2021.04.14(水)委員会

【強化委員会】2021年度日本陸上競技連盟 強化方針説明会報告



日本陸連強化委員会は4月5日、オンラインによる記者会見方式で、メディアに向けた2021年度強化方針説明会を開催しました。
説明会には、尾縣貢専務理事、麻場一徳強化委員長、山崎一彦トラック&フィールドディレクター、河野匡長距離・マラソンディレクターのほか、東京オリンピックに向けた強化現体制において「ゴールドターゲット」に位置づけられている「男子100m・200m・4×100mR」を担当する土江寛裕オリンピック強化コーチと、「男女競歩」を担当する今村文男オリンピック強化コーチの全6名が出席。
尾縣専務理事の挨拶で始まった説明会は、麻場委員長が全体を通しての方針を述べたあと、山崎ディレクターがトラック&フィールド種目について、河野ディレクターが長距離・マラソン種目について、それぞれの方向性や具体的な取り組み、進捗等を説明・報告。さらに、メダル獲得を目標として強化を進めているリレーと競歩に関して、土江コーチと今村コーチが、それぞれの現状や今後の方向性を述べたのちに、メディアからの質問に応えました。以下、要旨をご報告します。

 

【挨拶】

尾縣 貢(専務理事)
昨年の今頃のことを思い起こすと、(新型コロナウイルス感染拡大により、政府が最初の緊急事態宣言を発出したことにより)6月末までの競技会の中止・延期を決めて、先が全く見えない状況だった。アスリートは、オリンピックやトレーニングという言葉さえ出せない雰囲気となり、本当に強い閉塞感を感じたと思う。そのようななかでもアスリート、そしてコーチは、やることをやり、7月の競技会再開から大躍進が続いた。改めてアスリートの心の強さ、底力を感じた。
この1年を経て、オリンピック・パラリンピック開催に向けての気持ちはより強くなった。1人でも多くの国民の理解や支持を得て、世界からの選手団を受け入れ、そして、スポーツ、オリンピックの素晴らしさを共有したいと改めて思っている。加えて、世界にスポーツの価値やオリンピックの意義を広く発信していきたいという気持ちがある。
そのためにも、この春からのトラックシーズンにおける選手たちのひたむきな競技を期待したい。そして、ぜひ、メディアの皆さまに、その活躍を、多くの人たちに伝えていただきたいと、切に願っている。これが今できる最大のオリ・パラ機運醸成の方策と思う。本日は、短い時間だが、強化の現状、その思いを伝えさせていただきたく、この機会を設けた。皆さま、よろしくお願いいたします。

 

【2021年度の強化方針】

麻場一徳(強化委員長)
いよいよ4月に入り、2021年シーズンが始まった。東京オリンピックまで、あと4カ月。私たちは、できる限りのことをやっていきたいと思っている。
方針については、これまで通り、東京オリンピックにおいて「メダルや入賞を1つでも多く」という目標と同時に、「舞台に立つ出場者を1人でも多く」という、もうひとつの目標を掲げてやっていきたいと思っている。
3月26日に日本陸連の理事会が行われ( https://www.jaaf.or.jp/news/article/14733/ ) 、そこで最終的に東京オリンピックのトラック&フィールド種目の選手選考要項を承認していただいた( https://www.jaaf.or.jp/files/upload/201907/01_171958.pdf )。これで選考の手順は整ったと思っている。(コロナ禍にある)現状では、海外の競技会へ行って、ワールドアスレティックス(以下、WA)ワールドランキングのポイントを稼ぐことは難しいが、そのぶん(陸連)事務局や地域の陸上競技協会の方々をはじめとする関係者の方々の多大なるご尽力により、国内でも十分にポイントを獲得できるような競技会の準備をしていただいた。(強化としては)あとは選手が思う存分に力を発揮できるような(サポートや環境つくり等の)取り組みを、これからの4カ月にしていきたいと考えている。個々の状況については、山崎ディレクターや河野ディレクター、土江コーチ、今村コーチが報告するので、そちらに譲りたい。
同時に、我々は、東京オリンピック以降のことについても考えていかなければならない。この点については、次期強化体制にスムーズに移行できるような準備を、並行して進めていく。なかでも(2018年に制定した)競技者育成指針( https://www.jaaf.or.jp/development/model/ )に基づいた、U18やU20(をはじめとする若年期競技者)の競技会のあり方や、育成の道筋などを整理していけたらと思っている。
また、これまでU20世代に関しては、ダイヤモンドアスリートなどの特別な育成プログラムを行ってきたが、加えてU23世代の育成という点にも着目して、昨年末から「ライフスキルトレーニングプログラム」という取り組みを、新たに始めている( https://www.jaaf.or.jp/lst/ )。これらは、東京オリンピック以降の新しい強化のあり方につながっていくものと思うので、そうした点も意識しながら、2021年シーズンを過ごせればと考えている。ぜひ、皆さんとともに陸上界を盛り上げていきたいと思っているので、よろしくお願いいたします。

 

【トラック&フィールド種目における現状と今後】

山崎一彦(トラック&フィールドディレクター)
東京オリンピックに向けては、ここまで「ゴールドターゲット」「メダルターゲット」「TOP8ターゲット」「ワールドチャレンジ」の4カテゴリーに分けて、強化を行ってきた。さらに、種目単位で、このカテゴリーに分けたことによって、より責任と成果を出しながらやってきたつもりである。そのなかで、今日来ていただいている土江コーチと今村コーチが担当する男子4×100mRと競歩(ともにゴールドターゲット)については、特に強化がうまく行われている。また、このあと河野ディレクターから報告があるマラソン(メダルターゲット)についても、メダルに到達できるところまで強化が進み、“三本柱”といえるようになってきた。オリンピック開催は1年延期となったが、そのなかでも、「メダルが見える」状況であるといえる。
このほか、(自分が担当している)メダルカテゴリーの種目では、男子棒高跳、男子やり投、男子400mHに関しても、(昨年は)棒高跳ややり投に関しても、順調にファイナル(決勝)、そしてメダルというところに複数人が行けそうなところまできた。さらに、昨年TOP8ターゲットからメダルカテゴリーの昇格した男子走幅跳については、もうすでに参加標準記録(8m22)を複数人(3名)が突破している状況である。
また、コロナ禍によるオリンピック開催が延期されたことにより、いろいろな懸念もあったが、そのなかにもかかわらずTOP8ターゲットのカテゴリーで伸びてきたといえるのが、男子走高跳、男子110mH、そして女子100mH(2019年よりTOP8ターゲットに昇格)の3種目。特に、走高跳と110mHについては、入賞(8位以内)が現実的なところまで来ている。
このように、概ね準備段階では、とてもうまく行っているのではないかと考えている。あとは、私たちが、良い環境のなか、選手が安心・安全で不安なく(オリンピック本番を)迎えられるようにすることを考えていければと思う。
また、ポストオリンピックというところでは、(具体的な)強化体制はまだわからないが、今、さまざまなトライをして、若手の育成やプログラムを進めている。競技会のあり方も含めて、選手がどうやって、このコロナ禍や(東京オリンピック後、新たな体制となる)このあとの強化を考えながら取り組むかは、大きく変わらなければいけない時期に来ていると思う。このあたりも、少しずつプログラムやプロジェクトなどを進めるなかで見計らっているところなので、楽しみにしていただきたい。

 

【長距離・マラソンにおける現状と今後】

河野 匡(長距離・マラソンディレクター)
男女マラソンについては、昨日、専任コーチ会議を実施した。すでに内定者が出ていること、そして候補選手(補欠)の絞り込みという課題があるなかで、今後については、それぞれの選手の動向や、どういう予定で本番に臨むかということを、4月12日を目処に、本番に向けてのシミュレーションをつくってもらうよう、昨日の会議でお願いしている。
従って、(本番までの流れの)細かい内容についてはこれから(判明していくこと)になるため、現段階でお伝えできることは少ないのだが、当面ということでは、(テストイベントとして開催される)5月5日の札幌マラソンフェスティバルにどういうふうに出場していくかということ。このほか、今、日本で開催を予定しているマラソン強化に必要なレースを抽出しているところだが、トラックレースの兵庫リレーカーニバル(4月24~25日)と日本選手権10000m(5月3日)、ロードレースのぎふ清流ハーフマラソン(4月25日)、そして、本番に近づくと7月4日に行われる函館マラソン(ハーフマラソン)あたりのレースには、各代表選手がトレーニングの流れのなかで出場するものと思われる。詳細は確定していないが、本番に向けて、着々と準備を進めているという状況である。
専任コーチ会議は、現在、2カ月に1回のペースで行っているが、このあと5月と6月上旬の2回、実施を予定している。そして、6月下旬に候補選手の絞り込みのための会議を行い、そのあと7月中旬・下旬と実施の予定で、本番までにあと5回の開催を予定している。そのほか、各大会には、出場することを前提に、瀬古利彦プロジェクトリーダー、坂口泰(男子マラソン)・山下佐知子(女子マラソン)各強化コーチ等が確認に行くことで確認している。このように、マラソンについては、オリンピック本番の8月7日・8日から逆算した本格的な準備が、始まっていくことになる。
今回、冬のマラソンで出場を予定しながらスタートラインにつけなかった者が出たことを、心配している人もいると思うが、我々としては現状を確認する限りでは、心配は全くしていない。オリンピック代表に内定しているなかで、どういった形で準備するかは非常に難しい。脚に不安があったり体調に不安があったりした場合に、「今、出場すべきか否か」は、代表選手にはすごく難しい判断だし、専任コーチにも非常に大きな戸惑いと迷いがあったことはコーチ会議で確認した。出場しなかった選手すべてが順調に練習を再開していることも聞いているし、医事委員会のサポート体制も完璧にできている。このように状況については、共有しながら進めることができているので、ご安心いただければと思う。
長距離種目のほうでは、すでに昨年12月に実施した日本選手権長距離において、男子10000mの相澤晃さん、女子5000mの田中希実さん、女子10000mの新谷仁美さんと、3名の内定者が出ている。また、男子10000mで伊藤達彦くんが、女子については5000mで廣中璃梨佳さんと新谷さんが参加標準記録をすでに破っていること、さらに、ここに来て若手の成長にも目覚ましいものがあるということで、まずは標準記録を破ることを前提になるが、この春の日本グランプリシリーズやREADY STEADY TOKYO等の競技会でオリンピック出場に向けたWAワールドランキングのポイント獲得争いが、かなり激化するのではないかとみている。我々としては、1人でも数多くの選手を派遣するという目標方針に従って、本番を見据えて出場を予定する選手たちがしっかり走ることを、サポートしていきたいと思っている。
長距離については、女子は、フルエントリーがほぼ可能な状態。男子については、ここ2年ほどの結果からは5000m、10000mで1人ずつが精いっぱいかなと思っていたが、昨年の日本選手権長距離のブレイクで、それぞれの選手たちがものすごい勢いで伸びてきているということ、学生やU20年代の競技者が成長していることも考えると、男子でも両種目で激しいレースが4月から繰り広げられるのではないかとみている。今回、(国内主要競技会においても)ワードランキングにおける大会カテゴリーの高いレースを準備することができたので、長距離については、男女ともにフルエントリーを目指して頑張っていきたい。
好調な選手もいれば、まだ準備段階の選手もいるようだが、それぞれが1年の延期を受けながらも、非常に高いモチベーションをよく維持しているなということを感じていて、選手たちの頑張り、コーチたちの献身的なサポートに頭が下がる思いである。この勢いを、ぜひともオリンピック開催に向けてのものに、また、オリンピックで力を発揮するような場面につなげていきたい。

 
【質疑応答】
Q:世界リレーの派遣について、陸連としての考え方、スタンスは?
A(山崎):種目ごとに戦略が違う。私からは、女子について述べる。女子は、4×400mRが、現状でなんとか参加に届くのではないかと見込んでいる。おそらく、出場可能となる世界リスト上位まで記録を上げていくのは難しいと思うので、世界リレーに出場して、とにかく決勝進出を目指す(注:世界リレー上位8カ国には出場権が与えられる)ことが目標になる。また、女子4×100mRに関しては、まだ世界リレーの出場権が獲得できていない状況なので、4月11日に行われる出雲陸上でトライアルを行う。インドネシアチームに出場していただけることが決まったので国際大会が成立する。そこでなんとか記録を上げて、まずは世界リレーの出場権を獲得することに希みを託したい。男子については、このあと土江コーチが話をしていただく。

Q:男女マラソンについて、代表が決まった段階では、内定者は本番までにハーフマラソンもしくはフルマラソンを1本は走る方向で進めていたと思うが、今後、レース出場を求める意向はあるか? そういう話は現場としているのか?
A(河野):走ってほしいという要望よりは、本番を見据えたなかで走らないとトレーニングの進捗が読めないという側面がある。そういったなかで我々としては、予定の確認を進めているところである。昨日の(コーチ会議での)話だと、それぞれ1本は走りそうな雰囲気はあった。そこまでが、現時点でお伝えできること。細かい点については、4月12日を期限とする確認をしてからになるし、チームサイドの考え方もあるので、ご容赦願いたい。ただし、義務化という強い意味ではなく、パフォーマンスを発揮するための必要なプロセスとして、全く試合に出ないでマラソンに臨むのは厳しいものがあることは、コーチも選手本人も理解しているので、なんらかの試合に出たいと意向である。また、ここに至るまでに駅伝等々で走って、それなりの力というのは示してくれているし、その間の練習状況についても、密に連絡を取り合っている。そういったなかで、うまく仕上げてもらえるような形で、我々もサポートしていきたい。

Q:5月5日の札幌でのテスト大会について、強化として確認したい点はあるか?
A(河野):コース等々については、選手と専任コーチが実際に走ることによって確認する。あとは宿舎や選手村などの流れをみるほか、事前合宿地となる千歳についても見ておきたいという者もいた。いずれにしても、本番のときのコンディションというよりは、安心してスタートラインにつくためのファシリティの面のチェックが入ってくることになると思う。

Q:他競技では、日本で行われる国際競技会への影響が生じているが、5月9日に国立競技場で行われるテスト大会(READY STEADY TOKYO)は、国際大会として実施すると聞いている。現状で実施が可能なのか? エントリー状況等の情報はあるか?
A(尾縣):この大会に関しては、陸連というよりは組織委員会の考え方が反映される。ご存じの通り、アスリートトラック(注:アスリート用東京オリパラ準備トラック:オリンピック・パラリンピックに関連し国内で開催される国際大会に出場する選手等に関し、必要な防疫上の措置を講じた上で入国を認め、入国後14日間の自宅等待機期間中の活動<大会参加等>を可能とする措置)の関係もあり、それをどう解釈するか。私たちとしては、当然ながら海外からのアスリートを招聘したいという考え方は強くあるが、今の時点では、どういった選手が来るかを言うことはできないし、そもそも海外の選手を招聘できるかどうかも確信は持てない状況にある。

Q:JOCでは、各競技団体に東京オリンピックの(具体的な数値的)目標を出してもらっていると思うのだが、陸上としては選手団が揃ってからといわれている。現状ではどう設定している?
A(麻場):(戦う)相手もわからないので、具体的な数は、今は出せない状況である。現状では、「メダル、入賞を1つでも多く」ということを目標のひとつとして掲げているが、それで済ませられるとは思っていない。選手が決まり、少なくとも他国の選手がわかった時点では、数として提示をするつもりでいる。選手が今の時点で「自分は金メダルを狙う」と言うのは、どんどん言っていただいてよいのだが、我々がこの時点で具体的に挙げるのは方向性として違うように思う。今の時点では、あくまでも、とにかく選手の希望や目標が叶うように、いかにバックアップできるかを考えていきたい。

 

【男子4×100mRにおける強化の状況と今後】

土江寛裕(男子100m・200m・4×100mRオリンピック強化コーチ)
まず4×100mRは、例年同様にこの冬に関しては、個人の強化を全面的にバックアップする形で、個々でトレーニングに励んでいただいた。先日の日本選手権室内(大阪)や、世界リレートライアル(宮崎)にも、その対象者が数名出場しており、日本選手権室内では優勝した多田修平くんが目を引いたし、宮崎ではケンブリッジ飛鳥くんや山縣亮太くんが出場して走ってくれた。宮崎のほうはレースのときだけ天候が荒れてしまい、コンディションとしては良くなかったのだが、特に山縣くんは久しぶりによい走りを見せてくれたと思っている。(左膝裏の違和感により日本選手権室内で決勝を棄権した)桐生祥秀については、ご心配をおかけしたが、MR(検査)でも異常は出なかった。(出場を計画していた)出雲陸上は回避するが、織田記念から競技を再開していく予定でいる。そういった形で、すでに走っている姿を見せてくれた選手たちもいるという状況である。
このあとについて、オリンピック本番までは、いわゆるフル代表としての4×100mRを組む予定はない。5月9日のテスト大会(READY STEADY TOKYO)でリレーを組むことも考えたが、競う相手(海外チーム)を呼びづらいということもあり実施しないことにした。このため、日本選手権(6月24~27日)で個人の出場権を獲得するメンバーが中心となってオリンピックのメンバーを組み、7月の合宿(例年通り、山梨での実施を計画中)において短時間で仕上げて、オリンピックに向かっていく方針である。
リレーのやり方であったりトレーニングのノウハウであったりは、我々にも、そして選手側にもしっかりと経験として積み上げられてきているので、その短期間での準備でも十分に金メダルが狙えるリレーが組めるという自信を持っている。
世界リレーについては、先日の宮崎(世界リレートライアル)で選考会を行ったが、結果をご覧になってわかる通り、ケンブリッジくん、山縣くんが出場したレースとは分けて、選考レースを行った。当然、選考レースのほうは世界リレーに行く意思のある選手たちで行っているので、発表はまだしばらく先になるが、この結果から4×100mRの代表を選ぶことにしている( https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202011/13_141511.pdf )。代表となる選手たちは、世界リレートライアルの結果から、だいたい推察できると思うが、世界リレーはかなり若い選手たちでチームを組むことになる。これは世界リレーを、新しい、若い選手たちがしっかりナルチームのリレーを経験する場として使うことを意図してのもの。また、男子4×100mRについては2019年ドーハ世界選手権の結果により、東京オリンピックについては出場権を獲得済みなので、この世界リレーにおいては、同時に上位10カ国に与えられる2022年ユージーン世界選手権の出場権獲得を目的として出場する。そして、そういった若い選手たちを含めて、日本選手権で勝負し、最終的にオリンピックのリレーの代表が決まるという流れにすることを考えている。
男子4×400mRのほうは、JSC(日本スポーツ振興センター)が実施する「次世代ターゲットスポーツの育成支援」事業による支援が継続されていて、この冬もナショナルチームとしての合宿を実施した。コロナ禍の影響で、南カリフォルニア大学(アメリカ)で行った一昨年のような海外合宿はできなかったが、国内で実施している。この合宿に参加した選手を中心に、宮崎での選考レースを経て、そこで選ばれたメンバーで、世界リレーの男子4×400mRと男女混合4×400mRの両リレーを戦ってくる予定である。両種目ともに、まだ東京オリンピックの出場権を得られていないので、現状のベストメンバーで臨み、条件となる「上位8カ国」をクリアして、出場権の獲得を考えている。
世界リレーで出場権が獲得できた場合は、日本選手権の個人種目で(出場権を)獲得した選手およびリレーメンバーで、東京オリンピックに向かって準備していくことになる。
また、オリンピック後のことについては、新しくなる組織において準備されることになるが、男子4×100mRに関しては特に、来年の世界選手権や2024年パリオリンピックにつながるように、この世界リレーという場で新しいメンバーが経験を積む機会をしっかりとつくっていきたい。

 

【男女競歩における強化の状況と今後】

今村文男(男女競歩オリンピック強化コーチ)
男子50km競歩は今週末に選考会となる日本選手権があり、そこで最後の1枠が競われる。また、女子(20km)についてはすでに選考会が終わっているが、残り1枠について参加資格を満たす者が出ていないため、今後、参加標準記録(1時間31分00秒)の突破あるいは、WAワールドランキングによるターゲットナンバー(注:女子20km競歩は60)を目標にしていくことになる。男女20km競歩と男子50km競歩のすべてで各3名がエントリーできるよう、しっかりとサポートしていきたい。
特に、オリンピックの開催が1年延びてしまったことで、暑熱の対策をどうするか、または国際審判の対策をどうしようかという不安や迷いを、現場のスタッフ、選手から多く聞いている。この2021年の東京オリンピックに向けては、やはりぶれることなく「競歩技術の向上」、そして「国際審判の対策」、最後に「暑さの対策」が3つの柱。これらの課題は、私たち現場だけでは解決できなかったことであり、2012年から継続的に行われてきた医科学サポート、そして、(JSCが行う)「次世代ターゲットスポーツの育成支援」事業等々でサポートいただいた今までの蓄積が、今日につながっているともいえる。今年に関しては、そうした蓄積してきたデータ、または国際経験というものを遺憾なく発揮できるよう、残る期間で精査しつつ準備していきたい。
特に、内定者に関しては、個別の強化をメインにしながら今日までやってきている。今後は、それぞれの対策に基づきながら、本番までの合宿や出場競技会に関して、専任コーチや所属先スタッフと検討しながら進めていく。本日、専任コーチ会議も行った。これから私たちのほうで、本番を見据えた競技カレンダーを逆算しながら、個々の意向を集約し、しっかりと内定者のサポートを進めていこうと思っている。また、冒頭で述べたように出場権が獲得できていない種目があるので、(必要に応じて)国際大会(への出場)、または国内競技会における国際競歩審判員の招聘等、しっかり準備しながら対応していきたい。
オリンピック本番での競歩のレースは札幌で開催されるが、我々は、例年7月以降に北海道千歳市で合宿をしてきている。今年についても、そこで事前調整や技術の確認等も含めた最終合宿を行い、札幌に乗り込めたらなと思っている。コロナ禍の状況で、ほとんどで思うように進まないことが多く、不測の事態や状況に即した対応力が求められるといえる。予定は柔軟に考えつつも、選手がいかに目標に辿り着けるかを考えながらサポートしていくことが大事だと考えている。
強化委員会の活動方針にもあるように、競歩の目標は、複数のメダル、入賞となる。前回のリオ大会では50km競歩で銅メダルを獲得、男子20km競歩でも入賞(7位)を果たしたし、この2016年から2019年までの世界選手権すべての男女20km競歩、男子50km競歩においても、必ずメダルまたは入賞レベルでの戦いができている。そういった実績をしっかりと発揮できるよう、私たち強化スタッフ、陸連医事委員会、科学委員会のバイオメカニクスの担当と連携を図りながらサポートしていきたい。
東京オリンピック以降の点については、競歩は、今回の東京オリンピック以降、大きく種目が変わることになっている。現在決まっている2022年のユージーン世界選手権での男女20km競歩と、男女35km競歩の実施についてまではイメージができているのだが、2024年のパリオリンピックでは、男女20km競歩は決まっているものの、男女混合イベントがどのような形で行われるのか定まっていない状況である。そういったなかでは、国際的にも情報収集を進め、各方面との連携をとりながら、対策を考えていく必要があると感じている。
私としては、チームジャパンに貢献できるよう、しっかりと準備いていくということで話を結びたい。

 
【質疑応答】
Q:輪島(4月11日の日本選手権50km競歩)については、国際競歩審判員は来日できるのか?
A(今村):事務局のご尽力により、海外から1名来ていただけることになった(注:これにより、国内にいる2名と合わせて世界記録やWAワールドランキング、オリンピックなど国際大会の参加資格記録の対象となる国際競歩審判員3名以上の条件を満たすことになる)。ただし、こういう状況下であるので、ご当人のPCR検査の結果や、または日本にいる国際競歩審判員の体調の問題もある。そうした点も含めて、しっかり準備をしていただけたらと願っている。

Q:千歳で行う競歩の事前合宿は、時期や期間は決まっているのか?
A(今村):例年7月中旬くらいに行っているので、おそらくそのあたりになると思う。ただ、先ほども述べたように、個別の対応が基本的な考え方。参加の日時は、各自の意向を集約しながら、4月中から連休明けを目処に各選手の状況を把握するつもりでいる。

Q:男子4×100mRについては、本番まではフル代表で組まないという話だった。これまで方針としてきた「実戦のなかで強化していく」という手段がとれないわけだが、この点をどう受け止めているか。また、こうしたコロナ禍の影響で、合宿等で仕上げていくことになるのは、日本にとっては有利になるという思いはあるか?
A(土江):「実戦的バトン練習」という取り組みによって、2019年ドーハ世界選手権で結果を出したときの前には、ロンドンでのダイヤモンドリーグに出場したり、ゴールデングランプリで走ったりといったように、実際のレースでバトンパス技術の向上を図ってきた。ただ、今年に関しては、どこかでリレーを組むことができたとしても、競い合える国を呼んだり、我々が行ったりすることが非常に困難な状況なので、これまで通りの実戦的リレー練習はできない。シーズンが始まってみないと、どの選手がどのくらいの調子なのかはわからないが、個人(種目)で代表権を得るであろうと思われる選手たちが選ばれた場合は、十分にこれまでの経験を持っているので、7月の合宿における短期間のトレーニングで、バトン練習をつくり上げることはできると考えている。有利かどうかはわからないが、我々にとって、十分に準備ができる状況にあると考えている。

Q:東京オリンピック以降で種目がなくなる男子50km競歩について、ランキング上位選手の動向など、何か情報はあるか?
A(今村):タレント選手(オーストラリア)は先日引退というメッセージがSNSで出ていたので、おそらく競技は継続しない状況だと思う。また、メダル常連であったディニ選手(フランス)やトート選手(スロバキア)なども、なかなか情報や出場している競技会が少なく、2020年に関しては、トート選手の3時間41分15秒が世界最高記録という状態だった。やはり長い距離がやりづらい社会状況なのかなと感じている。我々、日本においても、昨年は50kmに関しては1試合もなかったので、私たち(強化スタッフ側)も50kmに対する距離感やレース展開は、選手たち以上に感覚が崩れているのではないかと思ったりもしている。そういった情報が少ない状況ではあるが、(日本選手権50km競歩に)出場する選手に関しては、ベストを尽くして、自分の目標記録、あるいは選考会なので勝つためにどうするかにこだわってレースをしてほしいなと思っている。

 
取材・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)

※本稿は、4月5日に行われたメディアに向けて行われた2021年度強化方針説明会で、各氏が発表した内容および質疑応答の一部をまとめたものです。より正確に伝わることを目的として、補足説明を加える等の編集を行っています。

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