2023.03.16(木)選手

【ダイヤモンドアスリート】アンチ・ドーピング研修レポート:スポーツの価値とクリーンスポーツについて学ぶ



2月27日、第9期ダイヤモンドアスリートを対象とするリーダーシッププログラムが、行われました。今年に入ってからオンライン形式での研修が続いてきましたが、今回は、実施日程を集中させ、対面式での開催を実現させました。
第6回・第7回の研修が組まれた2月27日には、まず、現地参加が可能であった藤原孝輝選手(東洋大)、栁田大輝選手(東洋大)、西徹朗選手(早稲田大)、北田琉偉選手(大塚高)の5名が、プログラムサポート企業としてダイヤモンドアスリートのスポーツ栄養サポートをバックアップしているエームサービス株式会社において、栄養セミナーを受講。栄養に関する知識を学んだあとに、2つのグループに分かれて、魚を主菜とするメニュー等の献立とレシピを自ら検討し、食材選びから調理をおこなうスタイルの調理実習に取り組んだり、食材の下処理方法を実演で学んだりと、リアル開催ならではの研修で栄養や食事に関する知識を深めました。
続いて、夕刻からは「アンチ・ドーピング研修」が、東京・北区にある味の素ナショナルトレーニングセンターにおいて第7回のプログラムとして実施。こちらにはアツオビン・ジェイソン選手(福岡大)、澤田結弥選手(浜松市立高校)もオンラインで参加しました。以下、アンチ・ドーピング研修の模様をご報告します。


今回のアンチ・ドーピング研修では、アンチ・ドーピングに関する研究を専門とする室伏由佳プログラムマネージャー(日本アンチ・ドーピング機構アスリート委員会委員)と、日本陸連医事委員会で長年委員長を務める山澤文裕先生(アジア陸連医事委員長、世界陸連AIU TUE委員会委員長)、そして、日本アンチ・ドーピング機構公認スポーツファーマシストの砂本沙織先生(日本陸連医事委員会委員、薬剤師)の3名が講師として出席。それぞれが最も得意とするところをリレー形式で講義していくという豪華な布陣となりました。



まず、室伏マネージャーが、「世界に出たときにも通じるので、皆さんには、ぜひ覚えておいてもらいたい」と挙げたのは “クリーンスポーツ”という言葉です。クリーンスポーツは、「クリーンでフェアにスポーツに取り組んでいる状態を示す言葉」として国際的にも認知が高まっていて、非常にネガティブなニュアンスを持つ“ドーピング”や“アンチ・ドーピング”という言葉に代わって、アンチ・ドーピング教育の場面でも用いられるようになってきていると説明。今回の研修では、日本アンチ・ドーピング機構から公式に提供された教育研修教材を用い、クリーンスポーツを実現するために必要となる知識や考え方を3つのステップを踏んで学んでいくなかで、アンチ・ドーピングに関する知識を深めていく形となりました。

ステップ1として、室伏マネージャーが説明したのが、「スポーツの価値について考える」ことでした。室伏マネージャーは、質疑応答を通じてダイヤモンドアスリートたちに“今の自分にとってのスポーツの価値とは何か”を改めて考えさせたうえで、スポーツは、自身や社会にさまざまな価値や影響を与えていること、その価値や影響は、クリーンでフェアに行われているからこそ成り立つものであること、クリーンとフェアネスを守るためにルールがあることを示しました。そして、スポーツの価値を壊してしまう最たるものがドーピングであると述べ、ドーピングのないクリーンスポーツを実現させるために、現在では、スポーツフィールドから見える関係者だけでなく、実に多くの人や組織が協力してスポーツの価値を守っていこうとしていることを説明。「皆さんには、まず、スポーツの価値を守るために、自分にどんなことができるかを考えてほしい。また、注目される存在である皆さんは、競技の場面だけでなく競技スポーツ以外の場面でも、クリーンスポーツ行動をとっていくことが求められる。ぜひ、周りの人やスポーツ界全体に良い影響を与えられるような存在になっていこう」とダイヤモンドアスリートたちに呼びかけました。



ステップ2となる「クリーンスポーツについて学ぶ」ことでは、まず、室伏マネージャーから、クリーンスポーツ行動を習慣化するために、全世界・全スポーツ共通のルール(世界アンチ・ドーピング規程=Code)があり、アスリートは、クリーンスポーツに参加する権利を持っていること、その権利を守るためにも、果たすべき役割と責務があることが紹介されました。また、権利が守られている一方で、厳しいルールがあるとして、「厳格責任」についても触れました。これは、アスリートは体内に摂取するものすべてに対して、自身が責任を持たなくてはならず、もし、ドーピング検査の結果、検体から禁止物質の検出や禁止方法の使用が発覚した場合は、意図的であるかないかにかかわらず、競技会検査であれば成績の失効は免れられず、禁止物質・方法の内容や経緯によってアンチ・ドーピング規則違反となり、2~4年の制裁をうけることになってしまうというもの。ダイヤモンドアスリートたちは、アンチ・ドーピングのルールの理解や禁止物質を摂取するリスクの認識も含めて、自身の行動を管理、証明できる必要があることを学びました。

ここで解説は、山澤先生にバトンパス。山澤先生は、規則違反には、採取した尿や血液に禁止物質が存在した場合や、禁止物質や禁止方法を用いた場合だけでなく、ドーピング検査の拒否や居場所情報関連の義務を怠った場合、さらには規則違反で制裁中の者とスポーツフィールドで関係を持った場合など、全部で11項目があることや、アスリートだけでなくサポートスタッフも規則違反の対象になる項目があることを示し、それぞれについて解説。さらに、検査で陽性反応が出た場合に最終的な判断が下されるまでにどういう経過を辿るのか、規則違反が決定したとき、その個人やチームに、どんな制裁措置が下されるのかなどを説明しました。



続いて、砂本先生が登壇。スポーツファーマシストとして活躍する砂本先生は、「アスリートは、自身の健康を守るために、適切な治療を受け、スポーツに参加する権利がある」という観点から、アスリートが医薬品を使ったり、病院で診察を受けたり薬を購入したりするときに、何に注意して、どういう手順やステップを踏むべきなのかを、それぞれに具体的なアクション方法も含めて詳しく紹介していきました。
砂本先生が、専門家(スポーツ医やスポーツファーマシスト)に相談することと並行して推奨したのが、薬の成分名や商品名で禁止物質の有無が確認できる検索ツール「Global DRO」の活用です。ダイヤモンドアスリートたちは、実際にアプリ画面を開いて、花粉症の薬に含まれる物質を確認していくなかで、検索の仕方を学びました。砂本先生は「最終的には自分の責任になるので、その薬を飲むかどうかは、アスリート自身の判断。“専門家にも相談したし、Global DROでも調べて、その検索結果も保管した。大丈夫、だから飲む”という行動が、求められるべきアスリートの姿となる。面倒なことのように感じられるかもしれないが、そんなに難しいことではないので、ぜひ習慣づけてほしい」と訴えました。
また、サプリメントの使用に関する話題では、「事実をお伝えすると、近年では、サプリメントの使用による規則違反の報告例は国内外で増加の傾向にある」とコメント。食品に分類されるサプリメントには医薬品のように全成分を製品ラベルに表示する義務が法律的に定められていないこと、製造過程で禁止物質が混入するケースもあることなどのリスクを説明しました。そして、「サプリメント自体がダメというわけではなく、ドーピングに陥るリスクがあるということ。アスリートの場合は、そのリスクがある前提に、Codeに定められている『厳格責任の原則』を踏まえ、そのリスクとベネフィットを天秤にかけて、自分に本当に必要であるかを総合的に判断することが求められる」と述べました。



すでに触れた「自身の健康を守るために、適切な治療を受け、スポーツに参加する権利がある」という観点から設けられているのが、TUEの概念です。TUEというのは、Therapeutic Use Exemptionsの略称で、日本語では「治療使用特例」と訳されています。アスリートが治療のために禁止物質や禁止方法を使用せざるを得ない場合、承認を得ることができれば、特例として申請した物質や方法に対してのみ使用が可能となるというものです。ただし、TUEを申請する場合には、「ほかに変えられる治療方法がなく、健康を取り戻す以上に競技力を向上させない」ということなど、4つの条件を満たす必要があります。
このTUE申請について、陸上界の不正干渉に対する監視を行う世界陸連(WA)の独立機関アスリート・インテグリティ・ユニット(AIU: Athletics Integrity Unit)のTUE委員会で委員長の重責を担う山澤先生が解説。山澤先生は、
・TUEを取得するためには4つの条件をすべて満たすことが必要で、申請したものが無条件で認められるわけではないこと、
・TUEの申請先や期限は、競技者当人のアスリート・カテゴリー(国際レベル、国内レベル、レクリエーション、未成年=18歳未満、要保護者)によって異なるため、自身がどのカテゴリーに属するかを確認したうえでアスリート自身が対応する必要があること、
を述べたうえで、実際にTUE申請を行った際に、どういうステップを経て申請が承認されるかを、具体的に説明していきました。さらに、急なケガや病気など特別なケースに限って事後の申請が認められる遡及的TUE申請についても触れたうえで、実際に行われるTUE申請の件数は非常に少ないことを明らかにしました。



こうしたドーピング検査がなぜ必要なのかについて、室伏マネージャーは「ドーピングをしているアスリートを見つけるという目的のほかに、アスリート自らがクリーンでフェアに競技に臨んでいることを証明することに繋がっている」とコメント。実際に検査を経験したことのあるダイヤモンドアスリートたちに自身の例を問いかけながら、ドーピング検査がどういう手順で行われていくのかを、山澤先生とともに詳しく解説していきました。また、検査に際してアスリートに求められる責務やアスリートが有する権利が示されたほか、日本・世界を代表するエリートアスリートになると自身の居場所情報を提出・更新する義務が求められる登録検査対象者リスト(RTP:Registered Testing Pool)や検査対象者リスト(TP:Testing Pool)に登録されることも触れられました。

ステップ1、ステップ2を踏まえて、ステップ3として室伏マネージャーが選手たちに呼びかけたのが、「クリーンスポーツ行動をとる」ということ。「現在の2021Codeになってから、アスリートは、ドーピングに対する懸念を声にすることがアスリートの権利宣言を基にできるようになっている」と述べて、ドーピング通報窓口があることを紹介したほか、スポーツや日常生活のなかで、一人一人がクリーンスポーツを守ろうとすること、自身でクリーンスポーツを創っていこうとすることが大切であると話しました。
最後に室伏マネージャーは、「皆さんは、これだけのルールを、自分で管理していくことが求められているし、ドーピングが疑われたときに規則違反をしていないことを証明できるのは自分しかいないわけだが、今日、学んだことは、ルーティン化すれば決して難しいことではない」と、自らのとるべき行動を習慣化させることを呼びかけました。そして、「わからないときは専門家に聞けばいいし、相談したり調べたりしたときに証拠を残すなどの行動ができていれば、心配する必要は全くない。トップアスリートである皆さんの場合は、なおさらに体調の良い状態を保ち、必要な場合に適切な医療を受けることが大切となってくる。必要な知識を正しく持って、目指す競技会に臨んでほしい」と述べ、この日の研修を締めくくりました。


文:児玉育美(JAAFメディアチーム)

>>JADA・クリーンスポーツ・アスリートサイト


【ダイヤモンドアスリート】特設サイト

>>https://www.jaaf.or.jp/diamond/


■【リーガル研修レポート】自分を守るために大切な知識や法律について
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17421/

■【メディア研修レポート】メディア対応の必要性と自分を表現することの大切さを学ぶ
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17540/

■メンタル研修レポート:最高のパフォーマンスを発揮するために必要な考え方
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17554/

■【リーダーシッププログラムVol1】修了生北口が活躍の糸口となった経験や自身の信念を語る
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17278/

■【リーダーシッププログラムVol2】修了生北口榛花が語る「世界一を実現するために大切なこと」
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17288/

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