2019.12.20(金)選手

【ダイヤモンドアスリート】第6期(2019-2020)第1回リーダーシッププログラム vol.3



【ダイヤモンドアスリート】第6期(2019-2020)第1回リーダーシッププログラム vol.2』から

<質問タイム>


Q1:小林歩未(筑波大学)
キャプテンになったときに「自分らしく」ということを考えたということでしたが、自分らしさを持ちながらチームを引っ張るにあたって、特に重要視していたことはありますか?

廣瀬:「自分がどんな人間になりたいか」とか、「どんなチームになりたいか」とかいうところをよく考えることがとても大事だと思っていて、それはいつも同じコミュニティにいたのでは、わからならいことがあるので、違う世界の人と会うようにしていました。例えば、今日みたいに為末さんとお会いすることが新しいきっかけになるように、音楽業界の人やビジネスをやっている人など、いろいろな世界の人に会うと、「この人は、こんなことを大事にしているな」とか、「じゃ、私はどうなんだろう」と振り返るきっかけになります。そこで自分をやりたいことを話して、相手の意見を聞いてみることによって、だんだん自分の考えが研ぎ澄まされていくと思うので、そういう機会がたくさんあればいいと思いますね。

為末:「自分らしくチームを引っ張る」というと、ともすると「俺の言う通りにやれ」みたいになりがちですが、その加減というのはどんな感じなんですか?

廣瀬:もちろん1人ではできないので、周りの人に意見を聞きながらやっていきます。僕たちの場合、(チームに)31人いたら10人くらいのリーダーシップグループというのがあるんですね。そのなかで「こんなチームをつくりたい」みたいなものをつくっていき、それで最後には(みんなの意見の)折り合いをつけます。キャプテンは、最終的にまとめることはできるけれど、自分の意見だけでは(視点が)限られているから、チームメイトも含めて周りのいろいろな人の意見を聞きながら、まず仮説みたいものをつくって、それでやってみて、うまくいかなかったら修正するというような感じでやっていました。みんながつくりたいと思う理想のチームの姿がばらばらだと、結局、別々のまま行ってしまいますが、そうやって1つの仮説を立てて、これというのを決めていくと、検証もしやすいのかなと思いますね。

為末:まずは「思いを伝える」ということですね。

 

 

Q2:藤原孝輝(洛南高校)
プレッシャーについてのお話がありましたが、実際にプレッシャーを感じたとき、どうやって、それを力に変える方向にもっていったのですか?

廣瀬:試合に出たら、僕は「こっちのもの」だと思っているんですよ。「こっちのもんやから、あとは知らんわ」みたいな感じで。自分は「選ばれた」わけで、「選ばれたのだから、一所懸命やるだけだな」というのが僕のスタンスです。うまくいかなかった場合は「選んだ人が悪いんや」くらいの開き直りをけっこう持っていました。

あと、もしプレッシャーを感じているなら、自分が何に対してプレッシャーを感じているのか、そこを知っておくといいと思います。お客さんに対してプレッシャーを感じているのか、自分のスキルなのか、相手に対してなのか、それをよく見てみる。プレッシャーって、けっこう(実体が)見えなくて、ぼんやりとしているものなんですよね。自分が感じているプレッシャーの「一番本質的なところは何か」がわかると、次の大会のときは、それに対する準備ができます。だから、「プレッシャーの本質は何かを探る」ことからやっていますね。「開き直り」と「細分化」です。

為末:よく分析してみようとことですね、ふわっと言葉になっていることを。

 

 

Q3:海鋒泰輝(日本大学)
自分は4年目と競技歴が短いことと、特に今シーズンは伸び悩んだこともあって、アスリートとして何が一番大切なのかを最近よく考えます。もし、アスリートとしてこれが一番重要という軸があるのなら教えてください。

廣瀬:経験がないほうが逆に強みだったりもするんですよ。経験があれば失敗が怖くなったりするので、必ずしも経験があることがいいとは思っていないです。例えば、4年目であっても、10年やっている人と比べて「6年間違うことが経験できている強み」というのが僕はあると思うので、それを考えながらやっていくことが、いいポイントかなという気がしますね。

(ラグビー選手の例では)五郎丸歩選手も、田村優選手もサッカーをやってきて、そこからラグビーをやったことでキックがすごくよくて活躍できている。ラグビーだから可能だったことなのかもしれませんが、このように、今まで育ってきたバックボーンをうまく使うのは、いいポイントかなと思います。

あと、「アスリートとして大事なこと」ということについては、まず、「アスリートとして」というよりは、その前にみんな「人」だと思うので、「人として」どんな人間になりたいかですね。また、今、当たり前のようにいろいろなものを用意していただいていることに対して…まあ若いうちはあんまり感謝しなくていいかもしれないけれど…それをつくってくれたいろいろな人がいるわけで、それを次の世代につなげていくことがとても大事だと、一人の人間としては思います。

アスリートとして何が大事かというと、僕としては、スポーツがもっと広がるような、そういう視点を持つことだと個人的には思っています。皆さんの場合は個人競技なので必ずしも当てはまらないかもしれないけれど、「自分だけ良ければいい」という視点よりも、もっと陸上全体が盛り上がるとか、スポーツ全体が盛り上がるとか、社会から認知されるとか、もっと必要とされるためにはどうしたらいいかとかいうようなポイントが、僕は大事かなと思います。そういう視点が持てると、陸上をやっているとき以外の(いろいろな物事への)接し方、関わり方が変わってきます。例えば、陸上をやっている時間が1日5時間だとしたら、あとの19時間をどう過ごすか、それが実はすごく大事。そこで頑張っている人は、それがまた陸上に還元されて、パフォーマンスにつながっていくから、そのあたりを大事に考えられるといいなと思いますね。

為末:競技経験のある人からのアドバイスって、「こういうのがきれいな形だ」という前提から入るクセがありがちで、それは僕でも、たぶんハードルを教えるとそうなっちゃう。でも、「君は、“ここさえ”直せば速くなるのに」といわれる「ここ」が、実はその人の強みを支えていたりするんです。だから「俺は陸上をよく知っているんだ」という人の話が耳に入ってきたら、2割くらいを残して8割をこっち(反対側の耳)から出すくらいの意識で聞くのがちょうどいいかなという気がします。実際に、正しいことをやっているから、ここ(のレベル)までこられてるわけですから。

 

 

Q4:出口晴翔(東福岡高校)
自分の所属する東福岡高校はラグビーがけっこう強く、クラスにもラグビー部の子がたくさんいるのですが、ラクビーは、陸上に比べて治るまでに時間のかかる大きなケガをすることが多い印象があります。しかし、実際に友達がそうなのですが、大きなケガをしても「全国優勝が目標」という気持ちを保って、それに向かって頑張ることができています。ケガしたときに、どうやったらその長い期間、気持ちを落とさずに保つことができるのでしょうか。

廣瀬:1つは「何かを失っているときは、何かを得るチャンス」という発想ですね。例えば、上半身をケガしたら下半身を鍛えるチャンスだし、また、ずっと試合に出ていた選手がケガをして試合に出られなくなると、裏方で頑張っている人の絵が見えるので、「あ、こういう人がいつも自分を支えてくれていたんだ」ということを知るなど、今までにない視点が持つことができます。なので、いわゆるフィジカル的に強化できる部分と、今までにない視点が持てるという部分があることが、ケガしたときの面白いところだと思います。僕はケガにもマイナスとプラスがあると思っていて、ケガのプラスの面を考えることが大事ですね。

あとは、ラグビーはチーム競技なので人間関係がすごく大切。だから自分の状況を申し訳ないとか迷惑かけたくないとか思うようになったら、ケガしている自分でもやれることをやろうというマインドになりやすい。すごくいいチームができているから、そこで「チームのために頑張ろう」というマインドになるんだと思います。

 

 

Q5:クレイアーロン竜波(相洋高校)
自分は陸上をやるうえで、自分のやっている競技を楽しむことが一番伸びる要素だと思っているのですが、それでも、これまでに何回か練習ではきつすぎて、また大会では出すぎて走りたくないと思ってしまうことがありました。そういう気持ちになることはラグビーでもあるのですか?

為末:バーンアウトとか、そういうところですね。

廣瀬:もちろん人間なので、しんどいし、いやだなと思うときは多少、練習でもたまにはありますが、陸上の場合はどうなのでしょうか? 本当に(試合に)出すぎたということを思うのなら、休んでもいいのかなという思いが個人的にはありますね。(陸上競技は)本当にセンシティブな競技。自分のマインドをしっかり持って戦えるというところがとても大事なのかなと思うので。

ラクビーでも今、年間の試合数というのはある程度、限られているんです。ケガのリスクもあるし、あとは疲労していっちゃうので。そういう観点は必要だと思うので、ある程度コントロールして、今回出すぎたと思ったのだったら、次はもう少し減らしていくみたいなマネジメントは必要かなと思います。

ただ、それは年齢を経るごとに変わっていくことなので、必ずしも「毎回何試合が正しい」ということではなく、自分のコンディション次第。そのためにもまずは自分を知らなければなりません。そのうえで、「こういうときはどんどん出ていくが、こういうときは出ないほうがいいな」といったことが経験値として深まっていくとすごくいいと思います。

今、そういうポイントを、その年齢で持っているのは素晴らしいことだと思うので、コーチにそれを正直に相談してみてもいいかもしれないですね。そのなかでベストパフォーマンスを出すためには、どうしたらいいかということを議論していくと、そのうちに自分で判断できるようになります。ずっと誰かに依存していたらしんどくなってしまうので、そういう意味でも、自立というのはいいポイントかなと個人的には思います。

為末:「心にも体力がある」ということですね。だんだんとこれから学んでいって、その加減を自分でコントロールするということが、これから出てくると思います。

 

 

Q6:塚本ジャスティン惇平(東洋大学)
お話のなかで、社会人になったとき、最初は4年くらいで辞めるつもりだったということでしたが、結局、10年以上続けることができた要因は何だったのですか?

廣瀬:1つは4年やったときにキャプテンだったということです。選手としてやっていて、その次にキャプテンに選んでいただいたので、チームをどうつくっていくかみたいなところにチャレンジできるということにすごくワクワクしていました。で、キャプテンを4年間やって、で、もうそろそろ(引退)かなと思っていたら今度は日本代表のキャプテンに呼んでもらった。そういう感じでステージがどんどん上がっていったので、もっとやりたい(気持ちになった)という部分がすごくありましたね。もし、そうでなかったら辞めていたかもしれません。そういう意味でも、次なるステージにチャレンジする機会をいただいたことがよかったかのだと思います。

 

 

◎最後に:リーダーシップとは?


為末:最後に、みんなへのエールをお願いしたいのと、もう1つだけ僕から質問を。リーダーシップってなんだと思いますか? いわゆるチーム競技のリーダーシップはわかりやすいけれど、もし、個人競技でもリーダーシップが大事であるとしたら、いったいリーダーシップとはどういうもので、どういうふうに意識したらいいと思いますか?

廣瀬:自分が「これをやりたいんだ」とやりだして、そこに誰かがついてきたら、それがリーダーシップかなと思っています。ただ、スタートするときに、「それが本当にやりたいかどうか」ということがとても大事なことになりますが。

個人競技であっても、これから皆さんは、なんらかのチームのなかでやっていくことになるはず。そのなかで「こんなチームをつくりたい」「陸上をこんなふうにやっていきたい」という思いが出てくると思うんですよね。また(取り組んでいく上で)1人だけでは面白くないじゃないですか。ライバルであるかもしれないけれど、同じチームのなかで切磋琢磨して強くなっていったほうがいい。

そういう意味で、おそらく皆さんは、所属するチームのなかでも一番速い(強い)人になり得る人たち。「自分だけ良よければいい」というのではなく、自分が引っ張りながら「一緒にやろうよ」みたいな感じでチームをつくっていけるようだといいなと思います。リーダーシップはそこに発生するわけで、それに対して「俺はこんなことを大事にしてやっていく」というような形でやっていけば、誰かをそれに巻き込むことができれば、それがもうリーダーシップなのかなと思います。

競技に関係なく、普段の生活においてもそう。あるいは、いつか社会人として、陸上を辞めたあとに「なんかやりたい」というものが発生してくるかもしれない。そういう「なんかやりたい」を自分が本当にやりたいのかどうかを確認して、実際にそれが走り出したときに誰からついてくれば、それがリーダーシップ。ついてきてくれる人たちを幸せに、大切にすることができたら、なおいいのかなと思います。

皆さんは、今はまだまだ若くて、すごく可能性を持っていますから、僕はいっぱい失敗してもいいんじゃないかと思っています。ラグビーをやっている人間としては、何もしないよりは、ちょっとチャレンジしてみて、そこから何を得るのかということが大事だと個人的に思います。やって失敗して、そこからノウハウを貯めながら最後は自分らしさというのを極めていくと、唯一のものになるのかな、と。コピーはないと思うんですよね、みんな身体も違うから、走り方も違う。自分の最適なものを探す旅というのが大事で、それこそが面白いのかなと思いますね。

あとは、日本の皆さんをスポーツでもっと幸せにするというのは、みんなにしかできないこと。日本代表として勝ったら、日本のみんな全員が喜んでくれるし、所属チームが勝ったら所属チームの周りの人が喜んでくれる。こんな幸せなことはないと思います。それは、(現役を退いた)僕にはもうできないこと。それが皆さんにはできるので、頑張っていっていただければ嬉しいです。

 

構成・文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト


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