2024.01.18(木)選手

【ダイヤモンドアスリート】第2回研修レポート:海外で活躍するために必要なメンタルや考え方について




ダイヤモンドアスリート」制度は、日本陸連が、国際的な活躍が期待できる資質を備えた次世代競技者を、中長期的な視野で多面的に強化・育成することによって、対象アスリートが、より高い競技力を獲得していくのと並行して、将来的に豊かな人間性を持つ国際人として社会やスポーツ界の発展に寄与する人材に育つことを期して、2014-2015年に始まりました。
昨年12月6日からは、節目となる10期目に突入。第10期アスリートとして認定された栁田大輝(東洋大学)、佐藤圭汰(駒澤大学)、西徹朗(早稲田大学)、北田琉偉(日本体育大学)、澤田結弥(浜松市立高校)、永原颯磨(佐久長聖高校)の6選手に向けた各種プログラムがスタートしています。

12月19日には、味の素ナショナルトレーニングセンターにおいて、「リーダーシッププログラム」として、第2回・第3回の研修が行われ、栁田選手、西選手、北田選手が出席、また澤田・永原の2選手がオンラインで参加しました。「リーダーシッププログラム」は、国際人としての素養や豊かな人間性を高めることを期して、個の成長を重視して実施する研修プログラムの一つに位置づけられています。第10期のスタートにあたって、この制度を統轄する室伏由佳ダイヤモンドアスリートプログラムマネジャーは、「今期は特に海外に目を向けたり、活動したりする際のあと押しになるようなプログラムを準備している」と表明していましたが、この日行われた2つの研修では、どちらも、まさに「直球ど真ん中」といえる内容が用意されました。

第2回リーダーシッププログラムの講師を務めたのは、スポーツ心理学を専門領域とする研究者で、ハワイ大学助教の岩月猛泰先生です。日本大学卒業後、日本大学大学院で修士を取得した岩月先生は、英語力がゼロベースの状態だった当時に、アメリカ留学を決意。猛勉強して英語を習得して大学院に進学し、学費全額免除と給料支給の条件を得て、最終的に博士号を取得した経歴の持ち主。現在は、大学教員として2校目となるハワイ大学で働くのと並行して、SNSやYouTube(イワツキ教授)で自身の経験を紹介したり日本人の留学サポートを行ったりする活動にも取り組んでいます。
今回の研修では、2部構成で行われ、まず「海外で生き抜くメンタル」というテーマで行われた第1部では、アメリカの大学院に進学した岩月先生自身の体験を振り返りつつ、海外留学する際に必要になってくる事柄や考え方が紹介されました。

日本大学卒業までテニス中心の生活を送り、勉強らしい勉強はしてこなかったと言う岩月先生は、日本大学大学院時に、「専攻しているスポーツ心理学研究の最先端であるアメリカで学び、博士号を取得して大学教員になる」という将来の目標を定めました。その実現に向けて、当時、ほとんど話せなかったという英語の習得に力を入れることからスタート。語学学校に通って徹底的に勉強し、スプリングフィールド大学の聴講生として学部の授業を受けるなかで語学力を磨き、同大学院の修士課程に入学しました。さらに、英語力を高めるためにテニス部のボランティアコーチを務めたことがきっかけで、その後は正式に同学の男子部のアシスタントコーチになり、学費が全額免除されるとともに給料の支給も受けられるようになりました。さらには男女テニス部のヘッドコーチとして雇用されました。その後、博士課程に進んだネバダ大学でも同様に学費全額免除と給料支給の条件で学ぶことができ、2018年には博士号を取得。同年からペンシルベニア州立大学で助教として働いたのちに、2022年からはハワイ大学で運動学、心理学を教えています。



こうした自身の経験やエピソードを紹介しつつ、岩月先生は、実際に海外に行く上で大切になってくること、実際に難しいと感じたことや失敗したこと、米国大学スポーツの特徴や学生アスリートとして取り組む際に求められること、英語を習得することのメリットやスキルの具体的な磨き方などについて、一つ一つを解説。そのうえで、

・英語を使いこなせるようになるのは大変そうに思うかもしれないが、皆さんが、今、取り組んでいることの陸上競技の大変さと比べたら、陸上でトレーニングすることのほうがずっと難しい。英語は誰でも習得することができる、
・アメリカの大学や大学院では学費免除等にさまざまな仕組みがあり、それを活用することで経済的な問題をカバーできる。例えば、皆さんが将来コーチになることを考えているのなら、陸上関係のコーチとして働くことで学費のカバーや給料を得て、コーチングの能力も高めながら大学院で勉強するという方法もとることができる、
・言葉が自由に扱えないなかで、友達の輪を広げていくのは、実はそう簡単ではない。しかし、スポーツ(自分の場合はテニス、皆さんの場合は陸上)を介すると容易に広げていくことが可能となる。それはスポーツに取り組んでいる者にとっては大きな強みとなる、
など、実際に経験した者であるからこその情報や考え方を提供しました。

最後に、海外で生活しているなかで感じることとして、「勤勉な日本人は努力すれば勝てる」「(海外には)頑張っている人を応援してくれる環境がある」「きついことのように感じるかもしれないが、皆さんはすでに(陸上競技という)きついことは十分にやっている。それに比べたら英語の習得は大変なことではない。行動することで見えてくるものがあるはず」「海外での経験は、今後、あらゆる場面で生かすことができる」といった点を挙げたうえで、「私はアメリカでの生活がとっても合っていると感じている」とまとめました。

質疑応答では、来年度からルイジアナ州立大学に進学することになっている澤田選手から、「アメリカでは自己アピールが大事ということだったが、岩月先生は、どんなアピールを行ったか」という具体的な質問も。岩月先生からは、「日本人の場合は、つい謙遜してしまいがちだが、アメリカでは “自分はこれができる”“こういう努力をしてきた”“こういう結果を残してきた”というように、自分のできること、やってきたことをしっかりと相手に伝えることがとても大切。例えば、私は博士課程に進学した際には、修士を日本とアメリカで2回やっているので研究はしっかりやってきたこと、論文もけっこう書いてきたこと、日本語も英語もできることなど、自分の実績をきちんと相手に伝えられるよう事前にしっかり準備した。日本人の場合は“ちょっと言いすぎかな”と思うくらいアピールしても大丈夫」という貴重なアドバイスが寄せられました。



また、英語の習得については、「どうやれば継続して勉強を続けられるのか」「日本の大学で英語となるとTOEIC(国際コミュニケーション英語能力テスト)が使われ、リーディングやリスニング重視となりがち。スピーキングをどう考えればよいのか」「実際にスピーキングはどうやって高めていけばよいのか」といった具体的な質問が次々と上がり、ダイヤモンドアスリートたちの関心の高さが伺えました。


短い休憩を挟んで行われた第2部は、「メンタルで勝つ」というタイトルのもと、岩月先生の専門分野であるスポーツ心理学にフォーカスした内容が紹介されました。

冒頭で、「第2部では、どんなふうに目標を立てていけばいいのかとか、ベストのパフォーマンスをできるときや逆に良くないときに自分が何をどう考えているかを知ることのできる時間にしたい」と述べた岩月先生は、「メンタルが強いとは?」「成功するマインドセット」「プレッシャーで負けないメンタル」「勝てる目標設定」といった項目を掲げ、より実践に直結する観点で話を展開。それぞれの項目でダイヤモンドアスリートたちの考えを引き出したりワークシートに書き込む作業に取り組ませたりしながら、以下の事柄を説明しました。

・「メンタルが強い」とは、「力を出したいときに、最大の力が出せる」こと。それは「自分の力以上を出す」ことではなく、「出したいときに出せる」ということを意味している。
・自信を高めることは非常に大事。「うまくいく」と信じること、成長思考を持つことは成功の鍵となる。
・プレッシャー(緊張すること)は悪いものではなく良いもの。自分が良いパフォーマンスを出せたとき、あるいはパフォーマンスが低下したときに、どんなプレッシャーがあったかを書き出し、自分のプレッシャーの度合いとパフォーマンスの関係を把握しておくとコントロールしやすくなる。
・プレッシャーを不安に感じるときに、自身に生じているプロセスと、それを解消する具体的な対処方法の紹介。
・目標には、結果目標と過程目標の2種類がある。勝つための目標設定では、特に、プロセスにおける目標(過程目標)をうまく設定することが重要となる。
・過程目標のより効果的な設定の仕方と、うまくいかない設定にありがちな問題点。

そのうえで、「世界に挑戦するメンタル」として、「日の丸を背負って、世界で戦っていく皆さんに大事だと思うこと」として、

・自信を持つ:過去の実績や努力を振り返り、自分の力を信じる、
・失敗を恐れない:様々なプレッシャーには学びがある。良いパフォーマンスをしたときの自分を分析し、良いパフォーマンスが出せる選手になってほしい、
・目標設定とルーティン:より具体的で明確な過程目標を決める。自分の努力で達成できる小さな目標を設定し、それをクリアすることで自信をつけていってほしい、
・周囲への感謝:応援してくれる人の存在は大きな力となるし、ダイヤモンドアスリートというサポートはものすごいこと。感謝の気持ちを忘れずに、
・楽しむこと:陸上に取り組めること、そのなかでダイヤモンドアスリートに認定されていることは、本当に特別で幸せな経験。その状態を楽しんで取り組んでほしい、
の5つを挙げ、ダイヤモンドアスリートたちへのエールとして締めくくりました。


ダイヤモンドアスリートたちからは、「環境に対する苦手意識の対処法」「練習で試合ほどの動きができない点は気にしなくてよいか」「挑戦する気持ちで臨むときは力が発揮できるが、自分が勝てる状況のときは考えすぎたり力を発揮できなかったりする。どうすればよいか」「絶対に外したくない試合で、緊張しすぎてしまったとき、どうすればよいか」「掲げた目標を達成したあとの意識の保ち方や再設定の方法は?」など、日々の実感に即したリアルな質問が。岩月先生は、その1つ1つに対してポジティブな言葉で応じ、「こうしてみたら?」「こう考えてみたら?」とやわらかな口調で具体的な行動や考え方をアドバイスしていきました。



最後に室伏マネジャーが登壇。「岩月先生のお話から、“メンタルの部分”の大切さがよくわかったと思う。やったかやらなかったかで違いが出てくるのは、心についても同じこと。向き合えば向き合った分、必ず何かを獲得している。同じグラウンドに立っていても、異なる世界観や違う視点をもって取り組むことができるのが心理学的アプローチの良いところ。周囲からより注目される存在であるダイヤモンドアスリートの皆さんは、そのなかで“結果を出したい”と思っているだろうし、“結果を出さなければならない”キャリアになってきている。ぜひ、今日、聞いた話を参考にして、取り組んでみてほしい」とダイヤモンドアスリートに呼びかけ、2回目のプログラムを終了しました。


文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)


【第10期ダイヤモンドアスリート】その才能で世界を掴め!

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