2020.01.20(月)その他

【Challenge to TOKYO 2020 日本陸連強化委員会~東京五輪ゴールド・プラン~】第14回 2020東京五輪イヤーを迎えて(3)

第14回 2020東京五輪イヤーを迎えて(2)』から

東京五輪後の発展につなげるために


──陸上競技は東京五輪が終わってからも続いていくわけですから、今回は「その後」の話もうかがいたいと思います。東京五輪をどう陸上界の発展につなげるのか、プランはありますか。


尾縣 東京五輪は大きな大きな目標で、開催が決定してからそこを目指して、それを中心にやってきました。ですから、そこに向けての知見を集め、いろいろな試みがなされたわけで、今後そういうものを財産として、2020年以降にどう生かしていくか。一方で、やろうとしてもなかなかできない、本当にゼロからスタートできる唯一の機会だと思っています。今までの良いものは生かしつつ、考えもつかないような決断をしないといけないかもしれないですし、2020年以降のスポーツ界の状況の中できちんと生きていける戦略を考えないといけないと思っています。

2020年以降のスポーツ界の状況は誰も予想できませんけど、いろんなことが考えられます。例えば、国や企業からのお金の流れは、当然制限されると思います。その準備は「JAAF VISION 2017」や「競技者育成指針」などを作成し、方向性を示していますが、それを実行するために英断を下さないといけない時期かもしれないですね。不安もありますが、好機だと考えて、新たなスタートを切る時だと思っています。

──アスリート委員会では「オリンピック後」について意見は出ていますか。

澤野 今はすべてが東京五輪に向かっています。しかし、そこに間に合わなかった選手、代表から漏れてしまった選手は、2024年のパリ、2028年のロサンゼルスを目指します。もしかしたら環境は今より悪くなるかもしれないですが、「次があるんだ」という気持ちで先を見て進んでもらいたいと思います。

もう一つは今、東京五輪で注目されるからこそ、選手の資質、インテグリティ(誠実さ、真摯さ、高潔さ)教育を、アスリート委員会として推していきたいと思います。せっかくここまで盛り上がって、価値が高まってきた陸上界を、もしかしたらある1つの事柄でガクッと下げてしまうこともあり得ます。そうならないように、陸上選手として見られていることを意識しながら競技をしてもらいたい。

さらに言わせてもらえば、私のように競技を長く続ける選手が増えてきていますが、それでも現役を終えた後の人生のほうが長いわけです。その中で、どうやって競技に関わっていくか。お世話になった陸上界へ、どう還元していくことができるか。セカンドキャリアと言われますけど、ファースト、セカンドという概念ではなく、先のことも考えながら競技を続けていく。そんな選手が増えてくればいいなと、私自身は考えています。

麻場 澤野選手のように問題提起ができる、見識の高いアスリートが増えてきて、素晴らしいと思います。競技のことだけでなく本当にいろんなことを考えて、「じゃあ、どうやっていこうか」という話が選手側から出てきます。若い選手がそれを見て育っているのもいい。そういう意味では、新しい陸上界ができつつあるのかなと感じています。

澤野 長く競技をやっていると、「ただ競技だけをやっていればいいのか?」という思いも生まれてくるのです。JOCのスローガンに「人間力なくして競技力向上なし」とありますけど、まさにその通りだなと思っていて、それは意識しないと体現できないと思うんですよ。私もそうでしたけど、若いうちはとにかく練習して、競技力を向上させることしか考えてない。でも、そうじゃないんですね。人間力を向上させ、社会に還元できる何かができたところで、競技力に返ってくると思っています。





 

選手に求められる「人間力」


──2020年以降を見据えても、ダイヤモンドアスリートの育成プログラムは最重要になりますね。

麻場 フラッグシップモデルと言うように、あれが世界で活躍するアスリートの姿なんだということです。これは、陸連としての考え方です。ただ単に競技力が高いだけではなく、国際人としてきちんと立ち振る舞いができる人間が評価される。それを彼らが実践してくれています。ある意味、東京五輪のレガシーと言えるかもしれないですね。

澤野 陸連のアスリート委員としてダイヤモンドアスリートの研修プログラムに同席させてもらったことがありますが、本当におもしろいプログラムで、「自分も若い時に受講したかったな」と思いました。

── それをもっと拡大していく方策は考えていますか。

尾縣 やっぱり原資が必要ですからね。ダイヤモンドアスリートと安藤財団グローバルチャレンジは一体でやっている感じで、いずれも東京マラソン財団と安藤財団のご協力を得ています。そのあたりをさらにご理解いただいて、もっと身近なものとしてやっていく必要性は感じています。

麻場 今考えているのは、ダイヤモンドアスリートと言うと主にジュニア期ですが、その上の世代、実業団に入っていくまでのU23の世代に、ダイヤモンドアスリートほどのエリート教育ではなくて、もう少し幅の広いアスリート教育が強化の中でできればいいな、と。

──いくら高い競技力を持っていても、世界大会でメダルや入賞を狙うレベルに行くには、先ほどから話に出ている人間力が必要ですね。

尾縣 競技力と国際競技力は違うと思うんですね。競技力が高まってきて、あと一歩のところで入賞できるか、決勝に行けるかというボーダーラインでは、競技力を国際競技力に変えないといけない。海外を転戦して友達を増やすとか、コミュニケーションがとれるとか、いろいろな要素がそこにあると思います。

澤野 競技で強ければそれでいいやと思っている選手は、たとえ一度結果を出しても、それで終わってしまいかねません。ですから、大学などの教育機関では、日常生活や人との接し方など、グラウンド外でのことも教えていく必要があると思っています。

──そういう選手が増えないと、ファン獲得につながらないですよね。

澤野 そうなんです。いろいろな競技を見ていて、トップアスリートと言われる人たちのファンへの対応は素晴らしいんですよね。「この人、こんな気遣いができるの」と驚かされることがありますね。私もテレビでしか見たことがなかったトップアスリートですよ。

──ファン獲得ということでは選手に依存する部分が大きいですが、陸連として何か考えていることはありますか。

尾縣 いくつかありますね。一番は競技会の見直しです。「見せる」だけでなく「魅せる」要素を盛り込んだ競技会が必要です。宮崎・延岡で開かれている長距離の大会や、福井で昨年行われた大会のように、競技者と観客が身近なところで接するような取り組みですね。地域に根ざしたものを作り上げていって、陸連がそれをどうリードしていくか、どうサポートしていくかだと思います。

もう一つは、陸連もJOCも取り組んでいることで、キッズにどうおもしろさを伝えるか。これもアスリート委員会と相談しながら、機会を増やしていかないといけないと思っています。

澤野 ファンとの交流が日常になるような陸上界を作っていきたいですね。1人でも多くサインを書くとか、握手をするとか。女子ゴルフの渋野日向子選手もそうやってファンを増やしているわけですよね。

── 話がそれますが、1991年の東京世界選手権の時は世界の走跳投の技術が一堂に介するということで、科学委員会が中心になってビデオを回し、データ収集して現場にフィードバックしました。東京五輪でもそれをやれるのですか。

尾縣 これは希望を出しているのですが、IOCから組織委員会に話が降りてくる事項なのです。東京世界選手権は陸上だけでしたからね。

麻場 科学委員会も準備はできているんです。ゴーサインが出れば、いつでも動けます。

澤野 私も、今後若い選手を指導するうえで1つの指標になってくると思いますので、それはぜひ強く推していただきたいです。

 

指導者の意識改革も重要課題


──選手のグローバル化を求めると同時に、指導者にも同じ視点に立てる〝目〟が必要になりませんか。

尾縣 今までの普及委員会を指導者養成委員会と名称を変えたのが、まさにその考えからです。今までの普及活動はやりつつ、指導者養成の分野を広げようということですね。サッカーや野球と比べたら、陸上の指導者の数は少ないです。まずはきっちりと教育を受けた指導者が各地にいることが大切で、その人たちがいい指導をすれば、中学から高校、高校から大学と陸上を続けてくれるんです。その部分が陸上は弱いのかなと思っています。求められる指導者像は、確実に変わっています。それに応じた取り組みを、陸連もしていかないといけません。たぶん指導者を養成することが優勝順位としては1番、2番の課題ではないでしょうか。

麻場 専務理事も私も日本体育協会(現・日本スポーツ協会)が公認コーチ制度を導入した時の一期生ですが、その時に思ったのがサッカー、テニス、水泳はあの資格制度がそのまま職につながった。一方、陸上は別に資格がなくても誰でも指導者になれたのです。とはいえ、日本のコーチングはすごいと思いますよ。特に、ジュニア指導者のレベルは高いです。問題なのは選手がプロ的な考えになってきているのに、指導者がアマチュアの考えのままということです。先生と生徒・学生の関係ですね。選手は日々成長していきますから、いつの間にか指導者を追い越していく。そのあたりのところがわかってくるといいと思いますね。

尾縣 ヨーロッパのサッカーのコーチが言った言葉に「学ぶことをやめたら教えることをやめないといけない」というものがありました。それを聞いてドキッとしましたね。コーチはずっと学ばないと、いつか選手以下になってしまいます。そうなってはダメですね。

澤野 今の話を聞いて、「もっともっと勉強しないといけないな」という思いにさせられました。選手に「背中を見ろよ」だけじゃなくて、ポイントごとに気の利いたひと言が言えるようになりたいなと思います。

麻場 東京五輪を機に、さらに新しい陸上界が創造されていくと良いと思いますので、今後ともよろしくお願いします。

──楽しみにしています。


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