第105回日本選手権混成競技は6月12・13日、夏に開催される東京オリンピックの代表選考会を兼ねて、長野県の長野市営陸上競技場において開催されます。混成競技の日本選手権が長野で開催されるようになったのは、ロンドンオリンピックの最終選考会となった2012年の第96回大会からで、今年でちょうど10回目。この大会の運営については、随所に手厚い配慮や工夫が凝らされていることで、出場する競技者からはもちろんのこと、競技運営に携わる関係者からも非常に高く評価されています。その背景には、大会の運営母体となった長野陸上競技協会関係者のさまざまな試行錯誤や尽力がありました。
10回目の開催に際して、ここでは長年、「支える人」として日本選手権混成競技の開催に携わってきた長野陸上競技協会の方々にインタビュー。これまでの取り組みをご紹介します。
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大会を少しでも良くするための工夫 ~盛り上げるための配慮~
石井:大会に関しては、今、思い返しても、「長野らしさ」といえるさまざまな工夫を、毎年、いろいろな形で凝らしてくださっていました。選手と話をしていても、イベントプレゼンテーションにかかわるところとか、表彰などのこととかが出ます。そのあたりの話をお聞きしましょう。どういったことを意識しながら準備をされたのでしょう。葛城:まず、私たちとしては、スポンサー保護の概念というものが希薄だったので、競技場で掲出している看板を隠さないとか、ドリンクの商標に気をつけるとか、そうしたことを学べたのはすごく勉強になりました。そのうえで、「じゃあ、その看板をどう目立たせようか」ということで、看板やインタビューボードに車輪をつけて可動式にする工夫をしました。また、現在行っている表彰式の手法は、日本陸連前事務局長の風間(明)さんからの強い要望によるものです。風間さんが感銘したという海外の事例を映像で見せていただき、それを参考にしながら整えたんです。あとは、先ほども挙がったように、スクリーンがないために、手づくりのトップ8の表示板やタイマーを用意し、競技場内に設置しました。ここでは、補助役員等で運営にも協力してくださっている長野高工専(長野工業高等専門学校)の学生さんたちが活躍しています。いろいろと大変なことは数多くありましたが、こうした経験がきっかけとなって、普段の大会でも、それぞれの部署で、みんなが「もっと良くならないかな」と、アイデアを出し合い、工夫するようになりましたね。
玉城:いろいろな方々のアドバイスや発想のなかで、「ああ、こういうこともできるのか」と思ったのは、競技役員の置き方です。もちろんルールブックに則ってはいるわけですが、最初のころの「トラック審判長」「跳躍審判長」「招集所審判長」という一般的なものから、だんだんと変わっていき、最終的に「十種競技」「七種競技」「U20十種競技」「U20七種競技」「スタート・サブイベント」というように、それぞれの種目で審判長をつける形になりました。跳躍、投てきをまとめてフィールド審判員として効率化も図りました。試行錯誤しながらのことではありましたが、役員の配置の仕方ひとつで、競技会運営をよりやりやすく、それぞれに責任を持たせて、判断していけるようにできるんだという発想を持てたことは、この大会を経験したおかげです。
内山:盛り上げについては平常の大会、松本で開催した2016年全日本中学や2017年全国高専でもうまく応用することができました。あの大会は豪雨による中断が多かったのですが、最終日の男子1500m決勝の際も招集後に土砂降りの雨となって中断を余儀なくされました。そのとき、(雨が強くて招集所の)テントから動けなくなった選手たちをマイクロバスで競技場の正面にある雨天走路へ輸送し、身体を動かせるように配慮したうえで、競技が再開されたときに、メイン側中央から登場して、直前に行われたリオ五輪4×100mRの決勝のようにポーズをとってもらい、1500mのスタート地点までトラック上をウォーミングアップを兼ねて移動してもらうということをしたんです。急なハプニングに遭ったとき、そうした工夫をすぐにできるようになったことは、日本混成の大きな効果だったと思います。
あとはアナウンス業務の部分ですね。陸連に入局する前の石井さんが、競技場内に出てアナウンスすること、記録や競技結果に関する情報の出し方などを示してくださったことがきっかけとなり、長野陸協のアナウンサーの能力が向上しました。現在は盛り上げに欠かせない要素となっています。
日本選手権混成が長野陸協にもたらしたもの
石井:日本選手権混成の運営を続けてきたことで、長野陸協の組織づくりや競技会の運営などに生かされたことはありますか?葛城:特に私が実感しているのは、競技の運営に関してです。勉強になったというだけでなく、「あの大会をやるからこそ、なにか考えなきゃいけない」という意識が若い年代の人たちに芽生えたことが大きな財産になっていると思います。また、松本市に新しい競技場ができて、2028年に国スポが来ることになっているのも、大きな目標になっていて、いいことだと思います。日本混成の10回の開催で得たものを、国スポで生かせるという変な自信というか…(笑)、そういうものは確かにあります。ただ、国スポまでは少し期間が空くので、その間、どう継続していくか。そこは、私や私より若い連中が考えて取り組んでいかなければなりません。
石井:玉城先生は、現在は、日本体育大学へ移られて、長野からは離れている状況ですが。
玉城:内山先生が若手に任せるというスタンスで指揮を執られたなかで、若い年代の方々が育っているんです。2016年の全中に向けてということでは実際に、この大会で、中体連の先生方が審判員として新規の資格を取得され、数多く参加されたんですね。全中(の競技役員)に入る先生方には、敢えてこの大会に入っていただきました。つまり、全中の競技役員をするその前段階で、ほとんどの方にこの大会を経験していただいたわけです。若い方々をこの大会で育てていくという当初の大きな目的とうまく合致できたことが、全中の成功に繋がりました。逆の視点からみると、全中があったことは、日本混成にとってもよかったと思いますね。(長野県の)外にいる私が言うと無責任な発言になってしまいますが、国スポに向けては、長野陸協が全力を挙げてやっていかなくてはなりません。また、高体連もそろそろインターハイの開催を考えなければいけない時期でもあります。そういうことも見通しつつ、ここまで培った「財産」がみんなのものになるように、陸協全体で育て、さらに強力にしていくことが必要だと思います。
石井:日本選手権混成をご覧になった、自身が他の都道府県陸協などで競技運営にかかわっている方からは、「どうやったら、あんなに若い人たちが中心になった状態で(運営を)やれるのかな」といった声をよく聞きます。どの現場でも、ベテランの先生方に後方支援に回っていただくことの難しさがあるようで…。
内山:競技運営だけでなく、協会運営でもいえることですね。協会運営の場合、スポーツ団体の適切な運営を目指してスポーツ庁から示された「ガバナンスコード」により、理事を連続で務められるのは原則として10年までとされているなかで、若返りや女性参加も含めた多様性への対応が求められています。1人が長く続けると新しい観点がなくなるので、どんどん交替して新陳代謝を図っていくことが必須なんですね。競技運営の面では、若い人を中心に編成していく過程で、審判委嘱をしてこなかったと口もきいてくれなくなる方もいましたが、それはやむを得ないということで割り切るしかないと考えています。
「今年だから」ではなく「今まで通り」 満足のいく大会を
石井:今年の大会が10年目。東京オリンピックの代表選考競技会として行われます。最後に、それぞれの思いを、お聞かせください。
葛城:「今年だから」ということではなくて、「3つのフレンドリー(競技者・観客・審判員を大切にし、3者が一体となり競技会を盛り上げ、競技者のパフォーマンス発揮・向上を目指す)」「アスリートファースト」というのは基本としてありますので、そこを大切にしていくということですね。
日本陸連は、高校生も資格がとれるC級審判員の制度を今年度から導入しましたが、実は、長野陸協では、3年前から、すでに高校3年生を対象にした審判講習会をやっているんです。長野国スポに向けて、そのあたりの年代の方に活躍してもらいたいという願いがあります。また、信州大学、松本大学や長野高専の学生さんたちには競技と並行して審判をやってもらう形で、どんどん参加していただこうとしています。多様性という面では、このたび、20代の女性の先生に理事になっていただきました。若い方との架け橋になっての活躍を期待しています。ですから、今回の開催に当たっても、「最後だから」とか、「次の秋田県へうまく繋げていく」とかというよりは、まずは、長野陸協として滞りなく満足のいく大会をやりたいという思いが一番強いですね。
玉城:現在、長野を離れている身なので、何かを述べる立場にはないのですが、私個人としては、競技会運営や審判員を務めた経験を踏まえて、そうしたことも理解した指導者にならなければいけないと思っています。指導者の場合、どうしても選手の競技力向上を優先する形で動きますし、そのスタンスで試合にも行きますから、運営側の苦労や配慮を見落としがちになってしまいます。私自身は、競技者にも運営側にも、公平な立場でいられるようでありたいな、と。そして、学生には競技役員への感謝と将来は陸上競技の発展に寄与できるよう指導していきたいと考えています。今年は、長野市での開催が最後ということで、内山先生からお声がけいただき、お手伝いすることになっています。少しでも役に立てればと思うのと同時に、ぜひ、この財産を長野陸協の組織づくりや競技力向上に生かしていっていただきたいなと思いますね。
内山:葛城副理事長も言ったように、今まで通り、ミスなく、事故なく運営したいという思いが一番でしょうか。私がこれまでで最大に嬉しかったのは、右代選手が日本新記録を出したことなのですが、混成競技の場合は、種目を積み上げていっての結果ということもあるので、フラット種目以上に思い入れも強くなるのかもしれません。右代・中村両選手に続く選手の台頭も待たれますが、長野市での最後となる大会で、ぜひもう一回日本記録を出してもらいたいですね。我々も、記録を出してもらえるように、全力でサポートできればと思います。
石井:日本記録という点では、近年、全体の水準が上がってきている七種競技(女子)においても、そろそろ期待したいところです。日本陸連では、今年も前回に続いて両日ともライブ配信を予定しているのですが、私は、今年も実況解説を担当させていただくことになりそうです。良い結果を多くの方にお届けできることを願いつつ、当日に備えたいと思います。本日は、ありがとうございました。
(2021年5月17日収録)
プロフィール
◎司会進行:石井朗生(日本陸連事務局)
◎構成・文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
◎写真:フォート・キシモト/長野陸上競技協会
■【日本選手権混成】長野陸上競技協会インタビューVol.1
https://www.jaaf.or.jp/news/article/14944/
■第105回日本陸上競技選手権大会・混成競技 特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/jch/105/combined-events/
■第105回日本陸上競技選手権大会・混成競技 大会ページ
https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1555/
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