2022.12.20(火)選手

【ダイヤモンドアスリート】第9期リーダーシッププログラムレポートVol1.:修了生北口が活躍の糸口となった経験や自身の信念を語る



国際的な活躍が期待できる資質を備えた競技者を、中長期的な視野で多面的に強化・育成していくプログラムとして、日本陸連が実施している「ダイヤモンドアスリート」制度。12月5日に、第9期の認定式・修了式が行われましたが、同日には、最初のプログラムとなるリ ーダーシッププログラムが開催されました。
リーダーシッププログラムは、ダイヤモンドアスリートに提供されるプログラムのなかの、「測定・研修プログラム」の1つに位置づけられています。競技力向上のみならず、豊かな人間性を持つ国際人を育成することを目指しており、今後も、個の成長を重視した、さまざまなプログラムが計画されています。
ダイヤモンドアスリートプログラムマネジャーを務める室伏由佳マネジャーが進行役を務め、メディア公開のもとで行われた今回は、ダイヤモンドアスリートの第1期生でもあり、今年、オレゴン世界選手権女子やり投における銅メダル獲得や、ダイヤモンドリーグでの優勝、ダイヤモンドリーグファイナルでの活躍など、シーズンを通して、世界トップクラスの実績を残した北口榛花選手(JAL)がゲストとして参加し、これまでの取り組みや経験から学んだことを披露。これから世界に飛び出していくダイヤモンドアスリートたちとって参考になる、貴重なエピソードや考え方、自身の信念などが数多く紹介されました。

プログラムには、直前に行われた認定式・修了式に出席した第9期生の北田琉偉選手(大塚高)、澤田結弥選手(浜松市立高)、藤原孝輝選手(東洋大)、アツオビン・ジェイソン選手(福岡大)、栁田大輝選手(東洋大)、西徹朗選手(早稲田大)および修了生の出口晴翔選手(順天堂大)、中村健太郎選手(日本大)の8名が参加。日程の都合で式典への出席が叶わなかった佐藤圭汰選手(駒澤大、第9期継続認定アスリート)もオンラインで加わって行われました。

>>【ダイヤモンドアスリート】認定式・修了式レポートはこちら


陸上は高校から。最初は競泳との二本立て

室伏:今日は、ダイヤモンドアスリートのための最初の研修ということで、第1期生…皆さんの大先輩である北口榛花さんが、お忙しいなか来てくださいました。短い時間ではありますが、双方向での形で研修を進めていきたいと思います。
最初に、北口さんについて紹介します。北口さんは、北海道のご出身で、旭川東高校、日本大学のスポーツ科学部を卒業されて、今は、日本航空に所属しています。中学校までは、競泳とバドミントンに取り組んでいて、高校から陸上競技を始め、今はやり投を専門とされています。高校2年生でインターハイ優勝を果たし、その年の冬に、ダイヤモンドアスリートの第1期生に認定されました。その後、ユース世界選手権優勝、日本選手権優勝、日本記録樹立と実績を積み、昨年行われた東京オリンピックでは日本人選手として57年ぶりの決勝進出を果たしました。さらに、今年の夏に行われたオレゴン2022世界選手権では銅メダルを獲得。この成績は、日本陸上競技の女子のフィールド種目において、オリンピック、世界選手権を通じて初めてのことで、本当に大きな歴史を刻んでくださいました。今日は、このダイヤモンドアスリートの先輩にあたる北口さんから、「世界への挑戦」をテーマに、お話を聞いていきます。
まずは、高校時代から、伺っていきましょう。陸上を始めたきっかけというのはどういうものだったのですか?

北口:高校に入学した段階では、競泳をしっかりやろうと思っていたのですが、中学時代のバドミントン部の先輩が高校で陸上部のマネジャーをしていて、陸上部の先生に、「身長が高くて、スマッシュが速くて、肩の強そうな子がいる」みたいなことを言ったらしく、そこから日替わりで、毎日違う人が教室に「陸上部に来ない?」と勧誘しにくるようになりました。最初は「いや、興味ないです」と言い続けていたのですが、さすがに毎日来られると、「1回行かないと、これは終わらないな」(笑)と思い、一度行ってみたんですね。そのときに、先生と話したり、やりを実際に投げてみたりしてみて、「楽しそうだな」と思ったので、水泳と一緒にやってみることにしました。



室伏:最初は水泳と並行してやっていたのですね。配分のバランスはどのくらい?
北口:最初は、水泳を優先していました。例えば、土曜日とかだと、水泳の朝練習をしてから、ずぶ濡れのまま陸上競技場へ行ってやり投の練習をして、また泳ぎに戻るとか。水泳の練習の時間が来たら、陸上の練習を切り上げるという感じてやっていたので、水泳のほうが(比重の)パーセンテージは多かったです。でも、1年生のときから陸上でインターハイに出られることになって、試合に出るために水泳の練習に行けなくなるなど、だんだん陸上のパーセンテージが増えていきました。そこで、1年の秋に水泳をやめ、そこから陸上一本に絞りました。

室伏:だんだん陸上に絞られていったという感じ?
北口:でも、水泳は3歳からやっていて生活の一部だったので、「ああ、水泳をやめるのかあ」という気持ちはありましたね。

室伏:そして、高校2年生でインターハイ優勝。その冬にダイヤモンドアスリートの1期生にも認定されました。
北口:3年生に強い選手がいましたから、まさかインターハイで勝てるとは思っていませんでしたし、国体、ジュニアユース(日本ジュニアユース選手権)なども含めて、毎回、強い先輩のいる試合に臨んでいたという感じでした。また、全国合宿にも呼ばれましたが、行くたびに、「私は、なんでここにいるんだろう」と思うことが多かったです。周りの人がすごくやり投が好きだったんですね。私も好きだったけれど、語り合えるほどの情熱はなかった(笑)ので、「この人たちについていくのは無理」と思っていました。

室伏:それは、陸上トークについていけないということ? 熱量というか…。
北口:そうですね。「こういうふうにやったほうがいい」と自分で考えてやっている段階の人が多かったんです。私は、当時は陸上のことも何も知らなかったし、先生に言われたことをやっているだけの状態でした。ほかの人の投げも見ていなかったし、自分は自分だからほかの人の真似はできないと思っていました。そんななかダイヤモンドアスリートにも選ばれて…。選ばれたときも、ほかの選手のことを全然知りませんでした。きっと有名人だっただろうに、気にせず話していたので、今思うと、申し訳なかったなと思います(笑)。


初めての海外合宿でロールモデルと出会う

室伏:気持ちはまだトップレベルに行っていないけれど、競技面ではインターハイに優勝したり合宿に呼ばれたりするレベルになっていたということですが、初めての海外合宿も、そのころに行ったそうですね。
北口:初めての遠征は、高校2年のときです。2週間という短い期間でしたが、フィンランドに行かせてもらえました。最初はチェコがいいと言っていたのですが、繋がりがないのでちょっと厳しいと言われて…。でも、そのときは先生も一緒だったし、ほかの選手もいたので、海外に行けるのなら行ってみようと思って行きました。

室伏:チェコというのは、自分で調べて? 
北口:いえ、そんな熱量もなかったので(笑)。高校の先生から、投げ方を考えるとチェコが一番合うんじゃないかと言われたことが理由で、自分の意思では全然なかったです。でも、「海外に行けるらしい」と言われたら、もう「行く、行く、行く!」って感じでした(笑)。

室伏:それ、大事です。北口さん、とてもポジティブなんですよね。あと、すごく素直に周りの方に導かれています。私は、けっこう反発するタイプだったので、真逆だなと思いながら聞いていました(笑)。そのとき海外に行った際、「世界で戦う」という今の基盤になったことってありましたか?
北口:英語は、小さいころから英会話を習っていて、ちょっと話せるくらいだったのですが、実際に行ってみて、ちゃんと会話が成立することがわかって嬉しかったです。「海外に行っても、なんとか生活はできそうだな」という手応えは、1回目の合宿で得られたように思います。あとは、同じ時期に、ほかの国のシニアの代表レベルの選手が来ていて、習いに行ったコーチのグループで練習していたんです。ジュニアの自分とは全然違うなと感じ、「こういうふうにならなきゃいけないんだな」と実際に自分のロールモデルとなる人たちを見ることができました。

室伏:「そうなるためには、どうしたらいいだろう」と思いましたか?
北口:そうですね。一緒に練習したり、練習のなかのレクリエーションみたいな感じでサッカーをしたりして、すごく仲良くなったのですが、ただ仲良くなっただけで終わりたくないな、と。次は試合で会って、一緒に競い合えるようになりたいなという思いがずっとありました。

室伏:なるほど。そこが、北口さんの今の基盤になっているように感じますね。では、ここでダイヤモンドアスリートの皆さんに、Mentimeter(メンティメーター、リアルタイムで意見を集約できるアプリケーションソフト)を使って質問をしてみたいと思います。皆さんのなかで、大会などで海外選手と会ったことがあるとか、試合したことがあるという人、どのくらいいますか? 同じ会場で見かけたとか、アップしているのを見たとかでもいいですよ。そのときに、実際に接した人は、どんな感想を持ったかということを入力してください。文章でなく、ひと言でいいし、1人1つではなく、いくつか入力して大丈夫です。北口さんだったら、どんな言葉を入力しますか?
北口:「大きいな」ということでしょうか。身長が高いので、自分よりも大きい人って、日本ではあまり見たことがなかったのですが、「自分より大きな人が、こんなにいるんだ」と。そのころは、大きいことがすごくコンプレックスでもあったのですが、「なんだ、自分、小さいじゃん。もっと堂々と生きよう」って思いました(笑)。

室伏:似たコメントがたくさん出てきましたね。「でかい、楽しそう」「強そう」「アップから楽しそうにやっている」「雰囲気が違う」「アップの方法でも国で様々だったので、変な緊張感があった」「アップの方法が今まで見てきたものと違うと感じた」「日本人より大きくて圧を感じる」。どうですか? 北口さん、ご覧になって。
北口:「違う」というのは、確かに合宿に行ったときに、練習の内容が全然違っていたり、練習のときに意識しているポイントとかも全然違ったりしていて、「同じ練習をしていても、意識するポイントが違うんだな」と感じたことがあります。見たことのない練習もありましたね。

室伏:「楽しそうにやっている」というのは、誰の感想ですか? 澤田さん? これはU20世界選手権のときのことでしょうか? 楽しそうにやっていましたか?
澤田:日本だと緊張感のある試合前が多いと思うのですが、音楽に乗ってアップをしていたりして、楽しそうだなと思いました。

室伏:ああ、日本だったら、音楽ノリノリでやっていたら怒られるかもしれません(笑)。文化の違いもあると思うけれど、そういうことを感じた人も多いと思いますね。もう1人、聞いてみましょうか。「圧を感じる」というのは? 藤原くん? どんな圧を感じましたか?
藤原:自分も身長は高いけれど、ガタイは見るからに良くないのですが、そのときにいた海外選手は、自分よりも身長は低いのに、身体の大きさとか作られ方とかが違っていて…。英語でしゃべっているし、自分が海外選手との試合に慣れていないこともあって、そういうところで圧を感じました。
室伏:それは別の種目の選手?
藤原:いいえ、ハードルのレースで同じ組で走ったのですが、そのときに感じました。



室伏:気になっちゃいますよね。私も海外では小さいほうだったのでよくわかります。なんか励まされるんですよね、同じ試合に出ている海外選手に、「頑張れよ!」みたいに(笑)。「いや、あなたと今から試合をするんですけど」と思いました。相手にされていないということでもあるのですが、ただ、いろいろ教えてくれて仲良くなれたので、「あ、これもいいやり方だな」と(笑)。
北口:けっこう海外の選手にそういう人、いますよね。ピットに立つと集中して、急にオーラをまとい出すのですが、試技を待っているときに話しかけてきますし、招集所でも「次、いつ来るの?」とか、いろいろ聞いてくる人もいて、やり投のことも教えてくれたりする人もいます。


海外を拠点にするときに何が不安か?

室伏:もっと聞きたいところですが、時間の都合もあるので、先に進みましょう。北口さんは、2015年の世界ユース選手権で金メダルを獲得しましたが、そのときは、どんなことを感じましたか?
北口:それまでは世界をすごく遠くに感じていたのが、一番になったことで、「とりあえず、この世代では自分でも世界で戦えるんだな」と思いました。でも、そのとき、周りの人を見て、「このあと、この人たち、めっちゃ、伸びてくるよな」と警戒をしていました(笑)。

室伏:それは、海外選手が、シニアになって伸びてくることを情報として持っていたから?
北口:それもありましたし、ジュニアとかでメダルを取る、カテゴリーが上がると取れなくなると言われたり、日本人がユースやジュニアでは戦えるけどシニアでは戦えないという現状を聞いたりしていたので、それは、海外の人たちが伸びてくるということだなと思っていました。

室伏:なるほど。では、ここで、「肌で感じた」ということで、皆さんにも次の質問を投げかけたいと思います。もしも北口さんや、これまのダイヤモンドアスリートみたいに、海外に拠点を設けたり、実際に合宿に行ってみたりすることになった場合、一番不安に感じることは何かを書いてみてください。すでに経験済みの人は、そのときのエピソードを端的に入力してもらえますか? 
・・・・
ああ、「資金」が上がりました。確かにそうですね。「言語」「コミュニケーション」がいくつか上がっていますね。あとは「治安」「食事」ですか。北口さんは、コミュニケーションについてはどうでしょう? 英語は少し話せるということでしたが。

北口:今のチェコのコーチもそうですが、チェコの人ってあまり英語を話せない人が多くて…。チェコ選手権にオープン参加させたもらったことがあるのですが、全部チェコ語。試合が始まって、試技の順番すらもわからない、いつ、何をすればいいのかとか、記録すらも把握できないような(笑)なかで試合をしたことがあります。英語が使われている試合では全然感じなかったのに、本当に全くわからないとなると、すごく不安になったんです。「チェコで活動するとなったら、チェコ語を覚えなきゃ」と、そのときに思いました。

室伏:皆さんが行きたい国によっては、そういうことも起こりうるということですね。まあ、基本的には英語が、たいていの国では若い人なら通じるけれど。
北口:はい、普通はそうですよね。若い人は話せますから、大丈夫だとは思います。

室伏:ほかのコメントを見ましょうか。「陸上をしていない時は何をしているのか」これは中村くん? 確かに気になりますよね。どうして、そう思ったのですか?
中村:海外に住むとなったら、ずっと陸上をしているわけではないじゃないですか。オフの日とか、陸上をやっていない時間をどう過ごすのかな、と。日本の普通の生活と、海外の普通の生活とで違いはあるのかなと思って書きました。



北口:私、今、チェコのど田舎(笑)に行っているんですね。だから周りに何もないんです。車の免許は一応持っていますが、もう3年運転していないから(笑)、危ないなと思って運転はしていません。なので、遠出はせずに足で行ける範囲で散歩したり、あとは便利な時代になっているのでパソコンでYouTubeやNetflixを見たりしていますね。でも、日本の生活もそんな感じなので、あまり違いはないかなと思います。むしろ海外の生活がそうだから、日本でも似たような生活をしている可能性もありますが。

室伏:自分の生活スタイルは、「海外にいるのだから、これをしなきゃ」と考えてしまうと、逆にストレスになってしまうかもしれませんね。
北口:そうですね。本当に時間があるのなら、電車に乗って、いろいろなところへ出かけたり、お気に入りのカフェを見つけたりするのもやれないことはないと思います。ただ、ゲームセンターはないし、映画館というのも全部チェコ語だからだいぶ厳しい(笑)けれど、まあ、生きていくのには困らないし、息抜きができないレベルではないかなという感じです。

室伏:インターネットのおかげで、いろいろなことができるようになりましたよね。スマホを持っていれば、Wi-Fiが飛んでいて、充電さえできていれば、大丈夫なのかな(笑)。実際に行くとなると、「言葉」と「衣食住」がちゃんとできないと、競技どころではないというのは確かにあると思います。海外に行くアスリートを今まで見てきたなかでは、まず「衣食住」。その不安がなくなって、初めて競技に集中して取り組めるようになるというのがあるので、早く馴染むことが大切なのかなと感じました。

取材・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト

>>リーダーシッププログラムレポートVol2  に続く
Vol.2では、世界一を目指す上で大切なことや、ダイヤモンドアスリート現役生からの質疑応答、室伏マネージャーから、現役生への激励などをご紹介します。



【ダイヤモンドアスリート】特設サイト

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【第9期認定アスリート紹介】その才能で世界を掴め!



■【ダイヤモンドアスリート】第9期認定式・修了式レポート&コメント
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17246/

■【ダイヤモンドアスリート】第9期新規認定アスリート・プログラム修了生について:北田琉偉・澤田結弥が更なる飛躍を目指す!
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17221/

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