2021.06.18(金)大会

【第105回日本選手権展望】 五輪2種目出場への期待がかかる田中、スケールアップを目指す女子短距離!女子トラック編 Vol①(短距離・中距離)



第105回日本選手権が6月24~27日、U20日本選手権との併催で、大阪市のヤンマースタジアム長居において行われる。ご存じの通り、この大会は、コロナ禍により1年延期されて今年の7月30日から東京・国立競技場で開催されることになった東京オリンピックの日本選手代表選考会。別の会期で行われた男女10000m(5月3日実施)と男女混成競技(十種競技、七種競技;6月12~13日実施)を除くトラック&フィールド34種目(男女各17種目)において、“2021年日本一”が競われるとともに、自国で開催されるオリンピックの出場権を懸けた最後の戦いが繰り広げられる。
この日本選手権で、自国開催のオリンピック出場を即時内定させるためには、「日本選手権で3位内に入ること」と「日本選手権も含めた有効期間内に、世界陸連(WA:World Athletics)の設定した参加標準記録を突破していること」が必須条件となる。つまり、すでに参加標準記録を突破している者にとっては、日本選手権上位3選手に授与される「金・銀・銅のライオン(の顔が彫り込まれた)メダル」が、そのまま「五輪行きプラチナチケット」となるということ。参加標準記録突破者が複数出ている種目では、このメダルを巡る戦いは、壮絶なものとなるはずだ。
一方で、WAは、今回の東京オリンピックから、ワールドランキングによるオリンピック出場の道も採用した。これは各種目の出場枠(ターゲットナンバー)を上限として、まず参加標準記録突破者(ターゲットナンバーの約半数を想定)に出場資格を与え、残りの枠を、1カ国3名を上限に参加標準記録者を含めて順位づけたワールドランキングの上位者が得るという仕組みだ。これにより参加標準記録を突破できていない競技者、あるいは参加標準記録突破者がゼロの種目でも、このランキングでターゲットナンバー内(詳細および最新のランキング順位へのリンク先は、https://www.jaaf.or.jp/news/article/14737/ で紹介)に入っていれば、出場権を獲得することができる。ただし、この場合も、同条件となった場合は、日本選手権の順位が最優先されるため、日本選手権でいかに上位を獲得しておけるかが明暗を分けることになる。
参加標準記録、ワールドランキング。どちらの場合においても、この日本選手権の結果が大きな鍵となるだけに、第105回の歴史のなかでも例のない激戦や名勝負を期待することができるだろう。 ここでは、特に「東京オリンピック代表選考争い」にスポットを当てて、大会4日間の見どころを、男女それぞれにトラック種目、フィールド種目に分けて、ご紹介していく。
なお、今回の日本選手権は、当初、会場に観客を迎えての開催を目指して準備を進めてきたが、開催地である大阪府の新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が延長されたことにより、観戦者の入場については6月18日に確定・発表されることとなった。有観客での開催が実現することを祈るばかりだが、一方で、まだまだ“コロナ禍前”のように、気軽に現地観戦へ出向くのは難しいという状況にある方々も、残念ながら多いはず。大会の模様は、NHKがテレビ放映を行うほか、インターネットによるライブ配信も実施を予定している。これらも利用して、ぜひ熱い声援を送っていただきたい。また、この放映・配信スケジュールのほか、タイムテーブルやエントリーリスト、記録・結果の速報、競技者たちの声は、日本選手権特設サイト( https://www.jaaf.or.jp/jch/105/ )や日本陸連公式SNSにおいて、随時、最新情報をお届けしていく計画だ。こちらもぜひ観戦に役立てていただきたい。

※記録・競技結果、ワールドランキング等の情報は6月15日判明分により構成。ワールドランキング情報は、同日以降に変動が生じている場合もある。なお、欠場に関しては、大会本部が受理し、6月15日に発表した公式情報に基づいている。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト

 

【女子トラック編】

◎短距離

・女子100m&200m

女子100mと200mの参加標準記録は、11秒15と22秒80。どちらも日本記録を上回る設定となっている。近年で、この記録に手が届きそうな選手は、残念ながら出てきていない状況だ。一方で、5月にポーランドで開催された世界リレーで、日本は4位入賞を果たし、オリンピック出場権に加えて、来年のユージーン世界選手権への出場権も獲得した。本番を目指してのさらなる個々のスケールアップが求められるところだ。そういう意味では、前回覇者で、昨年日本歴代3位の11秒35の自己記録をマークしている兒玉芽生(福岡大)を筆頭に、世界リレーを走った青山華依(甲南大)、齋藤愛美(大阪成蹊大)、鶴田玲美(南九州ファミリーマート)と、同補欠の石川優(青山学院大)の5選手が注目されることになりそうだ。
兒玉は、この種目の連覇とともに、前年、鶴田に2連覇を阻まれた200mとの2冠を狙ってのレースとなる。勢いを感じるのは、相洋高から青山学院大へ進んだ石川。世界リレーは現地へ行きながらもメンバーから漏れたが、帰国後、2週間の隔離期間もあったなかで、関東インカレを100m(11秒44、+5.1)・200m(23秒55、+4.4)で2冠。6月5日の日本学生個人選手権で今季日本最高となる11秒48(+1.5)の自己新をマークして優勝を果たしている。五輪でのメンバー入りを実現させるためにも前回(3位)以上の成績を狙ってくるだろう。石川と同学年の青山は、3月に大阪高所属で出場した日本選手権室内60mを7秒38のU20日本新で制して、屋外より先に日本タイトルを獲得。その後、世界リレートライアルの100mで高校歴代4位タイの11秒56をマークしている。世界リレーでは1走を務め、上位争いに絡む好走で4位入賞に貢献した。世界リレー以降は5月に11秒7台で1本走っているのみだが、そこからどう調子を上げてきているか。
200mU20日本記録保持者(23秒45、2016年)の斎藤は、故障の影響による低迷期を脱して、再び輝きを取り戻しつつある状況だ。100mでは日本学生個人選手権の準決勝で追い風参考(2.1m)ながら11秒46を、また、出雲陸上では300mで日本歴代2位の37秒19をマークしており、200mだけでなく100mでも自己記録(11秒57、2016年)を更新できる状況に戻ってきた。両種目で優勝争いする力は十分にある。前回、日本歴代3位の23秒17をマークして200mを制し、100mでも2位の成績を残している鶴田は、200mの連覇と100mとの2冠を狙ってのレースとなる。記録的に、まだエンジンがかかっていない印象だが、昨年の秋ごろの状態に仕上がれば、2種目でシードレーンの一角を占めることになるだろう。
これらの顔ぶれのほかでは、2019年に高校生ながら優勝を果たした御家瀬緑(住友電工、当時恵庭北高)が布勢スプリントを11秒57で制して復調の兆しを伺わせた。その布勢スプリントの予選で11秒53の自己新記録をマークしている名倉千晃(NTN)とともに、“世界リレー組”に割って入る可能性はある。
200mは、ここまでに紹介した兒玉、鶴田、斎藤、石川が上位争いを繰り広げそうだが、世界リレー組が不在だった静岡国際を制した壹岐あいこ(立命大、23秒71)、READY STEADY TOKYO(以下、RST)に勝った細谷優美((阿見AC、23.88)あたりも好走が光った選手。顔ぶれが揃ってのレースとなったときに、さらに記録を伸ばしてくることを期待したい。




・女子400m

女子400mの参加標準記録は51秒35と、これも日本記録(51秒75)を遙かに上回るものとなっている。ショートスプリント同様に、ワールドランキングも含めて個人種目での出場はやや厳しいと言わざるを得ない。木南記念でのタイムアタックに成功して、6月15日時点でターゲットナンバーぎりぎりの16位にランクインしている男女混合4×400mRのメンバー候補である選手たちが上位争いの中心となりそうだ。
その筆頭は、2連覇中の青山聖佳(大阪成蹊AC)。故障からの回復が間に合わず、世界リレーは現地に行ったものの走ることができなかったが、木南記念で混合マイル(男女混合4×400mR)のタイムアタックに成功したあとに走った400mで、今季日本最高の53秒19をマーク。日本選手権では、昨年マークした自己記録(52秒38=日本歴代2位)を更新して、どこまで丹野麻美の持つ日本記録(51秒75、2008年)に迫れるかが見どころとなる。
青山を追う2番手となるのは、世界リレーで女子マイル(4×400mR)、混合マイルの2種目を走った松本奈菜子(東邦銀行)と小林茉由(J.VIC)の2人。松本は、昨年2位となった日本選手権のあと、11月に53秒31の自己新記録をマーク。今季は、マイルリレーを優先しつつのレースになっている影響もあり、シーズンベストは53秒74にとどまっているが、単独種目にぴったりピークを合わせてくれば、52秒台に迫る走りも十分に期待できる。小林は、昨年までのベストは54秒18(2018年)だったが、今季、一気に成長を遂げてきている選手。今季日本リスト2位となる53秒55は、世界リレー帰国直後に出場したRSTでマークしたものだ。その後も、マイルリレーのタイムアタックと並行しながらも安定して53秒台で走っている。この波に乗って52秒台に近づくタイムを狙いたい。
注目したいのが久保山晴菜(今村病院)の動向だ。福岡大4年の2018年に100mで日本インカレに優勝、日本選手権では同年の4×100mRでタイトルを獲得している。これまでショートスプリントがメインの印象だったが、今季、大学以来3年ぶりに400mに出場すると、初戦で54秒台(54秒41)をマーク。3戦目のデンカチャレンジで53秒台(53秒94)に突入した。200mでも木南記念で23秒86の自己ベストを出しているが、もしかすると400mのほうが上位へ食い込む可能性は高いかもしれない。このほか、2019年に53秒31のU18日本記録で走っている髙島咲季(青山学院大)は故障からの回復が待たれるところ。2018年にタイトルを獲得してる川田朱夏(東大阪大)は、今年も800mとの2種目に挑戦する。




◎中距離

・女子800m&1500m

女子800mと1500mの参加標準記録は1分59秒50と4分04秒20と、日本記録(2分00秒45と4分05秒27)よりも高い水準に設定されている。しかし、1500mでは、田中希実(豊田織機TC)が、ターゲットナンバー(45)内となるワールドランキング37位に位置し、出場資格を得る可能性が出てきている。田中は、すでに昨年の日本選手権5000mを制して五輪代表に内定しているが、それより以前に、昨年8月のゴールデングランプリ(GGP)で前述の日本記録をマーク、新装成ったオリンピックスタジアム日本記録樹立者第1号となったことで、一気にネームバリューが高まった選手(ちなみに、この大会の日本記録は、WAがコロナ禍に影響を考えて、オリンピック参加資格期間を中断していた時期にあたるため、記録自体は公認されているが、ワールドランキングには反映されていない)。東京オリンピックは1500mと5000mの2種目での出場を目指すことを表明しており、今大会の1500mは2連覇と2つめの五輪切符獲得を狙ってのレースとなる。
1500mで田中に続くのは、前々回に800mと1500mで2冠を達成している卜部蘭(積水化学)。今回も、2種目に挑戦する。1500mではワールドランキングで48位まで上がってきていて、ターゲットナンバー圏内まであと少しのところにいる。「記録も、順位も」狙ってのレースとなるだろう。この2人を追って、田中のチームメイトである後藤夢(豊田自機TC)と今季の一気に4分13秒82まで記録を縮めてきた樫原沙紀(筑波大)あたりが、表彰台を懸けて勝負を繰り広げることになりそうだ。
今回、女子中距離は、大会2日目に1500m決勝が行われたのちに、3日目に800m予選が、最終日に800m決勝が実施されるタイムテーブル。前述の卜部のほかに、800m決勝の35分後に5000m決勝を控ええる形となる田中も、実は800mにエントリーしている。800mと5000mのどちらかに絞る可能性もあるが、もし、田中が800mに出場した場合は、この種目でも上位争いに加わってくることになるだろう。3月に屋外シーズン初戦を迎えてから800m、1500m、3000m、5000mのレースを組み合わせながら連戦するなか、5月3日の静岡国際では、日本歴代9位となる2分03秒19まで自己記録を伸ばしてきている。スイッチが切り替わったような終盤のスパートが、強力な武器となる。
一方、800mで鮮やかな復活劇を見せてくれる可能性を感じさせるのが北村夢(エディオン)だ。2017年に日本歴代2位の2分00秒92をマークしている選手で、同年と翌2018年には日本選手権連覇を果たしている。この2年ほどは故障に苦しんできたが、静岡国際を今季日本最高となる2分03秒05で制すると、木南記念でも2分3秒台をマーク、デンカチャレンジとあわせて日本グランプリ(GP)シリーズを3連勝している。
このほかでは、RSTを2分4秒台で制して、木南記念で2分04秒48のセカンドベストをマークした広田有紀(新潟アルビレックスRC)は、デンカチャレンジでも2分4秒台と安定した強さを見せている。また、400mとの2種目に挑む川田朱夏(東大阪大)の自己記録は2分02秒71(2018年)。今季序盤は世界リレーに出場するなど、マイルリレーメンバーとしての活動が主軸になっていたが、6月6日のデンカチャレンジで2分04秒86までタイムを上げてきた。世界リレーで経験したスピードやレース勘を800mに生かせるようだと、勝負の行方をいっそう面白くさせることだろう。


■【日本選手権】応援メッセージキャンペーン!あなたの言葉で東京の舞台を目指す選手の背中を押そう!
https://www.jaaf.or.jp/jch/105/news/article/14925/
■東京2020オリンピック競技大会 代表選手選考要項
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/201907/01_171958.pdf
■【日本選手権】エントリーリスト
https://www.jaaf.or.jp/files/competition/document/1556-4.pdf
■【日本選手権】競技日程
https://www.jaaf.or.jp/jch/105/timetable/

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