『第7回IAAFワールドランキング制度(2)』から
横田 陸連の強化対象競技者は「トップ20入り」を狙って標準突破で代表入りするイメージだからまだいいとして、その下のエリアにいる選手たちがこれまで話に出たようなことを知ることはとても大事だと思っていて、今後、陸連としてどうやって周知させていくのか気になります。以前はブロック合宿があったので、その時に勉強会とかできたんですけど。
麻場 情報発信というのは我々の課題の1つだと思っているので、それをどのようにやっていくかですね。
横田 意識が高い人は知ってるんですけど、そうでもない人たちはIAAFのホームページを開いても、まずアルファベットを見て1回「ウッ」となるじゃないですか(笑)。任意でもいいから勉強会を開くとか、アスリート委員会でも何かできるか検討したいですね。
山崎 選手やコーチはあらゆる手段で情報を得ないといけないのです。「知らなかった」では済まされない。陸連も情報を開示していきますが、さらに何をしたらいいかですね。この座談会の企画も、その1つです。
関 メディアの方々向けに勉強会を開いて、正しいことを書いていただくことも重要なのでは? 取材の場で正しい知識を持った方々が選手と会話してくれれば、より普及にもつながります。我々競技運営をやっている人たちを含め、いろんな方々に知っていただく努力はしていかないといけないですよね。
山崎 カンファレンスのようなものを開けないかとずっと考えているんですけど、なかなか実行に移せずにいます。
横田 指導者がライセンス制度になったら、そこを必ず受講しないとダメとか。インセンティブがないとみんなライセンスも取らないのでね。そうやって、ランキング制度から派生していくものはあると思います。
──半分はランキング制度で東京五輪に出られるとなれば、みんな必死に勉強しませんか。
横田 本音と建て前があって、難しいですよね。建て前としては「標準記録を突破して出場しないと、出るだけで終わるよ」と。それはそうですよね。アスリートだからやっぱり「勝負したい」と言いたいんです。でも、実際「君のレベルだったら出るだけになっても、もっと戦略的に大会を選んでランキング制度を生かす方が現実的だよね」という選手もいる。その手綱を引くのはマネジメント側なんです。陸連とコーチですね。
山崎 大会の格付けが上がって良かった、という話をしてきましたけど、実際、本当に勝負しようと思ったら、海外に行ってやらないと、戸邉選手のようにブレイクスルーすることはないんですよ。本来の強化のあり方はそういう選手たちを増やすことで、それ以外の人たちは各々の努力でオリンピックの代表切符をつかんできている。しかし、2020年は日本で開催されるわけですから、強化の幅も広がっているのです。
麻場 「東京五輪」という特別なステージなので、本来の強化だけでなく、「1人でも多く」という柱も我々は作ったんですね。それは東京五輪を盛り上げる1つの価値にもなり得ます。
山崎 でも、出る選手が次々と予選落ちしていたら、「何やってるの」という話になります。「がんばった」と言われるには、ラウンドを進むことが大事だと思うし、それが強化だと思います。
横田 ただ、僕は2007年の大阪世界選手権に出させてもらったんですけど、地元の世界選手権に出たことによって、いろんなことが変わったんです。東京五輪で予選落ちの選手が次々と出たら寂しいですけど、その先を見据えて、僕は1人でも多く出てほしい。オリンピックという舞台を経験する人が多ければ多いほど、それを伝える人数が増えるということですよね。「出る人」と「戦う人」は別に考えないといけないと思います。
「出る」となるとランキング制度はめちゃめちゃ大事で、それをうまく使えば日本人は出られる可能性が高まる。なぜかと言うと、1500mのターゲットナンバーは「45」なんですけど、ぎりぎりのラインにいる海外の選手は、出られる大会がFランクが多いんです。Fが3本、BとCが1本ずつとか。記録は3分37~38秒あたり。でも、日本人が3分40秒でB、B、C、C、Eとかに出たら、余裕でランキングは上に行く。それがいいか悪いかは別にして、1500mは前回の東京五輪(1964年)から代表が出ていないわけですし、そういう種目から代表が出るのは今後のためにすごく大事だと思いますね。
山崎 制度的にはわかりやすいですよね。
河野 日本選手の全体的な流れとしては、室内の大会に出る選手が増えたし、日本記録も出始めている。雰囲気は良くて、可能性を求めるチャレンジになってますよね。ワールドランキング制度になっていろんなチャンスが見えてきたので、やる気につながっているのではないでしょうか。
横田 あと、スポーツの見方が増えるというのは大事だと思うんです。記録と勝ち負けだったのが、「ここで何秒で走ると世界ランクが上がるよね」とか。それは陸上界全体としておもしろいのかなと思ってます。新谷(仁美、NIKE TOKYO TC)もアジア選手権(4月21日~24日/カタール・ドーハ)の女子10000mで31分半ぐらいのタイムで優勝すれば、ランキング1位なんですよ。その時点で1位って、おもしろいじゃないですか。
──先日、男子20km競歩でも、山西利和選手(愛知製鋼)が全日本競歩能美大会で優勝して、記録も良くて、ランキング1位になりました。そういう視点もおもしろいですね。
河野 それはぜひ、新谷さんにもランキング1位になってほしいね。
麻場 動き出しが早くなってますね。このランキング制度が始まった影響だと思います。ただ、今年は世界選手権が秋(9月27日~10月6日)ですから、シーズンが長いです。休む時期も必要なので、そのへんのところも含めて、それぞれの選手のプロセスを確立していけるといいなと思っています。例えば、室内から積み上げていく人、秋は休む人、秋からがんばる人。多様性があると、活性化にもつながると思います。
──冬季も強化のカテゴリーごとにいろんな取り組みをされてきたと思いますが、何か情報は上がってきていますか。
麻場 それぞれがそれぞれの課題の中で動いていて、今のところ故障などの悪い情報は入ってきてないので、成果を上げながらやっているんだと思います。ですから、4月以降のシーズンが楽しみですね。戸邉君から始まって、いいニュースが次々と入ってきてますからね。
──アジア選手権、世界リレー(5月11日~12日/神奈川・横浜国際)と、春からビッグゲームが続きます。
麻場 春から気の抜けない大会が続きますが、やはり世界選手権のパフォーマンスが来年の東京五輪に向けては大きいと思うんですね。ドーハでどのくらいメダルが取れるのか、いくつ入賞できるのかが1つの目安になるのではないかと思ってます。今季はアジア選手権がスタートラインになりますが、幸いなことに80名の大デレゲーションを組ませていただいて、ここからどういうプロセスを歩んでいくのか。我々はできる限りのお膳立てをしていきたいと思っています。
山崎 今年は長いシーズンになるんですけど、気合いが入り過ぎている印象もありますね。世界選手権とオリンピックの両方を見据えて戦略を立てる場合、過去の事例がないわけですから、いろいろ相談した方がいいですよね。
河野 マラソンは男女ともMGC(マラソングランドチャンピオンシップ、9月15日/東京)なのですが、トラックの長距離種目は男子と女子で捉え方が全然違ってきています。女子は標準記録を破っている選手が多いので、いわゆる〝戦い〟になる。(コーチの)横田君がいるから言うわけではないですけど、やっぱり新谷さんの復活はすごく刺激になってると思います。トラックの主力選手がマラソンに移行して心配だったのですが、完璧に代替わりできそうですね。
男子は標準記録の水準が高いので、戦略的に〝記録〟を出す手段を整備しないといけないし、大会のレベルを選びながら、その選んだ大会にもきちっと仕掛けをしないといけないなと思っています。現場との共通理解を深めて、やるべきことをやっていきたい。5000mで遠藤君(日向、住友電工)とか、10000mで阿部君(弘輝、明大)とか今、若い世代が戦えるようになってきているので、楽しみです。
金子 注目の男子短距離でも、若手の川上君(拓也、大阪ガス)がインドアの60mで日本新(6秒54)を出し、屋外でも桐生君と一緒に走ったブリスベンで自己ベスト(10秒24/+2.0)を出してます。
山崎 トラック&フィールド全般で、インドアに出たりとか、ちょっとずつみんなの行動が変わってきてますね。早く仕上げる、遅く仕上げるの善し悪しはその結果なのでわからないですけど、今、みんなが違うことをやり始めてるのはいいのかなと思ってます。
あとは、戸邉君が良い年も悪い年もありながら、何年もかけてあそこまで到達している。そういうスタンスの選手が出てきているのは評価できます。桐生君は海外でシーズンインして、200mで自己ベスト(20秒39 /+1.5)。山縣君(亮太、セイコー)もアメリカで走ってきました(「Spring Break Invitational /3月22日、フロリダ州ジャクソンヴィル」で10秒18、+2.1)。彼らは別のところにいながら、結構ライバル意識を持ってやっているんでしょうね。フィールドでもどんどん日本記録が出始めていて、世界のレベルからの高い、低いはありますが、まず「日本新」というのは進歩している証ですから、いいと思います。
金子 今のところ、110mハードル陣も順調ですよ。
麻場 1年間、ずっと走り切るのは難しいと思うので、それぞれの状況の中で、来年のことも視野に入れつつ戦略を立ててもらって、我々がどうバックアップできるかだと思います。
関 最後にもう一度、言わせてください。ワールドランキング制度の詳細はIAAFのサイトで見られるので、しっかり確認をお願いします。
ランキング制度を最大限に生かす戦略を
横田 陸連の強化対象競技者は「トップ20入り」を狙って標準突破で代表入りするイメージだからまだいいとして、その下のエリアにいる選手たちがこれまで話に出たようなことを知ることはとても大事だと思っていて、今後、陸連としてどうやって周知させていくのか気になります。以前はブロック合宿があったので、その時に勉強会とかできたんですけど。
麻場 情報発信というのは我々の課題の1つだと思っているので、それをどのようにやっていくかですね。
横田 意識が高い人は知ってるんですけど、そうでもない人たちはIAAFのホームページを開いても、まずアルファベットを見て1回「ウッ」となるじゃないですか(笑)。任意でもいいから勉強会を開くとか、アスリート委員会でも何かできるか検討したいですね。
山崎 選手やコーチはあらゆる手段で情報を得ないといけないのです。「知らなかった」では済まされない。陸連も情報を開示していきますが、さらに何をしたらいいかですね。この座談会の企画も、その1つです。
関 メディアの方々向けに勉強会を開いて、正しいことを書いていただくことも重要なのでは? 取材の場で正しい知識を持った方々が選手と会話してくれれば、より普及にもつながります。我々競技運営をやっている人たちを含め、いろんな方々に知っていただく努力はしていかないといけないですよね。
山崎 カンファレンスのようなものを開けないかとずっと考えているんですけど、なかなか実行に移せずにいます。
横田 指導者がライセンス制度になったら、そこを必ず受講しないとダメとか。インセンティブがないとみんなライセンスも取らないのでね。そうやって、ランキング制度から派生していくものはあると思います。
──半分はランキング制度で東京五輪に出られるとなれば、みんな必死に勉強しませんか。
横田 本音と建て前があって、難しいですよね。建て前としては「標準記録を突破して出場しないと、出るだけで終わるよ」と。それはそうですよね。アスリートだからやっぱり「勝負したい」と言いたいんです。でも、実際「君のレベルだったら出るだけになっても、もっと戦略的に大会を選んでランキング制度を生かす方が現実的だよね」という選手もいる。その手綱を引くのはマネジメント側なんです。陸連とコーチですね。
山崎 大会の格付けが上がって良かった、という話をしてきましたけど、実際、本当に勝負しようと思ったら、海外に行ってやらないと、戸邉選手のようにブレイクスルーすることはないんですよ。本来の強化のあり方はそういう選手たちを増やすことで、それ以外の人たちは各々の努力でオリンピックの代表切符をつかんできている。しかし、2020年は日本で開催されるわけですから、強化の幅も広がっているのです。
麻場 「東京五輪」という特別なステージなので、本来の強化だけでなく、「1人でも多く」という柱も我々は作ったんですね。それは東京五輪を盛り上げる1つの価値にもなり得ます。
山崎 でも、出る選手が次々と予選落ちしていたら、「何やってるの」という話になります。「がんばった」と言われるには、ラウンドを進むことが大事だと思うし、それが強化だと思います。
横田 ただ、僕は2007年の大阪世界選手権に出させてもらったんですけど、地元の世界選手権に出たことによって、いろんなことが変わったんです。東京五輪で予選落ちの選手が次々と出たら寂しいですけど、その先を見据えて、僕は1人でも多く出てほしい。オリンピックという舞台を経験する人が多ければ多いほど、それを伝える人数が増えるということですよね。「出る人」と「戦う人」は別に考えないといけないと思います。
「出る」となるとランキング制度はめちゃめちゃ大事で、それをうまく使えば日本人は出られる可能性が高まる。なぜかと言うと、1500mのターゲットナンバーは「45」なんですけど、ぎりぎりのラインにいる海外の選手は、出られる大会がFランクが多いんです。Fが3本、BとCが1本ずつとか。記録は3分37~38秒あたり。でも、日本人が3分40秒でB、B、C、C、Eとかに出たら、余裕でランキングは上に行く。それがいいか悪いかは別にして、1500mは前回の東京五輪(1964年)から代表が出ていないわけですし、そういう種目から代表が出るのは今後のためにすごく大事だと思いますね。
山崎 制度的にはわかりやすいですよね。
河野 日本選手の全体的な流れとしては、室内の大会に出る選手が増えたし、日本記録も出始めている。雰囲気は良くて、可能性を求めるチャレンジになってますよね。ワールドランキング制度になっていろんなチャンスが見えてきたので、やる気につながっているのではないでしょうか。
横田 あと、スポーツの見方が増えるというのは大事だと思うんです。記録と勝ち負けだったのが、「ここで何秒で走ると世界ランクが上がるよね」とか。それは陸上界全体としておもしろいのかなと思ってます。新谷(仁美、NIKE TOKYO TC)もアジア選手権(4月21日~24日/カタール・ドーハ)の女子10000mで31分半ぐらいのタイムで優勝すれば、ランキング1位なんですよ。その時点で1位って、おもしろいじゃないですか。
──先日、男子20km競歩でも、山西利和選手(愛知製鋼)が全日本競歩能美大会で優勝して、記録も良くて、ランキング1位になりました。そういう視点もおもしろいですね。
河野 それはぜひ、新谷さんにもランキング1位になってほしいね。
2019年シーズンの取り組み方~世界選手権と五輪の両方をにらんで~
──4月にアジア選手権が控えていることもあって、多くの種目でトップ選手がすでに始動しています。記録も耳に入っていると思いますが、現状をどう見ますか。麻場 動き出しが早くなってますね。このランキング制度が始まった影響だと思います。ただ、今年は世界選手権が秋(9月27日~10月6日)ですから、シーズンが長いです。休む時期も必要なので、そのへんのところも含めて、それぞれの選手のプロセスを確立していけるといいなと思っています。例えば、室内から積み上げていく人、秋は休む人、秋からがんばる人。多様性があると、活性化にもつながると思います。
──冬季も強化のカテゴリーごとにいろんな取り組みをされてきたと思いますが、何か情報は上がってきていますか。
麻場 それぞれがそれぞれの課題の中で動いていて、今のところ故障などの悪い情報は入ってきてないので、成果を上げながらやっているんだと思います。ですから、4月以降のシーズンが楽しみですね。戸邉君から始まって、いいニュースが次々と入ってきてますからね。
──アジア選手権、世界リレー(5月11日~12日/神奈川・横浜国際)と、春からビッグゲームが続きます。
麻場 春から気の抜けない大会が続きますが、やはり世界選手権のパフォーマンスが来年の東京五輪に向けては大きいと思うんですね。ドーハでどのくらいメダルが取れるのか、いくつ入賞できるのかが1つの目安になるのではないかと思ってます。今季はアジア選手権がスタートラインになりますが、幸いなことに80名の大デレゲーションを組ませていただいて、ここからどういうプロセスを歩んでいくのか。我々はできる限りのお膳立てをしていきたいと思っています。
山崎 今年は長いシーズンになるんですけど、気合いが入り過ぎている印象もありますね。世界選手権とオリンピックの両方を見据えて戦略を立てる場合、過去の事例がないわけですから、いろいろ相談した方がいいですよね。
河野 マラソンは男女ともMGC(マラソングランドチャンピオンシップ、9月15日/東京)なのですが、トラックの長距離種目は男子と女子で捉え方が全然違ってきています。女子は標準記録を破っている選手が多いので、いわゆる〝戦い〟になる。(コーチの)横田君がいるから言うわけではないですけど、やっぱり新谷さんの復活はすごく刺激になってると思います。トラックの主力選手がマラソンに移行して心配だったのですが、完璧に代替わりできそうですね。
男子は標準記録の水準が高いので、戦略的に〝記録〟を出す手段を整備しないといけないし、大会のレベルを選びながら、その選んだ大会にもきちっと仕掛けをしないといけないなと思っています。現場との共通理解を深めて、やるべきことをやっていきたい。5000mで遠藤君(日向、住友電工)とか、10000mで阿部君(弘輝、明大)とか今、若い世代が戦えるようになってきているので、楽しみです。
金子 注目の男子短距離でも、若手の川上君(拓也、大阪ガス)がインドアの60mで日本新(6秒54)を出し、屋外でも桐生君と一緒に走ったブリスベンで自己ベスト(10秒24/+2.0)を出してます。
山崎 トラック&フィールド全般で、インドアに出たりとか、ちょっとずつみんなの行動が変わってきてますね。早く仕上げる、遅く仕上げるの善し悪しはその結果なのでわからないですけど、今、みんなが違うことをやり始めてるのはいいのかなと思ってます。
あとは、戸邉君が良い年も悪い年もありながら、何年もかけてあそこまで到達している。そういうスタンスの選手が出てきているのは評価できます。桐生君は海外でシーズンインして、200mで自己ベスト(20秒39 /+1.5)。山縣君(亮太、セイコー)もアメリカで走ってきました(「Spring Break Invitational /3月22日、フロリダ州ジャクソンヴィル」で10秒18、+2.1)。彼らは別のところにいながら、結構ライバル意識を持ってやっているんでしょうね。フィールドでもどんどん日本記録が出始めていて、世界のレベルからの高い、低いはありますが、まず「日本新」というのは進歩している証ですから、いいと思います。
金子 今のところ、110mハードル陣も順調ですよ。
麻場 1年間、ずっと走り切るのは難しいと思うので、それぞれの状況の中で、来年のことも視野に入れつつ戦略を立ててもらって、我々がどうバックアップできるかだと思います。
関 最後にもう一度、言わせてください。ワールドランキング制度の詳細はIAAFのサイトで見られるので、しっかり確認をお願いします。