8月1~11日に行われたパリオリンピック陸上競技において、日本の競歩は、男子20km競歩と男女混合競歩リレーの2種目で、3つの入賞を果たしました。ここでは、競歩の強化を担当する今村文男シニアディレクターに、今大会における結果を踏まえての総括と今後の課題を聞きました。
以下、その要旨をご紹介します。
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力が拮抗しているなかでレースを進めていくための“テッパン”レースといえる展開…序盤は比較的ゆっくり入り、10kmの通過が40分20~30秒くらいのペース、そして終盤で大きくペースアップするという流れとなったなか、池田・古賀ともに終盤で上位争いから後れる形となった。ここは、コンディショニングの仕上げ段階での動きの作り方やハイペースへの動きの対応という部分が、中盤から後半にかけてのレース展開の対応の遅れに影響したように思う。また、今大会のコースでは、若干のアップダウンがあったために、周回することによって小刻みなペース変動が生じ続ける状況となっていた。その上り坂や下り坂で、ポジショニングがうまくいかなかった点も、最後に突き放されてしまった要因とみることができる。
ただし、メダル獲得はならなかったものの、池田は2大会連続の入賞、古賀については初出場ながらの入賞を果たしている。また、今年に関しては、大会前の段階で、いかに世界トップ10のなかに入って、五輪に向けた準備ができるかというところもテーマとして掲げていて、その点は日本選手権においてクリアすることができている(池田:今季世界リスト1位、濱西諒=サンベルクス:同4位、古賀:同6位)。コロナ禍の影響により、ここ数年は実施が難しかった世界の主要大会を転戦するような取り組みができるようになれば、さらなる成長を確実に期待できると考えている。
今回、藤井には3つのレッドカードが出てしまったわけだが、これは男子とは異なり、序盤から非常に速いペースで進んだレースにおいて、速さに対する歩型の準備が十分でなかった状態で集団のなかに位置したことで、審判から見ると異質の歩き方に見えてしまったのかなと思う。序盤20分くらいの段階でレッドカードが2枚出たのは、私たちも意外といえる事態だった。しかし、そこには路幅が狭くなっていくなかで起伏と折返しに対応するというコース形状の難しさが影響しており、その点も15~16番の位置にいながら、どうしても動きを対応させることができなかった要因の一つと察している。
ただし、世界的に見たとき、日本のようにリレーのみで出場したペアは出場25ペアのうち4組。ほかのペアについては、男女のいずれか、もしく男女両方が、個人(20km競歩)にも出場しており、メダリストに関しては、全員が個人でも上位に入っている。前回の東京大会で50kmがなくなり、2022年以降は35kmという種目ができたり、今回実施の混合リレーができたりと、競歩については、この3年で大きな変化が生じているわけだが、そのなかで、20kmの選手がどんどん35kmにも挑戦し、2種目で活躍していく傾向が強まってきている。今回、日本は個人種目とリレーとで選手が分かれる形となったが、今回の結果を目の当たりにすると、もし、これからもリレーが五輪種目として実施されるのであれば、同一大会で複数種目に出ていけるような地力を持つ選手を育てていくことも必要になってくるのかなと感じた。
また、この種目では、レース自体のペースが、想定以上に速かったというのが正直なところであった。メダル獲得国の1kmあたりの男女平均4分02~04秒というペースは、世界競歩の結果を踏まえてメダルラインを4分05~10秒とみていた私自身の想定を大きく上回るものだった。8位入賞を果たした日本の川野将虎(旭化成)・岡田久美子(富士通)ペアの平均は4分09秒。1区間目の男子(区間2位)は良かったものの、2~4区間目と同じ選手が交互にレースしていくなかでの疲労感や動きの崩れという点は生じてしまった。ただし、日本チームの場合は、13位の髙橋和生(ADワークスグループ)・柳井綾音(立命館大学)ペアも含めて、レッドカードは2枚にとどまり、3分のペナルティを凌ぐことはできている。そこは評価できるように思う。一方で、メダル争いというレベルを目指していくうえでは、まずは個々の自己記録を高めていくことが必須になることも痛感した。両者が個人種目で上位争いできる力を持っていないと、ペアにおいても結果を残していくのは現実的には厳しいことに直面する結果だった。
あとは、女子20kmにおいては、参加資格を得られる選手をいかに増やしていくかも必要になってくる。今回については、女子20kmとリレーにおいて、それぞれに女子(最大5名)を配置できる機会があったわけだが、日本の場合は参加資格がないために、合計3人しか出場する選手を派遣することができなかった。世界大会への出場は、参加標準記録の突破だけでなく、ワールドランキングにより条件を満たす方法もあるわけだが、後者で資格を獲得する者を増やしていくためには、大会カテゴリーの高い海外の競技会に出ていくことも考える必要がある。今後は、他の一般種目と同様なチャレンジもしていく時期になってきていると感じた。
参加標準記録突破者を継続して複数出せている男子は、ワールドランキングを考慮する必要がない状況にはあるものの、やはり海外転戦は必要と考える。レース感覚、歩型の確認、強化の進捗確認など、国際大会でなければ得られない事柄は多く、現在、男子20kmで中心となってきている選手たちは、年代やキャリアをみても、それが求められる段階に達している。明確な目的を持って取り組んでいけるような方向づけをしていくことで、さらなるステップアップを目指したい。
※本内容は、帰国後に行った個別取材において、今村文男シニアディレクターが発言した内容をまとめています。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト
以下、その要旨をご紹介します。
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◎今村文男シニアディレクター(競歩担当)
・男子20km競歩
男子20km競歩は、陸上競技最初の種目ということで、日本チーム全体に勢いにつけることを目指すとともに、前回大会の結果(2・3位)も踏まえて、一番輝く金メダルを目標に、準備やレース展開の対応に取り組んだ。結果としてメダルには届かなかったが、池田向希(旭化成、7位)と古賀友太(大塚製薬、8位)の2選手が入賞したことで、五輪としては、2008年北京大会以降続いている入賞者を今回も出すことができた。力が拮抗しているなかでレースを進めていくための“テッパン”レースといえる展開…序盤は比較的ゆっくり入り、10kmの通過が40分20~30秒くらいのペース、そして終盤で大きくペースアップするという流れとなったなか、池田・古賀ともに終盤で上位争いから後れる形となった。ここは、コンディショニングの仕上げ段階での動きの作り方やハイペースへの動きの対応という部分が、中盤から後半にかけてのレース展開の対応の遅れに影響したように思う。また、今大会のコースでは、若干のアップダウンがあったために、周回することによって小刻みなペース変動が生じ続ける状況となっていた。その上り坂や下り坂で、ポジショニングがうまくいかなかった点も、最後に突き放されてしまった要因とみることができる。
ただし、メダル獲得はならなかったものの、池田は2大会連続の入賞、古賀については初出場ながらの入賞を果たしている。また、今年に関しては、大会前の段階で、いかに世界トップ10のなかに入って、五輪に向けた準備ができるかというところもテーマとして掲げていて、その点は日本選手権においてクリアすることができている(池田:今季世界リスト1位、濱西諒=サンベルクス:同4位、古賀:同6位)。コロナ禍の影響により、ここ数年は実施が難しかった世界の主要大会を転戦するような取り組みができるようになれば、さらなる成長を確実に期待できると考えている。
・女子20km競歩
女子20km競歩については、3名の代表のうち2名が男女混合競歩リレーに専念することとなったため、藤井菜々子(エディオン)のみの出場となった。代表内定を得た2月の日本選手権(20km競歩)以降は、予定していた4月世界競歩(アンタルヤ)のリレー種目を欠場し、その後も計画していたヨーロッパでのレースも回避するなど、故障の影響で準備の段階で生じた遅れが響いてしまった。また、1人で個人種目に臨むことや日本選手権優勝者ということへの周囲の期待に対する責任感のようなものを背負って取り組んでいる印象もあったので、そうした側面も影響していたのではないかと考えている。今回、藤井には3つのレッドカードが出てしまったわけだが、これは男子とは異なり、序盤から非常に速いペースで進んだレースにおいて、速さに対する歩型の準備が十分でなかった状態で集団のなかに位置したことで、審判から見ると異質の歩き方に見えてしまったのかなと思う。序盤20分くらいの段階でレッドカードが2枚出たのは、私たちも意外といえる事態だった。しかし、そこには路幅が狭くなっていくなかで起伏と折返しに対応するというコース形状の難しさが影響しており、その点も15~16番の位置にいながら、どうしても動きを対応させることができなかった要因の一つと察している。
・男女混合競歩リレー
今回、初めて実施された種目で、種目としてのレギュレーション自体も直前になるまで決まらないという難しさがあった。また、五輪本番のスタートラインに立つまでのペアリングが不安定であったため、まずは、フルエントリーとなる2枠を勝ち取って、当初の予定通りのメンバーでスタートを迎えることができてよかったと考えている。ただし、世界的に見たとき、日本のようにリレーのみで出場したペアは出場25ペアのうち4組。ほかのペアについては、男女のいずれか、もしく男女両方が、個人(20km競歩)にも出場しており、メダリストに関しては、全員が個人でも上位に入っている。前回の東京大会で50kmがなくなり、2022年以降は35kmという種目ができたり、今回実施の混合リレーができたりと、競歩については、この3年で大きな変化が生じているわけだが、そのなかで、20kmの選手がどんどん35kmにも挑戦し、2種目で活躍していく傾向が強まってきている。今回、日本は個人種目とリレーとで選手が分かれる形となったが、今回の結果を目の当たりにすると、もし、これからもリレーが五輪種目として実施されるのであれば、同一大会で複数種目に出ていけるような地力を持つ選手を育てていくことも必要になってくるのかなと感じた。
また、この種目では、レース自体のペースが、想定以上に速かったというのが正直なところであった。メダル獲得国の1kmあたりの男女平均4分02~04秒というペースは、世界競歩の結果を踏まえてメダルラインを4分05~10秒とみていた私自身の想定を大きく上回るものだった。8位入賞を果たした日本の川野将虎(旭化成)・岡田久美子(富士通)ペアの平均は4分09秒。1区間目の男子(区間2位)は良かったものの、2~4区間目と同じ選手が交互にレースしていくなかでの疲労感や動きの崩れという点は生じてしまった。ただし、日本チームの場合は、13位の髙橋和生(ADワークスグループ)・柳井綾音(立命館大学)ペアも含めて、レッドカードは2枚にとどまり、3分のペナルティを凌ぐことはできている。そこは評価できるように思う。一方で、メダル争いというレベルを目指していくうえでは、まずは個々の自己記録を高めていくことが必須になることも痛感した。両者が個人種目で上位争いできる力を持っていないと、ペアにおいても結果を残していくのは現実的には厳しいことに直面する結果だった。
・今後に向けて
競歩については、先にも触れたように、2021年の東京オリンピック以降、このパリ大会に向けての3年間で、杭州アジア大会(2023年実施)も含めて、さまざまな種目の実施や変更が続いてきた。オリンピックサイクルで強化を考えていくうえでは、選手自身はもちろんのこと、強化方針においても、どこにターゲットを据えるかが非常に難しい状況だった。次回ロサンゼルス大会についても見通しが立たない面が多い。まずは、個人種目として実施される男女20kmで、柱になる選手を育てていくことが一番になると考えている。あとは、女子20kmにおいては、参加資格を得られる選手をいかに増やしていくかも必要になってくる。今回については、女子20kmとリレーにおいて、それぞれに女子(最大5名)を配置できる機会があったわけだが、日本の場合は参加資格がないために、合計3人しか出場する選手を派遣することができなかった。世界大会への出場は、参加標準記録の突破だけでなく、ワールドランキングにより条件を満たす方法もあるわけだが、後者で資格を獲得する者を増やしていくためには、大会カテゴリーの高い海外の競技会に出ていくことも考える必要がある。今後は、他の一般種目と同様なチャレンジもしていく時期になってきていると感じた。
参加標準記録突破者を継続して複数出せている男子は、ワールドランキングを考慮する必要がない状況にはあるものの、やはり海外転戦は必要と考える。レース感覚、歩型の確認、強化の進捗確認など、国際大会でなければ得られない事柄は多く、現在、男子20kmで中心となってきている選手たちは、年代やキャリアをみても、それが求められる段階に達している。明確な目的を持って取り組んでいけるような方向づけをしていくことで、さらなるステップアップを目指したい。
※本内容は、帰国後に行った個別取材において、今村文男シニアディレクターが発言した内容をまとめています。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト