2020.01.16(木)選手

【ダイヤモンドアスリート】インタビュー 800m・クレイアーロン竜波選手




今回のダイヤモンドアスリートインタビューは、男子800mのクレイアーロン竜波選手(相洋高・神奈川)の登場です。クレイ選手は、2020年東京オリンピックと、その後の国際大会での活躍が大いに期待できる次世代の競技者を強化育成する「ダイヤモンドアスリート」として、第4期(2017-2018年)から3期連続で認定されています。種目特性上、特に成長期では学年ごとの記録差が大きい傾向にあるにもかかわらず、男子800mにおいて、高校2年の秋に1分47秒51をマークして高校記録保持者に。2019年には、初出場となった日本選手権で、自身の高校記録・U18日本記録を塗り替える1分46秒59のU20日本新記録を樹立して、この種目で史上初となる高校生優勝の快挙を成し遂げました。

ここでは、「本当にいろいろなことを経験した1年」と自身も認めた2019年シーズンを中心に振り返っていただくとともに、自国開催となる東京オリンピック、そして、9月から始まるアメリカ・テキサスA&M大学での学生生活が待つ2020年に向けての展望を伺いました。

 
◎取材・構成、写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)

 

高校2年で1分49秒台突入

そして、1分47秒51の高校記録保持者に

―――クレイくんは、高校1年生のときに2017年インターハイの800mで、1分50秒67の高1最高記録をマークして2位となったことで大きく注目されるようになりました。当時から4×400mRを走ったり、高校駅伝でも神奈川県大会や関東地区大会で3km区間を走ったりもしています。その年の秋、第4期(2017-2018年)からダイヤモンドアスリートに認定されました。前にインタビューしたのは、高校2年になる直前のことでした( https://www.jaaf.or.jp/news/article/11396/ )が、その後も大躍進を続けています。今回は、その後の話をお聞きするということで、まずは2年生のころをちょっと振り返っていただきましょう。2年生になってすぐの記録会で1分50秒56の自己新をマーク。5月には水戸招待に出場して1分50秒02と、連続してベストをマークしています。しかし、目指していた日本選手権(1分49秒80)とU20世界選手権(1分50秒00)の参加標準記録には、どちらもわずかに届きませんでした。

クレイ:はい。自己新は出たけれど届かなかったです。

―――そこは悔しかったところ?

クレイ:そうですね。日本選手権もですが、U20世界選手権に出たかったので残念でしたね。そこからはインターハイの優勝を目指していくことになりました。

―――そのインターハイで、みごと2年生優勝を果たして、秋の国体(少年共通800m)も2連覇。国体の予選では、初の1分49秒台(1分49秒86)をマークしました。そして、直後の秋季新潟県記録会で、1分47秒51の高校新記録・U18日本新記録を樹立と、大きな記録の伸びを見せました。

クレイ:はい。そこからが自信がついたという感じでしたね。

―――初めて1分50秒を切ったときと、高校記録を樹立したときとでは、何か違いはあったのですか?

クレイ:自分のなかでは、「(1分)50秒の壁」がすごく大きかったんです。国体の予選のときは、洛南高(京都)の山岡(龍輝)選手が最初引っ張ってくれたのですが、(1分)49(秒)が出たときは、「ああ、やっと50秒を切って、ここまでこられたんだ」と、すごく嬉しかったし、自信になりましたね。

―――春から目標にしていて、なかなかクリアできなかった記録だったから、なおさらそう感じたのかもしれませんね。でも、その次は、1分48秒台をすっ飛ばして、一気に1分47秒中盤まで行きました。新潟の大会は、シニアの選手と走るレースだったことも影響しているのでしょうか?

クレイ:やはりそうですね。シニアの選手と一緒に走ることは、水戸招待で一度経験していて、それがいい経験になっていました。新潟では、前田さんの高校記録(恋弥、市立船橋高:1分48秒08、2014年)を切りたいと思っていて、ペースメーカーがいたので、それについて走ったんです。残り150mになったときに前には1人いたのですが、ラストはその人を追い越すことを意識するよりは、腕を振って全力で走ったという感じです。そうしたら(1分)47秒51。自分でも「こんなタイムが出せるんだ」という驚きがありましたね。

―――最後のホームストレートはきつかった?

クレイ:きつかったけれど、なんか(前に)進んでいる感じがありましたね。2019年の日本選手権と同じような感触でした。

 

初の海外合宿、日本代表入り、海外遠征…。

いろいろな経験を積んだ2019年


―――高校3年の2019年シーズンに向けては、どんな目標をもって臨んでいたのですか?

クレイ:前年度に日本選手権の参加標準記録を切ることができていたので、日本選手権優勝を目指してやっていました。

―――試合としては、3月という早いタイミングでアジアユース選手権が香港であって、1分50秒57で優勝しました。それが初の日本代表でしょうか? その前後には、オーストラリアやアメリカに行っていますね。

クレイ:はい、アジアユースのときが初めてです。オーストラリアに行ったのは2月ですね。ダイヤモンドアスリートのサポートで、川元奨さん(スズキ浜松AC)と一緒に合宿をやらせていただきました。フロリダ(アメリカ)のレースに出たのはアジアユースのあとです。

―――日本代表になるのも初めてなら、海外での合宿やレースもこのときが初めてだったのですね。

クレイ:はい、このときが初めてでした。

―――クレイくんの場合は、家では(アメリカ人の)お父さまと英語で話しているということでしたから、海外の合宿や遠征も、言葉の心配はなかったのでは?

クレイ:(相手の)言っていることは普通にわかるので、会話の面では困ることはないし、特に自分としては壁とかはないですね。環境が少し変わるくらいの感じです。外国にいるというその変化が、逆に楽しかったです。

―――そういう意味では、海外合宿で環境の変化を体験したうえで、日本代表としての初遠征やアメリカでのレースを経験していくことになったわけですね。

クレイ:そうなんです。だから2019年の間に、本当にいろいろな経験をしたという実感がありますね。世界リレーにも出ましたし。

―――日本での開催となった5月の世界リレーには、シニアの世界大会でも初の日本代表入りを果たしました。高校生では唯一の出場です。2×2×400mリレーに出場して3位という好成績を収めたわけですが、いかがでしたか? このリレーは、2人1組で400mを交互に2本走るというリレーで、リカバリーの時間は一緒に組むメンバーが走る400mの間だけというもの。ものすごくきつそうだなとは思ったけれど、新種目ということで、実際に見るまでは、どんな展開になるのか想像できませんでした。

クレイ:自分もそうです。走ることが決まったときは、「4プラ4」と言われていたんですよ、400(m)+400(m)で「練習みたいなやつだ」と…。

―――レースの方法を聞いたとき、「これ、アーロンくん、絶対に得意なはず」と思いました(笑)。

クレイ:(笑)。そう、一応、合計距離は800(m)なので。最初は、予想がつかなかったので、きつさもわかりませんでした。でも、走ってみたら、意外と楽しかったというのがありましたね。

―――シニアのナショナルチームと一員として、世界大会を走ってみて、どうでしたか?

クレイ:もう光がぱーっと当たって、すごく明るくて、歓声もすごくて。で、あんなに観客が多いなかで走ったのも初めてでした。でも、プレッシャーとかは全然感じなくて、逆に楽しかったというのがありましたね。走っていて、気持ちよかったです。

―――そうした経験も自信となって、初出場なった日本選手権に生きたのかもしれませんね。日本選手権では、目標通りに優勝を果たしました。しかも、1分46秒59と、自己記録でもあった高校記録、U18日本記録も大幅に更新。日本歴代6位、U20日本新記録でもあります。この記録はイメージしていたのですか? 

クレイ:優勝するには(1分)47秒前半か46秒台、最低でも高校記録は切らないと…というのはありましたが、タイムのことはあまり考えず、とりあえず勝つことを目標にしていました。そこからタイムがついてくるといいなみたいな感じで。

 

マドリッド国際で浴びた“世界の洗礼”

「ボコボコにされた」レースで多くを学ぶ


―――ドーハ世界選手権の参加標準記録は1分45秒80。日本選手権の結果によって、世界選手権への意識が高まったのでは?

クレイ:それはありましたね。世界選手権の標準記録を切るために、8月には福井(アスリートナイトゲームズイン福井)とマドリッド(マドリッド国際)で走りました。福井で切ることができれば一番よかったのですが、福井も一応(1分)46秒63で…。

―――セカンドベストだったんですよね。

クレイ:はい。でも、標準記録は切れなくて、それで、「じゃあ、マドリッドに出るか」ということになったんです。でも、マドリッドがもう、ボロボロだったんですよ。

―――1分49秒17で10位という結果でした。ただ、想像するに、このレースは、国内で日本のシニアの選手と走るのとは、全然違ったのではないですか? きっと、同じ800mでも別の種目のような感じだったのではないかと思うのですが。

クレイ:そうでした。終わって、本当に悔しかったです。国内で勝っていても、世界に出た瞬間、こんなにボコボコにされるんだ、というようなことを実感して。

―――具体的に、どんな点が? 優勝者は1分44秒台、6位までが1分46秒を切る結果でした。エントリーした選手には、1分42~44秒台の自己記録を持つ選手も複数いましたね。

クレイ:あとで反省していて気づいたのは、レース展開と、走っているリズムの違いが一番大きかったのかな、ということでした。

―――どう違ったのですか?

クレイ:自分もコンディションは悪くなくて、最初の入りも普通に行けたんです。自分は、いつも最初の150mまでスピードを上げて、そこから(ペースを)維持するレースをしていて、このときもそのイメージで走ったのですが、海外の選手は最初の200mまでスピードを上げていったんですね。なので、自分は、その最初の時点でほぼビリだったんです。それで200mから300mで「あ、やっと(ペースが)一定になったな」と思った瞬間、また300mから400mで上がり始めてラスト1周に入るみたいな感じで。最初の1周の時点で、いっぱいいっぱいになっちゃったから、ラスト1周はもたなくて…。(一緒に走った)人数が多かったというのもあったけれど、自分の前にあんなに人がいるという経験をしたことがなかったので、そこで気持ちがやられてしまいました。

―――1周目の段階で、「うわあ」と思っているのに、2周目でさらに…。

クレイ:はい、ラスト300mでは、さらにみんな(のペースは)上がっていて、その時点で、世界の違いに圧倒されてしまって、自分は上げていくことができませんでしたね。

―――確かに、ボコボコに打ちのめされるレースだったのですね。ある意味、2019年シーズンのなかで、一番学びが多かったのでは?

クレイ:はい、そのマドリッドのレースが一番ですね。負けるほうが学ぶことが多いので。スペインって、陸上の人気があって、見に来ている人もすごく多くて、雰囲気も(自分が楽しめた)世界リレーと同じような感じだったんですよ。それなのに全然走れなくて、「ああ、今のままじゃダメなんだな」ということを感じました。「どこかで変えないといけないな」と。そうですね。本当に、いろいろなことが学べたと思います。

 

ダイヤモンドアスリートに認定されて

プラスになったこと


―――こうやって、ここまで振り返ったときに、ダイヤモンドアスリートに認定されて過ごしたことは、ご自身の競技生活にどういう面がプラスになっていると思いますか?

クレイ:やはり、さまざまな支援の部分でしょうか。リーダーシッププログラムや、さまざまな講習で、いろいろなことを勉強できますし、修了生の人たちから、実際に体験した話を聞くこともできるのは、とても大きいです。

―――修了生には、サニブラウンアブデルハキーム選手(フロリダ大、100m・200m)や橋岡優輝選手(日本大、走幅跳)など、世界大会で成果を残している選手もいます。

クレイ:実際に、成功していて、見本となる存在がいるので、そこも自信になりますね。あとは海外での合宿や遠征に行くことができたのも、すごく貴重な経験となっています。

―――先ほど仰っていたマドリッドでの経験などは、実際に、その場で走ってみないと気づけないことですから。

クレイ:はい。あとは、これは気持ちの面になってしまいますが、ダイヤモンドアスリートは注目される立場。そのダイヤモンドアスリートに選ばれているのだから頑張らないと…とも思います。

―――使命感とか責任感というところでしょうか。それを張り合いや励みにしているわけですね。

 

進学先にテキサスA&M大学を選ぶ

「強いところでやってみたい」


―――さて、クレイくんは、高校卒業後の進学先に、アメリカの大学を選びました。国外の大学に行くことは以前から考えていると伺っていたのであまり驚かなかったのですが、最終的にテキサスA&M大学に決めた理由は?

クレイ:話は、ほかにもいくつかあったのですが、テキサスA&M大学については、それまでの段階で、SNSとかで全米学生選手権とかの結果を見ていて、「なんで、こんなにレベルが高いんだろう」という印象をずっと持っていたんです。800mで一番実績をもっていたので…。

―――ドーハ世界選手権を1分42秒34のアメリカ新記録で制したドノバン・ブレイザー選手も…。

クレイ:はい、テキサスA&M大学です。ブレイザー選手の場合は、大学1年のときに全米学生選手権で優勝して、プロに転向しました。2019年は世界選手権のほか、ダイヤモンドリーグでもチャンピオンになっています。あと、400mもすごく強いんですよ。世界選手権の400mで銅メダルを獲得しているフレッド・カーリー選手も出身です。マイル(4×400mR)の大学記録は2分59秒(2分59秒05、2019年)なんです。

―――それはすごい!

クレイ:そうなんです。中距離とロングスプリントがすごく強いので、その強いところでやってみたいと思いました。自分も相洋でずっとマイルもやってきていたので、そこが似ている感じもいいなと思って決めました。

―――大学では何を学びたいのですか? 学部は?

クレイ:9月入学なので、学部はまだ決まっていないのですが、見学に行ったときの感触では、ビジネス学部が面白そうだなと思っています。

―――興味があるのは、スポーツビジネスに? それともスポーツに関係なくビジネスの分野全般に?

クレイ:投資とか、経営とか、マーケティングとか、いろいろなものがあるんですよ。最初は一般教養というか同じカリキュラムをやって、大学3年から専門的になっていくらしいので、そのときまでに自分のやりたいことを決めていく感じですね。

 

2020年東京オリンピック

参加標準記録は「手が届かないタイムじゃない」


―――大学に入学する9月までには、少し期間があって、その間には、東京オリンピックというビッグゲームが行われます。そういう意味では2020年は、2019年以上に目まぐるしい1年になりそうですね。ご自身としては、どう考えているのですか?

クレイ:今までは、あまり東京オリンピックというのを意識したくなかったので、目の前の目標に集中して、目の前の試合を1つ1つ、一所懸命やっていくようにしていました。だけど、実際に東京オリンピックも迫ってきているので、視野に入れていかないといけないなというのはありますね。

―――2019年の成長を考えると、東京オリンピックも届かない舞台ではなくなったのでは? 「夢」というよりは「具体的な目標」として見えてきたのではないかと思うのですが、「出たい」という思いは?

クレイ:あります。出られるのなら出たいな、と。

―――そのためには、まずは参加標準記録の突破が必要です。

クレイ:1分45秒20ですね。

―――行けそうな感触はある?

クレイ:あります。手が届かないタイムじゃない、と。やっぱり諦めないのが大事なのかなと思いますね。

―――そのためには、何が必要でしょう?

クレイ: 800mだけじゃなくて、その周りの種目も強くしていくことです。2019年シーズンは、800mはマドリッドで終わりにして、そのあとは400mに出て、駅伝も走りました。コーチとも話して、800mだけじゃなくて400mや1500mももっと走れるように、スピードも体力も強くしようしているんです。その結果、800mがもっと強くなるということで。

―――そうすれば、展開できるレースの幅も、ぐんと広がりますものね。

クレイ:そうなんです。800mだけにとらわれず、いろいろな種目をやっていくことが、最終的に800mにつながるので、今はとりあえず、そうやって体力とスピードを磨いていきたいなと考えています。ただ、これは去年の冬期練習でも目標にしていたことなので、今年もまた基礎に戻って取り組むという感じです。

―――冬場に基礎を、さらにしっかりと上積みしていくわけですね。大学に入るまでは、練習は相洋高校で?

クレイ:はい、その予定です。ただ、2020年シーズンの予定はこれから具体的に決まっていくので、それにもよりますが。この冬は、相洋で練習しています。

―――オリンピックに出て、そこで戦えるようにするためには、あとは国際的なレベルのレースを、もっと経験しておきたいですね。

クレイ:そう思いますね。まずは、ゴールデングランプリがあるので、出場できれば、それもチャンスになります。

―――あとは、ゴールデングランプリの前に国立競技場で予定されている東京オリンピックのテストイベントあたりでしょうか。普通に考えれば、800mは実施するでしょうから。

クレイ:はい。種目があるといいですね。そして、そういうところで、(参加標準記録を)切れると一番いいと思っています。(オリンピック代表入りに向けて)日本選手権は最後の大会になると思うし、勝負がかかってくるので、できれば標準記録は突破した状態で迎えたいです。

―――いずれにしても、大学生になるまでに、非常に大きなチャレンジを経験することになります。オリンピアンとなって、入学の日を迎えたいですね。

クレイ:そうですね。2019年のような感じがあれば…(笑)。

―――ぜひ、右肩上がりの活躍を!

クレイ:はい、頑張ります!

―――楽しみにしています。本日は、ありがとうございました。

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