2022.12.21(水)選手

【ダイヤモンドアスリート】第9期リーダーシッププログラムレポートVol2.:修了生北口榛花が語る「世界一を実現するために大切なこと」



国際的な活躍が期待できる資質を備えた競技者を、中長期的な視野で多面的に強化・育成していくプログラムとして、日本陸連が実施している「ダイヤモンドアスリート」制度。12月5日に、第9期の認定式・修了式が行われましたが、同日には、最初のプログラムとなるリーダーシッププログラムが開催されました。
リーダーシッププログラムは、ダイヤモンドアスリートに提供されるプログラムのなかの、「測定・研修プログラム」の1つに位置づけられ、ています。競技力向上のみならず、豊かな人間性を持つ国際人を育成することを目指しており、今後も、個の成長を重視した、さまざまなプログラムが計画されています。
ダイヤモンドアスリートプログラムマネジャーを務める室伏由佳マネジャーが進行役を務め、メディア公開のもとで行われた今回は、ダイヤモンドアスリートの第1期生でもあり、今年、オレゴン世界選手権女子やり投における銅メダル獲得や、ダイヤモンドリーグでの優勝、ダイヤモンドリーグファイナルでの活躍など、シーズンを通して、世界トップクラスの実績を残した北口榛花選手(JAL)がゲストとして参加し、これまでの取り組みや経験から学んだことを披露。これから世界に飛び出していくダイヤモンドアスリートたちとって参考になる、貴重なエピソードや考え方、自身の信念などが数多く紹介されました。

プログラムには、直前に行われた認定式・修了式に出席した第9期生の北田琉偉選手(大塚高)、澤田結弥選手(浜松市立高)、藤原孝輝選手(東洋大)、アツオビン・ジェイソン選手(福岡大)、栁田大輝選手(東洋大)、西徹朗選手(早稲田大)および修了生の出口晴翔選手(順天堂大)、中村健太郎選手(日本大)の8名が参加。日程の都合で式典への出席が叶わなかった佐藤圭汰選手(駒澤大、第9期継続認定アスリート)もオンラインで加わって行われました。



>>レポートVol1.はこちら
Vol1では北口選手と陸上競技の出会いや海外合宿で出会ったロールモデル、海外を拠点にすることの大変さについてお話を伺いました


「世界一」を実現したいなら今まで日本人がやっていないことやる

室伏:右も左もわからない状態ながら、いろいろ実績を残していくなかで、「こうなりたいな」というのを少し見つけられたのが高校時代だったのかなと思うのですが、そこから大学生になって、どうなっていきましたか。
北口:高校のときに世界ユースで優勝できたのはすごく大きくて、「ユースの次は、ジュニアだ」と考えて、ジュニアで、世界で一番になりたいと思って取り組みましたね。

室伏:大学に進んで、環境の変化は?
北口:自分で考えなくてはならない幅がすごく広がりました。やり投について、何も知らない私にとっては、けっこうきつかったですね。ほかの人がやっているように見よう見まねでやってみたけれど、「本当にこれで合っているのかな」「本当にこれで強くなれるのかな」という疑問を持ちながら生活していました。そうしているうちに、大学2年生のときに指導者もいなくなり、そこから1人で考えてやることを頑張ってみたのですが、全部空回りしてしまいました。

室伏:けっこう辛い時に当たってしまった…?
北口:辛かったけれど、「でも、自分の目標は“世界一”だから」というのもあって、やめたいなとか、そういうのは感じなかったです。
室伏:どうしたらいいか迷って、悩みは深かったかもしれないけれど、明確な目標はもう持っていたわけですね。
北口:はい。その行き方がわからないだけでしたね。

室伏:今、ここにいるダイヤモンドアスリートの皆さんにも言えることなのですが、「どうやったら、ここに辿り着けるのか」というのは、たぶん誰も教えてくれないんですよね。ヒントはくださると思うのですが。北口さんの場合は、「自分づくり」にすごく苦労されたような印象を持ちました。確かケガもあったんですよね。
北口:はい、ケガもありました。ただ、そのときは「世界一になりたい」ということと、あとは、今までの人がやってきたことと同じことをやっても、自分のポテンシャルがその人より上だったとしても、その人よりちょっと上にしかいけないなと思っていたんです。今まで達成されたことがない目標…日本人の選手がやり投で世界一というのは今までにないことなので、それを果たすためには、今までの日本人がやっていないようなことをやらないと、そのレベルには達することはできないと、そのときもずっと考えていました。

室伏:そんななか、大学3年生のときに、転機となる出会いがありました。
北口:「自分でどうにかしたいけど、やり投のこと、知らなさすぎるな。やり投、勉強しに行こう」という心境に辿り着いて、フィンランドで行われた「世界やり投講習会」的な会合に参加したんです。せっかく行くなら、講習会だけでなく、練習もさせてもらおうということで合宿も組んで、フィンランドへ行きました。今のコーチとは、その講習会で出会いました。

室伏:どういう方法で、連絡を取り合ったのですか?
北口:講習会の最終日に親睦会があるのですが、そのとき、ほかにもポーランドのコーチ2人と、チェコのコーチ1人がいるところに、日本人の私がいきなり呼ばれたんです。「君のことを知っているから、おいで」って(笑)。そこで「どんな練習をやっているんだ」とか「もうすぐ東京オリンピックがあるぞ」とか、4人からもう質問攻めに合いました。そのときに「いろいろあって、コーチがいない」と私が言ったとき、今のコーチじゃないほうのチェコ人の方が名刺をくれたので、帰ってすぐに「見てくれるなら、本当に行きたい」とメールしました。そうしたら、その人は、ほかの選手との兼ね合いとかで無理だったらしく、今のコーチのインスタグラムのアカウントがポンと送られてきたんです。「送られてきたということは、そこへメールしろってことだな」とダイレクトメッセージで、今のコーチとやりとりすることになりました。

室伏:インスタで交渉! 最新のやり方ですね。やったこと、ある人いますか? いませんね(笑)。そのメッセージは、すぐに見てもらえたんですか? なかなか開いてもらえないようにも思いますが。
北口:わりとすぐに…。たぶんチェコ人同士でコミュニケーションをとっていてくれたのだと思います。あとは、親睦会のときに一度会っている相手だからというのもありましたし。でも、そのときまでは英語でやりとりしていたのですが、実際に行ってみたら英語が話せないという…(笑)。もう「詐欺かな」というくらいの英語のしゃべれなさ(笑)で、それを見破れずに、行ってみて初めて全然コミュニケーションがとれないことが判明しました(笑)。そこはSNSでやる不便なところかもしれません。

室伏:ここ、皆さんも気をつけないと…(笑)。今、翻訳アプリが発達しているので、SNS上では問題なく通じるのだけれど、「実は、話せない、通じない」ということが起きうるわけですね。まあ、そういう経緯を経て、単身でチェコに行った最初は、合宿という形だったのでしょうか?
北口:はい。泊まるところとか、スーパーマーケットの場所とか、練習場所への行き方とか、全部根掘り葉掘り聞いて、「本当に行くよ」と念押ししたうえで、最初は1カ月間、行かせていただきました。
室伏:先ほど、「海外を拠点にする際に不安に感じること」の回答に、「治安」というのがありましたね。北口さんのところは、どうなのですか?
北口:治安を気にするほど人がいないんですよね(笑)。空き巣などの被害はあるようですが、今のところ大丈夫です。

室伏:海外遠征などに行くと、よくわかると思うのですが、日本と感覚が違うんですよね。本当に国によっては、ぼーっとしていると身ぐるみはがされてしまうようなこともあります。私も、確か東ヨーロッパの国で、写真を撮っていときに気配を感じて振り向いたら、後ろから覆い被さるようにして鞄を狙っているスリがいたという経験があります。ただ、それも、行った先の文化になれれば、それを防ぐ生き方にも慣れると思うので…。
北口:そうですね。現地人に馴染むのが一番大事かな、と。明らかに観光客という感じだと、狙われやすい気がします。
室伏:「現地人に馴染む、大事なことですね。長期で行っていると、だんだん現地の人に溶け込めるようになっていくのだと思いますが、そうでないときも大事だと思います。


“世界で一番”になるノウハウを持つ国へ行き本物を見る

室伏:そうした機会が、大学3年生のときにあって、北口さんは、大学4年生で日本選手権を優勝したり、日本記録を樹立したりすることになりました。大学前半での苦しい時期を乗り越えての結果だったわけですが、どんな気持ちでしたか?
北口:ほかの同級生の子は、例えばお医者さんになりたいからと大学を選ぶじゃないですか。それと同じように自分も陸上をやると決めて、自分で大学を選んだはずだから、簡単にポイッとしたらダメだと思っていました。スポーツだけでなく、周りで頑張っている人が、ほかの分野にも身近にいたから、自分も頑張り続けることができましたね。あとは、考えていたよりも時間がかかったけれど、4年生になってシニアで日本代表になることができて、やっと世界で戦うスタートラインに立てたような気がしました。



室伏:それは「殻を破った」という感じでしょうか?
北口:自分では、チェコで合宿に行こうと自分でやった時点で、殻を破ったかなと思っています。それに成績がついてきたかなという感じです。

室伏:アクションを起こして、その結果として、優勝や日本記録が出たということですね。これから大学生になる方もいるので、今の話は皆さんの参考になると思います。早く記録が出ればいいけれど、陸上競技の場合、特に技術系の種目は、けっこう時間がかかるんですよね。そこは長期的な目で向き合っていくことが必要ですね。とはいえ、北口さんは、陸上は高校から始めたわけですから、まだ…。
北口:今、10年目ですね。
室伏:まだ、10年目ですか! そうすると、最初の日本記録が出たのは、競技を始めて何年目になるのかな?
北口:6年目ですね。
室伏:この種目では、すごく大変なことだと思います。
北口:そうですね。でも、やり投って、たいていは高校から始めるので、スタートラインはみんなと一緒かなという気はしています。ただ、ちょうど東京オリンピックの開催が決まっていた時期で、「絶対に出たい」という気持ちが強く、それに向けて頑張ろうというのはありましたね。当時は、普通にやっているつもりだったけれど、今、思うと、急ピッチでやってきた感じがしています。

室伏:そうした大学時代を経て、社会人となって、日本航空に所属する今は、拠点を海外に置いて活動しています。その決断に至った理由を、改めて話していただけますか?
北口:それこそダイヤモンドアスリートのプログラムで、東京オリンピックの開催が決まったときに、「日本にいたらずっと注目され続けることになる。海外に行ったほうが、気が楽だ」と言われたので(笑)、「それなら行ってしまおう」みたいな感じがありました。それと、今までに日本人がやっていないことを探しました。もちろん日本人も一所懸命やっていて、国内でやっている人も、みんな強くなりたくて、必死でやっていることもすごくわかっているのですが、でも、“世界で一番”になることを知っている国、それ以上の成績の残し方のノウハウを持っている国があるというのがわかったとき、やっぱり実際に行って、本物を見て、自分でやってみないとわからないなと考え、拠点を移すことにしたんです。そして、今も同じコーチに習い続けています。

室伏:それまでに行ってみたのは、ドイツとフィンランドとチェコ? その3つの国で、自分に合っているのはチェコだったということでしょうか。
北口:初めて行った際、チェコは1カ月滞在させてもらったのですが、フィンランドとドイツのときは、どちらも2週間くらいの期間だったんです。そのせいもあって、向こうの人も「お客さん」だと思って、派手めな練習とか、「ちょっと新しいでしょ」(笑)という練習を紹介してきているなという印象がありました。だから本物というか、その国の本性(笑)をすべて暴ききれたかというと、ちょっと物足りなかったように思いますね。でも、2週間行って、帰ってきて日本で投げたら全然ダメだった国もあるし、強いとされている3カ国に行ったうえで、チェコに決めることができたのは、自分にとっても大きな財産になったと思います。「お客さんメニューかもしれないけれど、あの国は、こういう感じでやっている」とか、投げの意識が違うことや、技術なところの違いが全部把握できたのは、全部行ったからだと思います。

室伏:そう! 実際に見ないとわからないんですよね。
北口:SNSで、詳しく載せている人とかもいるけれど、やっぱり自分がやってみて、直接修正されるのが一番。言語が違うと、なおさらです。同じようなことを言われても、やってみたら全然違っていたということがたくさんあると思うので、SNSで全部知った気にならないで、本当に生身で行って、オフラインでしっかり教えてもらうのが私はいいと思います。


できなかったことも頭の片隅に置き、自分の引き出しに

室伏:ここまで、実際に行った人ではないとわからない話が聞けたと思います。皆さんから、今日の話を聞いて、どう感じたかを伺っていきたいと思います。ただ、全員に話してもらうには、時間が足りないみたいですね。「北口さんに、ぜひ、聞きたい」ということがある人に、手を挙げてもらいましょうか? じゃあ、アツオビンくん、どうぞ。

アツオビン:僕は、投てきで砲丸投をやっているのですが、今年の夏、ドイツに合宿に行かせていただきました。とてもいい経験ができたのですが、2週間という短い期間だったことや、僕の筋力不足などもあって、技術がうまくハマらず、足踏みしてしまいました。ハマらなかった技術は、理論的には、とてもすごい理論なんですが、続けていったら、できるようになるのでしょうか? 北口さんも、うまく行かなかったことがあったと話していましたが、そのときはどうでしたか?



北口:私も高校生や大学生のときに行ったのですが、そのときに筋力不足だということは、すごく感じました。すごくやりたいし、やれたら(やりが)飛びそうだなというのは、すごく頭ではわかるんだけど、できなかったというのもありました。ただ、その技術だけがすべてではないと思います。今回、ドイツに行かれて、うまく合わなかったと思うなら、完全に忘れるのではなく、のちのち自分が成長して困ったときの引き出しになるかもしれないので、頭の片隅に置いておく…。そのうえで、自分の興味のある国…砲丸投だったら、きっとまだたくさんあると思うけれど、そういった国にまた行ってみる。限りはあるとは思うけれど、できることなら、いろいろなところを試して、納得がいくまでやったらいいかなと思います。

アツオビン:ありがとうございます。
室伏:貴重なお話、ありがとうございました。


「自分にしかできないこと」をやってほしい




室伏:時間が足りなくて、皆さんからの質問タイムを設けられなくて申し訳なかったのですが、最後に、皆さんの今後の意気込みを、メンティメンターに入力してもらいましょう。ほかの人の意気込みを見ることで、互いの刺激にもなると思います。目標が何個かある人は、複数入れてください。
「オリンピック、世界陸上で金メダル」「世陸、オリンピックのファイナル」「世界で活躍」「シニアの日本代表に選ばれる」…やっぱり皆さんが今、描いているのは、世界にすごく照準が合っているのかなと思いますね。ダイヤモンドアスリートのキーワードは、「世界を目指す」「国際人を目指す」ですが、「日本のスポーツの発展に貢献する」「広い視野を持った選手になる」なども上がっていて、とてもいいですね。また、「誰も成し遂げたことのないことをする」「どんな環境でも跳べるようになりたい」「多種目で活躍」「誰もが憧れる選手になる」「その種目の顔になる」…どれも素晴らしいと思います。
皆さんの意気込みを見たところで、この研修を終えたいと思いますが、皆さんがダイヤモンドアスリートに認定されたということは、人生において、一つの大きな実績になります。このプログラムを通じて、これから、ますます自分を磨いていってくれることを願っています。誰かと一緒である必要は全くありません。「自分にしかできないこと」をやっていってほしいと思っています。ほかの人が真似しようと思ってもできない、自分にしかできないというプレースタイルであったり、技術であったりがあるはずです。それを見出し、自分を超えれば、「世界」は近づきます。いろいろなことがあると思うのですが、ダイヤモンドアスリートに選ばれたことを誇りに思って、それを前向きに捉えて、ぜひ頑張っていただきたいです。これから、さまざまなプログラムを、オンラインも含めて行っていきますが、ぜひ、積極的に参加してください。本日はありがとうございました。


取材・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト

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【ダイヤモンドアスリート】特設サイト

>>https://www.jaaf.or.jp/diamond/


【第9期認定アスリート紹介】その才能で世界を掴め!



■【ダイヤモンドアスリート】第9期認定式・修了式レポート&コメント
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17246/

■【ダイヤモンドアスリート】第9期新規認定アスリート・プログラム修了生について:北田琉偉・澤田結弥が更なる飛躍を目指す!
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17221/

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