2019.09.04(水)大会

~2019世界陸上ファイナルチャレンジ~【富士北麓ワールドトライアル】レポート&コメント



富士北麓ワールドトライアル2019が9月1日、山梨県富士吉田市の富士北麓公園陸上競技場において行われました。この大会は、ドーハ世界選手権参加標準記録(以下、標準記録)の有効期間が終了する9月6日を直前に控え、「2019世界陸上ファイナルチャレンジ」と銘打って設定されたもの。トラック10種目、フィールド7種目の計17種目が実施され、多くのトップアスリートが、世界選手権出場を期して、標準記録突破に挑みました。

 

◎12秒97! 女子100mHで寺田が日本新! 

ウォームアップレースと決勝の2本が組まれた女子100mHでは、1本目のウォームアップレースで大記録が誕生しました。8月17日に福井で13秒00の日本タイ記録をマークしていた寺田明日香選手(パソナグループ)が、日本人で初めて13秒を切る12秒97の日本新記録を樹立したのです。

4レーンに入った寺田選手は、ずっと課題に挙げていたスタートで、「今まで“よいしょ”と入っていたのを、思いきり出ることを意識した」ことによって第1ハードルをスムーズに越えると、その後は「勝手に脚が回っていくのを止めないように」というスピード感あふれるインターバルランニングを披露。最終ハードルを越えてからは、決死の表情でタイマーを見やりながらフィニッシュラインを駆け抜けていきました。

速報値として止まったタイマーは、ドーハ世界選手権参加標準記録と同じ12秒98。すぐに公認となる追い風1.2mであることが発表されると、寺田選手はもちろんのこと、会場内の全視線が、いったん消えたのちに正式記録が表示されるフィニッシュタイマーへと注がれることになりました。少し経って表示された数字は「12.97」。寺田選手は、これを見たとたん、両手を突き上げて空を仰ぎ、歓喜の叫びを上げたのちに、地面にひれ伏すかのようにトラックにうずくまりました。女子100mHにおいて、公認記録では日本人初となる12秒台。新たな歴史の扉が開かれた瞬間でした。

2000年に金沢イボンヌ選手が樹立してから19年間更新されることがなかった13秒00の日本記録に並んだアスリートナイトゲームズイン福井のレポート( https://www.jaaf.or.jp/news/article/13092/ )でもご紹介した通り、寺田選手は2008~2010年の日本選手権で3連覇、2009年ベルリン世界選手権出場を果たすなど、トップハードラーとして活躍しながら、重なるケガなどの影響で、2013年にいったん競技から引退した経歴を持っています。その後の6年間は結婚や出産、他競技への挑戦など、陸上競技とは距離を置いた生活を送っていましたが、昨年の冬に復帰を決意。この春から競技会に出場してきました。100mHの復帰第1戦となったのは、4月13日の山梨県記録会(小瀬)。寺田選手が言うところの「1回目の現役生活」最後となった2013年日本選手権(予選6着、13秒85、+0.3)以来となったこのレースで、13秒43(+0.9)をマークすると、東日本実業団(2位、13秒19)、日本選手権(3位、13秒16)、実業団学生対抗(優勝、13秒07)、トワイライトゲームズ(優勝、13秒49)、アスリートナイトゲームズイン福井(優勝、13秒00)と着実に推移。日本タイ記録をマークしながらも目標達成をわずかに逃したアスリートナイトゲームズイン福井では「まだまだ詰めが甘いなあ」と苦笑いする姿も見せましたが、そこで明確になったレース序盤の課題を3週間できっちり修正し、世界選手権参加標準記録突破に向けてラストチャンスとなったこの復帰7戦目で見事にクリア。5大会ぶりとなる出場の可能性を、自身の力で限りなく引き寄せ、第2次代表発表の日を待つばかりとなりました。

とはいえ、そのスタートも、「私のなかではよかったけれど、すごくよかったというわけではなく、外から見ると“まあまあいい”くらいの感じ」と、まだまだ自身が理想とするイメージとは隔たりがある様子。「これからどれだけ勝負していけるかが鍵。来年の東京オリンピックに向けて、どんどん進化していければと思う」と、視線はさらに高いところに向けられています(寺田選手の日本新記録樹立コメントは、別記をご参照ください)。

なお、寺田選手が欠場して行われた決勝(+0.5)では、予選で13秒16のセカンドベストをマークしていた福部真子選手(日本建設工業)が13秒13の自己新記録で優勝を果たしました。昨年、13秒31の自己記録をマーク。社会人2年目の今年は、13秒14(-0.4)で制した東日本実業団を含めて13秒1台で4回走る安定感を見せており、秋シーズンでのさらなる記録更新も期待できそうです。このほか13秒21で2位となった鈴木美帆選手(長谷川体育施設)も自己ベスト。法政大4年の昨年までのパーソナルベストは13秒49でしたが、今季4回目の自己記録更新を果たしています。

 

 

◎ウォルシュが日本歴代6位の45秒21! 男子400m代表に内定

男子400mでは、ウォルシュ・ジュリアン選手(富士通)が日本歴代6位となる45秒21をマークして、ドーハ世界選手権標準記録の45秒30をクリア。ウォルシュ選手は日本選手権を制しているため、第2次代表発表を待つことなく、この大会で世界選手権代表に内定しました。日本選手権以降では、8月18日に5m71をクリアした男子棒高跳の江島雅紀選手(日本大)に続く内定者の誕生です。

実は、ウォルシュ選手は、標準記録突破を目指して、8月25日にマドリード国際(スペイン)に出場。2016年にマークしている45秒35の自己タイ記録でフィニッシュしたものの、標準記録突破にはわずか0.05秒届かずに終わるという悔しい思いをしたばかりでした。日本には8月27日に帰国。期間が短かったこともあり「帰ってきてすぐに試合というのがスケジュール的にハードかなと思っていた」と不安もあるなかでの好記録に、「1位は確実と思ったが、タイムは見てびっくりした。ベストが出て率直に嬉しい」と声を弾ませました。

マドリード国際のレース後は、「標準記録突破まで0.05秒だったので、さすがに悔しかった」というウォルシュ選手。しかし、一方で「試合の直後は自分ではフルに(力を)出したかなと思っていたが、あとで動画を確認したら完璧なレースではなかった」ことに気づき、このレースに向けては「その課題を修正すれば行けるんじゃないかなと思ったので、プレッシャーはなかった」と言います。課題として浮かび上がってきたのは「200~300(m)のところでどれだけ力を使わずに走れるか」というところ。「250mからの切り替えを大事にして、走りをピッチ寄りにしたらけっこう楽に行けた。それが(タイムが出た)要因だったと思う」と自身の走りを分析しました。

東洋大2年時にマークして以来、3年ぶりとなる自己新記録ですが、「ベストは嬉しいが、出すなら44秒台を出したかった」と満足はしていない様子。「そこは世界陸上で出そうと思う。できるだけ強い選手についてって、44秒台に入って、日本新記録を出したい。練習でも調子がよかったので、出るときは出るのかなと思っている」と力強い言葉を聞かせてくれました。

 

 

◎男子200mは、飯塚が20秒29で制す

初の標準記録突破者が誕生した400mとは逆に、内定済みのサニブラウン・アブデル・ハキーム選手(フロリダ大)を含めて6選手が突破を果たしている男子200m。9月7日以降に発表されることになっている第2次日本代表の選考基準では、ワールドランキングの順位が最優先となりますが、残り2枠のうちの1つは、サニブラウン選手より上位にいる小池祐貴選手(住友電工)が手にすることはほぼ確実と見込まれるなか、この富士北麓ワールドトライアルでは、8月17日のアスリートナイトゲームズイン福井で参加標準記録突破を果たした白石黄良々(セレスポ)、飯塚翔太(ミズノ)、山下潤(筑波大、ダイヤモンドアスリート修了生)の3選手が再び激突。「最後の1席」を巡る戦いを繰り広げました。

2組タイムレースで行われ、3選手ともに2組目に入ってスタートが切られた決勝は、序盤から上位争いを展開して、終盤で抜け出した飯塚選手が、向かい風0.1mのなか今季自己最高となる20秒29で優勝。福井を20秒27で制していた白石選手が20秒47で2位、3位には山下選手が20秒52で続きました。この結果を踏まえて、有効期間が終了する9月6日時点でのワールドランキング最上位者が、200mの代表に名を連ねることとなります。

日本選手権の100mでサニブラウン選手、桐生祥秀選手(日本生命)、小池選手に続いて4位に食い込む健闘を見せたものの、肉離れのため得意の200mを棄権するアクシデントに見舞われていた飯塚選手は、急ピッチでの回復を余儀なくされるなか、ベテランならではの調整力で、“ここ一番”となる勝負を制する形となりました。勝利とともに狙っていた東京オリンピック参加標準記録(20秒24)には届きませんでしたが、状態は確実に上り調子に転じていると明るい表情を見せました。ドーハ世界選手権に向けては、「個人(種目出場)のほうは厳しいかもしれないし、リレーも正直どうなるかわからない。でも、いつでも行ける準備はしているので、なんとか貢献できたらなと思う」というスタンス。リレー種目のみの選出となった場合は、全日本実業団に出場してからドーハに入る可能性も示唆しました。

一方、福井を20秒27の好記録で優勝している白石選手は、「自分の走りができずに終わってしまった」と悔しさを顕わにしていました。また、大会前の時点で、3選手のうち最もワールドランキング上位に位置していた山下選手は、「世界選手権に出るために、やれるだけのことはやったかなと思う」と言いつつも、この大会に向けては調子が上がりきらなかった様子。結果の如何を問わず、9月12日から開幕する日本インカレに出場し、ドーハ世界選手権を迎える予定です。

 

 

◎110mH代表の高山は好調を堅持、十種競技代表の右代は2種目に出場

この大会には、第1次選考発表で、代表に内定している選手も出場しています。男子110mHの代表で、ここまで4大会連続で日本記録をマークしている高山峻野選手(ゼンリン)は、今回は2組タイムレースで行った男子100mのウォームアップレースを走ったのちに、男子110mH決勝に出場する“変則”エントリー。タイムレース1組目に出場した100mでは、運悪く2.0mという向かい風となったにもかかわらず10秒44をマークして2017年に記録した10秒46の自己記録を更新するとともに、デーデー・ブルーノ選手(東海大)や宮本大輔選手(東洋大、ダイヤモンドアスリート)らを抑えて1着でフィニッシュする好走を見せると、1時間55分のインターバルで臨んだ110mHでは、自身2度目の13秒2台となる13秒29(+1.4)をマーク。13秒36で続いた2位の陳奎儒選手(チャイニーズタイペイ)以下を寄せつけることなく優勝を果たしました。

強い向かい風のなか自己新をマークした100mについて、「自己ベストは嬉しいが、もともと僕は向かい風のほうが得意なので、あんなタイムが出たのだと思う」と振り返った高山選手。その100mの感触がよかったことで110mHもタイムは出るのではないかという期待を抱いてレースに臨んでいたそうですが、それが勇み足になった側面もあったようで、「走りのほうはよかったが、ハードルと噛み合っていなくて3台目までぶつけてしまい、バランスを崩してしまった」点を反省していました。とはいえ、福井で樹立した13秒25に続く好記録に、「自分でも理解が追いつかない状況。思っている以上の結果が出ている」と言いつつも、「パワーとスピードが向上して、走りが安定したのが大きい」と手応えもつかめている様子。世界選手権に向けては「調子が上向きなので、これを落とさないように維持したい」と話していました。

男子十種競技で代表に内定している右代啓祐選手(国士舘クラブ)は、8月中旬から鹿児島県で強化合宿に取り組み、まだその疲労が残るなかでの大会出場となりました。山梨男子100mのウォームアップレースと男子走幅跳にエントリーし、100mは11秒47(-1.8)、走幅跳は6m99(+0.5)をマーク。まだ動きに今ひとつキレが見られない状況でしたが、トレーニングの経過は順調とのことで、本番に向けて、「これから仕上げていく」段階へと入っていきます。

 

 

◎女子4×400mRは今季日本最高をマークするも目標達成ならず

2020年東京オリンピック出場権獲得を最大目標として、今年の冬から特別プロジェクトが組まれ、強化が進めてきまた女子リレー。上位10チームに出場権が与えられる世界リレーでの出場権獲得はなりませんでしたが、この大会ではランキング上位16位入りを狙って女子4×400mRを実施。オーストラリアとの2チームで、“最後のチャレンジ”が行われました。

オーストラリアは、世界リレーでの出場権獲得は逃しているものの、すでに3分27秒43の持ち記録があることで出場はほぼ確実と見られているチームです。逆に、もうあとがない日本チームとしては、そんなオーストラリアの胸を借りて、8月11日にウクライナがマークして暫定15位にランクインした3分29秒33をターゲットとしつつ、各選手ともに2015年世界選手権で樹立された3分28秒91の日本記録更新を強く意識して、レースに臨んでいました。今回は、新たに今季日本リスト1位の53秒31(U18日本記録)をマークしている高校生の髙島咲季選手(相洋高)がナショナルチームに招集。髙島選手を1走に起用し、青山聖佳選手(大阪成蹊AC)・松本奈菜子(東邦銀行)・岩田優奈(中央大)の3選手が2~4走を務めるオーダーが組まれました。

レースは、1走の髙島選手が、オーストラリアとほぼイーブンでバトンをつなぐと、2走で青山選手が前に出てリードを奪う展開となりました。3走で、松本選手が、いったんはその差を広げる場面も見られましたが、ホームストレートでオーストラリアが逆転。アンカーの岩田選手は、オーストラリアにぴたりとついてレースを進め、ラストの直線で並びかけましたがオーストラリアが逃げ切って3分31秒62で先着。日本は、0.04秒差の3分31秒66でのフィニッシュとなりました。日本の3分31秒66は、世界リレーの予選でマークした3分31秒72を上回る今季日本最高で、日本歴代7位となる記録ですが、目標としていたタイムには届かず。この結果、ドーハ世界選手権出場の可能性は閉ざされる形となりました。

レース後、それぞれに力が及ばなかった悔しさを口にした選手たち。しかし、その一方で、「自分たちの志や目標、モチベーションが高まり、チーム力も上がっていき、本当に力がついたことを感じたり、自分自身の変化が出てきたりした」と振り返った松本選手の言葉に集約されるように、プロジェクトメンバーとして強化に取り組んだ日々は、各選手にとって何ものにも代えがたい貴重な経験となった様子がうかがえました。「今日のレースで、ひと区切りしてしまうところはあるが、東京オリンピックに向けては、またここから。現状を把握して、これからやるべきことを1人1人が理解して、個々の力をレベルアップしていきたい」(松本選手)と強い意欲を見せていました。

 

 

【新記録樹立者コメント】
寺田明日香(パソナグループ)
女子100mH ウォームアップレース1着 12秒97(+1.2) =日本新記録

この大会がラストチャンスだったし、(12秒98の標準記録を突破して)自力で世界陸上に行くというのが目標だったので、その記録を0.01(秒)でも超えることができて嬉しい。

(福井でマークした)13秒00のときもそうだったが、私の場合はスタートがずっと課題。今回は、スタートで思いきり出ることと、後半になると(インターバルが)詰まってくるので、(各ハードル前の)踏み切りをできるだけ早くすることをテーマに走った。スタートでポンと出ることができたし、中間もリラックスして、勝手に脚が回っていくのを止めないように走ることができた。

(12秒97と正式表示が出た)タイマーを見た瞬間は嬉しかったが、目指しているところはもっと先。まだ、「やっとスタートに立てた」「(世界で)戦えるところに少し足を踏み入れた」くらいのところなので、今日だけは喜んで、明日からはまた次に向けてやっていきたい。

これで世界陸上は代表に選んでいただけると思っているが、本番でもこのくらい(12秒97)のタイムで走らないと予選落ちしてしまう。速い人たちと走るなかでも心が負けないようにしたい。もっともっと攻めて、あわよくば東京オリンピック参加標準(記録)の12秒84で走りたい。

 

文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)

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