2022.07.06(水)大会

【オレゴン世界選手権】男子短距離日本代表公開練習レポート&コメント(コーチ編)

7月2日、日本陸連は、東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンターにおいて短期合宿中のオレゴン世界選手権男子短距離日本代表選手のトレーニングを、メディアに向けて公開するとともに、同日午後に、合宿に参加している全選手の合同記者会見を実施しました。これに際して、男子短距離の強化を統括する土江寛裕ディレクターのほか、4×100mRを担当する高平慎士コーチ、4×400mRを担当する邑木隆二コーチの3名も取材に応じ、両リレーの話題を中心に、日本チームの状況や、本番に向けての展望・戦略を話しました。各氏のコメント(要旨)は、以下の通りです。




◎高平慎士オリンピック強化スタッフ(4×100mリレーヘッドコーチ)

新しい選手が非常に多くて、「どんな練習をするのかな」「どんな話し方をするのかな」とか、選手を把握することで私もけっこう精いっぱいになっている。仕上がりとしては各選手とも非常に順調に来ている。先日の布勢スプリントで調子の良かったメンバー、また、日本選手権でしっかり結果を残してくれたメンバーが、昨日の発表によって正式に代表に決まった。選手たちが「よし、行くぞ」という気持ちになっているような雰囲気が見受けられる。

ここまでにある程度、いろいろな選手を見てきているので、私の“図鑑”に載っていない選手というのはいないのだが、坂井(隆一郎)選手のスタートなどは、近くで見ていると臨場感があり、「素晴らしいスタートを切るな」と感じた。また、メディアの皆さんが(練習場を)離れたあとにやっていた小池(祐貴)選手の250mなどは、「実力をしっかり持った走りをするな」と、これまでの経験値を感じさせる走りだった。日本代表なので、すべての選手が素晴らしいものを持っている。各選手が、自分の持ち味をしっかり出してほしいと期待している。

私は、今回、4×100mRというところに多くアプローチをするということで、土江(寛裕)ディレクターから(ヘッドコーチの)話をいただいている。まず、ショートスプリント(100m・200m)で個人種目に出場する4名に関しては、個人種目をしっかり戦うことを前提に考えている。コンディションも含めて、リレーが大きく負荷となるようようなことなく、しっかりとまず個人で戦ってくることが大前提。それがいい流れとなって、大会の終盤で行われるリレーに、いい形で表れていくようなチームつくりをしていきたい。まずはしっかり個人種目で、そしてリレーはグループではなく、チームでしっかり戦えるような雰囲気になってくれればいいと期待している。

求められていることについては、山崎一彦強化委員長や土江ディレクターから、いろいろな話をしていただいている。ただ、日本代表というのは、選手が決まった上で、しっかりとチームつくりをしていかなければいけないものなので、どういうことをしたらよいかは、私の思いだけで成り立つものではないと考えている。自分の経験や、いろいろな選手たち関わってきたことを踏まえて、今、こうしてスタッフに呼んでいただいたなかで、私が何をもたらすことができるかは、競技において、プロフェッショナルな彼らを相手に、特に技術的なことなどを伝えるというよりは、戦いに向かうときに少しホッとする存在というか、思いやいろいろと考えていることを共有できる存在でありたいし、そういう存在がいるんだということを認識してもらえるようでありたいと思っている。ちょっと背中を押す、あるいは、帰ってきたときに感情に左右されずに受け止められる、それができるような存在でありたいなと、合宿に入って、改めて感じている。




◎邑木隆二オリンピック強化スタッフ(4×400mリレーヘッドコーチ)

マイルチーム(4×400mR)は、皆、日本記録を目標に、非常に気持ちも昂ぶって、いい状態でいるのではないかと思う。この合宿で、初めて全員でバトンパスの練習を行ったわけだが、(代表)経験が少ない選手もいるために、出のタイミング(スタートするタイミング)などが合わなかった場面もあったが、それらの修正は、この先、現地に入ってからやっていく。良かった面としては、経験者たちは想定通りに、我々が求めるバトンパスができていたこと。バトンパス精度を高めることで少しでもタイムを稼げるようにしていきたい。

今大会での目標は決勝進出。タイムとしては2分台を目指している。これまで山村貴彦コーチが中心にやってきたときには、各選手が45秒0に限りなく近い、45秒台前半のラップを刻んで、3分0秒台で決勝に残ろうという目標を掲げて、昨年の東京オリンピックまで強化を進めてきた。しかし、世界のスピード化が著しく、実際に東京オリンピックでは、日本タイ記録(3分00秒76)をマークして我々が目標にしていたタイムで走っても、2分台でなければ決勝には残ることができない状態となった。それを踏まえて、この冬からは、選手たちにも、44秒8、もしくは44秒7といった平均ラップを刻めるようにスピード強化を図ろうということを共有して取り組んできている。

2分台を出すためには、山村コーチがずっと選手たちに言い続けてきた、「とにかく前でレースをする」ことが必須となる。1走が45秒中盤から前半のラップで回ってきてくれれば、序盤から集団の前方に位置してレースを進めることができ、積極的な戦いを展開していくことが可能となる。

オーダーについては、今回、走順を考えるに当たっては、エースであるウォルシュ(ジュリアン)を3走にすることが可能なチーム状況になっていることが非常にいいと言うことができる。これまでの日本チームは、ウォルシュに「おんぶに抱っこ」の状態で、(レース序盤で前方に位置するために)彼を1走にせざるを得なかったのだが、今年は、佐藤風雅が安定して45秒中盤で走れていることにより、それをしなくてもいい状況となった。
1走で佐藤に今季のこれまで通りの安定した走りをしてもらいたいと期待しているし、また、3走にウォルシュに置くことで、いい位置でバトンを受けることができれば、それをさらに良い状況にしてアンカーにバトンをつなぎ、逆に後れをとってしまった場合は、3走でウォルシュにもう一度、戦略通りの形に戻してもらうことも可能になる。これまで以上に、良い形の勝負の仕方ができると考えている。

また、今回、佐藤、川端、ウォルシュの3人が個人種目での出場を果たした。400mで3名がフルエントリーするのは、世界選手権では2001年エドモントン大会以来、オリンピックを含めても2004年アテネ大会以来となる。これが可能となったのは、近年、マイルチームとして強化を図っていけたことによる成果であると感じている。3人が個人種目で世界のレースを経験したうえでマイルリレーに臨むということでは、個人のレースで課題が見つかった場合に、その改善をしながらリレーに向かうことができる。その点も、リレーで結果を残すにあたっては、非常にいい経験になると考えている。




◎土江寛裕日本陸連強化委員会短距離担当ディレクター

今年は、かなり例年の準備よりも慌ただしい日程となった。(選考会となる)日本選手権は6月頭に終わっているのだが、6月26日までに出した記録が有効になるということで、選手が確定して発表することができたの昨日(7月1日)と、直前まで決めることができなかった。日本選手権以降の選手たちの様子としては、だんだん自分が選ばれるところが見えてきていたなかではあったが、ちゃんと選ばれてホッとしている感じが窺える。

今回は、けっこう若い選手が中心に選出されつつも、一方で、小池(祐貴)であったり、アメリカを拠点としているために今回の合宿には参加していないサニブラウン(アブデルハキーム)であったりと、経験を積んだ選手もいる。経験値のあるの選手と、若い選手が融合した、すごくバランスの良いチームができたと考えていて、選手たちも、非常にモチベーションを高めている状況である。代表合宿は、6月30日に集合して、7月1日~3日までの3日間の日程で実施している。今日の練習を見て、感じとっていただけたと思うが、とてもいい、明るいムードで試合に備えることができている。

4×100mRは、3日間の合宿日程のなかで行うバトン練習は、昨日と明日の2回のみとなっている。これは、今回の男子4×100mRは、昨年の東京オリンピックを経て、そこでのいろいろな反省を踏まえて、「しっかりと個人で戦える」というところに軸足を戻したことによる。去年まではリレーに注力することとし、ある意味、個人を犠牲にする側面もあるなかでの傾注であったわけだが、それは(目指す大会が)東京オリンピックだったから。自国開催のオリンピックでのリレー、しかも、金メダルが狙えるという状況であったことから、しっかり金メダルを目指していこうという意図のもと、リレーに軸足を置いていた。しかし、もともと日本は、髙野進先生が強化責任者をやっていた時代から、「個人があって、その次にリレー」というスタンスでやってきていて、東京オリンピックに向けてだけが特別な形であった。このため、パリ(オリンピック)に向けての方針は、「しっかり個人で戦っていこう。個人でファイナルに残るメンバーが4人揃うような状態で、リレーを組もう」というスタンスに立ち戻っている。その影響で国内でのリレーのトレーニングは、この合宿中の2回のみで、あとは現地で対応する。もともとの(代表決定から大会までの)期間が短いこともあるが、これまでのリレーの取り組みよりも、短期間でつくっていく感じになる。

今回のメンバーは、新しい顔ぶれが多いように見えるが、実は、リレーでの世界大会を経験しているサニブラウン、小池に加えて、昨年の東京オリンピックを補欠として事前合宿からすべて帯同した栁田(大輝)、そして、今回と同じように若いメンバーでチャレンジした昨年の世界リレー(3位)のメンバー4人のうちの3人(坂井隆一郎、鈴木涼太、栁田)が入っていて、それぞれに日本のバトンパスというものをかなりやってきているという下地がある。もう一つ大きいのが高平ヘッドコーチの存在。彼は、私ともリレーを組んでいて、今の現役では飯塚(翔太)ともリレーを組んでいるという、すごく息の長い選手で、我々の世代のころからの歴史を知っている状態でリレーを率いていこうとしている。指導する我々の側の立場としても心強い人材だし、選手目線で、選手たちに必要なノウハウを伝える環境は十分に整っていると考えている。

マイル(4×400mR)系に関しては、個人種目の400mで3人がフルエントリーできるのは、かなり久しぶりとなる。今回、ウォルシュ(ジュリアン)は、かなり危ない感じでの出場権獲得となったが、もともとは実力のある選手。さらに、佐藤風雅と川端魁人という2人の新しい若い選手が出てきて、世界にチャレンジしていこうとしている。これは、男子4×400mRが、JSC(日本スポーツ振興センター)が実施している次世代ターゲットスポーツ育成支援事業の対象となって支援を受け、2019年からアメリカに合宿に行ったり、国内で共通のコンセプトのもとでトレーニングを積んだりしてきたことによることが大きい。その成果として、個人が伸びてきて、リレーも戦える状況になってきている。マイルも4継(4×100mR)と同じように、バトンを確認するのは今回の合宿だけ。ミックス(男女混合4×400mR)も含めて、この3日でそこをつくっていくことにしている。

リレーに関しては、高平慎士・邑木隆二両ヘッドコーチに、オーダーも含めて任せているので、私が言ってしまうべきではないのかもしれないが、今回は、新しいメンバーが多い構成となっている。これは、すごくラッキーなことと受け止めている。特に、4×100mRの場合は、いわゆる「リレー侍」と呼ばれる、「いつもの選手たち」がいるわけで、彼らがリレーを組めば、簡単にリレーを完成できる部分もあるのだが、彼らにも休養は必要。今回は、それぞれにいろいろな理由で代表となっていない状況だが、今年1年を休むことで、(2024年の)パリ(オリンピック)につなげられるという、ポジティブな捉え方をすることができる。
一方で、そうした選手たちがいたことで、その次の世代がなかなか出てこられない状況が続いていた。今回は、そうした若い選手たちが、「世界」を経験できるチャンスとなった。高平ヘッドコーチは、ミーティングで「チャレンジ」という言葉を出していた。パリオリンピックに向けてということでは、パリ前年の世界陸上(2023年ブダペスト大会)は、パリに向けたシミュレーションとしてやらなければならない。そうなると、挑戦的ないろいろなことができるのは今年だけとなる。そういった意味で、今年のリレーのオーダーも、ちょっとチャレンジしたいと考えている。具体的には、中心となるサニブラウンをどう起用するかということ。彼を2走に起用して、そこに、どうつないでいくかということを、ほかの選手たちで考えていこうとしていて、その話は、昨日全体ミーティングを行った際に、リモートでサニブラウンも参加し、リレーの戦略などについて、すでに共有ができている。サニブラウンの2走というのは、一番彼を生かせる走順だと思っているのだが、そこについては、機会があったら、ぜひ高平ヘッドコーチに聞いていただけたらと思う。

マイルの強化について、もう少し詳しく説明すると、JSCの次世代ターゲットスポーツ育成支援事業の支援を受けて、クインシー・ワッツコーチ(1992年バルセロナオリンピック400m金メダリスト)が率いる南カリフォルニア大学(USC)に、毎年オフシーズンに選手を送り込むという計画を立てて2019年度から取り組んできた。初年度は計画通りに実施できたのだが、2020年はコロナ禍の影響で現地に行くことができず、昨年度は11月の段階でウォルシュを派遣したのちに、川端(魁人)と佐藤(風雅)も行くことになっていたのだが、そこでまた感染が拡大した影響で、ウォルシュは帰国できず、川端と佐藤は渡航できなくなってしまった。渡米できなかった選手たちは、国内で合宿する形で強化することになったが、USCで行っているトレーニングを、すべて即時に映像と内容を共有するとともに、それがどういうトレーニングであるかを現地のコーチとやりとりし、国内のトレーニングに落とし込んでいくという手法で、できる限り現地のやり方を取り入れてきた。

そうした方法を選択したのは、日本のマイルが世界で戦えなく理由として、海外のトップチームのスピード化についていけていないという課題が明確になったから。海外の400mの選手は、100mも9秒台で走るスピードを持っている。そうした背景もあって、マイケル・ノーマンのようにスピードがあり、しかも日本に少し縁のある選手(※ノーマン選手の母の伸江さんは、日本人女子中学生として初めて11秒台をマークしているスプリンターであった)のところに行ってスピードを磨くことに取り組んできた。(コロナ禍で)現地に行けなくなってからも、ITを用いて現地とやりとりし、アイデアをいただきながら強化を図ることができている。今回、個人種目で佐藤、川端、ウォルシュがフルエントリーを果たしたが、3人のキャラクターを見てもらうと確実に変化していることがわかっていただけると思う。スピードが高くて、200mもしっかり走れる選手になっている。世界選手権は、個人の種目で戦うことが軸足としてあるが、スピード化したマイルリレーに関しても、近年の課題であった前半で後れを取ることなく、かなり前でレースを展開することができるとみていて、日本記録(3分00秒76)を飛び越して、3分を切るところを目指している。



※コメントは、代表共同取材における各氏の発言をまとめました。より明確に伝えることを目的として、一部、修正、編集、補足説明を施しています。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト



■オレゴン2022世界陸上競技選手権大会特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/wch/oregon2022/

■オレゴン2022世界選手権日本代表選手
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202207/01_133608.pdf

■オレゴン2022世界選手権競技日程
https://www.jaaf.or.jp/wch/oregon2022/timetable/ 

■【オレゴン世界選手権】男子4×100mリレーは新チームでのメダル獲得へ!男子短距離日本代表公開練習レポート&コメント(100m・200m・4×100mR)
https://www.jaaf.or.jp/news/article/16635/ 

■【オレゴン世界選手権】男子マイルリレーは日本新記録&決勝進出を目指す!男子短距離日本代表公開練習レポート&コメント(400m・4×400mR・男女混合4×400mR)
https://www.jaaf.or.jp/news/article/16636/ 

JAAF Official Partner

  • アシックス

JAAF Official Sponsors

  • 大塚製薬
  • 日本航空株式会社
  • 株式会社ニシ・スポーツ
  • デンカ株式会社

JAAF Official Supporting companies

  • 株式会社シミズオクト
  • 株式会社セレスポ
  • 近畿日本ツーリスト株式会社
  • JTB
  • 東武トップツアーズ株式会社
  • 日東電工株式会社
  • 伊藤超短波株式会社

PR Partner

  • 株式会社 PR TIMES
  • ハイパフォーマンススポーツセンター
  • JAPAN SPORT COUNCIL 日本スポーツ振興センター
  • スポーツ応援サイトGROWING by スポーツくじ(toto・BIG)
  • 公益財団法人 日本体育協会
  • フェアプレイで日本を元気に|日本体育協会
  • 日本アンチ・ドーピング機構
  • JSCとの個人情報の共同利用について