日本陸連では、鍛錬期にあたる冬季シーズンを利用して、U20年代トップクラスの競技者と、その指導者を対象とするU20オリンピック育成競技者研修合宿を実施しています。これは、有望競技者の新しい能力の発掘を目指すほか、オリンピック育成競技者が自覚を高めること、国際的な視野を育むこと、さらには来年度以降に開催されるU20カテゴリーの国際競技会における活躍を目的とする取り組みです。また、指導者が共に参加することにより、日本陸連が掲げる競技者育成指針への理解を深め、広く知らしめていくことも目指しています。
1月13~16日には、第2回U20オリンピック育成競技者研修合宿を、東京・北区の味の素ナショナルトレーニングセンターにおいて開催しました。ここでは、メディアに公開した合宿1日目の模様をご報告します。
2025年になって最初の研修合宿となった今回は、強化育成部が行う研修合宿としては、昨年11月末に行われたU20オリンピック育成競技者研修合宿に続く今年度2回目の開催です。1回目の合宿に参加した選手を含め、U20オリンピック育成競技者は67名が参加。加えて、今回はU16年代の競技者23名も参加しました。また、指導者は、競技者に帯同したコーチのほか、応募で集まった視察参加者も含みます。
初日の1月13日は、公開取材日としてメディア各社も入ったなかで、午後から始まりました。開講式では、まず、この合宿を率いる日本陸連強化委員会の杉井將彦シニアディレクターが挨拶。杉井シニアディレクターは、昨年のパリオリンピック金メダル獲得によって、社会から大きな注目を集め、この年末年始にも多くのメディアに取り上げられていた北口榛花選手(JAL)の名前を挙げ、「北口選手も、高校時代にはこの合宿に参加し、そこから現在のポジションに辿り着いている。皆さんたちにも、北口選手のように多くの人々に夢を与えるようなアスリートになってもらいたい。今回は、U20・U16の選手が一堂に会してトレーニングを行う。そのプログラムのなかには、座学もあるし、トランスファーを意識した内容もある。ぜひ、積極的に取り組んでいってほしい。頑張っていきましょう」と参加者たちに呼びかけました。
続いて、この合宿で指導にあたる強化育成部のコーチングスタッフや合宿全体をサポートするスタッフが、一人ずつ自己紹介。施設利用上の注意点や日程の説明、事務連絡などが共有されました。
その後、陸上トレーニング場に移動し、最初のトレーニングが始まりました。強化育成部では、U16・U20年代の発育発達の個人差や将来的な種目選択などに配慮し、この研修合宿における実施内容も、日本陸連で策定している競技者育成指針( https://www.jaaf.or.jp/development/model/ )に則ったプログラムを組んでいます。トレーニングに際しては、競技者としての成長過程において、種目の変更(トランスファー)を容易にしていける身体つくりを目指して、「トランスファートレーニング」を中心に据えています。これは、合宿に参加する選手が、短距離・ハードル、中・長距離、競歩、跳躍、投てきといったメインに据えているブロックの垣根を越えて、身体つくりや動きつくりのベースとなるさまざまなトレーニングを、一緒に行っていくことによって、バランスのよいベースつくりをしていこうとするものです。
この日の練習では、短距離・ハードルブロックのコーチによる指導が行われました。まず、全員が陸上トレーニング場のフィールド内で、身体を動かす際の重心や軸の移動を意識する、地面からの反発を捉えて身体を移動させていく、動的な柔軟を高めるなど、動きつくりのなかでも基本中の基本となるドリルに挑戦。選手たちは、時には慣れない動きに四苦八苦する様子も見せつつ、1時間ほどかけて、さまざまなドリルにじっくりと取り組みました。
続いて行われたのは、ミニハードルやハードルを利用した動きつくりのトレーニングです。こちらは男子と女子に分かれて、ミニハードルを使ったトレーニングとハードルを使ったトレーニングを、約40分で交替して行う方法が採られました。
ミニハードルを用いたトレーニングでは、設置したミニハードルを、もも上げ、スキップ、あるいはステップを踏みながら越えて、地面の反発を得て、効率よく、速く、身体を前進させていく複数のドリルに取り組み、最終的にスプリント走へと繋げていく動きつくりが行われました。また、ハードルを用いたトレーニングでは、その場もも上げでリズミカルに身体の向きを変えながらハードルをまたいでいくなど、動きとリズムと柔軟性を意識した運動に取り組んだのちに、一定間隔に並べたハードルをさまざまな条件で跳んでいく、いわゆる“ハードルドリル”に挑戦。ミニハードルを用いたトレーニング以上に苦労しながら取り組んでいる選手もいれば、ハードルとは異なる種目を専門としている選手が見事な身体さばきでハードルをクリアして周囲を驚かせるなど、トランスファートレーニングならではの光景を見ることができました。
2時間半弱のトランスファートレーニングを終えたあとは、各ブロックに分かれて、30~40分ほどのブロック練習を行いました。短距離・ハードル、混成ブロックは、それまでに実施してきたドリルで得た感触を意識しつつ、120mほどの距離を流していくスプリント練習を展開。中長距離や競歩ブロックは、ジョグやストローでトレーニング場を周回しました。跳躍ブロック、投てきブロックは、それぞれに自重を利用したりペアを組んだりして行う体幹トレーニングを実施。笑い声のほか、時折、苦笑いや悲鳴も含む声が上がるなど、和やか、かつ楽しそうなムードのなか、実は“けっこうキツい”タイプの強化に取り組んでいました。
トレーニング終了後には、合宿に参加した男女800m日本記録保持者の落合晃選手(滋賀学園高)、久保凜選手(東大阪大敬愛高)、ダイヤモンドアスリートの中谷魁聖選手(福岡第一高、男子走高跳高校記録保持者)がメディアの囲み取材に応じ、合宿に参加しての心境や来季に向けた思いを、次のようにコメントしました。
【メディア対応選手:囲み取材コメント】
落合晃(滋賀学園高3年、男子800m)
各種目のトップの選手が集まってきての練習。今日は短距離的な動きの練習が多かったが、質の高い練習ができたと思う。(トランファートレーニングとして、今日実施した動きは)高校ではあまりやっていないことが多かったので、新しい動きとか、すごく新鮮だった。(参加選手には)U20世界選手権のときに仲良くなった選手などもいたので、久しぶりに話すことができた。今年は東京で世界陸上が行われるので、出場するだけでなく、そこで結果というところを求めたいなという気持ちでいる。タイムとしては、まずは、参加標準記録である(1分)44秒50は切りたいなと思っているのと、その先というところでは、勝負するとなったときには、(1分)43秒台でも足りないくらいだと思うので、そこは段階を踏んでいき、まずは43秒台を目指したい。まだ、シーズンにも入っていないので、今は土台つくりとして、冬場はしっかりと距離を踏んだり、補強したりすることに取り組んでいる。
春からは駒澤大学に進学する。大学4年間で、まずは陸上を通じて、人として成長したい。また、昨年、パリオリンピックに出場できなかったので、大学4年で迎えることになるロサンゼルスオリンピックは目標にしたいし、出場するだけでなく、メダルを獲れるような選手になっていたいという思いがある。
久保凜(東大阪大敬愛高2年、女子800m)
(U20オリンピック育成競技者研修)合宿は今回が2回目。今日は開講式のあとにトレーニングが行われたが、トレーニングでは、普段はしないハードルや短距離のウォーミングを経験した。これからにしっかり繋げられる練習ができたかなと思う。中・長距離だけでなく、ほかの種目の選手たちと一緒に練習できるのは、こういう機会しかない。その貴重な機会に呼んでもらえて、すごく嬉しく思う。今年は、東京で開催される世界陸上に出たいので、参加標準記録(1分59秒00)をちゃんと切って、絶対に出場するという気持ちで日々取り組もうと思っている。記録としては、今季は(1分)58秒台を狙いたいなと考えているので、まずは(1分)59秒をしっかりと切れるように頑張りたい。
そのためには、1周目に速く入ってもリラックスして走れる身体と、2周目にどれだけ(ペースが)落ちないかという部分が必要になる。そこをやっていくためにも、やはり練習の質を一つずつ上げていきたい。1周目を57秒で入れば、2周目を1分ちょいかかっても(1分)58(秒)で行ける。そのくらいで行けたらなと思う。
中谷魁聖(福岡第一高3年、男子走高跳) ※ダイヤモンドアスリート
まだ1日目なので話しきれていない部分はあるが、久しぶりに会う人がいたり、今回はU16の選手など今まで関わったことがない人もいたりして、楽しいなと思った。今日は、ハードルブロックの練習と短距離ブロックの練習をやったが、(自分がやっている)跳躍は、普段はドリルとかが多く、スプリント系とかハードルを跳ぶ練習とかは少ないので、新鮮な気持ちで取り組むことができた。短距離選手に比べると、自分の動きは、全然さばききれていない。まだまだだなと思う。特に、ミニハードルの練習は、普段はやっていない内容。走力にもつながるし、(走高跳の)助走のさばきにもつながってくるのかなと思うので、取り入れてみるといいなと感じた。今年は、世界陸上出場を、一番の目標にしている。記録としては、U20の日本記録が、君野貴弘さんの2m29(1992年)なので、それを越えられたらいいなと思っている。(2m)30という大台を目標に、頑張っていきたい。
試合は、2月初めの日本選手権室内が初戦となる。シニアの選手と戦ったのは今まで1回くらいしか経験しておらず、そのときも自分が思うような跳躍ができなかった。シニアというレベルの高いなかに入っても、自分の跳躍が出せるようにしていきたい。また、日本選手権でもあるので、3番以内には入りたいなと思っている。
文・写真:児玉育美(日本陸連メディアチーム)
▼ダイヤモンドアスリート 特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/diamond/
▼陸上日本代表特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/teamjapan/
▼チーム JAPAN
https://www.jaaf.or.jp/athletes/?event=1
▼競技者育成指針
https://www.jaaf.or.jp/development/model