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2024.07.16(火)

【パリオリンピック】メダル獲得を目指し、Team Japanが始動!男子4×100mリレー日本代表公開練習レポート&コメント



>>パリ2024オリンピック 特設サイト

日本陸連は7月14日、「パリ2024オリンピック」において、金メダル獲得を目指して準備を進めている男子4×100mリレー日本代表選手の練習を、メディアに公開しました。公開練習に参加したのは、個人種目で海外を転戦したのちにパリに入るスケジュールを組んでいるサニブラウンアブデルハキーム選手(東レ)を除く、坂井隆一郎(大阪ガス)、東田旺洋(関彰商事)、鵜澤飛羽(筑波大学)、上山紘輝(住友電工)、飯塚翔太(ミズノ)、栁田大輝(東洋大学、ダイヤモンドアスリート)、桐生祥秀(日本生命)の7選手。東京・北区の味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)に集まり、7月13~15日の日程で、国内では最終となる合宿を実施しています。



公開されたのは、2日目の練習です。この日は、梅雨前線の停滞により朝から雨がち。気温こそ30℃を超えることはなかったものの、蒸し暑さが強く感じられる気象状況となったなか、練習は、午前9時半から始まりました。選手たちは全員でバトンパスをしながらジョグを行ったのちに、各自の方法によるウォーミングアップで入念に準備。バトンパスを行いながらの流し、スパイクシューズに履き替えての流しと、徐々に出力スピードを高めたうえで、メインとなるバトンパス練習へと移っていきました。



パスワークの精度を磨いていくことを目的とするこのトレーニングは、部分練習に位置づけられるものの、実際のレースとほぼ同様の距離を、レースと同じ出力レベルで走らなければ意味がないため非常に負荷が強く、実施できても2本前後が限界という高水準の練習です。この日は、2走から3走を想定した栁田・桐生選手の組み合わせ、3走から4走を想定した鵜澤・東田選手および桐生・上山選手の組み合わせ、そして、1走から2走を想定した坂井・栁田選手の組み合わせという4つのパターンを実施。どのペアも、非常に高い集中力で臨み、走ったあとはパスワークの評価に用いているバトンタイム(注:日本の男子4×100mリレーチームは、バトンの受け渡し区間である30mのテークオーバーゾーンおよびテークオーバーゾーン終了線から10mまでの全40mのタイムを、「バトン40mタイム」として指標に用いています)や映像を見ながら、両者それぞれの感覚と実際の動きとを摺り合わせ、気づいたことを確認したり話し合ったりする作業を丁寧に行っていました。






トレーニング終了後には、選手を代表して坂井、栁田、桐生の3選手が、またコーチングスタッフを代表して強化委員会で短 距離を統轄する土江寛裕ディレクターと強化スタッフとして科学・情報を担当する小林海コーチが取材に応じました。各氏のコメント(要旨)は、以下の通りです。




【代表選手コメント】

坂井隆一郎(大阪ガス)



(100mへのパリ五輪出場が決まって)最初に感じたのは、「ホッとした」という気持ちだった。僕の場合は、100mでの代表入りがなければ、選考基準上、リレーでの代表入りはなく、オリンピック出場という道自体がない状況だった。100mと4×100mリレーの2種目で代表入りが叶ったことに、今は、ホッとしたという思いが強い。

代表に決まってからは、「やってやろう」という気持ちが切り替わった。短いスパンになるが、本番に向けて、しっかり練習を積むことができている。日本選手権以上のパフォーマンスができるような身体つくりができているのではないかと思う。

4月の腸腰筋のケガがあったために、今年のシーズンは序盤で調子を上げていくことがなかなかできずにいた。日本選手権では、そのときの100%は出すことができたと思うが、(ケガの影響で)1カ月抜けたところで、身体全体としての100%は出せていないなと感じていた。今は、そこが上がっていっている途中かなと感じている。

僕は、バトンパスについて緊張があり、「渡るかどうか」と不安になるのだが、チーム全体として、とても良い雰囲気ができているし、栁田選手とのバトンパスは、ブダペスト(世界選手権)からやっているので、今日の練習でもスムーズに行うことができた。リレーへの期待が、高まってきているように思う。

チームの雰囲気は、とてもいい。今までは若いメンバーが、けっこう多かったが、今回は、桐生選手などベテランの選手たちも交ざって、若い選手とベテランの選手が、いい感じにまとまって、良い雰囲気をつくれている。桐生選手といえば、僕からしたら「ずっとテレビで見ていた選手」。一緒にバトンをつなぐことができるようになるとは思ってもいなかったので、今は、そういった状況にあること自体が本当に楽しい。

<日本選手権で競り勝つレースがしたことで、強いと評価されている前半だけでなく、後半でも強さを見せている。スピード低下を防ぐ取り組みはしているのか? との問いに>
僕は、前半から後半まで、ずっと同じ動きをすることを練習から意識している。それが試合でもできるようになり、後半で競り合うことになっても、あまり崩れずに自分の走りができるようになってきたと思う。それによって日本選手権も競り勝つことができたと思うので、後半も強くなってきたのではないかという手応えはある。ただ、リレーという場面では、オレゴン(世界選手権)やブダペスト(世界選手権)で走った際に、(次走者に)追いつかなければならないとか、前に選手がいると焦ってしまうなど、そういう理由で後半に走りが崩れていることを自分でも感じていた。オリンピックには、そこを修正して挑みたいなと思っている。

リレーで自分が期待されているのは、1走の走りだと思っている。1走からしっかりスタートダッシュを決めて、チームにいい流れをつくれるようにしたいし、そこでリードをとっていくくらいのところを意識して走りたい。最近は、ほかの国もバトンパスがうまくなってきているし、海外チームの1~2走も速くなってきていて、日本が今まで得意としてきた1~2走でのリードがとりにくい状況になっている。(パリでは)「日本のリレーは前半から行くぞ」というところを生かしていきたいなと思う。

また、100mに関しては、目指すところは決勝進出。一つでも多くラウンドを進めて決勝を目指していきたい。決勝に行くためには、やはり9秒台は必須となる。9秒台を出して決勝に進めるよう頑張りたい。


栁田大輝(東洋大学、ダイヤモンドアスリート)



(今日の練習は)楽しかった。今日は、しっかりとバトンを渡して、もらうことを心掛けた。(桐生祥秀選手に)バトンを渡す2・3(走)のところは、初めての組み合わせだったので、そこでしっかり2本渡すことができたのは、よかったと思う。(指標としているバトン40mタイムについても)ちゃんとやれれば、このくらいのタイムは出ると思っていた。あとは僕の身体の状態を上げていければいいのかなと思っている。

<初めてとなった桐生選手とのバトン練習の感想を問われて>
練習の前に、「(バトンが)渡らなかった何本でもやるから」みたいな感じで脅されていて(笑)、桐生さんからも「渡るまでやるよ」(笑)と言われていた。1本目はぎりぎり渡すような感じにはなったけれど、それでも2本きちんと渡すことができた。本番に向けて、イメージをつくりながら、できたのではないかと思う。

<桐生選手とバトンをつなぐ可能性があることをどう思うか? の問いに>
桐生さんは、リオ(オリンピック)で銀メダルを取ったときからトップでやられている選手。そのとき僕は、テレビで見ていた立場だった。そういった選手と本番でもバトンをつなぐ可能性があることは、本当に楽しみ。今日の練習でも、バトンが届かないんじゃないかと思うくらいのダッシュをしていただけた。3走で本当に心強い方が待ってくれているので、安心して走ることができる。

(同じくリオ五輪銀メダルメンバーの飯塚翔太選手を含めて)いろいろな話を聞くことができるし、もちろんバトンの経験値も僕とは全然違う。バトン練習では、毎回同じタイミングで出てくれることで、渡すときのムラがなく、本当に、僕がちゃんと走って渡すだけというような意識でやることができた。やりやすい雰囲気をつくっていただけているなと感じている。

<日本選手権の結果、100mでの代表入りを逃したが、どう気持ちの整理をしたのか? の問いに>
100mでの出場が叶わなかったことは、その後、整理するというほど引きずることはなかった。オリンピックに出られること自体も、嬉しいことで、目指してきたことに一つだったし、リレーで代表になったのなら、リレーでメダルを取ろう、と。もちろん簡単に取れるものでないことはわかっているが、すぐにそういう気持ちに切り替えることができた。

100mで勝ったのは坂井(隆一郎)さん。決勝の直後こそ、さまざまな思いにかられはしたが、日本選手権が終わったあとは、その時点で、気持ちをリレーにシフトして、「100m(の代表入り)があったら、本当にラッキー」くらいの気持ちで(発表を)待っていた。なので、(ワールド)ランキングの結果が出たときは、(100mの代表になれなかったことでの)動揺もなかった。

その後、調子は上がっていて、「日本選手権がなんだったのかな」と思うくらい(笑)、走れるようになってきている。オリンピック本番は、(リレーの予選・決勝の)2本しかないので、腹をくくって、その2本に向かって、できる準備をしていくだけだと思っている。(リレーだけの出場となったことで)火曜日(7月16日)に出発して、(レースまでに)2~3週間の時間がある。そこでしっかりとリレーの予選と決勝の2本に向けて、最大の準備をしていくことができる。ミーティングでは、いろいろな走順のパターンを示されたが、2走については、僕の名前だけしかなかった。僕が身体を壊したりしたら、この合宿でやったことの意味がなくなってしまうので、そこには気をつけつつ、「2走は僕の走順」という自信を持って、しっかりと準備していきたい。

パリでは、1~2走でしっかりと飛び出して、先頭でバトンを回していくような展開に、僕のところで勢いをつけられればいいなと思っている。昨年のブダペスト(世界選手権)のときの分析で出していただいたラップタイムは、9秒03だった。パリではまずは8秒台のタイムが目標。最低限、予選・決勝で2本揃えたい。


桐生祥秀(日本生命)



日本代表ということでは、昨年、杭州アジア大会もメンバーには入ったが、あのときは1走での出場で、それまでとは異なっていた。アジア大会以前となると、(2021年)東京オリンピック以来の代表入りとなる。メンバーも大きく変わっているなかではあるが、先輩もいたり後輩もいたりするなかで、今回は、みんながどの走順を走っても行けるチームになっていると感じている。大会本番で実際に走れるかどうかは、まだ向こうに行ってみないとわからない状況だが、自分自身もまだ全開の状態ではない。ここから調子を上げていき、しっかりメンバーに選ばれるようにしたい。

日本選手権が終わってからは、4~5日ほど休んで、1週間練習してこの合宿に入ってきた。このため、スピードが上がってくるのは、来週から再来週くらいになる。3走の出の感じ(スタンディングスタートで出て加速していく感覚)は、もっと練習で研ぎ澄ませていく必要を感じているが、(100m走に出るとなったら注力が必要なクラウチング)スタートがないぶん、僕はリレーだけに集中できる。(本番までに)やるべきことはしっかりできると思っている。

バトンパス練習は、昨日、今日と行ってきたが、タイム的にも流れ的にもよかったのではないかと思う。3走としてコーナーを走るのは久しぶり。(渡し手として)走るほうは、今日は上山くん、昨日は東田くんとやって、そちらのほうは思い出す感覚があったが、(受け手としてバトンを)もらうほうは、まだこれからという感じ。今日は栁田くんから(バトンを)もらったが、その「出」の部分をもっと鋭く出ないなといけないなと感じた。(2本行った)今日も、1本目と2本目で、ちょっとだけバラツキがあった。疲れがあったとはいえ、そこはちゃんとしなければいけないところ。

鍵となるのは、最初の1歩目で自信を持って出られるようにすること。ここは、走ってくる人の特徴がつかめないとできないところといえる。例えば、(走ってくる)栁田くんを正面から見るのは初めてで、ももの上がる高さであったり、歩数だったりというところは、人によって全然違うので、それを練習でつかんでいくことになる。今日の練習で、栁田くんの走り方や、「このくらいで来るな」というのは少しずつわかってきた。向こうに行ってから、さらに練習できると思うし、その感覚をつかむことができれば、1歩目からしっかり出ていけるようになると考えている。

<バトン40mタイムで目標タイムである3秒70を切る数字が出ていたことへの感想を問われて>
スタッフも驚いていたが、僕のなかでも速いなと思った。今までだったら、3秒85あたりのタイムで、「練習だし、まあまあいいタイムなんじゃない?」という感じだったので。逆に言うと、「これ以上、遅いタイムを出せない」と、みんなが緊張感を持ってやれたのではないかと思う。

<新しい選手や若い選手もいるなかでの代表入りだがどう感じているか? の問いに>
僕は、今まで代表メンバーとしては、リレーに関しては、けっこうメダルを取っているし、メダルを取って人生がどう変わるかとか、どういうことが起きるかがわかっている。一緒にメダルを取って、またどうなるかということを感じたい。

<ほかの若いメンバーとのコミュニケーションについての質問に?>
年齢とか関係なく、みんなで話せるようすることは必要だし、特にバトンに関しては気を遣わずに、ときには後輩から先輩に言わなければいけないときもあるので、みんなと話すようにしている。これから海外に行けば、それこそ食事の時間も含めて、一緒に動いていくことになる。それは、過去の…、僕が高校生のときに行ったモスクワ(で開催された2013年世界選手権)のときに、藤光(謙司)さんなどの先輩たちがそうしていたこと。自分も、そういうのはしっかりやっていきたいなと思う。

<ファンからの期待も大きいと思うが、そこをどう感じている? の問いに>
ファンの皆さんからは、SNSなどで、「おめでとう」とか、たくさんの声をいただいている。しっかり3走として走れるように準備しているので、もう1回、メダルを取りに行きたいなと思っている。東京オリンピックで(失格という)悔しい思いをしたメンバーのなかでは、僕だけが唯一今回の代表に入ることができた。日本は、その前までは順風満帆にメダルを取ってきていたので、その流れを、今回(のパリオリンピック)でしっかりとつなげたい。

<パリオリンピックの位置づけ、どういう舞台にしたいか? の問いに>
東京(オリンピック)のときもそうだったが、今回もリレーしかないので、しっかりとメダル争いに行けるようにすることだけだと思っている。そこにオリンピックも、世界陸上も関係ない。自分の役割をしっかりやっていきたい。


【コーチングスタッフコメント】

土江寛裕(強化委員会ディレクター短距離担当)



まず、今回のパリオリンピックでは、前回の東京大会で取ることができなかった金メダル獲得を目標にリレーをつくりあげる方針で取り組んでいる。東京オリンピックでは、自国開催ゆえに、個人種目よりもリレー種目に軸足を置いた戦略を採った。ただ、それによって個人が振るわなかったという反省もあったので、今回は、「しっかり個人で戦ったうえでのリレー」という観点で強化を進めている。

結果的に選ばれたメンバーには、リオ(オリンピック)の銀メダリストで豊富な経験を持つ2選手(飯塚翔太、桐生祥秀)がいて、個人種目で世界選手権での決勝を複数回経験しているサニブラウンアブデルハキームがいて、さらに栁田、上山、坂井といった若いながらも中堅といえる実績を持つ選手もいれば、新しく入ってきた選手(東田・鵜澤)もいて…と、すごくバランスのとれた陣容となった。

また、「どの選手が、どの走順に入っても、成立する」というチームであることを、特徴とすることができるチームともいえる。今回の合宿では、今日行ったバトンパスの組み合わせとは別に、昨日も異なる組み合わせでバトン練習をしている。これまでは「基本的にはこのオーダー。何かあったらこうする」というようなパズルの組み方が多かったが、今回は、さまざまなバリエーションが可能で、多くのパターンを考えることができる状況となっている。

リレーのバトン練習は非常に強度が高く、ストレスが大きいため、全部のパターンを準備するのは難しい。このため、個人種目もしっかり重視しながら、リレーに対してどういう準備ができるのかという観点では、我々の舵取りが問われる状態ということもできる。

今回の合宿以降は、来週、ロンドンで行われるダイヤモンドリーグで1回レースに出場し、その後、事前合宿地のセルジー(フランス)でキャンプを行っていく。そこでメンバーが揃う形となるので、個人種目に影響しない形で、どれだけ積み残した準備ができるかというところが、キーポイントになる。

私は、栁田のパーソナルコーチでもあるので、彼が100mに出場できなかったことは非常に残念には思っているが、一方で、エースクラスである彼がリレーに専念できるのは、リレーにポジティブな影響をもたらすと捉えている。数多いパターンが想定できるという点で、非常に采配が難しい状況にあることを踏まえ、栁田については2走に固定。受け渡しの両方を行わなければならないバトン練習も含めて、しっかりと準備を進めていく。

<リオ五輪銀メダリストの桐生選手、飯塚選手がメンバーに入った効果は? の問いに>
今日のバトンパス練習を見て、お気づきになったと思うし、また、実は昨日の練習でも同じ状況だったのだが、桐生は、いきなりの組み合わせでも、ポンと素晴しいパスを行うことができていた。これが、今まで日本代表チームが脈々と受け継いできたもの。彼が、示してくれたそうしたところが、若い選手たちに伝わってくれたらと思う。中堅といえる選手たちは、ここまであまり、リオのメンバーと絡む機会がなかったが、今回、それが実現したことは、チームジャパンとして、とても意味のあることだと期待している。また、飯塚は、いつもで直線(2走・4走)を任せることができるだけでなく、チームを良い空気に持っていけるキャラクター。彼がいることは、ものすごくチームにとって大きいと思っている。

このリレーチームの顔ぶれをみれば、それだけで5~6パターンの組み合わせが簡単に浮かび上がってくる。まさに、代表8選手全員が候補と言うことができるほどで、これは、今までにはなかったことでもある。このため、メンバーの決定は、個人のレースをしっかりやったうえで、「良いメンバーを、良い順番で並べていく」という考え方で進めていくことになる。「全員を走らせたい、2チームで出たい」というのが本音で、「誰かを外して、最高のオーダーをつくっていく」というところでは、全く決めきれていないというのが正直なところ。そのなかで、ロックできる唯一のところとして「2走・栁田」を配置して、そこから検討を進めていく。

まずは、ロンドンDLは、1走・坂井、2走・栁田、3走・桐生とし、4走は上山か東田のオーダーで臨む。桐生は今季、個人種目を本来の力では走れていないので、この3走で、どのくらい走れるかがチェックできるとみている。このロンドンDLのレースで、サニブラウンがいない状態でのリレーをきちんとつくって、その後、パリオリンピックでの個人種目で各人の状況をみて、最終的にオーダーを決めるという流れを考えている。

昨日のミーティングでは、過去のオーダーと、そのときのタイムをすべて共有したうえで、金メダル獲得のラインとして「37秒40」を掲げ、これを目標タイムにすることを伝えた。現状を考える限り、アメリカがしっかりつないできた場合は、勝利するのは難しいが、まずは、アメリカに先行されないようなレースをすることを目指す。そして、37秒40を現実的な目標タイムとして、リレーをつくっていく。


小林 海(強化委員会強化スタッフ情報・科学担当)



いつもは合宿だと、全体的に走り(のスピード)が当たってこないので、バトンパス自体もそんなに良いタイムが出ないのだが、今回は、試合で想定している目標タイムと同程度のタイムで走るパスが何度も、しかも特定の組み合わせだけでなく、全体的に出ていた。驚きがあったことも含めて、非常に良かったなと思っている。その要因としては、純粋に選手個々の走力が上がっているところが考えられる。また、(日本代表としてメダル獲得や入賞を)経験したきた選手が多く、我々が意図しているパスを、(我々が)そんなに言わなくてもできるところがあった。さらに、今回、初めて代表入りしてバトンパスをやった東田選手の意識がとても高く、最初からスムーズにバトンパスができていた点も大きいのはないかと考える。

<パリオリンピックに向けて、何か新しい施策等はあるのか? の問いに>
「新しい、これをやっている」というものは特にない。ただ、今までの失敗例も含めて経験値として積み上げてはいるので、そのあたりも踏まえて、「どういうバトンパスがいいか」という点は、選手たちにも説明してきたつもりであるし、それをもう一回、これから臨むロンドンのダイヤモンドリーグも含めて、しっかり確認できれば、パリでは結果を残せるのではないかと思っている。

<今回の合宿で目的としていたところは? の問いに>
「どの組み合わせで、パリ(オリンピック)を戦うか」というところは、今の段階では、我々で決められない状況にある。それは、(決勝が4×100mリレーの予選日と重複する)200mとの日程の兼ね合いや、パリに入って事前調整をしたうえで、どの選手がどこまで走力を上げてくるかわからないことも理由である。

そういう意味では、「どの組み合わせになったとしても、パスができるようにしておく」ことが求められるわけだが、これまでの経験や我々が重視している観点からすると、「練習していない組み合わせを、いきなり本番で使いたくない」という考えがあった。今後、ロンドンDLや事前合宿地で、どこまでバトンパス練習ができるかは不透明な面も多い。このため、今回の合宿では、いろいろな選手の、いろいろな組み合わせでのバトンパスを実施し、「この選手とこの選手の組み合わせはこう」というデータを持っておきたいと考えていた。それができたことは大きな成果といえる。分析結果はまだ全部出ていないが、結果を踏まえて、もう一度、現地での練習などで、詰めていくようにしていくつもりでいる。

<土江ディレクターが挙げた37秒40の目標タイムを導き出した背景は? の問いに>
37秒40は、過去の日本チームのデータ、および過去の海外のデータを踏まえて試算したもの。(強豪国である)アメリカも、ここ数年は37秒40前後のパフォーマンスを出しているし、日本記録は37秒43(多田修平、白石黄良々、桐生祥秀、サニブラウンアブデルハキーム、2019年)。今のメンバーがしっかりと走ることができれば、そのあたりのタイムは十分に狙えるとみている。もちろん、簡単に出る記録ではないことは承知しているし、ここ数年の傾向として、海外のチームも(日本が強みとしている)1~2走に速い選手を据えるようになってはきているが、その1~2走でリードを奪って後半につなげることができたら、日本にも十分に勝機はある。個々の走力、(日本のリレーチームが指標としている)バトンタイムを総合的に考えると、37秒40前後が、今回の目標タイムになるという判断になった。

<各区間のバトンタイムではどのくらいが必要か? の問いに>
我々は、30mのテークオーバーゾーン(バトンの受け渡し区間)+10m(テークオーバーゾーン終了線からの10m)からなる全40mの区間タイムを、「バトン40mタイム」として指標にしている。これは、テークオーバーゾーン内でバトンを受けた次走者が、次の10mでどれだけ加速しているかを含めてパスワークの成否を判断するために採用している方法である。そのバトン40m走タイムにおいて、各区間ともに我々が目標としているのは3秒70から3秒75の間で、できれば3秒70に近づけることを目指して今回も練習していた。そういう意味でも、今日の練習は良いパスができていたと思う。レースにおいても、そこを狙っていきたい。

<練習で、試合水準のタイムが出ていることを、どうみているか? の問いに>
選手たちのモチベーションなども影響しているかとは思うが、あとは「世界で戦う」という前提の選手が揃った点も大きいのではないか。代表入りしてよかったではなく、「ここからがスタート」と考えている選手たちで、その延長線上にリレーを据えている様子がうかがえる。そこは、リレーチームとしてはすごく良い流れということができ、むしろ怖いのはケガのリスク。今日も、「もう1本行こうか」と迷っているところは、なしにした。そのくらい力の高い選手が揃っているので、それをうまくパリにつなげていきたい。

※コメントは、共同取材における各氏の発言をまとめました。より明確に伝えることを目的として、一部、修正、編集、補足説明を施しています。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト


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