「第59回織田幹雄記念国際陸上競技大会」が、日本グランプリシリーズ第4戦広島大会として、今年も4月29日に広島広域公園陸上競技場(ホットスタッフフィールド広島)において開催されました。この大会は、WA(ワールドアスレティックス)コンチネンタルツアーブロンズ大会を兼ねて行われています。ここ数年は悪天候に見舞われ、雨や寒さに悩まされるなかでの戦いが続いていましたが、今年は、久しぶりに朝から快晴に。一方で、日本の上空に冷たい風が吹き込む気圧配置となった影響で、最高気温は20℃まで上がらず、日差しがないところでは少しひんやりするコンディション下での競技となりました。
グランプリ種目としては、男女各7、合計14種目を実施。東京2025世界陸上競技選手権大会参加標準記録の突破や、日本新記録誕生のアナウンスを聞くことはできませんでしたが、各種目で複数の選手が高水準の記録をマークし、ハイレベルな競り合いを展開。来場した観客を魅了しました。
男子100m、世界リレー代表の井上が殊勲のV
桐生は予選で10秒06w(※)の好走

やや風は冷たいものの、春の日差しが降り注ぐ、この時期らしい爽やかな天候となったこの日、男子100mでは見応えのあるレースが繰り広げられました。まず、会場を大きくどよめかせたのが予選第2組に登場した桐生祥秀選手(日本生命)の快走です。4レーンに入った桐生選手が、力強い走りで後続を突き放し、10秒06の好記録で駆け抜けたのです。2.7mの追い風であったため惜しくも参考記録となったものの、この圧巻のパフォーマンスによって、場内のボルテージが一気に引き上げられました。予選では、ほかにも追い風参考も含めて2選手が10秒1台を、5選手が10秒2台をマーク。予選2組では3選手が10秒26で4~6着と続いたため、5・6着の選手はB決勝へ回ることになりました。この高水準の結果に、決勝での記録の期待が大きく膨らみます。
迎えた決勝では、中央のレーンに並んだ桐生選手を含む5選手が、ほぼ横一線で激しい鍔迫り合いを繰り広げていきます。フィニッシュ直前まで続いたその競り合いから、ラストの数歩ですっと抜けだしたのが、予選2組で10秒12をマークして2着通過を果たしていた新鋭の井上直紀選手(早稲田大)でした。0.4mの追い風のなか予選と同じ10秒12でフィニッシュ。自己記録を0.01秒更新し、日本グランプリシリーズ初優勝を果たしました。
井上選手は、大学2年時の2023年に10秒19をマークすると、昨年、10秒13まで更新してきた選手。今季は、2大会連続出場の可能性もあったワールドユニバーシティゲームズではなく、東京世界選手権の100mと4×100mリレーでの出場に焦点を絞ってチャレンジすることを選択しています。織田記念に対しても、「東京世界陸上か、(日本代表は)なしかのどちらかと腹をくくって、(ワールドユニバーシティゲームズの選考会である)日本学生個人(選手権)にも出ず、勝つためにここへ来た」ときっぱり。この冬は、「強みである中盤・後半をより伸ばすために、遊脚を意識して鍛えてきた」そうですが、その取り組みと、「レースのなかであまり力んだことはないので、周りは気にならなかった」というメンタル面の強みが相俟っての好結果となりました。
すでに5月10~11日に広州(中国)で開催される世界リレーの日本代表に選出済み。個人種目での世界選手権代表入りに向けても、「記録はまだまだだが、勝つことを意識していけばタイムもついてくると思っている」と自信を見せます。一方で、狙い通りの結果を手にしつつも織田幹雄記念での勝利については、「早稲田大の偉大な先輩の(名前がついた)試合で勝てて、すごく光栄に思う」と笑顔を見せました。
井上選手に0.02秒差の10秒14で続いたのは、樋口陸人選手(スズキ)です。中学時代からハードルで活躍し、シニア規格の110mハードルでは13秒63の自己記録を持っています。社会人になってからは100mで躍進。今回、2023年に出していた自己記録(10秒17)を0.03秒更新するとともに、桐生選手、小池祐貴選手(住友電工)といった9秒台スプリンターに競り勝ちました。そこから0.01秒差で桐生、鈴木涼太(スズキ)、小池の3選手が10秒15の同タイムでフィニッシュ。着差がついた桐生選手が3位に、着差なしとなった鈴木選手(自己新)と小池選手が4位を分け合いました。
決勝は、若手に惜敗する結果となった桐生選手ですが、「去年のシーズンベストが10秒20だったことを考えると、4月の時点でこの走りは悪くない。久々に(10秒)0台で走って、昨年には感じることができなかった張りがお尻やハム(ストリングス)に出ているのは、いい傾向」と振り返りました。4×100mリレー(3走)でオリンピック5位入賞に貢献したものの、状態自体は万全とは言えなかった昨年に比較すると上々の滑りだし。それは、自己記録(9秒98、2017年)更新を目標に掲げ、「全大会で勝つつもりでやっている」と公言できる状態でシーズンに臨めていることからも窺えます。3月以降、連戦に挑むことができている桐生選手の次戦は5月3日の静岡国際。「静岡では、しっかり借りを返したい」と頼もしい言葉も聞かせてくれました。
女子100mは、予選で向かい風0.3mのなか、全体トップタイムとなる11秒48で決勝に臨んだ君嶋愛梨沙選手(土木管理総合)が、自己記録に0.06秒まで迫る11秒42(+1.8)でフィニッシュ。同記録のミア・グロス選手(オーストラリア)を着差ありで押さえて優勝を果たしています。
男子110mハードルは、連戦の阿部が貫禄勝ち
女子は、中島が12秒93で優勝。4位・島野は学生新

男子110mハードルは、日本記録(13秒04)を持つ泉谷駿介選手(住友電工)と村竹ラシッド選手(JAL)の“ツートップ”が、ダイヤモンドリーグ転戦中のため不在。そのなかで、昨年から著しい進境を見せている阿部竜希選手(順天堂大)が、存在感をいっそう強める走りを披露しました。阿部選手は、直前まで開催されていた日本学生個人選手権の2日目(4月26日)に行われた同種目を制したばかり。初日に行われた準決勝で13秒26の自己新をマークし、泉谷・村竹選手に続いて、この種目3人目の東京世界選手権参加標準記録(13秒27)突破者に名前を連ねる成果も手にしての連戦です。
予選は、1.9mという強い向かい風のなかでのレース。タイムは13秒70に留まったものの、それでも全体トップタイムで決勝へと駒を進めると、逆に追い風1.9mという条件下となった決勝では、「ダメダメだった」(阿部選手)という予選の課題を修正して序盤から他を圧倒。13秒36までタイムを上げて、きっちりと勝ちきりました。
「(世界選手権)代表を取るからには負けられないという気持ちで臨んでいる」と言う阿部選手は、順天堂大の先輩でもある泉谷選手と村竹選手に対しても「もっと焦らせる存在になって、大事なときにしっかり勝てるようになりたい」と言います。「来年はダイヤモンドリーグとかに挑戦したいと思っているので、ランキングの順位を上げていくためにも、まずは1本1本を大事にしていきたい」と、その視野は、今年の東京世界選手権だけでなく、来年以降の戦いにも広がっています。
例年、記録・勝負ともに好レースが繰り広げられている女子100mハードルは、今年もレベルの高い戦いとなりました。1.8mの追い風に恵まれた決勝では、予選で12秒97(+1.8)の自己新をマークしていた中島ひとみ選手(長谷川体育施設)が、清山ちさと選手(いちご)、大松由季選手(CDL)と激しく競り合うなかで自己記録を再更新。日本歴代5位に浮上する12秒93で先着し、シニアになって初となる全国タイトルを手に入れました。0.01秒差で2位となった清山選手も12秒94の自己新記録をマーク。13秒01で大松選手が3位となり、4位には、日本学生個人選手権覇者の島野真生選手(日本女子体育大)が連戦にもかかわらず、終盤ですっと順位を上げる好走を見せ、13秒04の学生新記録を樹立してフィニッシュしています。
なお、予選・決勝を通じて最もタイムが良かったのは、予選で12秒91(+1.8)をマークしていた田中佑美選手(富士通)でした。「故障ではないけれど、脚に違和感があったので」と決勝は棄権しましたが、状態は悪くないとのこと。今後はセイコーゴールデングランプリ、アジア選手権に照準を合わせていくことになります。
女子三段跳は髙島が13m96w(※)で快勝
男子やり投は﨑山がセカンドベストの82m96で制す

フィールド種目は、男女三段跳と男女やり投で全4種目。このうち、グランプリ最初の決勝種目となった女子三段跳では、難しい風が吹くなか、髙島真織子選手(九電工)が好パフォーマンスを連発しました。1回目に13m56(-1.0)を跳んでトップに立つと、2回目にも13m50(+0.7)をマーク。風向きが変わったために砂場をフィニッシュ地点側に変更して実施された後半の試技では、4回目に13m71(+1.0)へと記録を伸ばします。さらに5回目には、13m96のビッグジャンプを繰りだしましたが、これは追い風2.3mで惜しくも参考記録に。勝利を決めて臨んだ最終跳躍では、わずかに踏み越してファウルとなったものの14mオーバーの跳躍も披露しました。日本人2人目となる公認記録での14m突入は、「次回のお楽しみ」となりましたが、今後への期待を高める勝利を手にしました。
髙島選手は、昨年、この大会のウォーミングアップ中に右ハムストリングスの肉離れを起こし、出場の可能性が見えていたパリオリンピックを逃す、悔しい1年を過ごしてきました。しかし、今季に向けて、アームアクションをダブルに変更するとともに、上半身の力をもっと使えるようにすべく肉体改造にも着手。肩まわりや体幹がしっかりしたことで、跳躍時の動きに安定感が増し、より大きな推進力を得られるようになっています。
「状態はすごく良く、感覚もいい流れで来ていたので、記録は出るだろうなという気持ちで臨むことができた」というこの日は、「1本目からしっかり記録を残して、自分の跳躍に集中することができた」と評価。また、反省として、「世界の大会を見据えるのであれば、最初の3本でもう少し高い記録を出しておかなければ」という点を挙げ、「ありがたいことにゴールデングランプリで三段跳があるし、アジア選手権にも選んでいただいた。この2つでしっかりと結果を残していきたい」と、今後を見据えました。
日本人2番手で3位を占めたのは、日本記録保持者(14m16、2023年)の森本麻里子選手(オリコ)です。「風が難しくて、うまく合わせられなかった」と振り返ったように、4回の試技がファウルとなり、記録も3回目に残した13m34(-0.7)にとどまりました。しかし、パリオリンピック出場は果たしたものの、調子が上がらず苦しんだ昨シーズンに比べると、「心も身体も元気。順調に練習ができている」とオフシーズンのトレーニングも着実の積めている状態。「ウエイトもスプリントもだいぶ上がってきている。そこがしっかり噛み合えば…」と、これから徐々に調子を上げていくことになりそうです。
女子と同じく、風の回る難しい条件下での試技となった男子三段跳は、ユジュミン選手(韓国)が16m75(+2.6)で優勝しました。日本人の最上位を占めたのは松下悠太郎選手(鹿児島信用金庫)。3回目に16m12(+2.3)をマークして4位で競技を終えました。
男子やり投も、第一人者のディーン元気選手(ミズノ)は不在ながら、ハイレベルな戦いとなりました。2回目に小椋健司選手(エイジェック)が80m69をマークして首位に立つと、3回目には、長沼元選手(スズキ)が自身初の80m台となる80m58の自己新記録を投げてトップに迫ります。そんななか、後半の試技に入って、ぐっと存在感を見せたのが﨑山雄太選手(愛媛競技力本部)。5回目に80m87をマークして首位に躍り出ると、最終投てきではセカンドベストとなる82m96のビッグスローを披露し、他選手を突き放しました。
女子やり投は、5回目を終えた段階まで6位に位置していたパリオリンピックファイナリストの上田百寧選手(ゼンリン)が、最終6回目の試技で59m86をマークしてトップに立ちました。3回目に57m63をマークして、そこまでトップにいた武本紗栄選手(オリコ)も、最後の投てきで58m94へと記録を伸ばしましたが逆転には至らず、上田選手の勝利となりました。
男子5000mは吉居が連覇。廣中は10000mに続いて5000mに挑戦
新家と森田は、金栗記念に続く勝利

女子5000mには、4月12日に日本選手権10000mを制して復調を印象づけた廣中璃梨佳選手(JP日本郵政G)が、序盤から果敢なレースを展開。ラストで外国人2選手にかわされたものの、15分19秒23をマークし、日本人トップの3位でフィニッシュしました。男子5000mは、今年も大学生の吉居駿恭選手(中央大)が、外国人選手を含む実業団勢を押さえて13分26秒31で先着し、連覇を果たしています。また、男子3000m障害物では、金栗記念を制した新家裕太郎選手(愛三工業)が好調を維持。チームメイトのフィレモン・キプラガット選手(愛三工業)と最後まで競り合い、サードベストの8分25秒43で今季2勝目を挙げています。
男子1500mも、金栗記念1500mを今季日本最高の3分38秒35で勝利していた森田佳祐選手(SUBARU)が3分42秒94で先着して、日本グランプリシリーズ2連勝。テレシア・ムッソーニ選手(ダイソー)が4分15秒13で制した女子1500mは、序盤を大きくリードした道下美槻選手(積水化学)をかわした森智香子選手(積水化学)が日本人トップの2位(4分22秒06)でレースを終えました。また、2組タイムレース決勝で行われた女子800mは、2組1着のテス・キルソップ・コウル選手(オーストラリア)が2分02秒74の大会新記録で優勝。日本人トップは2組を3着でフィニッシュした塩見綾乃選手(岩谷産業)で、2分06秒09をマークして3位を占めています。
(※)w:追い風参考
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:アフロスポーツ
【LIVE配信】静岡国際
2025年5月3日(土・祝)9時30分 競技開始予定
https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1938/
■【静岡国際】エントリーリスト
https://shizuoka21.com/wp-content/uploads/2025/04/entry_250425.pdf
■【静岡国際】競技日程
https://shizuoka21.com/wp-content/uploads/2025/04/timetable250415.pdf
■【静岡国際】大会公式HP
https://shizuoka21.com/%e9%9d%99%e5%b2%a1%e5%9b%bd%e9%9a%9b/
■【静岡国際】チケット情報
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