Day7:8月25日(金)イブニングセッション
ブダペスト2023世界選手権は、8月25日に大会第7日を迎え、いよいよ終盤にさしかかりました。この日のイブニングセッションには、女子キャプテンの北口榛花選手(JAL、ダイヤモンドアスリート修了生)が女子やり投決勝に登場。4位で臨んだ最終投てきで、66m73のビッグアーチを描き、鮮やかな逆転優勝を果たしました。オリンピックも含めた世界大会における日本人女子の金メダル獲得は、陸上競技場内で実施されるトラック&フィールド種目では史上初の快挙です。この結果、条件を満たした北口選手は、来年開催されるパリオリンピックの日本代表にも内定。陸上競技における内定第1号となりました。以下、北口選手の喜びの声をご紹介しましょう。
◎北口榛花(JAL) ※ダイヤモンドアスリート修了生
女子やり投 決勝1位 66m73 =パリオリンピック代表内定
―――おめでとうございます! まず、今の心境を。
北口:嬉しすぎて、身体が軽いんですよ。なんかちょっと浮いているんじゃないかって思うくらい、3cmくらい浮いてるんじゃないかなって思うくらいふわふわしていて(笑)。現実だけど、「本当にできたんだな」って思いました。
―――立ち上がりに、やや苦しみました。
北口:最初の1投目で、右のふくらはぎがちょっと攣っちゃって、でも、そのあとすぐに走れていたので、「大丈夫だから、安心して走って」とコーチにも言われていたのですが、ちょいちょい気になって、自分で(ふくらはぎを)伸ばしたり揉んだりをたくさんしていました。そのうちあまり気にならなくなって、「大丈夫だな」と思っていたのですが、最初にコロンビアの選手(Flor Denis RUIZ HURTADO)に投げられた(1回目に南米記録となる65m47をマーク)ことで、「絶対に(これを上回る記録を)投げられるのに!」と思う気持ちが先行してしまい、自分の力とやりの方向が合わなくなっていたんです。また、足が攣ったこともあって、最初はゆっくり走っていたし、その影響で修正するのが6投目までかかってしまいました。
―――6回目はメダル圏外の4位となったなかで迎えました。
北口:「北口は最終投てきに強い」とずっと言われてきたし、本当に「自分は強いんだぞ」というところを見せたかった。最終投てきでは、いつもマッケンジー選手(Mackenzie LITTLE、オーストラリア。最終投てきで63m38をマークして北口選手を逆転していた)とやり合っているので(笑)、「絶対に、今日も負けたくない!」と思って臨みました。
―――逆転を果たした6回目は、どんな投てきだった?
北口:覚えていないです。今、動画を見たいのですが、全然見られなくて。とりあえず「上に高く投げろ」とコーチから言われていたので、「高く、ちょっと右に」ということを心掛けて投げ出したのですが。やりが(地面に)刺さったかどうかも全然覚えていないし、あとはとにかく騒ぎすぎて…(笑)。
―――投げた瞬間に、「行った」という感じはあった?
北口:…(少し考えて)いや、なかった(笑)。なかったように思います(笑)。
―――でも、ちゃんと刺さるのを見てから、何か叫んでいました。
北口:私、(やりが)刺さるのを見てから叫んでいたんですか?(笑)
―――はい、刺さってからです。
北口:…覚えていないんですよね(笑)。ちゃんと皆さんと一緒に映像を見て、振り返らないといけないなとか思うんですけど(笑)。
―――では、投げたあと、どこから記憶がありますか?
北口:(少し考えて、思い起こすようにして)とにかく叫び散らかして(笑)、トラックを渡って観客席のほうへ行った気がします。
―――その段階で、まだ(優勝が)決まっていなかったことは覚えていますか?
北口:ああ、覚えています、覚えています。そこはちゃんと冷静で、コロンビアの人の投てきも手拍子はしながら見てはいたけれど、心の中で「ああ、(逆転は)絶対にやめて、絶対にやめて」と願っていました。ただ、やりがすごく低く(手から)出たので、「これは(逆転は)ないな」と思って喜びました。
―――投げる前には手拍子を求めて、会場が一つになっていましたね。
北口:この大会に来てから、男子円盤投など、何回も6回目に逆転する試合を見ていました。ハンガリーの人たちは、国籍に関係なく絶対に拍手してくれるってわかっていたので、最後は良くても悪くても後悔しないように臨もうと思って(手拍子を)リクエストしました。本当に力になったと思います。
―――3回目にマークしていた63m00も引っかかったという感じの投げでした。
北口:はい。力があるのはわかっていたのですが、速く走ってみたら(身体が)突っ込んじゃったり、1投目は右足がぶるって(攣って)いったので右足の踏ん張りがきかなかったり(笑)で、それぞれに反省点があるのですが、今はちゃんとビデオを見ないとわかりません(笑)。
―――決勝前の心境は、どうだったのでしょう? 緊張していた?
北口:なんか競技場に入ったら、知っている人の顔がいっぱいあって、それですごく安心したんですよ。予選よりも全然緊張しなくて、逆にふわふわしていたから「大丈夫なのかな、このまま行って」って思っていたのですが(笑)。でも、すごく楽しめました。誰が、どこにいるかもわかりながら試合をしていたので。意外と予選が一番緊張したかなと思います。
―――メダルを目標に掲げて臨んだうえでの金メダル。どう捉えていますか?
北口:そうですね。メダルといっても、やっぱり一番は金メダルが欲しいじゃないですか(笑)。だから、一番を取れてすごく嬉しいですし、ユースのときに世界で一番になってから(2015年世界ユース選手権)、「本当に自分は世界で一番になれる」と信じて、やり投という種目を選んで競技してきたので、すごく感慨深いものがあります。また、ユースのときは、「君が代」を聞いた覚えがなかったので、今回、聞くことができるというのが、「どんな感じなんだろう」ってすごく楽しみです。
―――去年(のオレゴン大会での銅メダル)は軽いと言っていたメダルの重み、今回はどうですか?
北口:材質的には重いです(笑)。去年は木だったので(笑)。あと、ちょっと大きいですよね!
―――最終投てきでは、絶対に勝つという強い思いが感じられました。自信があった?
北口:自信もあったし、あとは、絶対に負けたくないって思いました。
―――では、「メダル」を狙いにいくというよりは、「金」を狙いにいった?
北口:はい、「もう誰にも負けたくない」と思って(笑)。
―――決勝までの期間は、どう過ごしていたのですか?
北口:決勝が夜遅い試合じゃないですか。だから、昼に寝なさいと言われていたのですが、仰向けて寝ていたら心臓の音がバクバクして、心臓が出てきちゃうんじゃないかなって(笑)。(こんなにバクバクしていて)大丈夫かなって思っていたんです。緊張していたんですね。それが本当に、スタジアムに入ってきたときに、知っている人の顔がたくさんあったことで、すごくホッとして…。緊張が解けた瞬間でした。
―――心臓がバクバクしていたのは今日の昼?
北口:いえ、昨日の昼です。だから昨日の昼間から緊張していて、「持つかな」と(笑)。夜はアイマスクをして寝ましたが、今日の昼間も寝られなくて…。「眠いな」と思いながらアップして、(身体を)起こしていました。
―――ここまでの道のりを振り返って、どうですか?
北口:本当につらいこともたくさんあったし、あんまり今は冷静に振り返れないかもしれないのですが、でも、「世界で一番になれる」と信じてこの競技を選んで良かったと思いますし、チェコに…まあ、自分が好きで行っているわけですが、時差もあるし、ご飯も違うし、友達もいないし、家族もいないし。すごく寂しくなるときもあったのですが、今回の大会では、チェコでお世話になっている人たちが来てくれていたので、そのなかで金メダルを取れて、すごく嬉しいです。次は、東京で世界陸上があるので、東京のときは、日本でお世話になった方々の前で、またいい結果が出せたらいいなと思います。
―――自分で切り拓いての結果だったから余計に嬉しいのでは?
北口:そうですね。誰もやっていなかったことを自分で選んでやりましたし、誰もできなかった結果に辿り着けて、本当に嬉しいです。
―――パリオリンピックの代表にも内定しました。
北口:さっき知って、「ああ、そうだな」と思いました(笑)。世界選手権よりもオリンピックのほうが、ほかの選手の気迫が違うので、その気迫に負けないように、へらへらしていないで(笑)、自分も世界チャンピオンとしての気迫を出せるようにしたいです。それと同時に、今回ワールドリーダーとして臨んだわけですが、これまでの世界選手権とは違うプレッシャーのようなものを感じました。世界で一番になったことで、これからは世界チャンピオンとしてのプレッシャーもかかってくると思います。あまり気にせずに競技できるようになれたらいいなと思います。
―――歴代優勝者という意味では、シュポタコヴァ選手(チェコ、世界記録保持者:72m28)やバーバー選手(オーストラリア、2019年・2022年世界選手権連覇)と同じところに名前を連ねることになります。
北口:今日のチェコのテレビでは、コメンテーターがシュポタコヴァ選手らしいので、ちょっと聞いてみたい気持ちと、「本当にコメントしてくれているのかな?」という気持ちがあります(笑)。今、名前の上がったシュポタコヴァ選手もバーバー選手も、本当に尊敬していますし、いつもすごくよくしてくれます。自分の世界のトップとしての鑑(かがみ)がいるので、自分もそういうふうになれたらいいなと思います。
―――やり投、選んでよかったですか?
北口:そうですね、よかったです。やったと「よかった」って思える気がします。
※コメントは、競技後、ミックスゾーンで行われた共同インタビューでの発言をまとめました。より明確に伝えることを目的として、一部、修正、編集、補足説明を施しています。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:アフロスポーツ
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