2021.02.17(水)その他

第3回ライフスキルトレーニングプログラム レポート ~自分の弱みを理解し、闘う世界を広げる~



日本陸連が昨年12月より実施している「ライフスキルトレーニング」の第3回全体講義が2月8日に開催されました。このプログラムは、第1期生として選出された大学生アスリート( https://www.jaaf.or.jp/news/article/14514/ )を対象に、株式会社東京海上日動キャリアサービスのサポートを受けて進められています。今回もオンラインでの展開で、スポーツ心理学博士の布施努特別講師による講義と、実際に社会で活躍する元アスリートをゲストスピーカーに招いてのワークショップが行われました。

オンラインによる全体講義も3回目。この日は、まず、日本陸連強化委員会で本プログラムを統括する山崎一彦トラック&フィールドディレクターが登壇しました。山崎ディレクターは、「みんなが、それぞれに問題意識を持って人の話を聞き、それに対して、すぐに自分の意見をきちんと言えるようになってきたことを強く感じている。これはすごくいいことで、競技にも絶対に生きる。ぜひ、実践を継続してほしい」と激励しました。さらに、後述するスティーブ・ジョブズ氏のスピーチ映像を視聴したあとの対応を引き合いに出し、「学んだことを、自身でさらに“深掘り”しているか?」と問いかけ、「自分の持つ問題意識を、もっともっと高めていこう」とリクエスト。「残り2回の講義をフル回転で頑張ってほしい。成長を楽しみにしている」と鼓舞しました。



布施特別講師の講義は、そのスティーブ・ジョブズ氏(注:米国Apple創設者の1人としてMacintoshやiPhoneなどを世に送り出した人物)のスピーチの話題からスタートしました。これは、ジョブズ氏が2005年に母校スタンドフォード大学の卒業式で、「点と点をつなげる、愛と敗北、死について」の3つを語り、「Stay Hungry. Stay Foolish(ハングリーであれ。愚か者であれ)」の言葉で締めくくった「伝説の名スピーチ」として広く知られているもの。受講者たちは、1週間前に実施されたグループワークで映像を視聴し、個別に感想文を提出していましたが、今回の講義では2人1組となって、「話し手はどうすれば自分の思いを相手に強く伝えられるか、聞き手はどうすれば相手が話しやすいか、それぞれに仮説を立てて実施してみる」をポイントに、自身の感想や意見を相手に伝え合うブレイクアウトセッションに取り組みました。

そして講義はこの日のメインテーマとなる「自己決定能力」に関する内容へ。布施特別講師は、これまでにも何度も出てきた「仮説を立てる」というアクションに際して、「正解がなくても、まずは“自分で決める”ことが必要」と述べ、その能力は、次の5つの段階、すなわち
・第1段階「コーチ(や誰か)に言われたから、やる」
・第2段階「やらなければならないから、やる」
・第3段階「自分にとって重要だから、やる」
・第4段階「やりたいと思うから、やる」
・第5段階「楽しいから、やる」
のステップを踏んでいくと説明。その後、受講者たちは、少人数でのブレイクアウトセッションと発表を行うなかで、自己決定の動機付けは他者による外発的なもの(第1段階)から次第に内発的なもの(第2段階以降)へ、さらに義務的なもの(第2段階)から能動的なもの(第3~5段階)へと変化していくこと、第3~5段階の各層には明確な線引きはないが、自分が第5段階に達すると違いが見えるようになってくることなどを理解しました。さらに、成長は、一直線に進むのではなく、「仮説を立てる→実行する→データを得る→データを踏まえて再び仮説を立てる」というサイクルを回し続けていくなかで、あるとき急にステージが上がっていることに気づくもので、この「仮説思考」を用いた「創造的戦略」と、将来のなりたい自分から逆算して自分の今後をプランニングしていく「縦型思考」を用いた「意図的戦略」の2つを、いかにバランスよく組み込めるかが大切となることも学びました。



その後、前回の全体講義で「オリンピックメダリストに共通する特徴」として挙げられた5項目のうち、時間の都合で残されていた「オートマチズム(心も身体も自然に動けるようになっている)」と「ピーキング(本番にパフォーマンスのピークを合わせられる)」の話に。オートマチズムは、「見る化・言語化によって、“経験を科学”にすること」「コントロールできること、できないことの整理」「役割性格を使いこなすこと」の継続によって、自身を“なりたい自分像”に近づけていくなかで獲得できることが説明されたほか、ピーキング能力の獲得においては、縦軸を挑戦課題(チャレンジ=C)、横軸を能力(スキル=S)とするグラフのなかで、両者のバランスを保った状態で高めていく(CSバランス)ことが大切で、それは「ダブルゴール」(目標として大きな目標と小さな目標を2つ設け、さらに小さな目標には最高目標と最低目標を設ける方法)の設定によって達成しやすくなる点も示されました。最後に、「自分で何かターゲットを設定し、CSバランスを考慮しつつ、小さな目標を据えながら、ピーキングしていくことに取り組む」という課題が出され、講義は終了しました。

わずかな休憩を挟んでスタートした第2部のゲストスピーカーは、学生時代にテニス選手として活躍した経験を持つ小柳健一氏。大学卒業後は三菱商事に入社し、海外勤務経験等も含めて“商社マン”として活躍。同社執行役員、中部支社長、グループ顧問等の重要なポストを歴任しました。2019年には大日コーポレーション株式会社代表取締役専務兼グループCOOに就任。同時に大日コンクリート工業株式会社代表取締役社長、帝京平成大学スポーツ局長、株式会社グロップ顧問と、複数の要職を務めつつ現在に至っています。



小柳氏は、トップアスリートが持つ「強み」(真剣勝負からフェアネスを身につけている、科学と非科学という相反するものとの向き合い方を身につけている、社会のリーダーになる鍛錬ができている、努力を続ける能力が高まっている)と、「弱み」(一般教養レベルが低い、世界が狭いために世情に疎く常識にずれがある、英語ができない、コミュニケーション能力に劣る等)を、自身の経験や構築するに至った背景なども交えながら紹介。強みに関して「真剣勝負をしているトップアスリートは、自ずと人間的成長の機会を与えられている。自信を持ってそれぞれの競技に打ち込んでほしい」とエールを贈った一方で、「(そうした強みを持っていると同時に、自分が非常に)限られた世界で生きていることも自覚してほしい。新聞の一面を読み続けるだけで最低限の知識は身につく。知らないことは調べるなどして勉強すべきだし、自分が取り組んでいる競技の世界以外の、さまざまな分野の人とコンタクトをとる経験を増やしてほしい。また、これからの時代では英語のマスターは必須。今のうちに身につけておくべき」と、学生時代のうちに弱みを克服あるいは解消することの大切さを訴えました。

その後、小柳氏は、東京海上日動キャリアサービスの田﨑博道代表取締役社長がファシリテーターとなって行われた受講者たちとの質疑応答で、各受講者がさまざまな観点から繰り出す問いを、迷う様子なく受け止め、迅速かつ端的に回答していく場面を披露。そのやりとりは、受講者たちに小柳氏のライフスキルの高さを実感させるとともに、改めてライフスキルの重要性を認識させる機会となりました。


文:児玉育美(JAAFメディアチーム)


■ライフスキルトレーニングプログラム特設サイトはこちら
https://www.jaaf.or.jp/lst/

■~競技パフォーマンス向上とキャリア自立の両立を目指して~第一回ライフスキルトレーニングプログラム レポート
https://www.jaaf.or.jp/news/article/14540/

■第2回ライフスキルトレーニングプログラム レポート ~目標に向けて、自分にできることを~
https://www.jaaf.or.jp/news/article/14612/

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