世界最高峰シリーズ、ダイヤモンドリーグ(DL)の年間成績上位者で争うファイナルの最終日が9月14日、ベルギーの首都ブリュッセルのヘイゼル競技場で行われました。女子やり投の北口榛花選手(JAL、ダイヤモンドアスリート修了生)は、パリオリンピック金メダリストの実力を発揮。男子やり投のディーン元気選手(ミズノ)、女子5000mの田中希実選手(New Balance)も大舞台で健闘しました。
北口選手は3位に入った2022年、優勝した昨年に続き、3年連続のDLファイナル出場。金メダルに輝いたパリオリンピック後の初戦でした。2投目に65m05で首位に立ち、5投目までトップを譲らず、このまま優勝が決まるかと思われましたが、最終6投目にドラマが待っていました。
20歳の新鋭アドリアナ・ビラゴシュ選手(セルビア)が65m23をマークし、首位に浮上。逆転された北口選手は「いつも『6投目の北口』だから任せろ、と思った。最後だし、思い切りやれば超えられるんじゃないかな」と自信を胸に、直後の最終試技へ向かいました。観客に求めた手拍子に背中を押され、投じたこん身の一投は今季自己最高となる66m13。再び逆転し、2年連続でファイナル制覇を果たしました。
昨年の世界選手権決勝でも6投目で逆転優勝を飾った26歳が、持ち前の勝負強さを発揮しました。パリオリンピック後に練習拠点のチェコに戻った後、疲労のため約3週間は練習がほとんどできず、調整不足で試合に臨むことが「すごく不安だった」と言います。それでも、1投目に61m28を記録したことで、「意外と投げられる」と落ち着きを取り戻しました。
昨年、67m38の日本記録を樹立した思い出の競技場で、DL今季3勝目、通算9勝目を挙げました。今季の最終戦を優勝で締めくくり、「みんなが支えてくれたから、この一年やり切れたと思う」と感謝を口にしました。開幕まで1年を切った東京2025世界選手権に視線を向け、「日本の皆さんの前で、しっかり自分らしい投てきを見せたいと思う。連覇できるならしたい」と頂点を見据えました。
男子やり投のディーン選手は、32歳で初めてファイナルの舞台に立ちました。1投目は77m21で5番手につけ、4投目に80m37と「80m超え」を披露。最終6投目は観衆に手拍子を求め、上位浮上を狙いましたが、70m台にとどまりました。
最後まで全力で投げ切り、胸を張れる5位。「DLファイナルに出られたことを光栄に思う」。6投目の後は、自らをたたえるように頭上で手をたたきました。気温13度と冷え込んだ影響で足をうまく使えなかったそうです。「悔しい気持ちもあるが、その中での80mは地力がついた証しでもあるので、まだまだ成長できているとプラスに考えれば自信になった」と前向きに話しました。
2012年ロンドンオリンピック後は、長く故障に苦しみました。苦悩の時期を乗り越え、今夏のパリ大会で12年ぶりにオリンピック出場。惜しくも決勝には進めませんでしたが、82m48と力強い投げを見せました。その後のDLでポイントを重ね、今回の切符をつかみました。4年後のロサンゼルスオリンピックも見据えており、意欲は衰えません。「東京ででかい一発を投げるために、また探究を楽しむ」と来年の世界選手権でのビッグスローを誓いました。
女子5000mの田中選手は、序盤から速いペースでレースが展開する中、粘りの走りを見せました。中盤は8番手あたりにつけ、残り1000mを切ってから順位を上げ、残り2周を切って6番手に。力を振り絞り、今季自己最高の14分31秒88で2年連続で6位に入りました。昨年、この競技場で自身がマークした日本記録にあと2秒70と迫る力走でした。
田中選手はレース後、14分28秒09のアジア記録を目指していたことを明かしました。「ラストで置いていかれてしまったので、そこが弱さかなと思う」と残り1周のスパートを反省しつつも、「前半からすごくきつかったし、今までにない入りだったけど、その中で粘り切ることができたのはこれからに生きる。課題がどんどん絞られてきている」と収穫を得た様子でした。
パリオリンピックは1500m、5000mともに決勝進出はなりませんでしたが、その後も積極的にDLを転戦し、好記録を出し続けている25歳。この日はレース前、怖さから逃げ出したくなったそうですが、父親の健智コーチのことを考え、「初めて父のためにと思って走ることができ、踏ん張ることができた」と振り返りました。
海外のトップ選手たちも、素晴らしいパフォーマンスで観衆を沸かせました。男子走り高跳びはジャンマルコ・タンベリ選手(イタリア)が、2m34を3回目で成功して優勝。男子200mはケネス・ベドナレク選手(米国)が19秒67で競り勝ちました。女子1500mはフェイス・キピエゴン選手(ケニア)が3分54秒75で制し、最終種目の女子400mハードルはフェムケ・ボル選手(オランダ)が52秒45で頂点に立ちました。北口選手ら各種目の優勝者にトロフィーが授与され、大会は華やかに幕を閉じました。
◆北口榛花(JAL)※ダイヤモンドアスリート修了生
大事なところでしっかり勝ち切れてよかったです。ビラゴシュ選手が調子が良いのは分かっていたし、(自分の記録より上に)来るなら絶対に彼女だと思っていました。いつも「6投目の北口」だから任せろ、と思いました。最後だし、思い切りやれば超えられるんじゃないかなと。また10数センチ差で負けるのは嫌だと思って、最後に臨みました。久しぶりに自分らしく力に頼らない投てきが、ちょっと見えてきたかなと思います。
オリンピックが終わった後、疲れがどっときてしまい、コンディションも落ちて、3週間ぐらい練習できない感じになりました。このままシーズンが終わりになっちゃうのかな、と思うくらいでした。私の身近にいる人は、誰も今日は私が勝つと思っていなかったと思いますが、みんなが支えてくれたから、この一年やり切れたと思います。来年はこんなにバタバタしないように、最初からコンディショニングに注意して、冬場に鍛えることが大事かなと思います。
少しずつ海外のファンの皆さんにも日本の北口、やり投の北口っていうのを知ってもらえてうれしいです。来年は東京で世界選手権があるので、日本の方々が一番来てくださる大会になると思います。日本の皆さんの前で、しっかり自分らしい投てきを見せたいと思いますし、連覇できるならしたいです。
◆ディーン元気(ミズノ)
オリンピック後のDL連戦で当落戦を投げ切り、DLファイナルに出られたことを光栄に思います。試合としてはぐっと気温が落ちてきて寒いコンディションになり、足をうまく機能させられなかったので、悔しい気持ちもありますが、その中での80mは地力がついた証しでもあるので、まだまだ成長できているとプラスに考えれば自信になりました。
後半シーズンは試合を通して投げて感じること、他のライバルたちを見て話して感じることがあり、非常に有意義なシーズンになったように思います。毎年、成長したようで振り返ると少ししか進めていないけど、選手としてまだまだ燃え続けるんだと感じられたシーズンになったので、来年も高いモチベーションを保ちながら自分探しを続けていきます。東京(世界選手権)で、でかい一発を投げるために、また探究を楽しみます。
◆田中希実(New Balance)
去年はアジア記録も惜しかったということをゴール後に知ったので、今日はただ日本記録というよりは、もうここまで来たらアジア記録を目指したいと思って振り絞りました。やっぱりラストで置いていかれてしまったので、そこが弱さかなと思いますが、課題はどんどん絞られてきています。前半からすごくきつかったですし、今までにない入りだったけど、その中で粘り切ることができたのは、これからに生きます。
スタート前とか一日中ずっと怖くて、逃げたくなり、去年みたいに向かっていく気持ちはつくれていなかったと思います。今まで明確に父のためにと思って走ったことがなかったので、今日は父のためにと初めて思って走ることができ、踏ん張ることができたと思います。
今年はDLファイナルありきで、ずっとヨーロッパに腰を据えてというスケジュールだったからこそ、ここまで安定的に過ごすことができたかなと思います。拠点もやっと開拓できつつあり、今回の走りにつながりました。自信がない中でもこれだけ地力がついていることを、自信に変えていきたいなと思います。来年はもっと練習に中身が伴ってくると思うので、(東京2025世界選手権では)1500mと5000mで今度こそちゃんと決勝に残りたいと思っています。
写真:アフロスポーツ
女王北口、持ち前の勝負強さ発揮
北口選手は3位に入った2022年、優勝した昨年に続き、3年連続のDLファイナル出場。金メダルに輝いたパリオリンピック後の初戦でした。2投目に65m05で首位に立ち、5投目までトップを譲らず、このまま優勝が決まるかと思われましたが、最終6投目にドラマが待っていました。
20歳の新鋭アドリアナ・ビラゴシュ選手(セルビア)が65m23をマークし、首位に浮上。逆転された北口選手は「いつも『6投目の北口』だから任せろ、と思った。最後だし、思い切りやれば超えられるんじゃないかな」と自信を胸に、直後の最終試技へ向かいました。観客に求めた手拍子に背中を押され、投じたこん身の一投は今季自己最高となる66m13。再び逆転し、2年連続でファイナル制覇を果たしました。
昨年の世界選手権決勝でも6投目で逆転優勝を飾った26歳が、持ち前の勝負強さを発揮しました。パリオリンピック後に練習拠点のチェコに戻った後、疲労のため約3週間は練習がほとんどできず、調整不足で試合に臨むことが「すごく不安だった」と言います。それでも、1投目に61m28を記録したことで、「意外と投げられる」と落ち着きを取り戻しました。
昨年、67m38の日本記録を樹立した思い出の競技場で、DL今季3勝目、通算9勝目を挙げました。今季の最終戦を優勝で締めくくり、「みんなが支えてくれたから、この一年やり切れたと思う」と感謝を口にしました。開幕まで1年を切った東京2025世界選手権に視線を向け、「日本の皆さんの前で、しっかり自分らしい投てきを見せたいと思う。連覇できるならしたい」と頂点を見据えました。
ディーン、32歳で初ファイナル
男子やり投のディーン選手は、32歳で初めてファイナルの舞台に立ちました。1投目は77m21で5番手につけ、4投目に80m37と「80m超え」を披露。最終6投目は観衆に手拍子を求め、上位浮上を狙いましたが、70m台にとどまりました。
最後まで全力で投げ切り、胸を張れる5位。「DLファイナルに出られたことを光栄に思う」。6投目の後は、自らをたたえるように頭上で手をたたきました。気温13度と冷え込んだ影響で足をうまく使えなかったそうです。「悔しい気持ちもあるが、その中での80mは地力がついた証しでもあるので、まだまだ成長できているとプラスに考えれば自信になった」と前向きに話しました。
2012年ロンドンオリンピック後は、長く故障に苦しみました。苦悩の時期を乗り越え、今夏のパリ大会で12年ぶりにオリンピック出場。惜しくも決勝には進めませんでしたが、82m48と力強い投げを見せました。その後のDLでポイントを重ね、今回の切符をつかみました。4年後のロサンゼルスオリンピックも見据えており、意欲は衰えません。「東京ででかい一発を投げるために、また探究を楽しむ」と来年の世界選手権でのビッグスローを誓いました。
田中希実、粘りの力走
女子5000mの田中選手は、序盤から速いペースでレースが展開する中、粘りの走りを見せました。中盤は8番手あたりにつけ、残り1000mを切ってから順位を上げ、残り2周を切って6番手に。力を振り絞り、今季自己最高の14分31秒88で2年連続で6位に入りました。昨年、この競技場で自身がマークした日本記録にあと2秒70と迫る力走でした。
田中選手はレース後、14分28秒09のアジア記録を目指していたことを明かしました。「ラストで置いていかれてしまったので、そこが弱さかなと思う」と残り1周のスパートを反省しつつも、「前半からすごくきつかったし、今までにない入りだったけど、その中で粘り切ることができたのはこれからに生きる。課題がどんどん絞られてきている」と収穫を得た様子でした。
パリオリンピックは1500m、5000mともに決勝進出はなりませんでしたが、その後も積極的にDLを転戦し、好記録を出し続けている25歳。この日はレース前、怖さから逃げ出したくなったそうですが、父親の健智コーチのことを考え、「初めて父のためにと思って走ることができ、踏ん張ることができた」と振り返りました。
華やかに閉幕
海外のトップ選手たちも、素晴らしいパフォーマンスで観衆を沸かせました。男子走り高跳びはジャンマルコ・タンベリ選手(イタリア)が、2m34を3回目で成功して優勝。男子200mはケネス・ベドナレク選手(米国)が19秒67で競り勝ちました。女子1500mはフェイス・キピエゴン選手(ケニア)が3分54秒75で制し、最終種目の女子400mハードルはフェムケ・ボル選手(オランダ)が52秒45で頂点に立ちました。北口選手ら各種目の優勝者にトロフィーが授与され、大会は華やかに幕を閉じました。
【DAY2:競技後コメント】
◆北口榛花(JAL)※ダイヤモンドアスリート修了生
女子やり投 1位 66m13
大事なところでしっかり勝ち切れてよかったです。ビラゴシュ選手が調子が良いのは分かっていたし、(自分の記録より上に)来るなら絶対に彼女だと思っていました。いつも「6投目の北口」だから任せろ、と思いました。最後だし、思い切りやれば超えられるんじゃないかなと。また10数センチ差で負けるのは嫌だと思って、最後に臨みました。久しぶりに自分らしく力に頼らない投てきが、ちょっと見えてきたかなと思います。
オリンピックが終わった後、疲れがどっときてしまい、コンディションも落ちて、3週間ぐらい練習できない感じになりました。このままシーズンが終わりになっちゃうのかな、と思うくらいでした。私の身近にいる人は、誰も今日は私が勝つと思っていなかったと思いますが、みんなが支えてくれたから、この一年やり切れたと思います。来年はこんなにバタバタしないように、最初からコンディショニングに注意して、冬場に鍛えることが大事かなと思います。
少しずつ海外のファンの皆さんにも日本の北口、やり投の北口っていうのを知ってもらえてうれしいです。来年は東京で世界選手権があるので、日本の方々が一番来てくださる大会になると思います。日本の皆さんの前で、しっかり自分らしい投てきを見せたいと思いますし、連覇できるならしたいです。
◆ディーン元気(ミズノ)
男子やり投 5位 80m37
オリンピック後のDL連戦で当落戦を投げ切り、DLファイナルに出られたことを光栄に思います。試合としてはぐっと気温が落ちてきて寒いコンディションになり、足をうまく機能させられなかったので、悔しい気持ちもありますが、その中での80mは地力がついた証しでもあるので、まだまだ成長できているとプラスに考えれば自信になりました。
後半シーズンは試合を通して投げて感じること、他のライバルたちを見て話して感じることがあり、非常に有意義なシーズンになったように思います。毎年、成長したようで振り返ると少ししか進めていないけど、選手としてまだまだ燃え続けるんだと感じられたシーズンになったので、来年も高いモチベーションを保ちながら自分探しを続けていきます。東京(世界選手権)で、でかい一発を投げるために、また探究を楽しみます。
◆田中希実(New Balance)
女子5000m 6位 14分31秒88
去年はアジア記録も惜しかったということをゴール後に知ったので、今日はただ日本記録というよりは、もうここまで来たらアジア記録を目指したいと思って振り絞りました。やっぱりラストで置いていかれてしまったので、そこが弱さかなと思いますが、課題はどんどん絞られてきています。前半からすごくきつかったですし、今までにない入りだったけど、その中で粘り切ることができたのは、これからに生きます。
スタート前とか一日中ずっと怖くて、逃げたくなり、去年みたいに向かっていく気持ちはつくれていなかったと思います。今まで明確に父のためにと思って走ったことがなかったので、今日は父のためにと初めて思って走ることができ、踏ん張ることができたと思います。
今年はDLファイナルありきで、ずっとヨーロッパに腰を据えてというスケジュールだったからこそ、ここまで安定的に過ごすことができたかなと思います。拠点もやっと開拓できつつあり、今回の走りにつながりました。自信がない中でもこれだけ地力がついていることを、自信に変えていきたいなと思います。来年はもっと練習に中身が伴ってくると思うので、(東京2025世界選手権では)1500mと5000mで今度こそちゃんと決勝に残りたいと思っています。
写真:アフロスポーツ