12月21日、2020年東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場として11月に完成したばかりの国立競技場(東京都新宿区霞ヶ丘町)を一般に向けて初めて公開する「国立競技場オープニングイベント~HELLO, OUR STADIUM~」が行われました。
イベントは、「スポーツ」「音楽」「文化」の3つのパートからなる各コンテンツにより構成されるプログラム。陸上界からは、男子100m・200m世界記録保持者のウサイン・ボルトさんが来日したほか、男子100mで日本人初の9秒台スプリンターとなった桐生祥秀選手(日本生命)をはじめとする日本人スプリンター8名が、メインイベントとして行われたエキシビションレース「ONE RACE」に出場。来年の東京オリンピックで熱戦の舞台となる新しい「コクリツ」のスタンドを埋めた5万9500人(主催者発表)の観客を魅了しました。
オープニングは「鼓童」と「東北絆まつり」
今回のイベントのコンセプトは、「OUR STADIUM その場所で、人類はひとつになる」というもの。そこには、この国立競技場が“地域や国という垣根を越え、全ての人類がひとつになり、新時代の文化とスポーツの力を発信していけるような拠点になってほしい”という強い願いが込められています。
18時30分に開演となったイベントは、まず「文化」パートとして、和太鼓を中心とした日本の伝統的な音楽芸能を世界各地で公演している太鼓芸能集団「鼓童」のパフォーマンスからスタート。続いて、東日本大震災からの復興を願って、毎年、東北で6つの祭りが集って開催される「東北絆まつり」から約460名が参加しての特別演舞が披露されました。この演舞では、「青森ねぶた祭」「盛岡さんさ踊り」「仙台七夕まつり・すずめ踊り」「秋田竿燈まつり」「山形花笠まつり」「福島わらじまつり」の6つの祭りが400mトラック上で再現、場内は一気に華やいだムードに包まれました。
「キング・カズ」「ラグビー日本代表」が登場!
イベントを主催する独立行政法人日本スポーツ振興センターの大東和美理事長による開会宣言のあと、真っ暗にライトが落とされた場内に姿を見せたのは、サッカーJリーグ・横浜FCの三浦知良選手。三浦選手は、旧国立競技場において最多ゴール記録を残しており、52歳となる今も現役選手として競技を続けています。“初めてピッチ(フィールド)に足を踏み入れたアスリート”となった三浦選手は、スポットライトのなか「自分にとってもこの場所は、思い出深いとても大切な場所。新しくなった国立競技場のピッチに、今立っていることを誇りに思う」と挨拶。美しく整備された芝生の上で鮮やかなドリブルやリフティングを披露したのちに、スタンドに向かってサイン入りサッカーボールを蹴り入れ、会場を沸かせました。
次に登場したのは、この秋、日本で開催されたラグビーワールドカップでベスト8入りを果たした日本代表のリーチ・マイケル(東芝)、中村亮土(サントリー)、田中史朗(キヤノン)の3選手。代表して主将を務めたリーチ・マイケル選手が挨拶したあとには、司会を務めた平井理央アナウンサー、スペシャルサポーターとして場内を盛り上げた松岡修三さん、さらには三浦知良選手も加わってのトークが行われました。
豪華スペシャルライブは「ドリカム」と「嵐」
ここからプログラムは、「音楽」パートへ。旧国立競技場に馴染みの深いアーティスト2組が出演し、スペシャルライブとトークを展開しました。
先陣を切ったのは今年デビュー30周年を迎えた人気ユニット「DREAMS COME TRUE」。旧国立競技場では2007年に単独公演を行っています。2人はバックストレート中央に設けられたステージで、「決戦は金曜日」「OLA! VITORIA!」「何度でも」の3曲を披露しました。
続いて登場したのは、国民的アイドルグループとして絶大な人気を誇る「嵐」。今年の11月にデビュー21周目に突入した嵐は、旧国立競技場では2008年から2013年まで6年連続で単独公演を実施しており、来年の5月15~16日には新しくなった国立競技場において単独アーティスト初のライブを開催することも決まっています。5人は、人気の「Love so sweet」「Happiness」「A・RA・SHI」「BRAVE」の4曲をメドレー。場内のボルテージを一段と引き上げました。
「ONE RACE」
今までの常識を越えるエキシビションレース
このオープニングイベントのコンセプトである「OUR STADIUM その場所で、人類はひとつになる」を体現させる重要なコンテンツとして企画されたのが、「ONE RACE」と名付けられた、これまでにない新しい形のレースです。「速く走る」という共通の目的に向かってそれぞれに自身の限界に挑戦し続けてきたアスリートたちが、国や年齢、性別や障害の有無の垣根を越えて混合チームを結成。いわば今まで存在してきた常識の枠を超えて、ともにリレーを走るエキシビションレースが行われました。レースは、簡単にいえば「6×200mリレー」。ただし、障害の有無、男女を問わずに6選手で1つのチームをつくるという従来にないメンバー構成で、1人が200mを走り、リングの形状をしたバトンをリレー形式でつなぎ、フィニッシュを目指すというものです。競い合うのは日本選抜2チーム(レッド、グリーン)、世界選抜2チーム(オレンジ、ブルー)の全4チームですが、誰がどこを走るかもチームごとに異なるため、レース中は男子・女子、そしてオリンピック選手・パラリンピック選手が混在した状態で展開される形となります。
さらに、世界選抜の第1~4走者までは、オレンジが2028年オリンピック開催地のロサンゼルスにおいて、ブルーは2024年オリンピック開催地のパリにおいて、それぞれ同時刻にスタート。国立競技場にいる第5走者へのバトンパスを“空間”を超越する形(会場内に設置されたLEDの点灯を合図に走り出す)で行い、アンカーが国立競技場でフィニッシュするという、まさに前代未聞のレースとなりました。
日本選抜は、チームレッドが第1走者から、ケンブリッジ飛鳥選手(ナイキ)、髙桑早生選手(NTT東日本、パラ陸上)、飯塚翔太選手(ミズノ)、市川華菜選手(ミズノ)、鈴木朋樹選手(トヨタ自動車、パラ陸上)というオーダーで、チームグリーンは、村岡桃佳選手(トヨタ自動車、パラ陸上)、多田修平選手(住友電工)、井谷俊介選手(SMBC日興証券、パラ陸上)、土井杏南選手(JAL)、福島千里選手(セイコー)とつないで、アンカーを桐生祥秀選手(日本生命)が務める走順です。
対する世界選抜2チームは、ともにオリンピック・パラリンピックのメダル獲得者や世界記録樹立者がずらりと並ぶ豪華な布陣が実現しました。第4走者まではロサンゼルスで走る世界選抜オレンジは、ハンター・ウッドホール選手(アメリカ、パラ陸上)、ジェンナ・プランディーニ選手(アメリカ)、ライ・ベンジャミン選手(アメリカ)、レイモンド・マーティン選手(アメリカ、パラ陸上)、 ヨハネス・フロアーズ選手(ドイツ、パラ陸上)、マールー・ファン・ライン選手(オランダ、パラ陸上)というオーダー。同じく第4走者まではパリで走る世界選抜ブルーは、ムジンガ・カンブンジ選手(スイス)、リチャード・ホワイトヘッド選手(イギリス、パラ陸上)、キャロル・ザヒ選手(フランス)、ソフィー・カムリッシュ選手(イギリス、パラ陸上)、ハンナ・コックロフト選手(イギリス、パラ陸上)と続き、アンカーを、2017年に引退するまで「人類史上最速のスプリンター」として名を馳せたウサイン・ボルトさん(ジャマイカ)が務めることとなりました。
トップでフィニッシュしたのは日本選抜レッド
ボルトさんの走る姿に、スタンドからどよめきも
国立競技場では、第1走者を務める日本選抜レッドのケンブリッジ選手と日本選抜グリーンの村岡選手が位置につき、ロサンゼルスでは世界選抜オレンジのウッドホール選手が、パリでは世界選抜ブルーのカンブンジ選手がそれぞれの位置について、レースはスタート。全チームが同じ会場を走っていないこと、また、世界リレー男女4×200mリレーをご覧になった方ならわかるように、レーンを途中からオープンにすることなくセパレートのままで実施する場合、序盤は各チームの位置が大きく離れた状態となることから、競技場内では電光掲示板に3カ所の映像を組み合わせて映したり、モニターにそれぞれの位置関係がわかるようアイコンに置き換えて順位を示したりする工夫もなされるなか、レースは進んでいきました。
前半は、世界選抜ブルー、あるいはオレンジがリードを奪っていましたが、第4走者にバトンがつながった辺りから4チームはほぼ並ぶような展開に。第5走者に入ると、リードを奪った日本選抜レッドの市川選手と日本選抜グリーンの福島選手が、ともに世界選抜との差を広げ、ほとんど同じタイミングでバトンをそれぞれアンカーへとつなぎました。日本選抜グリーンの最終走者は桐生選手、一方、レッドの最終走者は車いすマラソンで東京パラリンピックの陸上競技日本代表選手内定第1号となった鈴木選手です。スタート直後は桐生選手がスムーズに加速しましたが、車いすが加速に乗ってから大きくスピードを上げた鈴木選手が、ホームストレートに出る前にトップに立つと、その差を広げて先着。日本選抜レッドが勝利し、日本選抜グリーンが2位で続きました。
世界選抜の2チームは、アンカーにバトンが渡るまでの段階で大きく後れる状況となっていたため、残念ながらブルーの最終走者を務めたボルトさんが桐生選手と並走するシーンを見ることは叶いませんでした。しかし、ボルトさんが走り始めるとスタンドからは「おお」という感動のどよめきが。ボルトさんは、気温8℃という寒さもあって、テンポ走のようなスピード感での走りとなりましたが、T43クラスで女子100m・200m・400mの3種目で世界記録を持ち、2016年パラリンピックで100m(2連覇)・200mで2冠を達成しているファン・ライン選手をかわして3着でフィニッシュ。世界選抜ブルーが3位、世界選抜オレンジが4位という結果になりました。
レース直後には表彰式が行われ、優勝した日本選抜レッドチームの6選手に、6つを組み合わせると1つのリングとなる形状の“メダル”が授与。ホームストレートの中央に設置された壇に、日本で走った16選手全員が上がって、笑顔で互いの健闘を称え合うとともに、観客からの声に応じていました。
イベント終了後に行われた記者会見には、出場した全16選手が出席して、それぞれがオリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなるこの会場で行われた史上初のスペシャルレースを振り返りました(日本選手のコメントは、別記ご参照ください)。ボルト選手は、「素晴しい体験をさせてもらった。大変嬉しい出来事だったし、自分自身にとっては、来年(の東京オリンピックでは)ここで走ることはないので、非常に貴重な、特別な経験となった」とコメント。また、世界選抜オレンジのアンカーを務めたファン・ライン選手は、「残念ながら負けてしまったけれど、とても楽しむことができた。来年(の東京パラリンピックで)は負けるつもりはない。またここに帰ってきて、また満杯の観客のなかで楽しんで走りたい」と、東京パラリンピックに向けて頼もしい言葉を聞かせてくれました。
フィナーレには「ゆず」がサプライズ登場
観客とともに「栄光の架け橋」を大合唱
「ONE RACE」を終えて、イベントはいよいよフィナーレへ。サプライズゲストとして人気デュオ「ゆず」が登場が告げられると、会場は喜びの声と歓迎の拍手に包まれました。北川悠仁さんが「完成を祝って、そして2020年東京オリンピックの大成功を祈って、この曲を6万人の皆さんと歌えたら嬉しいと思っています。それでは一緒に歌いましょう」と紹介したのは、彼らの代表曲であり、応援ソングの定番として長年高い人気を誇る「栄光の架橋」。観客それぞれがペンライト代わりに点灯したスマートフォンの白いライトが揺れるなか2人は情感たっぷりに熱唱。最後は、6万人が大合唱する一体感と温かなムードで会場を満たし、イベントのエンディングを締めくくりました。
【ONE RACE日本選抜出場選手コメント(発言順)】
◎小池祐貴(住友電工)
スパイクを履いて、観客がたくさんいるなかで、競走ではなくて純粋に楽しんで走るというのは初めての経験。走っている最中も、準備の段階も、終わってからも、自然に笑顔になれて(時間を)過ごすことができた。すごく楽しくて、いい経験になった。
◎桐生祥秀(日本生命)
今回、6万人のなかで走らせてもらって、来年…2020年のオリンピックのチケットも、陸上は全部売り切れと聞いているので、またここに戻ってきて、6万人の前で走りたいなと思った。
◎多田修平(住友電工)
試合と違う雰囲気だったので、すごく楽しかった。僕は、200mが専門ではないので、(200mを走ることは)すごくきつかったのだが、来年に向けて、いい走りの想定ができた。来年、しっかりオリンピックに向けて頑張っていけたらいいなと思っている。
◎ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)
日本で、6万人の前で走るというのは初めてのことだったので、すごく楽しかったし、いつもと違ったリレーができて本当にいい経験ができたと思う。来年(の東京オリンピックで)、また、ここに戻ってこられるように頑張りたい。
◎福島千里(セイコー)
今回、このような素晴しい選手の皆さまと一緒に新しい国立競技場で走ることができ、また、(この国立競技場は)来年、オリンピックが開催される場所なので、楽しかったと思うと同時に、とても身が引き締まる思いになった。また明日から気を引き締めて頑張りたい。
◎市川華菜(ミズノ)
今回、6万人の観客のなかで走らせていただけたことは、すごく貴重な体験だった。また、この体験を(大切にして)来年に向けて、しっかり頑張っていきたいと思う。
◎飯塚翔太(ミズノ)
今日は、オリ・パラ選手が一緒に走ることができ、しかも、試合以外の機会で6万人もの観客のなか走ることができて本当に楽しかった。今日来場した6万人のなかには「嵐」を見たいと思って来た人がまあまあいると考えていて、“陸上を見たのはこれが1回目”という人もけっこういるのではないかと思う。なので、「2回目、3回目…というふうに、“もう1回陸上を見たいな”と、(来てくれた人に)思ってもらえたらいいな」という気持ちで走らせてもらった。今後、陸上を求めてくれる人、新規で見てくれる人が増えてきたらいいなと思っている。
◎土井杏南(JAL)
今回、6万人の観客の皆さまの前で走ることができて、とても楽しかったし、それと同時に、来年(の東京オリンピック)に向けて、しっかりと、この国立(競技場で)走れるように頑張っていきたいと思った。
文・写真:児玉育美(日本陸連メディアチーム)
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