3月16日、日本陸連は、同日午後に行った理事会での承認を経て、本年8月にジャカルタ(インドネシア)で開催されるアジア大会男女マラソン代表選手および補欠選手を、東京都内で発表しました。なお、この大会の代表選手は、派遣団体である日本オリンピック委員会の正式決定によって、最終的に確定する形となります。
会見には、尾縣貢専務理事、瀬古利彦強化委員会マラソン強化戦略プロジェクトリーダー、河野匡強化委員会長距離・マラソンディレクターが登壇。まず、挨拶を行った尾縣専務が、代表選考のプロセスを紹介したうえで、理事会での承認を得たことを報告。「アジア大会で良い成績を残すのは大きな目標ではあるが、2020年東京オリンピックに向かうプロセスにあるレースとしても、極めて重要な位置を占める。高温多湿下の環境下でのレースが予想されていることから、しっかりとその対策を立てて臨んでいく。それが2020年に向けても生かされると考えている」と述べました。
続いて瀬古リーダーが、男子代表に井上大仁選手(MHPS)、園田隼選手(黒崎播磨)を、補欠として上門大祐選手(大塚製薬)、大塚祥平選手(九電工)を、女子は野上恵子選手(十八銀行)、田中華絵選手(資生堂)を代表に、補欠として小原怜選手(天満屋)、加藤岬選手(九電工)を選出したことを発表(※各選手のプロフィルおよび競技実績は、http://www.jaaf.or.jp/files/competition/document/1274-6.pdf をご参照ください)。河野ディレクターから選考理由や選考過程の詳細が報告されたのちに、代表選手として、井上選手の記者会見が行われました。
選考過程の詳細および井上選手のコメントは、下記の通りです。
【選考過程の詳細(要旨)】
選考内容の詳細を発表する前に、まず、当初、選考要項で男女各1名としていた補欠を、男子1名ないし2名にすることを本日の理事会で承認いただいたことをご報告する。これは、MGC設立に際して、東京オリンピック選考方針のなかで補欠2名としていること、また、アジア大会に臨むに当たって、この大会の編成方針である「優れた選手と選手を取り巻くスタッフが本番さながらの体制で本大会に取り組むことを期している」としていることから、強化委員会から変更を申し出た。
補欠を2名としたのは、前述した「本番さながらの体制で取り組む」という観点で、大会に向けた準備が夏のトレーニングとなるため故障・体調不良を生じる恐れがあり、アジア大会で欠員は出せないということがあった。また、東京オリンピックの暑熱下を想定したなかで、準備の過程で補欠2名も含めた男子4名、女子4名で、暑さへの対策をしっかりと準備していくという目的も兼ねている。
代表選考に際しては、アジア大会で戦うということもあるが、強化委員会としての一番大きな目的は2020年東京オリンピックでのメダル獲得。そのなかで、まずは、できる限りMGC有資格者のなかから選ぶことを前提に、関係するチームの選手、スタッフと協議を重ね、現場の意向を尊重する形で選考を進めた。
男子では、井上選手に「アジア大会で力を発揮したい。来る東京オリンピックに備えて暑さのなかでしっかり走りたい」という本人の意向もあったので、まず選出した。このほかに、MGC有資格者のなかでは上門選手、園田選手、村澤選手が、有資格者ではないが大塚選手が代表への意向を示したが、我々としては別大マラソンの劣悪な気象条件のなかでの走りから、どんなレースであっても力を発揮できる選手だろうということで園田選手を選出した。村澤選手については代表に選ばれない場合は、秋のレースで戦いたいという意向もあったので、補欠は上門選手、大塚選手にしたのが男子の選考の過程である。
女子については、今回、若い選手が初マラソン、もしくは急成長したというなかで、暑さのなかで(アジア大会の)準備をするということよりも、もう1ランク、マラソンをレベルアップしたいという意向があり、松田瑞生選手(ダイハツ)、前田穂南選手(天満屋)、関根花観選手(JP日本郵政グループ)については、秋以降のワールドマラソンメジャーズ等で、ケニア、エチオピア勢と戦いたいという意向があったので、それを重視しつつMGCのなかにいる選手に、今後の強化の取り組みを説明した。その結果、まず、野上選手から出場の意思を表明していただいた。野上選手は、昨年、トラックで10000mの記録も伸ばし、かつアジア選手権でもマラソンで優勝している。年齢は32歳だが、スピード、マラソンともに成熟期を迎えており、非常に期待しているランナーである。岩出玲亜選手(ドーム)、安藤友香選手(スズキ浜松AC)については、これまでマラソンの頻度が多かったので、しっかりレベルアップを図ってから準備をしたいということで、アジア大会については回避したい旨の申し出があった。
もう1人の代表は田中選手。当初、我々は、MGC有資格者からは、かなりの辞退者が出るのではないかと考えていたため、ワイルドカードのなかに「アジア大会のメダリストは、MGC有資格者になる」という1項目を入れていたのだが、結果的に、女子の1名だけが有資格者でない人間が選ばれることとなった。田中選手は、スピードもあるし、体力的にもベースのある選手。彼女がしっかりメダルを取ってMGC有資格者になってほしいという思いもあって選出した。
女子の補欠に選んだ小原選手・加藤選手については、先日の名古屋ウィメンズマラソンでMGCに選ばれてもアジア大会に出たいという意思表明があった。夏に対する戦いの準備をしながら、MGCレース、東京オリンピックを狙いたいという意向でいる模様。また、加藤選手、そして男子補欠の大塚選手は、アジア大会と同時期に行われる北海道マラソンへの出場を描きながら夏のマラソンの準備をして、もし、アジア大会への出場が必要となれば、いつでも出られる態勢にするという意向ももらっている。
現場の日本代表としての意識が非常に高いこと、MGC、また東京オリンピックに向けて目的意識が共有されていることを実感できた今回の選考過程だった。まずは、アジア大会で男女ともに1つはメダルを獲得すること、そして、東京オリンピックに向けた対策に、しっかりと目処がつけられるような大会にしたい。この2つの目的を持ってアジア大会を戦いたいと思う。
【代表選手コメント(要旨)】
井上大仁(MHPS)
このたびは選んでいただいて非常に感謝している。この大会では、厳しい環境下でどれだけ自分の走りができるかを、しっかりやれればと思っている。具体的なタイム自体はあまり考えていないが、暑さのなかで勝負して勝つことをテーマにして頑張っていきたい。
出場を決めるに当たっては、(アジア大会ではなく)記録を狙うレースへの出場も考えてはいたが、記録を狙うために環境のいいレースばかりを経験しても強さは身につかないというのが、自分の、またチームとしての考え。もちろん記録を狙うなかで強さを磨いていくという大迫選手や設楽選手といった方たちの考えもわかることではあるが、自分は自分なりに勝負をして結果を出していくということで、アジア大会出場を選んだ。もちろん、記録を狙うレースに出場することは今後あるかもしれないが、世界と勝負するという上で、どんな条件下でも対応できるようにしていきたいというのが今の自分の考えである。
昨年、ロンドン世界選手権で日本代表を1回経験したことで、自分はそのつもりでなかったけれど身体が緊張して硬くなっていたとか、改めて考えてみると浮き足だっていたとか、現場にいたときはわからなかったことに気づくことができた。そういう経験を踏まえた上で今回は臨めるという意味で、もちろん代表としてしっかりやっていかなければならないというのはあるものの、気持ちの面では落ち着いて挑むことができそうだと思っている。
東京オリンピックも夏に行われるということで、環境としては非常に似たような状況が経験できると思っているし、もちろん今回の走りは東京にもつながっていくとは思うが、だからといって「東京のための練習」という考えは全くない。東京までの目標はあるけれど、その前の1本1本のレースを大事に、全力で取り組んでいく気持ちでいる。
目標として、金メダルを取るということは、もちろんやるからには狙っていく。そう言うことでプレッシャーはかかるかもしれないが、そのなかで実行できれば自分がさらに強くなれるきっかけがつくれるかなと思っている。相手がどういった選手であっても、自分の走りを心がけ、金メダルを狙っていきたい。
構成・文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト
※本稿は、3月16日に行われた記者発表で行われた説明、コメント、質疑応答を元に再構成しています。
>>第18回アジア競技大会 マラソン代表選手はこちら
>>井上選手、日本代表内定! アジア大会日本代表会見コメントはこちら
>>マラソングランドチャンピオンシップ特設サイト