昨年2017年9月9日13時30分過ぎ、日本陸上界にとって悲願ともいえる公認条件での「100m9秒台(9秒98)」が桐生祥秀選手(東洋大4年)によって達成された。
1968年10月14日、メキシコ五輪の決勝でジム・ハインズ(アメリカ)が人類初の電動計時での公認の9秒台(9秒95)をマークしてから48年10カ月と27日目にして日本人も「9秒台の世界」に足を踏み入れることになった。
「2017年・流行語大賞」でも「9.98」が「特別賞」に選ばれ、陸上関係者のみならず一般の人にとっても非常にインパクトのある数字であったことを示した。
日本陸連の「2017アスリート・オブ・ザ・イヤー」にはロンドン世界選手権・男子50㎞競歩で銀メダルに輝いた荒井広宙選手(自衛隊体育学校)が選出され、桐生選手は「特別賞」を受賞。11月17日から30日に日本陸連がインターネットで呼びかけた「ファン投票2017/今年最も印象に残った選手は!?」では、桐生選手がトップに輝いた。
このほか、「滋賀県民スポーツ大賞・最高栄誉賞」「彩の国功労賞」「埼玉県体育賞会長特別賞」「京都府スポーツ表彰特別栄誉賞」「京都市スポーツ最高栄誉賞」をはじめ、スポニチフォーラム制定の「FOR ALL 2017・グランプリ」、毎日新聞の「毎日スポーツ人賞・グランプリ」など数えきれないほどの多くの賞を受賞した。
ここでは、「9秒98」や「9秒台」を中心とした「あれやこれや」をいくつかの“超マニアック”なデータをもとに8回にわたって紹介しよう。
各回の内容は、以下の予定。
<第1回>
・世界記録と日本記録の進歩は?
・世界の9秒台選手は?
<第2回>
・桐生選手のトップスピードは時速42.0㎞
<第3回>
・桐生選手のピッチ、ストライドの年別の変化
・日本歴代上位選手とのピッチ・ストライドの比較
<第4回>
・「初9秒台」の以前とその後
<第5回>
・世界の9秒台選手の特徴
<第6回>
・「9秒台」の時の「風速」
<第7回>
・桐生選手に続く日本人選手の「9秒台」の可能性
<第8回>
・五輪&世界選手権の「ファイナリスト」への条件
◆世界記録と日本記録の進歩は?
2017年の日本選手権前の日本陸連HPでも紹介(http://www.jaaf.or.jp/news/article/10245/)したが、この100年あまりに世界記録と日本記録がどのように進歩してきたのかを振り返ってみた。【世界記録】
<手動計時>
10秒6 1912.07.06~1921.04.23 = 8年9カ月17日
10秒4 1921.04.23~1932.08.09 = 11年3カ月17日
10秒3 1932.08.09~1936.06.20 = 3年11カ月11日
10秒2 1936.06.20~1956.08.03 = 20年1カ月14日
10秒1 1956.08.03~1960.06.21 = 3年10カ月18日
10秒0 1960.06.21~1968.06.20 = 7年11カ月30日
9秒9 1968.06.20~
※1975年から電動計時のみを過去に遡及して世界記録として公認
<電動計時>
9秒9台 1968.10.14~1991.08.25 = 22年10カ月11日
9秒8台 1991.08.25~1999.06.16 = 7年9カ月22日
9秒7台 1999.06.16~2008.08.16 = 9年2カ月0日
9秒6台 2008.08.16~2009.08.16 = 1年0カ月0日
9秒5台 2009.08.16~ = ??
【日本記録】
<手動計時>
12秒0 1911.11.19~1915.10.21 = 4年11カ月2日
11秒5 1915.10.21~1918.11.03 = 3年0カ月13日
11秒4 1918.11.03~1921.11.13 = 3年0カ月10日
11秒2 1921.11.13~1922.04.23 = 5カ月10日
11秒0 1922.04.23~1925.11.15 = 3年6カ月22日
10秒8 1925.11.15~1927.10.09 = 1年10カ月24日
10秒7 1927.10.09~1931.04.29 = 3年6カ月20日
10秒6 1931.04.29~1931.05.30 = 1カ月1日
10秒5 1931.05.30~1933.09.23 = 2年3カ月24日
10秒4 1933.09.23~1935.06.09 = 1年8カ月17日
10秒3 1935.06.09~1964.06.14 = 29年0カ月5日
10秒1 1964.06.14~
※1975年から電動計時を公認。1984年に過去に遡及して公認。1993年から電動計時のみを日本記録として公認。
<電動計時>
10秒3台 1968.10.14~1988.09.11 = 19年10カ月28日
10秒2台 1988.09.11~1993.10.26 = 5年1カ月15日
10秒1台 1993.10.26~1997.07.02 = 3年8カ月6日
10秒0台 1997.07.02~2017.09.09 = 20年2カ月7日
9秒9台 2017.09.09~ = ??
以上の通りで、0秒1(0秒10)単位の記録がどのくらいの期間続いたのかを示した。
同じ「0秒10」を短縮するにも僅かの期間しか要しなかったこともあれば、世界記録では、手動計時時代の10秒2や、電動計時になってからの9秒9台は20年以上も続いた。また、日本記録では、手動計時の10秒3が29年、電動計時の10秒3台と10秒0台も20年あまり続いた。世界記録の「9秒9台」は、23年近くも続いたが、日本記録が「9秒8台」に突入するのは??
◆世界の9秒台選手は?
桐生選手の「9秒98」は、2017年のシーズン終了時点で、2017年世界16位タイ、世界歴代98位タイ、史上125人目の「9秒台スプリンター」で、トータル881回目の公認での9秒台である。なお、判定写真を「1000分の1秒単位」まで読み取ると、「9秒979」だった。国別記録が「9秒台」なのは26カ国で、日本は最も新参の26番目の国となった。なお、2010年にオランダに統合された旧オランダ領アンティルのチュランディ・マルティナが2008年に9秒93で走り、オランダ国籍になってからの2012年にも9秒91をマークしたので、これを含めると27カ国となるが、アンティルは現在は存在しないので、ここでは26カ国として扱った。
国別の人数では、下記の通りアメリカが52人で125人中の41.6%を占める。なお、国籍変更があった選手は、ベストを出した時の国籍とした。
1)52人 アメリカ
2)18人 ジャマイカ
3)8人 イギリス
4)7人 ナイジェリア
5)6人 トリニダードトバゴ
6)5人 南アフリカ
7)4人 カナダ
8)3人 フランス
9)2人 ガーナ
〃) 〃 カタール
〃) 〃 トルコ
〃) 〃 ジンバブエ
13)1人 14カ国
で、計26カ国。
個人別の公認条件での9秒台の回数のトップ10は以下の通り(自己ベストの後ろの「D」は、ドーピング違反で処分を受けたことがある選手。記録が抹消された期間の9秒台の回数は「D」の後ろに示し、トータル回数にはカウントしていないが、見落としがあるかもしれない)。
(写真)左上からアサファ・パウエル、ジャスティン・ガトリン、ウサイン・ボルト、モーリス・グリーン、マイク・ロジャース、タイソン・ゲイ、ヨハン・ブレイク、ネスタ・カーター、アト・ボルドン、フランク・フレデリックス
1)97回 アサファ・パウエル
(ジャマイカ/自己ベスト9秒72/D=1回)
2)57回 ジャスティン・ガトリン
(アメリカ/9秒74/D=7回)
3)53回 ウサイン・ボルト
(ジャマイカ/9秒58)
4)52回 モーリス・グリーン
(アメリカ/9秒79)
5)39回 マイク・ロジャース
(アメリカ/9秒85/D=1回)
6)38回 タイソン・ゲイ
(アメリカ/9秒69/D=6回)
7)31回 ヨハン・ブレイク
(ジャマイカ/9秒69/D=2回)
8)29回 ネスタ・カーター
(ジャマイカ/9秒78/D)
9)28回 アト・ボルドン
(トリニダードトバゴ/9秒86)
10)27回 フランク・フレデリックス
(ナミビア/9秒86)
★「<第2回>桐生選手のトップスピードは時速42.0㎞」に続く...
※記録情報は2017年12月31日判明分
文:野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:フォート・キシモト
記録と数字からみた「9秒98」や「9秒台」についての“超マニアックなお話”
▼第1回「世界記録と日本記録の進歩は?」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11324/
▼第2回「桐生選手のトップスピードは時速42.0㎞」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11327/
▼第3回「桐生選手のピッチ、ストライドの年別の変化/日本歴代上位選手とのピッチ・ストライドの比較」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11337/
▼第4回「「初9秒台」の以前とその後」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11338/
▼第5回「世界の9秒台選手の特徴」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11367/
▼第6回「「9秒台」の時の「風速」」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11366/
▼第7回「桐生選手に続く日本人選手の「9秒台」の可能性」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11368/
▼第8回「五輪&世界選手権の「ファイナリスト」への条件」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11369/
▼第1回「世界記録と日本記録の進歩は?」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11324/
▼第2回「桐生選手のトップスピードは時速42.0㎞」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11327/
▼第3回「桐生選手のピッチ、ストライドの年別の変化/日本歴代上位選手とのピッチ・ストライドの比較」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11337/
▼第4回「「初9秒台」の以前とその後」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11338/
▼第5回「世界の9秒台選手の特徴」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11367/
▼第6回「「9秒台」の時の「風速」」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11366/
▼第7回「桐生選手に続く日本人選手の「9秒台」の可能性」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11368/
▼第8回「五輪&世界選手権の「ファイナリスト」への条件」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11369/
▼2018年4月~「日本グランプリシリーズ」が始まります!
http://www.jaaf.or.jp/gp-series/
▼5月20日(日)「セイコーゴールデングランプリ陸上2018大阪」開催!
http://goldengrandprix-japan.com
▼6月24日(金)~26日(日)「第102回日本陸上競技選手権大会」開催!
http://www.jaaf.or.jp/jch/102
http://www.jaaf.or.jp/gp-series/
▼5月20日(日)「セイコーゴールデングランプリ陸上2018大阪」開催!
http://goldengrandprix-japan.com
▼6月24日(金)~26日(日)「第102回日本陸上競技選手権大会」開催!
http://www.jaaf.or.jp/jch/102
関連ニュース
-
2024.12.13(金)
第69回全日本実業団対抗駅伝競走大会(ニューイヤー駅伝)のエントリーリスト、応援方法に関する規制のルールを掲載しました
大会 -
2024.12.12(木)
第69回全日本実業団対抗駅伝競走大会(ニューイヤー駅伝)のコース案内図を掲載しました
大会 -
2024.12.12(木)
【日本グランプリシリーズ2024】シリーズチャンピオン・種目別チャンピオン決定!筒江・福部が初のチャンピオンに輝く
大会 -
2024.12.11(水)
【MGC】開催記念キャンペーン:マラソン日本代表を懸けた一戦!
イベント -
2024.12.11(水)
【ダイヤモンドアスリート】第11期認定式・修了式レポート&コメント:日の丸を背負う選手へ!未来へ想いを馳せる
選手