kmが実施されるかどうかはまだ確定していない状況ではなるが、来年に向けて専門種目として頑張ってほしいと思う。
(9位)の野田明宏選手も、スタートリストで顔ぶれを見て入賞圏内で戦える準備をしていこうということで進めてきた。序盤でどうしても勇み足になって注意やレッドカードをもらう傾向が国際大会であったり、国内における選考会でも不安定な歩きが見られたりすることがあったが、今大会に関しては、そういった面はほぼなくなっていた。序盤は遅れていたというよりは、自分のコンディションや気温上昇を踏まえた暑熱対策などがしっかりとできたうえでの位置取りで、そのことで、後半まで大きくペースを落とさずに自分の目標とするペースやレース展開で進めることができた。残念なことに、順位が、7位、8位、9位と3選手での順位争いでは後れをとってしまったが、これも園田選手と同じで、経験の中で培えるものもある。レース展開としては、新しい種目の35kmであったことを考えると、残りの距離でのペースアップというところがポイントになったことで、次のレースに向けて取り組みの一つに加えていくべく、「後半ペースアップ力」が必要になっていくとみている。
松永大介選手に関しては、トップスピードが高いものの、2月、3月、4月と代表選考会を戦いながら、20kmと35kmの両方で内定をとり、最終的に35kmを選択して今大会に向かったが、なかなか強化の練習と強化の試合の2つを取り組みながら今大会に向けての3カ月あまりは、リカバリーと強化練習とコンディショングとを進めていくのに難しいものがあった。本人も、もともと35kmはパリ五輪に向けてとか、来年に向けてとかの位置づけで、ステップアップを目指すなかで勝ち得た出場であったために、選考競技会や強化練習での疲労があった上で今大会に挑むような形になってしまったと感じている。レース展開も序盤から果敢に攻めていく彼らしいレース。そこは今後の新しい種目のレーススタイルを私自身もつかみたいし、新しいタレントや選手が、型にはまったレースではなく、新しい種目またはレース展開に挑むというスタンスでのあのような飛び出しを見せたのだと思うので、無謀なというのではなく「チャレンジングな」レース展開だったと評価している。順位こそ伴わなかったが、次につながるという点では、暑熱の対策や判定の対策はしっかりと準備ができていたのかなと思う。

・全競技を終えて

男女の20km、男女の35kmについては、オンライン会見のときにも挙げた「暑熱対策」「国際審判員の対策」「心身のコンディショニング」という3つを柱と中心に、この大会に向けてメンバーとともに強化合宿や、現地での最後の2週間近いコンディショニングの期間を過ごさせていただいた。そういったなかで、特にこういった海外…特にコロナ禍の状況のなかでも、それぞれ目標の順位や記録、レース展開について思い描いていたものはあると思うが、最後はアジャストできたかできなかったか…、つまり順応または適応、調整力、そういったところが、レースの結果や日々の心身の状態に大きく影響していたとみている。

※本内容は、世界選手権会期中に行われた囲み取材および、日本陸連より現地取材メディアに向けて配信されたコメントをもとにまとめている。より明瞭に伝えることを目的として、一部、修正、編集、補足説明を施している。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)



▼オレゴン2022世界陸上競技選手権大会 特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/wch/oregon2022/

▼【オレゴン世界選手権】10日目モーニングセッションコメント:大激戦の男子35km競歩、川野がアジア新記録で銀メダル獲得!
https://www.jaaf.or.jp/news/article/16964/

▼【オレゴン世界選手権】1日目 男女20km競歩コメント:山西が日本人初の快挙!2大会連続で金メダル獲得、池田は東京五輪に続き銀メダル!
https://www.jaaf.or.jp/news/article/16800/

▼【オレゴン世界選手権】8日目モーニングセッションコメント:新種目女子35km競歩で園田が9位!日本最高記録更新!
https://www.jaaf.or.jp/news/article/16947/

JAAF Official Partner

  • アシックス

JAAF Official Sponsors

  • 大塚製薬
  • 日本航空株式会社
  • 株式会社ニシ・スポーツ
  • デンカ株式会社

JAAF Official Supporting companies

  • 株式会社シミズオクト
  • 株式会社セレスポ
  • 近畿日本ツーリスト株式会社
  • JTB
  • 東武トップツアーズ株式会社
  • 日東電工株式会社
  • 伊藤超短波株式会社

PR Partner

  • 株式会社 PR TIMES
  • ハイパフォーマンススポーツセンター
  • JAPAN SPORT COUNCIL 日本スポーツ振興センター
  • スポーツ応援サイトGROWING by スポーツくじ(toto・BIG)
  • 公益財団法人 日本体育協会
  • フェアプレイで日本を元気に|日本体育協会
  • 日本アンチ・ドーピング機構
  • JSCとの個人情報の共同利用について