2020.12.16(水)その他

【ライフスキルトレーニングプログラム】対談~各団体に先駆けたプログラム発足までの経緯~


左から 日本陸連 山崎一彦トラック&フィールドディレクター、東京海上日動キャリアサービス 田﨑博道代表取締役社長

日本陸連は、人材サービス事業で高い評価を得ている株式会社東京海上日動キャリアサービスのサポートを受けて、学生アスリートを対象とする「ライフスキルトレーニングプログラム」を、12月からスタートさせました。プログラムの開始にあたって、東京海上日動キャリアサービスの田﨑博道代表取締役社長と、日本陸連強化委員会の山崎一彦トラック&フィールドディレクターに、実施の経緯や受講者に寄せる期待などを伺いました。

構成・文、写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)


ーこのたび新たな取り組みとして、大学生アスリートを対象とする『ライフスキルトレーニング』がスタートします。山崎ディレクター、まず、こういう取り組みを始めるに至った経緯をお聞かせください。

山崎:実は、「陸上競技に取り組んでいる競技者の“出口”がない」ということは、以前から尾縣貢専務理事はじめ、日本陸連内部のいろいろな方々と話をしていたんです。トップアスリートとして活躍していても、将来が見えないために不安があり、そのために陸上競技をやっていることに自信が持てなくなる…という学生アスリートはけっこう多いんですね。

私自身も大学生のときには在学中にオリンピックにも出場(※大学2・3年時に、1991年東京世界選手権、1992年バルセロナオリンピックに出場)していたのに、就職先が決まったのは(卒業直前の)大学4年の3月。なかなか決まらなかったことで、敗北感のようなものを感じたり、「なんで陸上をやってきたのかな」と考えたりしてしまうほど、すごく悩んだ経験を持っています。また、その後、企業に所属して競技を続けている間も、アスリートとしての価値が、いわゆる“広告塔になる”ことだけでは弱いとずっと感じていました。そのような問題意識が現役のころからあって、今の立場になるまで常に、「どうにかしたい」と思いながら、なかなか具体的な方法を見つけられずにいたわけです。

そんななか、ちょうど「アスナビ」(JOCの就職支援制度)で、私が大学で指導に当たっている選手を、東京海上日動キャリアサービスで採用していただけることになりました。その際、田﨑社長に、私の問題意識や思いをお話しする機会ができたんです。そして、「(学生のうちに)キャリアをつけられるようなことが何かできないでしょうか」という話をしたときに、田﨑社長も「それができると面白そうだね」と賛同してくださって、そこから始まりました。



ー田﨑社長は、どういうお考えから、このプログラムのサポートを決めたのでしょう?

田﨑:スポーツが社会に与える活力の大きさは、誰もが認めるところです。先日行われた日本選手権長距離(12月4日に開催)が、まさにそれを示していたと思います。非常に厳しいコロナ禍に見舞われているにもかかわらず、選手たちはオリンピックを目指してトレーニングに励み、競技活動を再開させて、日本選手権で素晴らしい結果を残しました。その姿に、私だけではなく、たくさんの人が感動したと思うんです。

でも、一方で、アスリートが競技者としての活動を終えたあと、どれほどの選択肢を持っているのか…。多くの感動や歓喜を与える存在であるにもかかわらず、正直言って選択肢は多くはありません。アスリートの皆さんは、練習と仕事の両立、競技が終わったあとのキャリアなどに不安を持ちながら陸上競技をやっているのではないでしょうか。

少し生意気な言い方になりますが、残念ながらまだまだ日本では、トップアスリートの持っている能力を正しく評価し、社会で活躍してもらおうという環境にはなっていません。その背景には、「社会で求められる能力を持っていることへの自覚がない」あるいは「アスリートとして培ってきた高い能力を、社会的な能力に転換していく術を知らない」といった、アスリート側の課題があります。受け入れる企業にも、競技力のみに注目をして広告塔的な位置づけで考えていて、事業そのものを支えていく人材に成長させていくんだという本気度が足りないんじゃないかと感じていました。私は、トップアスリートが、社会でも活躍できる能力を有しているのは間違いのないところで、そういう人材が活躍のチャンスもなく終わってしまうことは、日本の社会にとっても大きな損失だと思っています。そういうことから、私自身もずっと「何かできることはないのか」と考えていたんですね。 

そんな時に、山崎ディレクターとの出会いがあったわけです。ディレクター、そして日本陸連の皆さんがアスリートのキャリアに対して、ものすごく真剣に考えていらっしゃることを知り、120%どころか200%、300%共感しました。私たち人材サービス事業として、きっとアスリートの皆さんのお役に立つことができる。そう考えて、今回、このプログラムを提案させていただきました。



ー第1期生として、今回は14名が選出されました。選考過程で印象に残ったことや、新たに見えたことなどはありましたか?

山崎:最初に39名の応募があり、二次審査に進んだのは30名。そこでオンラインでの面接を実施して、最終的に14名となりました。応募してくれた皆さん全員に、熱い思いがありましたね。「なんとか現状を打破したい」ということと、「自分が一所懸命取り組んできた競技を、将来どう生かしていけばいいのか」と悩んでいる様子が感じられました。そのなかで、「こうしたい、ああしたい」というよりは、「こうしたいけれど、それができない」とか「今、こういうことができないんです」というように問題意識をきちんと自覚できている人、そして、それを素直に表現できている人たちを、今回は選ばせていただきました。

選考の過程には、オブザーバーとして田﨑社長にもすべて入っていただきました。今回のプログラムを、実際に学生がどう考えているか、選手がどう見ているかというところも見ていただいたのです。面接で私は、シビアなことを言ったり、質問に対する答えをさらに掘り下げて聞いたりと、かなり厳しいものになりましたね。

この面接を実施したことで、新たに見えてきたこともありました。それは、プログラムを進めていく私たちはもちろん、現場にかかわっている大人たち…特に指導者の方々が、同じ問題意識を持てていないとダメだということです。選手だけでなく、みんなで共有できていないと、ライフスキルを生かしていく環境がつくれないと感じたんです。プログラムをこれから実施していくなかで、従来ではわからなかったこと、気づけなかったことが見えてくるのではないかと期待しています。それらを指導者養成など、陸上界のさまざまな場面に波及させていくことが、次の段階になるんじゃないか思っています。

ー田﨑社長、今回のプログラムは、既成のものなのですか? それとも、今回、日本陸連と一緒にやるに当たって新しくつくられたなのでしょうか?

田﨑:初めての内容です。先ほど申し上げたように、もともと問題意識はあって、「何かいい方法はないだろうか」と考えていましたが、具体的にどうするかというヒントがなかったんですね。でも、山崎ディレクター とお会いし、さらには特別講師の布施努先生をはじめ、さまざまな方々との出会いがあって、形にすることができました。ですから今回が初めてです。

特徴は、毎日の生活の中で、競技に費やしている時間を工面して、その絞り出した時間で勉強したりビジネススキルを学んだりするというのではなく、このプログラムを受けることによって、競技力を向上させると同時に社会の求める能力も身につけていくということ。よく私たちが「勘」とか「経験」とかで表現していることを、スポーツ心理学の側面から可視化し言語化することで自分のものにして、競技力の向上に切り込んでいく。それと同時に社会でも活用できる能力を獲得していこうという考え方なんです。



ー山崎ティレクターは、プログラムの開始に当たって、受講するアスリートに「こうなってほしい」という思いはありますか?

山崎:このライフスキルトレーニングは、単に、キャリア形成とかデュアルキャリアとかのためというものではなくて、ライフスキル…それぞれの選手が持つ人生を歩むためのスキルそのものを高めるためのものなんです。自分の持つライフスキルに早く気づいて、それを活用する能力を身につけることで、競技力の向上に役立つとともに、社会に出たときに自信を持って競技を続けながら社会人として活躍し、そして競技生活を終えたあとも、次のキャリアの世界で力を発揮できるようになることを目指しています。

今回のライフスキルトレーニングでは、まずは特別講師としてお迎えしている布施先生に、スポーツ心理学の観点から話をしていただくほか、実際に社会で活躍されている方、陸上競技以外の分野の方のお話を聞くということを、主にやっていければと思っています。また、ディスカッションなどによって、受講者たちが高い意識レベルを共有することによって、みんながもう一段高いところへ上がってくれたらいいですね。このような専門的なところは、私たちにはできないこと。今後、東京海上日動キャリアサービスさんからいただく、さまざまなプログラムが、専門性というところで生きてくると期待しています。ガイダンスなどを聞いていても、「ああ、自分が選手だったころに、こういうのがあったらよかったのに…」と、しみじみと感じましたから(笑)。私自身も、勉強させていただこうと思っています。


■ライフスキルトレーニングプログラムの受講生はこちら
https://www.jaaf.or.jp/news/article/14514/

■第一回ライフスキルトレーニングプログラム実施レポート
https://www.jaaf.or.jp/news/article/14540/

■ライフスキルトレーニングプログラムの概要はこちら
https://www.jaaf.or.jp/news/article/14473/

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