Athlete Night Games in FUKUI(アスリートナイトゲームズイン福井)が8月17日、福井市の福井運動公園陸上競技場において開催されました。
この大会は、福井陸上競技協会が、「欧米の陸上競技会のような、選手も観客も楽しめるナイター陸上」を目指して新設した競技会。運営資金調達の手段として日本の陸上競技会として初めてクラウドファンディングが利用され、その支援金を招待種目の上位競技者の報奨金(競技活動資金援助)とする仕組みを打ち出したほか、競技場内に観客席を設置する、MCを起用したり音楽をかけたりするなど、“フェス感覚で観戦できる”ことを目指した工夫がなされました。
入道雲が広げる夏らしい空模様となった当日は、昼間は35℃まで上がる厳しい暑さとなったものの、日没が近づくにつれて気温が下がり、“メインイベント”の招待種目が開始するころには、30℃を切る好コンディションに。7種目が実施された招待の部は、ホームストレートの追い風が絶好の状況へと落ち着いてきた夕刻から競技が開始され、わずか3時間半弱の間に、3つの日本新記録と1つの日本タイ記録が誕生しました。また、新たに5人の選手がドーハ世界選手権の参加標準記録を突破し、そのうちの2選手は東京オリンピックの参加標準記録も突破。観戦に訪れた約1万人のファンが、好記録ラッシュに酔いしれる一夜となりました。
◎男子走幅跳で27年ぶりに日本新! 橋岡8m32、城山8m40!
そのなかでも歴史的な試合となったのは、11名が出場して行われた男子走幅跳でした。まず、1回目の試技で、8m22(日本歴代2位)の自己記録を持ち、すでにこの種目でドーハ世界選手権の代表に決まっている橋岡優輝選手(日本大、ダイヤモンドアスリート修了生)が、8mを大きく超えるビッグジャンプを披露。「助走が詰まってしまい、記録が出た感じは全くなかった」と自身は8m10くらいの感触だったといいますが、掲示板に8m33の表示が出たことで、会場は再び大きなどよめきに包まれました。その後、記録は8m32に修正されたものの、追い風1.6mの公認記録。橋岡選手の師でもある森長正樹コーチが日大時代の1992年に樹立して以来、更新されることのなかった8m25の日本記録および学生記録が、27年ぶりに塗り替えられることとなりました。活況は続きます。橋岡選手の次にピットに立った津波響樹選手(東洋大)が、8m21(+2.0)をマーク。2017年にこの競技場で行われた日本インカレで跳んだ8m09の自己記録を更新して、日本歴代3位に浮上するとともに、ドーハ世界選手権参加標準記録(8m17)を突破したのです。津波選手は、2回目には、8m23(+0.6)へと記録を伸ばし、東京オリンピック参加標準記録(8m22)も突破も果たしました。
優勝争いはこの2人かとも思われていたなか、3回目の試技で、勝負はさらに大きくヒートアップします。1回目を7m84(+1.4)で滑り出し、2回目に7m95(+1.6)まで記録を伸ばしていた城山正太郎選手(ゼンリン)が、追い風1.5mに乗って、ダイナミックな跳躍を見せたのです。掲示板に表示された記録は今季世界最高に1cmと迫る8m40。2016年に出した自己記録8m01を、一気に39cmも更新して、ドーハ世界選手権、東京オリンピックの標準記録をクリア。アジアチャンピオンである橋岡選手を逆転し、日本記録保持者の称号を手に入れたのでした。
城山選手は、1995年3月生まれの24歳。北海道函館市の出身です。陸上競技は小学4年から始めましたが、走幅跳には函館大有斗高2年から取り組むようになりました。高校時代はインターハイ予選落ち、国体5位が最高成績でしたが、東海大に進学してから頭角を現し始めます。北海道キャンパスを拠点に、広川龍太郎コーチの指導のもとで力をつけ、大学2年時の2014年に世界ジュニア選手権(現U20世界選手権)で銅メダルを獲得したことで注目を集めるようになりました。大学4年時の2016年には、リオ五輪出場に向けてラストチャンスとなった南部記念で悪条件のなか当時の五輪標準記録(8m15)を上回る跳躍を見せたものの、わずかに踏み越しファウルに終わる悔しさも経験。これまでのパーソナルベストだった8m01は、その2週間後にマークした記録です。
社会人になってからは、自己記録の更新こそなかったものの、1年目の2017年にアジア選手権で銅メダルを獲得。2年目の昨シーズンはアジア大会代表(5位)に、今季も4月のアジア選手権(5位)の代表に選出されるなど、着実に足場を固めてきていました。今年の日本選手権は失敗(23位)に終わったものの、7月には遠征先のベルギーで、5.0mの追い風参考記録ながら8m32をマーク。そこで「踏み切り前の4歩を、腰を落とさずに高い位置で入り、腰のしっかり乗った踏み切りをする感覚」をつかめていたことが、今回のビッグジャンプにつながりました。
8m40は、オリンピックや世界選手権でのメダル獲得も夢ではない好記録ですが、城山選手自身は、「条件がよかったことを考えると、(実力は)8m20くらい」と至って冷静。「8m40を持っていることで気持ちに少し余裕ができる」としながらも、世界で戦っていく上での今後の課題として、「アベレージで8m20を跳べるようにすること」を掲げていました。
一方、「時間の問題」と言われ続けていた日本記録保持者のポジションをようやく手に入れたにもかかわらず、わずか40分で城山選手にその座を譲ることになってしまった橋岡選手は、喜びよりは悔しさのほうが大きかった様子。しかし、津波選手が3回目以降をパスし、城山選手も4回目以降の跳躍を見合わせたなか、6回の試技すべてに臨み、2回目以降も8m12(+0.2)、8m21(+1.7)、8m16(+1.3)、7m64(+1.6)、8m27(+2.1)と全6回中5回の試技で8m台をマーク。高い水準での抜群の安定感を披露するとともに、世界選手権に向けて順調に駒を進めている様子を印象づけました(城山選手、橋岡選手の日本記録樹立コメントは、別記をご参照ください)。
◎男子200mでは白石、飯塚、山下が世界選手権標準記録を突破
好記録ラッシュとなったこの日の試合のムードを決定づけたのは、招待種目最初のレースとなった男子200mといえるでしょう。追い風0.8mのなか、白石黄良々選手(セレスポ)が20秒27をマークして優勝。2位には飯塚翔太選手(ミズノ)が20秒39で続き、3位には山下潤選手(筑波大、ダイヤモンドアスリート修了生)が20秒40でフィニッシュ。上位3選手がドーハ世界選手権の参加標準記録(20秒40)を突破したのです。会場のテンションが一気に高まったこのレースのあと、すぐに男子走幅跳がスタート。ハイレベルなジャンプの応酬へとつながっていく流れとなりました。20秒27で200mを制した白石選手は、今季100mで著しい進境をみせ、男子4×100mRの日本代表チームにも加わった選手。100mで準決勝敗退を喫した日本選手権以降は、ターゲットを200mにシフトして、7月のヨーロッパ遠征でレース経験を積むとともに、「これまでやっていなかった」という200m特有の専門練習に取り組んできました。この成果が形となって、5月にマークした自己記録(20秒68)を大幅に更新。レース後は、「自分の走りに徹することができた」と充実感あふれる笑顔を見せていました。
2位は、春先の虫垂炎手術、日本選手権での故障など、今季は想定外のアクシデントが続いていた飯塚選手。200m予選で肉離れを起こして棄権した日本選手権からは1カ月半ということもあり、「目標にはしていたが、正直、標準(記録)まで行けるかはわからなかった」というなかで迎えたレースでしたが、無事に標準記録を突破し、個人種目出場の必須条件をクリアしました。スピード練習がまだ十分ではなく、「前半の加速のところが、自分の理想にはまだまだ(届いていない)」と振り返りましたが、「これからしっかりスピード練習を積んでいけば、もっと良くなる」と、好感触が得られた様子。「今は(個人種目出場の)スタートラインにぎりぎり経っているところ。(両リレーで代表候補に選出されているが)やっぱり個人で行かないと面白くないので、しっかり決めたい」と前を見据えました。
3位の山下選手は、昨年マークした自己記録を0秒06更新し、参加標準記録とぴったり同じ20秒40での突破となりました。100mでは8月3日の筑波大記録会で10秒28(+1.9)の自己新記録をマークしたばかり。好調を実感していたなかで迎えた試合でした。「世界選手権(追加代表の決定)に向けてはあと1回レースがある。もっと記録を更新して、200mの代表入りを狙いたい」。メンバー入りを狙う4×400mRとともに、個人種目での出場を目指しています。
◎女子100mHで寺田が日本タイ! 男子110mHでは高山が4レース連続の日本新!
男子走幅跳が終盤を迎えるころ、今度はトラック種目で“大きな打ち上げ花火”が2連発で上がりました。女子100mHで寺田明日香選手(パソナグループ)が、男子110mHでは高山峻野選手(ゼンリン)が、それぞれ日本記録をマークしたのです。寺田選手は、スタートこそやや出遅れたものの、5台目付近からぐんとリズムに乗ると、そのまま高いピッチでハードルを越えていきます。6台目でトップに立つと、その後、リードを広げてフィニッシュ。「13秒01」で止まったフィニッシュタイマーは、いったん表示が消えたあと、「13秒00」の正式記録が示されました。風は追い風1.4m。2000年に樹立された日本記録(金沢イボンヌ、佐田建設)に並ぶ日本タイ記録の誕生です。
13秒00は、寺田選手にとっては、2009年に2回マークしている13秒05を、10年ぶりに更新する自己新記録。すでに多くのメディアで報じられているように、寺田選手は北海道・恵庭北高時代からトップハードラーとして活躍し、北海道ハイテクAC所属の2009年にはベルリン世界選手権にも出場した経歴の持ち主。その後、相次ぐケガなどに苦しみ、2013年にいったん引退しましたが、結婚、出産、大学進学、7人制ラグビーへの挑戦などを経て、この春から競技会に復帰、快進撃を見せてきました。
陸上競技の練習を再開して8カ月で、ここまで戻ってきたことを喜ぶ一方で、狙っていたドーハ世界選手権参加標準記録12秒98にわずかに及ばなかったとして、レース後には「まだまだ詰めが甘いな。私らしいなあ」と苦笑いする場面も。しかし、「鍵は1台目から2台目のところ。そこがはまれば(12秒)8とかで行けると思う」と、東京オリンピック参加標準記録(12秒84)の突破をも可能にするための課題が、よりクリアになった様子。まずは、9月1日に開催される富士北麓ワールドトライアルで、0.02秒まで迫った世界選手権参加標準記録の突破に挑みます(寺田選手の日本記録樹立コメントは、別記をご参照ください)。
なお、このレースでは、2位でフィニッシュした福部真子選手(日本建設工業)も、今季3回目の13秒1台となる13秒16のセカンドベストをマーク。3位には今季急成長の田中佑美選手(立命館大)が学生歴代2位となる13秒18で食い込み、学生記録に0秒03まで迫りました。
続いて行われた男子110mHでは、高山峻野選手(ゼンリン)が、追い風1.1mの好条件にも恵まれ、日本人初の13秒2台突入となる13秒25でフィニッシュ。布勢スプリント(13秒36、日本タイ)、日本選手権(13秒36、日本タイ)、実業団・学生対抗(13秒30、日本新)、そして今大会と、6月以降に出場した4試合で連続して日本記録を樹立する快挙となりました。
前半を抑えて、後半をしっかり走ることを意識してレースに臨んでいたという高山選手ですが、実際には、第1ハードルのクリアランスの段階で、前半を得意とする金井大旺選手(ミズノ)や泉谷駿介選手(順天堂大)に先行する入りを見せて、そのままリードを広げていく展開でした。レース後は、「まさかこのタイムが出るとは思わなかったので、とても驚いている」とコメントしましたが、高いレベルでの安定性に、より磨きがかかった印象を残す結果となりました。
13秒25は、アジア歴代4位タイ、今季世界9位の好記録。世界選手権やオリンピックでも十分に決勝進出が狙える水準といえます。しかし、高山選手自身は「まだまだ自分は世界で戦うには力がない。まずは少しずつ自己ベストを更新していくことが、地力を高めることになると思う。またコツコツとやっていきたい」と、いつものごとくいたって控えめ。今後は、一度しっかり身体づくりから取り組んで、世界選手権に向かう予定です(高山選手の日本記録樹立コメントは、別記ご参照ください)。
>【日本記録ラッシュに会場大盛り上がり】アスリートナイトゲームズ福井レポート&コメント vol.2へ続く…