2021.06.15(火)大会

中村明彦・山﨑有紀(スズキ)がアベックで連覇!~悔しさを胸に今後の抱負を語る~/【第105回日本選手権混成】レポート&コメント



第105回日本選手権混成競技は6月12~13日、U20日本選手権混成競技と併催で、長野市営陸上競技場において行われました。
男子十種競技と女子七種競技は、東京オリンピックの代表選考会として行われ、十種競技は中村明彦選手(スズキ)が7833点で2年連続4回目の優勝を、七種競技は、日本記録保持者の山﨑有紀選手(スズキ)が5909点を獲得して4連覇を果たしました。


■十種競技は、中村が今季日本最高の7833点で2連覇


男子十種競技は、日本記録(8308点、2014年)保持者の右代啓祐選手(国士舘クラブ)が、ワールドランキングでより高いポイントを獲得できるスペインの国際競技会参加を選択し、欠場したなかで行われました。風がやや強いながらも終日快晴に恵まれた1日目は、前半を得意とする奥田啓祐選手(第一学院高教)が、最初の100mでトップに立つと、その後も安定したパフォーマンスで首位をキープ。初日最終種目の400mでは47秒59の好走を見せてその差を広げ、4152点で初日を折り返しました。これに続いたのが前回覇者の中村明彦選手(スズキ)で、種目別トップはなかったものの、砲丸投で12m84の自己新記録をマークしたほか、すべての種目で上位に収まり4061点を獲得しました。そして、走幅跳で種目別優勝を果たした清水剛士選手(三重陸協)が51点差の4010点で3位、砲丸投で種目別トップとなった片山和也選手(岡山陸協)が3941点で4位、今春から社会人となった丸山優真選手(住友電工)が3939点・5位と、僅差で続く滑りだしとなりました。
2日目は、雨模様となったなかで競技が開始されたものの、正午ごろから徐々に回復していく天候に。優勝争いは、奥田選手が首位を維持したまま進みましたが、中村選手が8種目目の棒高跳で種目別優勝(4m80)を果たすなど着実にポイントを重ねて15点差まで詰め寄ると、第9種目のやり投で、56m18の自己新をマークして奥田選手を逆転。3点差ながら、ここでトップに立ちました。中村選手は最終種目の1500mを4分29秒03で走りきり、昨年のシーズンベスト(7739点、2020年日本リスト1位)を上回る7833点を獲得。目標に掲げていた8000点台には届きませんでしたが、今季日本最高記録で、2年連続4回目の優勝を果たしました。
2位の奥田選手は、昨年出した自己記録(272点)を更新する7768点をマーク。日本歴代7位へと浮上しました。東海大時代から「スピード型」「前半型」として注目を集める一方で、2日目に課題を残していましたが、苦手種目への取り組みを含めた全体的なスケールアップが形になりつつあることを印象づけました。3位には、初日からの順位を守った清水選手が7661点で続きました。上位2選手には2日目で突き放される結果となったものの、この記録はセカンドベスト。中京大4年時に出した自己記録(7697点)以来、6年ぶりとなる7600点台をマークしました。
併催されていたU20日本選手権男子十種競技は、初日でトップに立った清水将貴選手(東京学芸大)が、第8種目の棒高跳で4m00をクリアしたことで大きくリード。やり投で60m08をマークして2位に浮上してきた岡泰我選手(国士舘大、総合2位6869点)らの追撃を寄せつけず、6927点で優勝を果たしました(中村選手、清水選手の優勝コメントは、別記ご参照ください)。


■七種競技は山﨑が5909点のセカンドベストでV4

女子七種競技は、この大会3連覇中で、5月に5975点をマークして日本記録保持者として臨んだ山﨑有紀選手(スズキ)が、最初の100mHから自己記録(13秒84)を大幅に更新する13秒58(+1.4)をマークして好スタート。走高跳は1m63、砲丸投は12m21にとどまったものの、第4種目の200mで2.4mの追い風に乗って24秒20の好タイムを叩き出し、ここで首位に立ちます。これら前半4種目で3447点を獲得。日本人初の6000点突破の可能性を残して、初日を終えました。山﨑選手に続いたのは、今季5633点(日本歴代6位)を出している大玉華鈴選手(日本体育大学)。100mHを13秒66(+1.4)の好記録で滑りだすと、得意の走高跳(1m72)でトップに立ち、砲丸投(11m74)を終えた段階まで首位を維持。山﨑選手に逆転された200mも25秒34(+2.4)でまとめて、自己新記録ペースの3406点を獲得。41点差で山﨑選手を追う形となりました。
2日目最初の走幅跳は、雨が打ちつけ、向かい風となるなかでの競技となりました。山﨑選手は、ここで6m台を残しておきたいところでしたが、2回目の試技のスタートで残り時間を間違えてタイムオーバーとなるミスも出て5m72(-1.4)にとどまり、6000点突破はかなり厳しい状況となってしまいます。しかし、山﨑選手は、その後も気持ちを奮い立たせ、残るやり投(46m74)と800m(2分14秒47)で種目別トップの成績を残し、自身2回目の5900点台となる5909点で4連覇を達成しました。
2位は、山﨑選手には突き放される結果となったものの、2日目も着実にポイントを重ねた大玉選手。セカンドベストの5622点をマークしています。また、3位には、初日から3番手につけていた利藤野乃花選手(わらべや日洋)が、走幅跳(5m84、-0.7;種目別1位)と800m(2分18秒25)等で得点を稼ぎ、5月に出していた自己記録(5264点)をぴったり100点更新。5364点で日本選手権のメダルを初めて獲得しました。このほか、4位には、昨年の全国高校大会七種競技を制した大菅紗矢香選手(中京大、当時、鳥羽高)が、初日9位から大きくジャンプアップ。U20日本歴代9位となる5300点をマークして、3位・利藤選手に64点差まで詰め寄りました。
同時開催されたU20日本選手権七種競技は、高校生の活躍が目を引きました。優勝したのは昨年の全国高校大会七種競技で1年生ながら2位の成績を収めている中尾日香選手(長田高)。初日で2919点を獲得してトップに立つと、2日目も僅差ながらもリードし続ける勝負を展開し、自身初の5000点台となる5007点で制しています(山﨑選手、中尾選手の優勝コメントは、下記ご参照ください)。


【優勝者コメント】

<日本選手権混成競技>

◎男子十種競技
優勝 中村明彦(スズキ) 7833点

(試合を)やる前からオリンピック(出場権獲得)の可能性は低いことを理解しつつ、でも、自分の調子は上がってきていたので、“行けるんじゃないか”という期待や実際に調子が上がっているという手応えを感じながら迎えた試合だった。うまく詰めきれなかった種目への悔しさもありつつも、でも十種競技は、どんなに結果が良くても悪くても、1500mを走り終えたあとの達成感が大きい種目。その達成感もあるし、自分が目標にしていた記録に届かなかった悔しさもあるし…と、今は、いろいろな感情があふれ出している。また、それだけに、“連覇、優勝”という結果は、逆にすごく嬉しく感じている。プレッシャーを感じながら日本選手権に臨むのはいつものことなのだが、自分らしく、押し潰されきらずに粘ったかなという気持ちもある。
今回、(昨年生まれて9カ月になった)長女が初めて競技場に来てくれて、僕の競技を見てくれた。苦手だった種目でベストが出たので、勝利の女神なんじゃないかと思う。競技を終えたあとに涙したのは、(娘が見守るなかで競技できた)嬉しさと、どんなときにも支えてくれる家族がいたこと、そして遠くから足を運んでくれるサポーターの皆さんがいたことに、すごく幸せな気持ちになったのと、一方で、もっといいパフォーマンスができたんじゃないかなという(悔しい)気持ちがあった。
苦手としていた投てき種目(砲丸投、やり投)で自己ベストを出すことができた。「スピード型からオールラウンダーへ」というテーマでひと冬を過ごしてきただけに、こうして数字に表れたことはすごく自信になる。(年齢を経て)落ちていくスピードをカバーできるだけのパワーと技術をつけて、また“新しい自分”で、次の十種競技に臨める気がしている。
今回は、本当に、「嬉しい優勝、悔しい記録」。でも、「まだどこか自分に可能性を感じられる十種競技」でもあった。パリ(オリンピックを目指すこと)は難しいと思うけれど、娘が自分の競技している姿を記憶できる年になるまではなんとか頑張れたら…。今後、どういう取り組みをしていくかを考えて、また十種競技したいなと思う。

◎女子七種競技
優勝 山﨑有紀(スズキ) 5909点

合計記録が5909点。自己ベストである日本記録に迫る記録が出せたことはよかったと思う。今回は、フィールド系の種目が全部よくなかったので、そこには悔しさがある。ただ、これだけ失敗しても5900点台にのせられたことは自信にしたい。
(初日をトップで終えて迎えた2日目も)合計得点のことは気にせずに1種目1種目をしっかりと、それぞれの自己ベストを狙おうと思って臨んだのだが、なかなかタイミングや
(5月に)日本記録を出したあとは、試合自体の疲れはそこまで残っていなかったのだが、実はその大会の3日後に首の筋を違えてしまい、それが3回も起きたので、首に少し痛みが残っていた。そこが万全の状態で臨めていたらよかったなという気持ちはある。
(目前に迫ってきた6000点突破については)ここまで、ずっと6000点を目指して、出したいと言ってきたが、なかなか近づくことができない記録だったが、5月に5975点(日本記録)を出せたことで、少しは世界に近づけたような気はしている。今まで、記録が出るにつれて、目標が毎年変わってきた。昔は日本選手権に出場するのが夢だったが、それが優勝することになったし、国際大会を経験して「日本代表になりたい」と思うようになった。前は、遠いように感じていた世界選手権やオリンピックにも、やっといけるかもしれないと思えるようになってきた。それは、フィールド種目での“自分の当たり前”のレベルを上げることができれば、自然と見えてくると思う。
(再度の記録更新に対しては)調子がいい状態が続いているし、もう少しフィールド系で記録を安定させることができれば、もっといい記録が出せると思っている。今後、試合を探して、挑戦していきたい。


<U20日本選手権混成競技>

◎U20男子十種競技
優勝 清水将貴(東京学芸大) 6927点

「優勝できて嬉しい」という気持ちがすごく大きい。1500mでは、(その段階で)2位の岡(泰我、国士舘大)に22秒の差をつけられなければ優勝できると計算していたので岡についていこうと考えていたのに、序盤で置いていかれてしまう展開となったが、優勝したいという気持ちが強かったので、粘りに粘って、なんとか差を縮めることができた。結果的に優勝することができたのでよかった。
今回は、点数のことは考えずに、とにかく1位を目指していた。優勝を狙うためには、1つ1つの種目で上位にいることが大事だと思って、各種目に取り組んでいた。(最初の)100mで、追い風参考ではあるけれど初めて10秒台(10秒87、+3.2)が出せたし、400mも走高跳も自己ベストに近い記録を出すことができた。また、今日は、今まで3m80がベストだったポール(棒高跳)で4m00を跳ぶことができたことが大きかった。結果的に、そこが優勝の決め手になったなと感じている。U20規格ではあるけれど、砲丸投や110mHなども去年出場したときに出したベスト記録を大幅に更新することができている。そう意味で、内容的にも、すごくよい結果だったと思う。
シニアの十種競技では、まだ(日本)インカレのB標準しか切れていない(レベルだ)が、これから全国での強い選手の背中を追って、来年、再来年にはしっかりと勝負していけるような選手になっていきたい。

◎U20女子七種競技
優勝 中尾日香(長田高) 5007点

やりきった感がすごくて、「七種、やっていてよかったな」という気持ち。種目別では、砲丸投と200mとやり投の3種目で自己ベストをマークすることができた。この大会は、近畿インハイ(近畿地区高校)の1週間前なので、とりあえずケガをしないことを大前提で、(出場してくるU20年代の)すごい選手と戦って、そこで得るものがあったらいいなという感覚で出場していた。とりあえず自分の力を出しきるだけ出しきろうという気持ちだったし、具体的な得点も考えていなかったので、5000点という数字には、今もびっくりしている。
この大会で得られたのは、「仲間って大事だな」ということ。私は800mの前に気分が落ち込むのだが、誰ということなく、みんなが「頑張ろう!」と声をかけてくれて、それがすごく励みになった。今回は、私が最年少(高校2年)だったのだけど、「自分もこういう先輩になりたいな」と思った。
インターハイに向けて、同じ高校生の人たちにも勝てたことはよかったし、これで自信を持って臨むことができるけれど、まだ、みんな成長している。自分もこれで満足するのでなく、改善するところを改善して、もっとよくなるように頑張っていけたらと思う。インターハイは、去年、2番(全国高校大会)だったので、「去年2番だったのだから、今年は1番」という気持ちで目指している。まずは、来週の近畿インハイを頑張りたい。


文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォートキシモト


■第105回日本選手権・混成競技 ダイジェスト動画




■第105回日本選手権・混成競技 特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/jch/105/combined-events/

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