2023.01.31(火)大会

【日本選手権室内】展望:世界大会が続く2023年シーズンに弾みをつけられるか!?~トラック編(60m・60mハードル)~



第106回日本陸上競技選手権大会・室内競技
が2月4~5日、2023日本室内陸上競技大阪大会(以下、日本室内大阪大会)との併催で、大阪市の大阪城ホールにおいて行われる。シニア種目のみ「日本選手権・室内競技(以下、日本選手権室内)」として実施し、ジュニア年代は日本室内大阪大会としてU20、U18、U16の3区分で行われる形が、ここ数年ですっかり定着。日本選手権室内での成績は、世界陸連(以下、WA)が展開するワールドランキングのポイント獲得に直結するという点で、ショートスプリントおよびハードル、そして跳躍種目のアスリートにとっては、屋外シーズンをスムーズに滑りだすためにも貴重な位置づけとなりつつある。

今年は、久しぶりに2月上旬に日程が組まれるカレンダーに。ただし、翌週末にあたる2月10~12日に、アスタナ(カザフスタン)で開催のアジア室内選手権(以下、アジア室内)が入ったため、代表に選出された競技者では、日本選手権室内にはエントリーせずにアジア室内へ向かう者と2連戦を計画している者とに分かれる形となった。また、この夏に開催されるブダペスト(ハンガリー)での世界選手権を経て、2024年にはパリオリンピック(以下、五輪)、2025年には日本での開催となる東京世界選手権と、重要度の高い世界大会が続くため、これらを見据えて海外での室内転戦やトレーニングを優先させた者も。個々の戦略や方針を窺うこともできるエントリー状況といえるだろう。

この大会は、日程の調整や無観客、指定席制などの措置はとられたものの、これまで新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)による中止はなく、毎年開催することができている。今年も入場無料の有観客で実施することが決まっている。ライブ配信も予定されているが、室内大会の醍醐味は、なんといっても観客席が競技エリアに近いこと。ボードの上に走路が敷かれるため足音が大きく響き、屋外競技場よりもより迫力を感じることができる。また、寒さの厳しいこの時期、天候や風を気にすることなく、23℃前後に保たれた室温のなかで快適に観戦できるのも嬉しいところだ。事前の申請の不要なので、マスク着用や声出し応援の自粛など、感染症対策に協力をいただきつつ、ぜひ、会場で楽しんでいただきたい。

ここでは、トラック編とフィールド編に分けて、日本選手権室内の見どころを紹介していくことにしよう。

▼ブダペスト2023世界選手権 日本代表選考要項
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202209/27_175114.pdf 

▼【ブダペスト世界選手権への道】参加資格有資格者一覧
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17055/

トラック種目

日本選手権室内のトラック種目は、男女ともに60mと60mハードルの2種目が行われる。WAワールドランキングにおいて、60mは屋外100mに、60mハードルは屋外110mハードル(男子)・100mハードル(女子)に関与する種目になっていて、8位までに入賞すれば順位ポイントを獲得できる。2024年パリ五輪、2025年東京世界選手権へと続いていく2023年屋外シーズン開幕に向けて、出場選手たちは、ポイント加算のチャンスとして、また、冬期トレーニングの経過を実戦で確かめる貴重な機会として、レースに臨んでいく。


◎男子60m

昨年、この大会で初優勝し、屋外でも100mの自己記録を10秒02まで更新、初めて出場したオレゴン世界選手権100mで準決勝に進出するなど大躍進を遂げた坂井隆一郎(大阪ガス)は不出場。また、東京五輪男子100m代表で、2021年・2020年と日本選手権室内2連覇を果たしている多田修平(住友電工)も、今年は海外の室内転戦に挑戦しているためエントリーしていない。個人種目での世界大会出場経験を持つ選手のエントリーがないことで、混戦は必至という状況か。室内日本記録6秒54の更新は、ややハードルが高そうだが、ブダペスト世界選手権に向けた代表入りはもちろん、2023年にはアジア選手権、アジア大会も予定されている。2024年以降の重要大会を見据えつつ、これらの大会での活躍も想定しながらのレースとなりそうだ。

出場資格記録でトップに立つのは、昨年、100mで10秒11まで自己記録を伸ばしてきた原田暁(福岡大)。福岡大進学後は、走幅跳がメイン種目の印象だったが、昨シーズンは100mでの進境が著しく、日本インカレは3位に入賞。北九州カーニバルは優勝を果たしている。10秒12で原田に続く本郷汰樹(名古屋大)も、昨年、躍進を見せた選手。4月の出雲陸上を10秒30の自己新で桐生祥秀(日本生命)、多田に続いたことで注目を集めると、シーズン中はやや波がみられたが、田島記念を10秒29で優勝。最終戦のエコパトラックゲームスで10秒12まで記録を引き上げた。この2選手が、室内レースでどういう走りを見せてくれるか。

昨年のオレゴン世界選手権男子4×100mリレー代表の鈴木涼太(スズキ)は、当初エントリーしていたが、代表に選出されたアジア室内60mとの兼ね合いで、出場を見送ることになった。

前回2位の宮本大輔(YMFG、ダイヤモンドアスリート修了生)は、2021年世界リレーをはじめとして複数の代表実績を持ち、この大会は中学時代から好成績を残している。また、同3位の竹田一平(スズキ)は、100mの自己記録は2020年にマークした10秒25だが、昨年はセカンドベストとなる10秒32を実に4回もマークしており、殻を破って大きく躍進する可能性を秘める。100mで10秒18(2021年)の自己記録を持つ東田旺洋(栃木スポ協)は、1月からヨーロッパの室内大会を転戦しており、今回は出場しない見込み。このほかでは、安田圭吾(住友電工)、岩崎浩太郎(ユティック)あたりが、A決勝での戦いを狙っていくことになりそうだ。


◎女子60m

昨年の女子100m日本リストトップ3を占めた児玉芽生(ミズノ、11秒24)、君嶋愛梨沙 (土木管理総合、11秒36、アジア室内代表)、御家瀬緑(住友電工、11秒46)はエントリーしていないが、顔ぶれは充実している。
前回優勝して、この大会における変則「4連覇」(2019年U16、2020年U20、2021年U20、2022年日本選手権)を果たしている青山華依(甲南大学)には、この変則連覇の更新と日本選手権としての連覇がかかっていたが、出場を見送ることになった。

こうなると上位争いの中心となってくるのは、三浦愛華(園田学園女子大学)と三浦由奈(筑波大)の“三浦コンビ”か。三浦愛華は、青山がU20を制した2021年大会の日本選手権優勝者。このときは、両者の優勝タイムはぴったり同じ7秒38(当時、日本歴代2位)で、ともにU20日本新記録という結果だった。前回は、青山とは0.03秒差の7秒44でフィニッシュしたが、同タイムの三浦由奈(筑波大)と着差ありで3位の結果だった。前半型で60mを得意とするだけにV奪還を果たしたい。前回2位を占めた三浦由奈は、その後、屋外で高校3年時にマークした100mの自己記録を4年ぶりに塗り替え、11秒55へと引き上げた。昨シーズンのような上昇機運に乗せる好走を期待したい。

このほかでは、2021年に世界リレー、東京オリンピックで、4×100mリレーに出場した鶴田玲美(南九州ファミリーマート)は200mを得意とするが100mでも11秒48(2020年)の自己記録を持つ選手。また、小学生のころから全国クラスで活躍してきた石堂陽奈(環太平洋大)は、高校2年時の2019年にマークした11秒56が自己記録だが、昨年は11秒61のセカンドベストをマーク。日本インカレで2位に食い込むなど、浮上の気配を示しているだけに、屋外シーズンにつながる走りを期しているだろう。


◎男子60mハードル

男子110mハードルは、2021・2022年の2年で、日本の歴代上位6位までが書き換えられる活況を示している種目。これを反映して、60mHの室内日本記録も、7秒50(2021年)まで引き上げられた。屋外日本記録である13秒06(アジア歴代2位)とともに、「世界で戦える」水準といえるレベルの高さだ。今回は、110mハードル・60mハードルともに日本記録を有する泉谷駿介(住友電工、2022年SB13秒21)を筆頭に、村竹ラシッド(順天堂大、13秒27=2022年)、石川周平(富士通、13秒38=2021年、アジア室内代表)のオレゴン世界選手権代表トリオはエントリーしていないが、昨年8月に、ブダペスト世界選手権参加標準記録(13秒28)を突破する13秒10(日本歴代2位)の好タイムをマークし、これら3選手を押さえて、2022年日本リスト1位の座を占めた高山峻野(ゼンリン、元日本記録保持者)がエントリーしている。昨年、高山は、WAワールドランキングのポイントにおいては、オレゴン世界選手権出場に必要な要件を満たしながらも、僅かなところで代表入りを逃す形となった。昨年の日本選手権5位の成績は、長年高い安定性を誇ってきた高山らしからぬ結果ともいえたが、その後、出場した国内6レースは全勝。日本選手権室内は、それ以来のレースとなる。ブダペスト世界選手権はもとより、さらに高い記録を目指していく過程ともいえるこの時期、室内でどんな走りを披露するかは注目に値する。

前回、室内日本歴代4位となる7秒58をマークして、初めて日本チャンピオンとなった野本周成(愛媛陸協、13秒38=2021年)も、動向が気になる選手。昨年は、この大会を制した直後にベオグラード世界室内に出場。準決勝に進んで善戦し、同記録による抽選で進出を逃したものの、夢のファイナルに肉薄した。今年は翌週に行われるアジア室内の代表にも選出されている。この2連戦で得るランキングポイントは、激戦必至の110mハードル戦線で強力なアドバンテージとなるはずだ。

高山、野本に続くと見られるのが、昨年、13秒5台のシーズンベストを残した藤井亮汰(三重県スポ協)、石田トーマス東(勝浦ゴルフ倶楽部)、横地大雅(法政大)、徳岡凌(KAGOTANI)あたり。このうち、藤井(13秒41=2021年)、石田(13秒45=2019年)、横地(13秒45=2021年)の3選手は13秒4台の自己ベストを保持。徳岡は昨年13秒51まで記録を更新してきた選手である。昨年13秒4台に突入した選手は、ほかに3名。屋外シーズンを見据えるならば、日本選手権でいえば決勝進出なるか、上位にどれだけ迫れるかのライン。不在のライバルも意識しながらの熾烈な戦いになるだろう。


◎女子60mハードル

日本の女子100mハードルは、2019年以降の躍進に輪をかける形で大ブレイクを果たしたといえる1年であった。オレゴン世界選手権には、4月に12秒86の日本記録をマークした青木益未(七十七銀行)と、5月に13秒05をマークすると、6月には日本選手として3人目の12秒台突入を果たした福部真子(日本建設工業)の2人が出場。ともに準決勝に駒を進め、福部は12秒82の日本新記録を樹立した。福部の躍進はその後も続き、9月の全日本実業団では12秒73を叩きだし、オレゴン(12秒84)のあと、大きく引き上げられていたブダペスト世界選手権の参加標準記録(12秒78)をも、あっさりとクリア。世界選手権以降、国内で出場したハードルのレースを、すべて12秒台でまとめ上げたことでも、その躍進ぶりを印象づけた。

また、一方の青木も、ハードルと並行して、100mも11秒48まで自己記録を伸ばし、オレゴン世界選手権4×100mリレーでは1走を務め、日本記録更新に貢献した。スプリントが強化されことで、ハードルでのさらなるステップアップも期待されている。エントリーリストに、この2人の名前が並んだことで、今大会屈指の注目種目になったといえそうだ。

60mハードルでの実績が豊富なのは、現在3連覇中の青木。自己記録は、2021年のこの大会でマークした8秒05で、これが室内日本記録(室内アジア歴代4位)でもある。8秒0台では、過去に複数回走っていて、抜群の安定感を誇る。ここに、昨年、向上したスプリントをうまく生かすことができれば、日本人で初めての7秒台も夢ではない。実現すれば、アジアでは室内アジア記録保持者のオルガ・シシギナ(カザフスタン、7秒82=1991年)に続く2人目の快挙になる。

福部の60mハードルの自己記録は8秒17にとどまっているが、昨シーズンの100mハードルの各レースで見せた加速に乗ってからのスムーズさには、目を見張るものがあった。序盤で先行する青木に迫る展開になることで、大きく自己記録を塗り替えていくことは可能だろう。2選手揃っての7秒台というのも、つい期待してしまう。
この2人に続くのは、昨年13秒02をマークして、12秒台に迫った清山ちさと(いちご)あたりか。清山と青木は、翌週のアジア室内にも出場が決まっている。WAワールドランキングの順位浮上も期して、連戦を好成績でクリアしていきたい。昨年、13秒1台突入を果たした中島ひとみ(長谷川体育施設、13秒13)、大松由季(愛教大ク名古屋、13秒17)は、ここでどんな走りを見せてくれるかも気になるところ。また、鈴木美帆(長谷川体育施設)は、2021年に13秒00の自己記録を出している選手。100mハードルでは、後半で抜けだしてくる印象があるので、距離の短い室内をどう走るかも見どころとなりそうだ。

※出場者の所属、記録・競技結果等は1月28日時点のもの。また、エントリーは、1月18日に確定した出場者リストに基づき、1月30日段階までに判明した情報を追加・反映させたが、その後、欠場や変更が生じる可能性がある。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト


▼第106回日本陸上競技選手権大会・室内競技/2023日本室内陸上競技大阪大会 大会ページ
https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1693/

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