2019.07.18(木)その他

【Challenge to TOKYO 2020 日本陸連強化委員会~ゴールド・プラン~】第7回IAAFワールドランキング制度(1)

かねてより国際陸連(IAAF)が導入を模索してきた「ワールドランキング制度」。今年のドーハ世界選手権での採用は見送られ、以前のように参加標準記録での参加資格になったが、いよいよ来年の東京五輪から正式に導入されることが決まった。まず2020年は標準記録とランキングの併用となり、高い水準に設定された標準記録突破者でほぼ半数を見込み、各種目に割り振られた人数枠(ターゲットナンバー)によって残りの選手をランキング上位者で埋める。

この「ワールドランキング制度」の詳細はIAAFのホームページに掲載されているので、日本陸連の関係者は「きちんと目を通してほしい」と呼びかけているが、大会のグレードや風、順位などによってポイントが異なってくるので、非常にわかりづらい面はある。ただ、日本選手にとって活用次第では有利に働くこともあるようで、今回の座談会では「各選手と指導者の戦略が大事」と〝戦略〟がキーワードになった。

●構成/月刊陸上競技編集部

●撮影/船越陽一郎

 
※「月刊陸上競技」にて毎月掲載されています。


 (左から)麻場一徳、金子公宏、横田真人、山崎一彦、関幸生


出席者
強化委員会・強化情報戦略部門
麻場一徳(リーダー・強化委員長)、山崎一彦(トラック&フィールドディレクター)、河野匡(長距離・マラソンディレクター)金子公宏(ワールドランキング制度戦略担当)、関幸生(競技規則・事務局国際担当部長)、横田真人(アスリート委員会)

 

東京五輪は標準記録とランキングの併用

──今回は「IAAFワールドランキング制度」(以下、ランキング制度)をテーマに話を進めていきたいと思います。東京五輪のクォーリフィケーション・システム(参加資格制度)が、このほどIAAFから発表されました。そこにランキング制度導入が明記されているわけですが、麻場委員長はどう受け止めましたか。

麻場 オリンピックの参加システムが出ましたね。以前はドーハ世界選手権の前からランキング制度が始まるという話でしたので、我々はその制度について調査・研究し、戦略を練ろうといろいろやってきたわけです。そういう中で日本のいろんなシステムを考えると、ランキング制度が導入されたのは割と有利なのではないか、と。1人でも多くのアスリートがその場に立つ、1つでも多くのメダル・入賞を獲得するための戦略をいち早く確立することによって、東京五輪が皆さんに「良かったね」と言っていただけるような大会になると思います。これからやっていかなければいけないこともたくさんあるのですが、今回出てきた内容は、今まで準備してきたものを確実に生かしていけるシステムになっていると思います。

 標準記録とランキングの併用ですが、我々が目標とする「メダル・入賞」に向けては、限りなく標準記録を軽々と破って出場するようなアスリートが必要。その一方で、「1人でも多くその場に立つ」ということを考えた場合、ランキング制度をいかに施策として活用するか。そういう意味では、当初予想していた以上に良いかたちでオリンピックに臨めると、私自身は思っています。


──選手側の立場で見ると、どうですか。

横田 標準記録とランキング制度の併用というのは、ややわかりにくい印象はあります。どっちかにスパッと決めてもらった方が選手としてはわかりやすいし、目指すところが明確になりますよね。

 そもそもIAAFがランキング制に移行しようとしたのに合わせ、強化委員会が去年から動き始めていた、というのがスタートですよね。IAAFの加盟国の中には我々以上に「わかりにくい」と思っている国が多くて、ドーハ世界選手権から取り入れたかったけど延期され、2020年が併用型になった、というのが現状の流れだと理解しています。

山崎 わざわざ「世界選手権ではやりません」と書いてあるので、かなり波紋があったのではないでしょうか。煩雑になってますからね。ただ、分析をすると、さまざまな戦略が出てきますし、日本は去年から準備し、分析をしているので、ある程度は理解できています。

 ダブルスタンダードになってますけど、日本はその前に派遣設定記録を設けて、標準記録との「ダブルスタンダード制」にしていましたよね。世界のベスト12の記録を派遣設定記録にしたのですが、東京五輪の参加標準記録はそれより低くて、だいたい世界ランク20~25位ぐらいなんです。となると、我々が「入賞してほしい」と思っている選手たちの位置になるので、強化はしやすくて、それ以外の選手は「あの手この手を使ってランキング制度で出場権を獲得しましょう」ということです。


ワールドランキング制度導入の意図は?

──読者に向けて、ランキングの基本的な順位付けを大まかに説明してもらうことはできますか。

 短い言葉で説明するのは、なかなか難しいです。あえてひと言で言えば、混成競技と同じように記録に応じて得点がつきますよ、ということですかね。

──トラック&フィールドのほとんどの種目が、5大会の記録のポイントで順位がつくのですね。

横田 長距離は2~3大会です。





──それで、大会のカテゴリーによって得点が変わってきますね。

 ですから、混成競技は記録イコール得点だけれども、ワールドランキングは風速の換算もあるし、大会のレベルによって順位得点がついてくる。さらに、世界記録を出せばポイントがつく。いろいろな状況下で対応できるようにして、できるだけ不公平がないようなかたちのランキングを作成しよう、という趣旨ですね。

山崎 公平か不公平かがわかりづらいので、紛糾しているんだと思いますけど(笑)。

河野 要は「記録」という明らかに特定できるものと、それでは評価しきれない「実力」というものをどうにか比較化しようとしたIAAFの試みが、これ(ランキング制度)だと思う。マーケティングやプロモーションベースで「力のある選手をよりきちんと評価したい」ということでこの制度が導入された背景もあるので、それを1つの参加資格として入れることによって難しい面が出てるとは思うんだけど、たぶん時間が経てば定着してくるのかな、と私自身は見てます。

 確かに、河野ディレクターがおっしゃるように、IAAFがなぜ導入したかと言うと、1回きりの記録でオリンピックや世界選手権に参加できる標準記録として評価するのではなくて、安定した力を出せる選手に出てもらいたい、という思惑はあると思います。

金子 大会前に駆け込みで、「一発標準突破で出場」というケースが、今まで結構多かったですからね。

河野 ギリギリで標準突破はダメだよ、ということだよね。高い標準記録だと、さすがにそれはないでしょうから。そういう信憑性の部分も担保しているのかなと思います。

 信憑性で思い出したのが、まさにリオ五輪前の駆け込み突破です。結局、IAAFがIOC(国際オリンピック委員会)と約束した参加選手の総数をオーバーしてしまって、IOCからクレームが来たり、IAAFに割り当てられた選手村の部屋数もオーバーしてしまった、という背景があります。

山崎 そんな背景もあって、東京五輪は標準記録を高くしたわけですよね。で、残りはランキングで埋める。だけど、これはたぶん苦肉の策で、当初は参加資格のためのワールドランキングではなかったと聞いています。本当はダイヤモンドリーグ(DL)とかに出られる、ハイポイントを取っている人たちのステータス。上の人たちはトップ8とかトップ10を決めたいと思ったのではないかな。

 いずれにしてもIAAFはこれをいろんなことに使いたい。エントリーのために使うのはその1つであって、たとえばマラソンのラベリング(世界のマラソン・レースの格付け/ゴールドシルバー、ブロンズの3種)も今、このランキングなんですよね。記録じゃなくて、ランキング上位の選手が何名いないとゴールドになりませんよ、とか。

 あと、先ほどマーケティングという話が出ましたけど、先日、男子走高跳の戸邉直人選手(つくばツインピークス→JAL)が室内で2m35の日本新記録を出しました。一般の人にはそれがどれほどの価値かわからないけど、「100mに換算すると9秒95」という記事がありましたね。これはスポンサーサイドにとってもいい話になる、という考えがIAAFにはあるようです。

山崎 時代の流れということですよね。陸上競技の価値が世界中で下がっているので、今のシステムじゃないやり方で観る人にわかりやすくする。その第一段階が東京五輪と重なった、ということです。

 大会がカテゴライズされているので、IAAF主催のDLなどはポイントがすごく高いんですよね。ゴールドラベルも非常に高い点数になる。あとはエリア。アジア、ヨーロッパなど、地域の大会の価値も高めようと意図されてます。選手が「より高い順位得点をもらえる大会を」と考えると、レベルの高い大会に出て行く傾向が強まるのかなと思います。

金子 その場合、大会のカテゴリーだけじゃなく、なるべく戦える大会に出て行く必要はありますよね。

織田がB、静岡など4大会はCカテゴリーに──海外の大会により積極的に出て行っても、順位を取れなければ順位ポイントがつかない。国内の大会は条件が良くて記録は狙えるけど、大会のグレードがどうか。そんなところからランキング制度への戦略が変わってきますね。

麻場 日本陸連強化委員会には「強化情報戦略」という部門があって、ワールドランキング制度については金子さんを中心にこれからどう選手を導いていけるのか、探っていこうと思います。そういう意味では、2019年シーズンがとても大切になってきます。そして、誰でも海外に行けばいいかというと、そうではなくて、我々は国内の大会の整備を進めてきているのです。これに関しては関さんをはじめ事務局の人たちがかなりがんばってくれました。

金子 国内の大会の整備は、大きく進んでいます。具体的には、国内の試合でも得点が取れるように、「カテゴリーアップ」ですね。これは思ってる以上に進んでいます。もう1つは、これまでなかった流れとして、インドアシーズンの整備。2020年2~3月もポイント獲得に活用できるように考えています。これまでは長い冬季トレーニングの中でポイント獲得の場を入れられなかったのですが、インドアシーズンを作ることで可能になります。日本室内はもちろん、アジア室内、世界室内(中国・南京)のチャンピオンシップがすべてアジアで行われます。来年の6月までにポイントを取らないといけないことを考えると、大きな取り組みになると思います。

 こちらからも情報発信を積極的にしていきますが、あとは横のつながりですね。選手間で情報共有ができてくれば、こちらが見えてなかったことも見えてくるかもしれません。そういった情報をなるべくしっかり伝える、ということですね。





──すでに海外のレースでシーズンインした選手は多くて、男子短距離の桐生祥秀選手(日本生命)はオーストラリア・ブリスベンで行われた「Queensland Track Classic」の100m、200mでドーハ世界選手権の参加標準記録を切りました。

 エリア・パーミットは大会カテゴリーのB、C、Dの3段階なんです。ブリスベンの大会はオセアニア・パーミットを取っていて、Bカテゴリーの評価を得ています。100mにいい選手が集まるというのでIAAFがBにしているのかもしれないですけど、それは日本でもやろうとしていて、海外に行くばかりじゃなくて「国内にも魅力的な大会がありますよ」というのを1年かけて準備してきた、ということですね。

金子 逆に、国内の大会で日本の選手がポイントを取りづらくなる可能性もありますよね。海外からいい選手が何人も来たら。でも、そこで戦えないとどうしようもない、とも言えますが。

山崎 話を整理すると、今まではランキング制度が始まったら、みんな「海外へ行かないと」と思っていたのです。まだそう思っている人もいるのですが、そうではなくて、「国内の大会でもポイントが取れる」ということです。日本グランプリシリーズの織田記念(4月27~28日/広島広域)がBカテゴリーになりました。日本選手権と同じグレードです。あと、兵庫リレーカーニバル(4月21日/ユニバ記念)、静岡国際(5月3日/エコパ)、木南記念(5月6日/大阪・ヤンマースタジアム長居)、南部記念(7月7日/北海道・札幌厚別)がCです。ヨーロッパのCレベルの大会だと、標準記録を当たり前に突破できる力がないと出られないけど、国内にそのレベルの大会があるのです。これは、かなり有利です。いち早く日本陸連や各種主催陸協が対応してくれた成果と言えます。

 

第7回IAAFワールドランキング制度(2)』に続く…


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