「表1」「図1」は、スポーツ紙や陸上専門誌、あるいはネット上でもすでに紹介されているが、日本陸連科学委員会が測定したデータである。
【表1/桐生選手の最高速度とその出現区間、総歩数】
2013.04.29 | 2016.08.13 | 2017.04.29 | 2017.06.23 | 2017.09.09 |
織田記念 | リオ五輪 | 織田記念 | 日本選手権 | 日本学生 |
決勝 | 予選 | 決勝 | 準決 | 決勝 |
10.03 | 10.23 | 10.04 | 10.14 | 9.98 |
2.7 | -0.4 | -0.3 | -0.2 | 1.8 |
11.65m/s | 11.20m/s | 11.42m/s | 11.38m/s | 11.67m/s |
40~50m | 55m | 55m | 55m | 65m |
47.4歩 | 48.2歩 | 48.0歩 | 48.0歩 | 47.3歩 |
【図1/2017年の3レースでの走速度・ピッチ・ストライド曲線】
・●印は、最高速度が出現した地点を示す
上記の通り、9秒98の時の最高速度は「11.67m/s」で時速に直すと「42.0㎞」。その出現地点は「65m付近」だった。
日本陸連科学委員会が1991年から2016年までに蓄積してきた国内外の200人を超える選手(延べ919回。9秒58~11秒58で追風参考記録も含み、その平均と標準偏差は10秒44±0秒22)の最高速度(X。m/s)と記録(Y。秒)の関係を示す一次回帰式は、
Y=-0.7270X+18.47
r=-0.966
P<0.001
である。
その相関係数(r)は、「-0.966」で統計学的にみて非常に高い負の相関が認められる(0.1%水準)。この「X」に9秒98の時の最高速度「11.67m/s」を代入すると、その推定記録は「9秒99(9秒986)」となる。実際の記録とは、100分の1秒の差だ。
また、上記の延べ919回のデータのうち、公認条件下での自己ベストに限るとその対象は207人で、回帰方程式は、
Y=-0.7378X+18.60
r=-0.974
P<0.001
この式に「11.67m/s」を当てはめると、やはり「9秒99(9秒990)」という数字が出てくる。
また、最高速度の出現地点は以前は「55m付近」あるいは2013年の織田記念(決勝/10.03 +2.7)では「40~50m」だったが、今回は「65m付近」で後方にシフトした。
世界記録保持者のウサイン・ボルト(ジャマイカ)をはじめとする、9秒台の選手では、60~70mの区間でトップスピードに達することが多い。筆者が各種の資料から調べた9秒台の選手の計22件のデータによると、最高速度の出現地点は、「45m地点」が1件(4.5%)、「55m地点」が7件(31.8%)、「65m地点」とそれよりもあとを合わせると14件(63.6%)だった。
一方、10秒台の日本人選手では、8割以上が「55m地点」かそれよりも前の地点で最高速度に達している。トップスピードに達する地点が後ろになれば、フィニッシュまでの減速区間が短くなり、それだけ最終的なタイムのアップにもつながるものと考えられる。その点からしても、9秒98の時の桐生選手のスピード曲線は「9秒台の選手」のレース展開であったといえよう。
ちなみに、ボルトが9秒58の世界記録で走った時(2009年ベルリン世界選手権)のトップスピードは、国際陸連の資料によると70~80mを0秒80で走っていて秒速は「12.50m」、時速「45.0㎞」である。
★<第3回>
・桐生選手のピッチ、ストライドの年別の変化
・日本歴代上位選手とのピッチ・ストライドの比較
に続く...
※記録情報は2017年12月31日判明分
文:野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:フォート・キシモト
記録と数字からみた「9秒98」や「9秒台」についての“超マニアックなお話”
▼第1回「世界記録と日本記録の進歩は?」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11324/
▼第2回「桐生選手のトップスピードは時速42.0㎞」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11327/
▼第3回「桐生選手のピッチ、ストライドの年別の変化/日本歴代上位選手とのピッチ・ストライドの比較」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11337/
▼第4回「「初9秒台」の以前とその後」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11338/
▼第5回「世界の9秒台選手の特徴」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11367/
▼第6回「「9秒台」の時の「風速」」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11366/
▼第7回「桐生選手に続く日本人選手の「9秒台」の可能性」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11368/
▼第8回「五輪&世界選手権の「ファイナリスト」への条件」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11369/
▼第1回「世界記録と日本記録の進歩は?」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11324/
▼第2回「桐生選手のトップスピードは時速42.0㎞」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11327/
▼第3回「桐生選手のピッチ、ストライドの年別の変化/日本歴代上位選手とのピッチ・ストライドの比較」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11337/
▼第4回「「初9秒台」の以前とその後」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11338/
▼第5回「世界の9秒台選手の特徴」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11367/
▼第6回「「9秒台」の時の「風速」」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11366/
▼第7回「桐生選手に続く日本人選手の「9秒台」の可能性」
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▼第8回「五輪&世界選手権の「ファイナリスト」への条件」
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▼2018年4月~「日本グランプリシリーズ」が始まります!
http://www.jaaf.or.jp/gp-series/
▼5月20日(日)「セイコーゴールデングランプリ陸上2018大阪」開催!
http://goldengrandprix-japan.com
▼6月24日(金)~26日(日)「第102回日本陸上競技選手権大会」開催!
http://www.jaaf.or.jp/jch/102
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