
第109回日本陸上競技選手権大会が7月4日から3日間、東京・国立競技場で行われています。今大会は、9月に開催される東京2025世界陸上競技選手権大会の日本代表選手選考競技会を兼ねており、大会2日目も日本記録の誕生や世界選手権の代表内定など、好記録・好勝負に国立競技場が沸きました。
今大会、最初の日本記録が誕生したのは女子800m決勝でした。主役は前回女王の久保凛(東大阪大敬愛高)。自身が昨年の日本選手権でマークした日本記録(1分59秒93)を上回る1分59秒52で連覇を達成しました。
東京世界選手権の参加標準記録は1分59秒00。日本女子で唯一、1分台の記録を持っている久保は、この参加標準記録の突破を目指して400mを59秒というハイペースで入りました。これについたのが、22年日本選手権覇者の塩見綾乃(岩谷産業)でした。
残り200mで大きく差をつけた久保が前回に続く1分台で連覇し、塩見は2分03秒66で2位となりました。


世界選手権の代表が内定したのは、男子110mハードルでした。この種目は、パリオリンピックで5位に入り、参加標準記録(13秒27)を突破している村竹ラシッド(JAL)がすでに日本代表に内定しており、残る「2枠」をめぐる激しい争いが繰り広げられました。
大会前に参加標準記録を突破していた選手は、日本記録(13秒04)保持者で23年ブダペスト世界選手権5位の泉谷駿介(住友電工)、阿部竜希(順天堂大)、野本周成(愛媛競技力本部)の3人。この誰かが2位以内に入れば、代表内定となる状況でした。
18時05分の決勝レース。スタートで飛び出したのは、5月の木南記念で標準突破をしていた野本でした。後方から加速する泉谷がとらえたのは9~10台目付近。わずか100分の1秒差で逆転を果たし、泉谷が2年ぶり4度目の日本選手権制覇となりました。2位に野本が入り、この2選手が世界選手権の代表に内定。参加標準記録を突破していた阿部は3着となり、自国開催の世界選手権出場は叶いませんでした。

さらに男子やり投でも、世界選手権の代表内定者が出ました。WBGT(暑さ指数)が31度を超える可能性があるとのことから、競技開始時間が19時10分に変更された同種目。3投目までは80mを超える投てきが見られませんでしたが、最初にその空気を変えたのが、﨑山雄太(愛媛競技力本部)でした。4投目に自己記録に迫る83m56をマーク。すると、日本選手権を3回制しているディーン元気(ミズノ)が83m97とすぐに逆転してトップに立ちました。
ビッグアーチが描かれたのは、5投目。会場のどよめきと共にアナウンスされた﨑山の記録は、世界選手権の参加標準記録(85m50)を突破する87m16でした。この記録は日本歴代2位となるもの。優勝を決めた﨑山が世界選手権の代表に内定しました。
2位に入ったディーンもワールドランキングのターゲットナンバー(36)圏内に位置しており、代表内定に近づきました。

手に汗を握るレース展開となったのが、男子100mでした。優勝候補の栁田大輝(東洋大)が予選で失格、サニブラウン アブデル ハキーム(東レ)も予選敗退となり、決勝には自己記録9秒台の桐生祥秀(日本生命)、小池祐貴(住友電工)らが進出しました。
横一線の中盤からすっと抜け出したのが、ベテランの桐生。フィニッシュ後の電光掲示板に自身のレーンが表示されると、ガッツポーズで喜びを表現し、会場は歓声と拍手に包まれました。10秒23(+0.4)で5年ぶりとなる復活Vでした。
2位から4位は100分の1秒まで同タイム。1000分の1秒で着差がつき、大上直起(青森県庁)が2位、関口裕太(早稲田大)が3位、井上直紀(早稲田大)が4位となり、小池は5位でした。

男子ハンマー投は、福田翔大(住友電工)が5投目に74m45のビッグスロー。スタンドから熱視線を浴びて放った6投目は日本歴代3位となる74m57と記録をさらに伸ばし、開催国枠エントリー設定記録(※)の73m88を突破しました。世界選手権の出場が決まれば、この種目では2013年モスクワ世界選手権で5位に入った室伏広治(当時ミズノ)以来の世界選手権出場者となります。
2位は5月のアジア選手権(クミ・韓国)で銀メダルを獲得した中川達斗(サトウ食品新潟アルビレックスRC)が71m87で入りました。
※開催国枠エントリー設定記録:開催国から出場者がいない種目は「開催国枠エントリー」として1名の出場が認められており、日本陸連がその代表選出にあたり設定している記録。

男子三段跳でも開催国枠エントリー設定記録を突破した選手が出ました。2回目の試技で16m67とセカンドベストのジャンプで設定記録(16m67)に乗せたのが、山下航平(ANA)でした。16年リオオリンピッの日本代表。日本選手権は6年ぶり3回目の優勝となりました。
連覇を狙った安立雄斗(福岡大)は16m28で2位でした。

男子棒高跳でも江島雅紀(富士通)が、開催国枠エントリー設定記録(5m59)を上回る5m70を跳んで優勝しました。6年前にクリアした自己記録、5m71に迫るもの。同じ5m70に挑戦してクリアできなかった来間弘樹(ストライダーズAC)が2位でした。

女子ハンマー投は、村上来花(九州共立大)が大会新記録となる66m88(日本歴代4位)で初優勝を決めました。日本記録(70m51)保持者のマッカーサー ジョイ アイリス(在外個人登録)は66m29で2位でした。

男子800mは、前回覇者で日本記録(1分44秒80)保持者の落合晃(駒澤大)が1分45秒93で連覇を達成しました。この種目の参加標準記録は1分44秒50のため、即時代表に内定とはならなかったですが、落合はワールドランキングのターゲットナンバー(56)で出場枠圏内に位置しているため、世界選手権の代表内定に近づきました。

女子400mハードルは5連覇に挑んだ山本亜美(富士通)を抑え、梅原紗月(住友電工)が日本歴代7位となる56秒43で初優勝しました。2位に瀧野未来(立命館大)が入り、山本が3位となりました。

女子400mは日本記録(51秒75)を上回る51秒71をマークしていたフロレス アリエの猛追を振り切って、寺本葵(天理大)が53秒14で初優勝しました。中尾柚希(園田学園大)が2位、フロレスは3位となりました。

女子100mは、4連覇が懸かる君嶋愛梨沙(土木管理総合)が好スタートを切るも、予選から日本歴代4位に入る11秒35(+0.5)をマークするなど好調だった井戸アビゲイル風果(東邦銀行)が後半に追い上げて、11秒45(-0.1)で初優勝を飾りました。御家瀬緑(住友電工)が2着に入り、君嶋は3着となりました。

女子走幅跳は、6回目に髙良彩花(JAL)が木村美海(四国大)の記録を1cm超えて、6m48(+0.8)で逆転優勝を決めました。5年ぶりの日本選手権制覇となりました。
6日は大会最終日。トラックは9種目、フィールドは4種目の決勝が行われます。2種目で代表内定を狙う田中希実(New Balance)は女子1500mに出走。まだまだ熱戦は続きます!
文:新甫條利子
写真提供:フォート・キシモト
#ナンバーワンの頂上決戦