Day4:4月24日(火)
チームジャパン、最終日にメダルラッシュ!橋岡が今季世界最高タイ、日本歴代2位の8m22で逆転V!
ドーハで開催中のアジア選手権は4月24日に最終日を迎え、現地時間午後5時04分(日本時間は24日午後11時04分)から13の決勝種目が行われました。
日本は、12種目の決勝に臨み、金3、銀2、銅4と、7種目で9つのメダルを獲得。大会期間中のメダル獲得数を金5、銀4、銅9の合計18に増やしました。また、1位から8位までをポイント化して順位をつけるプレーシングテーブルでは250ポイントを獲得。中国(295ポイント)に次いで2位となり、バーレーン(189ポイント)、インド(169ポイント)以下を押さえる結果を残しています。
メダルラッシュとなった日本の快進撃の口火を切ったのは追い風1.3mの好条件下で行われた女子100mH。前日行われていた予選を1・3位で通過していた木村文子選手(エディオン)と青木益未選手(七十七銀行)が、ともに予選の記録を上回る13秒13と13秒28でフィニッシュ。金メダルと銅メダルを獲得しました。木村選手にとっては、2013年プネ-大会(インド)以来2回目の優勝です(木村選手以下、メダル獲得者のコメントは、以下に別記しています)。
男子走幅跳では、橋岡優輝選手(日本大、ダイヤモンドアスリート修了生)が記録、勝負ともに素晴らしいパフォーマンスを披露しました。第4跳躍者としてピットに立った橋岡選手は、1回目に7m97(+0.3)を跳んで、
7m96(-0.4)でトップに立っていたHUANG Changzhou選手を抜いて1位でスタート。そのHUANG 選手の2回目は7m97(+0.2)で、橋岡選手の2回目が7m81(+0.4)だったことでセカンド記録の差でいったん2位に後退しましたが、3回目に自己記録まで1cmに迫る8m08(+0.4)をマークして再び首位に立ち、前半の試技を終えました。
追い風1.5mの好条件下となった4回目は、踏み切ったものの砂場に走り込んでしまってファウル。5回目の試技に入ると、そこまで1回目に7m90を跳んでからは3回連続ファウルで5番手にいたZHANG Yaoguang選手(中国)が8m13(-0.1)の跳躍を見せて橋岡選手を逆転します。橋岡選手の5回目は7m92(+1.1)で、2位のまま最終の6回目を迎えることとなりました。その土壇場となった最終跳躍で、橋岡選手が持ち前の勝負強さを発揮します。今季世界最高タイとなる8m22(+0.5)のビッグジャンプを披露して、自己記録を一気に13cm更新。日本記録に3cmに迫る歴代2位の好記録で、再び首位を奪い返したのです。逆転を懸けて臨んだZHANG選手の6回目はファウルにとどまり、ここで競技終了となりました。
昨年のU20世界選手権に続く金メダル獲得を果たすとともに、シニアの国際大会初優勝となった橋岡選手。この記録は、秋に開催されるドーハ世界選手権の参加標準記録(8m17)も上回るもので、東京オリンピックの参加標準記録(8m22)に並ぶ記録でもあります。走幅跳の東京オリンピック参加標準記録有効期限は5月1日からとなるため記録自体は突破者として扱われませんが、大会カテゴリーの高いアジア選手権を、この記録で制したことによって、ワールドランキングのスコアを引き上げ、東京オリンピックに向けて大きく前進する好結果となりました。
もう1つの金メダル獲得は、最終種目の男子4×400mRで実現しました。ウォルシュ・ジュリアン選手(富士通)、佐藤拳太郎選手(富士通)、伊東利来也選手(早稲田大)、若林康太選手(駿河台大)のオーダーで臨んだ日本は、4レーンからスタート。各選手は46秒0、45秒4、46秒11、45秒27のラップ(主催者発表の公式リザルトに記載されたデータによる。女子についても同じ)を刻み、1走のウォルシュ選手から一度も首位を譲ることなく3分02秒94でフィニッシュし、ナショナルレコードを更新した中国(3分03分55)以下を圧倒、2011年神戸大会以来8年ぶりの優勝を果たし、有終の美を飾りました。
また、東京オリンピックに向けて特別プロジェクトを組んで強化を進めている女子4×400mRでも、日本は銅メダルを獲得しています。広沢真愛選手(日本体育大)、青山聖佳選手(大阪成蹊AC)、武石この実選手(東邦銀行)、岩田優奈選手(中央大)の走順で決勝に臨んだ日本は、1走の広沢選手が54秒0のラップでトップでバトンをつなぐと、青山選手は53秒0で回って首位を維持したまま3走の武石選手にバトンパス。武石選手はインドに抜かれましたが53秒56のラップでバトンをアンカーの岩田選手へ。ここで、この大会で200m、400mの2冠を達成したNASER Salwa選手がアンカーを務めたバーレーンが4位から上位を猛追。岩田選手も49秒70のラップで回ったNASER選手にかわされましたが、懸命に粘り、3分34秒88・3位でフィニッシュ(岩田選手のラップは54秒28)。男女ともに、5月に開催される世界リレーに向けて弾みとなる結果を手に入れました。また、前日に同メダルを獲得した男女混合4×400mRにも出場した佐藤選手、若林選手、武石選手は、それぞれ2つめのメダルを手にする形となりました。
男子走高跳は、この種目の第一人者で、故障による手術からの復帰段階にあるBARSHIM Mutaz Essa選手(カタール)が出場を見送り、スタンドから競技を見守るなか行われました。勝負は、2m26を3回目に成功したGHAZAL Majdeddin選手(シリア)が、2m29で調子を切り替え、この高さと、今季屋外世界最高となる2m31を1回でクリアして優勝を果たしました。GHAZAL選手に最後まで食らいついたのは衛藤昂選手(味の素AGF)。2m23、2m26、2m29ともに2回失敗して、あとがない状態で3回目にクリアしていく展開ながら、戸邉直人選手(JAL)を押さえて銀メダリストに。優勝候補にも上がっていた戸邉選手は、2m23を2回目にクリアしたあと、2m26を1回で成功させ、そこから調子が上がっていくかとみられていましたが、続く2m29を跳ぶことができず、3位で競技を終了しました。
追い風1.7mの好条件下で行われた男子200mは、予選同様に決勝も小池祐貴選手(住友電工)とXIE Zhenye選手(中国)の戦いとなりました。小池選手は、予選で課題に上げた前半の走りを修正して、トップでホームストレートへ。その後、XIE選手との競り合いになりましたが、ラストでXIE選手が前に出て20秒33で先着。小池選手が20秒55で続き、銀メダルを獲得しました。
このほかでは、松枝博輝選手(富士通)と服部弾馬選手(トーエネック)が2600m過ぎまで1・2位でレースを引っ張る展開を見せた男子5000mでは、松枝選手がいったん5位まで後退しながら最後で再び盛り返し、13分45秒44で銅メダルを獲得。服部選手も8位まで順位を落としましたが、ラスト1周で順位を2つ上げ、13分47秒82・4位でフィニッシュしています。男子110mH(+1.7)は、高山峻野選手(ゼンリン)が13秒59、金井大旺選手(ミズノ)が13秒64をマークして4位・5位でフィニッシュ。女子1500mでも卜部蘭選手(NTTC)が4分17秒90で4位とメダルに迫りました。卜部選手とともに出場した陣内綾子選手(九電工)は4分24秒17で10位。また、前日に予選が行われた男子1500mでは館澤亨次選手(東海大)と田母神一喜選手(中央大)が果敢な走りを見せ、館澤選手が3分44秒70で5位、田母神選手は3分45秒15で7位に食い込みました。
フィールド種目では、橋岡選手とともに走幅跳決勝に進んでいた城山正太郎選手(ゼンリン)が7m78(+0.5)で5位、女子円盤投は齋藤真希選手(東京女子体育大)が52m87で6位、郡菜々佳選手(九州共立大)は記録なしという結果。前日の予選を突破して男子ハンマー投決勝に臨んだ墨訓熙選手(小林クリエイト)は65m86で9位となり、ベスト8進出はなりませんでした。
前述したように走幅跳の橋岡選手や走高跳のGHAZAL選手のほかで今季世界最高をマークしたのは、男子110mHのXIE Wenjun選手(中国)。5年ぶりに自己記録を更新する13秒21(+1.7)の大会新記録を樹立しました。女子円盤投のFENG Bin選手(中国)は65m36の大会新記録で優勝。そして、最も多種目での活躍が目を引いたNASER Salwa選手(バーレーン)は、予選で大会タイをマークしていた200mの決勝では、22秒74(+1.2)の大会新記録を樹立して400mとの2冠を獲得したほか、女子4×400mRでもバーレーンの優勝に貢献し、前日行われた男女混合4×400mRを含めて4冠を達成。NASER 選手は4×100mRでアンカーを務めて3位に食い込んでおり、この4日間で金4、銅1と、5つのメダルを獲得しました。
■日本人メダリストコメント
◎女子100mH
木村文子(エディオン) 優勝 13秒13(+1.3)
もっと記録が出たらよかったなという気持ちはあるが、(予選に続いて)1つの大会で(13秒)1台を2回出せたというのは、これまで海外ではなかったこと。ある程度つくっていけば、(13秒)1台は最低でも出せるのかなという自信になった。
今年は、アジア選手権の日程が早いということもあり、アメリカには行かず、時差があまり大きくないオーストラリアでトレーニングを行い、そこでサリー・ピアソン選手(12秒28=世界歴代5位、2012年五輪優勝、2011年・2017年世界選手権優勝)と一緒に練習する機会に恵まれた。昨日も、ピアソンから“最後まで走れよ、気を抜くなよ”というメールをもらっていて、最低でも金(メダル)は取らないと報告できないなと思っていたので、(獲得できて)よかった。
去年も走りはそんなに悪くなかったのだが、シーズンはじめにケガをしてしまい、自信の持てない練習の内容になってしまっていた。しかし、今年は、ケガもなく順調に練習ができており、さらにピアソン選手と一段階高い環境でやらせてもらえたので、走りの部分ではかなり修正ができているのではないかと思う。アメリカでのトレーニングは、相対的に底上げしていくところが上手だと思うが、オーストラリア、特に(1986年生まれの)ピアソン選手は、年齢的なこともあって1本1本力を出しきるという練習をやっていて、自分も追い込んでやっているほうだと思っていたのだが、その上がいたという追い込み方を知ることができた。また、トレーニングだけでなく、日常のあらゆる面で、余計なストレスはかけないというスタンスでと取り組む姿を見て、学ぶところがたくさんあった。ポイント制になったからには、記録は絶対だが、自分が狙った大会で記録を出すことが求められる。また、コンスタントに試合に臨めることがとても大事。そういった意味でも、ピアソンから学んだことは非常に大きいと思う。
これまでよりもリズムがかなり上がってきているということもあり、今日も後半にかなり浮く感じがあった。もう一段階上げていくためには、レースを重ねるなかで修正していくのがいいのかなと思う。
(シーズンの早い段階から好記録が出ているが)ピアソンにも「記録を出す準備はできたと思って走りなさい」と言われている。ゴールデングランプリ(大阪)では、彼女と一緒に走れるので楽しみにしている。
◎女子100mH
青木益未(七十七銀行)3位 13秒28(+1.3)
(3位という結果は)本当は悔しいと言わなければいけないのだろうが、(力を出しきれなかった昨年の)アジア大会のこともあり、決勝でまた失敗するのではないかと不安を感じながらも、とにかく必死に走って表彰台に立てたということは、少しずつ強くなっているといえるのではないかと思う。
決勝では、競技場に入ってからの練習でハードルに足をぶつけて、いやな感じがあったし、レース内容もそんなによくはなかったのだが、とにかくもう自分は、ハードリングは下手だけど、間(のインターバル)はしっかり速く走れるんだと思って、必死で走った。
この冬は、前半のスタートを磨いてきた。大阪室内(室内日本記録の8秒12に迫る8秒18の好記録をマーク)のときのようにうまくいくときもあれば、いかなかいこともあって、その波がまだすごくある。そこを安定させれば、自分の良さが出せて、記録が狙えるのではないかと思う。
このあと、木南記念とゴールデングランプに出場する。強い選手と走れる機会なので、そこで記録を狙えるように、課題の部分を帰ってから直して、ちゃんと勝負できるように準備したい。
◎男子200m
小池祐貴(住友電工) 2位 20秒55(+1.7)
全体的には悪くはなかったと思う。自分のイメージでは、120mまであのくらいのスピードと余力でもっていき、そこからはテンポを変えないで走るだけだと思っていた。でも、コーナーを抜ける手間での100mくらいで、自分の想定通りの位置で、ちょっと前に出られるくらいの行けていたことで、「よし、これは行けるな」と少し気が緩んでしまったかもしれない。
昨日(予選)の前半が悪すぎたので、今日に向けてある程度修正するためには、後半のイメージよりも前半のイメージに集中して、あとはテンポで走ればいいと思っていたのだが、気持ち的にちょっと焦って(コーナーで)内側にかなり寄って(走って)しまったことが、コーナー抜けの部分ではブレーキ要因というか、マイナスの要因になったのなと思う。
スプリント的には、すごくスピードアップしている手応えがあるが、それがまだ生かせていないという感じがする。修正は昨日よりはかなりできていたと思うのだが、タイムがあまり伸びていないので、なんでこのくらいのタイムだったのかというところでは、若干自分でも首を傾げるところ。ただ、(前半の)加速の部分で力を使いすぎないように、うまく重心を乗せて走ろうと思っていたので、そこは非常にうまくいったと思う。
今季は世界陸上があるので、まずは参加標準記録(20秒40)を突破して、日本選手権はしっかり勝って、それを弾みに海外のレベルの高い選手たちとの試合を組んでいって、世界陸上では予選からしっかり自己ベストに近い走りをしていって、それを2日続けて準決勝で勝負というイメージで臨みたい。
◎男子5000m
松枝博輝(富士通) 3位 13分45秒44
上位に来た2人は強いので、3位を確実に取ろうと思っていた。狙っていた3位をとることができたので、素直に嬉しい。
東京オリンピックを狙うためには(ワールドランキング制度で高いポイントを獲得できるように)タイムが必要となる。(カテゴリーの高い)アジア選手権に出場できるという大事な機会をせっかくいただけたので、序盤は(服部弾馬選手と)2人でレースをつくろうと、一緒に挑戦した。3000mくらいでペースを落とそうと思っていたので、そこで(強い選手たちに)前に出てこられたことは予想通りだったが、離されてからはもう少し前でレースを進めたかった。そこは力不足だったと思う。
ついていく展開になってからは、余裕のあるなかでの走りだったが、確実に前の2人とは力の差があると思っていたので、自分のキープできる位置…3位というところを確実に行くということで、消極的な走りになってしまった。(そういう展開を)狙って走ったといえばそうもいえるので、そこに関しては予定通りというところはある。しかし、上位との差を痛感することにもなったので、次のステージではちゃんと挑戦しなきゃなと思う。
(東京オリンピックまで)とにかく時間がない。まずは世界陸上を狙って、さらに精進していきたい。
◎男子走幅跳
橋岡優輝(日本大) 優勝 8m22(+0.5)=今季世界最高タイ
とりあえずは優勝できてよかった。予選ではお尻の大きな筋肉がまだ使えていないということがわかったので、決勝に向けてはそこを修正した。調子も上がってきていたので、今日にピークが合ったというところもある。決勝では、お尻(の筋肉)を使えたぶん、しっかり踏み切りで乗ることができて、そういうところで(予選であった)違和感もなかったので、そこがよかったと思う。
(途中で中国の選手に8m13を出されて逆転されたが)そのほうが燃えるかなという気持ち(笑)で、すごい楽しかった。自分のできる限りのジャンプをすることができれば、日本記録も跳べるだろうし、逆転もできると思っていた。結果的に日本記録更新まではいかなかったが、(ドーハ世界選手権の)参加標準記録を突破して、逆転して勝つことができたので、より自分の跳躍に自信が持てるような試合になったなと感じている。
(8m22を跳んだあとも全く喜ぶ様子がなかったのは)まだ自分の跳躍のあとに中国の選手の6本目があったから。パーソナルベストでは中国の2選手は僕より全然上なので、「油断しちゃいけない」という気持ちがずっと心のなかにあった。そういう意味で、あまり喜べなかったというところはある。この大会では、アジアチャンピオンになって、参加標準を跳ぶというのが一番の目標だった。そこは達成できたのでよかったなとは思っている。
8m22が出たときも勝負のことしか考えていなかったので、「次、どのくらい跳んでくるのかな」と相手選手のことばかり考えていたが、優勝が決まったあとで、「うわ、3cm(日本記録に)届かなかったな」と悔しさがわいてきた。今回は、ベスト記録が出たことよりも勝ちきれたほうが嬉しくて、記録という点については、日本記録に届かなかった悔しさの残る結果だったなと思う。
(有効期限期間前ではあるが東京オリンピックの参加標準記録の8m22を出したことについては)そんなには感じなかったが、僕はベストが出たら、そのベストに近いところで記録が落ち着くという傾向があるので、ここで(8m)22を跳ぶことができたから、今後の試合でもたぶん(8m)20くらいの記録は跳べるんじゃないかと思っている。まあ、(8m)20とはいわず、(8m)30、(8m)40というところを、今シーズン中には出していきたい。
変化というところでは、去年に比べるとムラがなくなったように思う。昨シーズンは、1試合のなかでも記録の低い試技があったりしたのだが、助走自体に自分の“まとまったもの”ができてきたという感じ。もちろん、まだまだまとまりきってはいないわけだが、自分の跳躍自体の再現性が上がったように感じていて、それによって記録の安定性も出てきたのかなと思う。
シニアの国際大会での優勝はとても意義がある。しかもこの地(ドーハ)なので、世界陸上に向けて、いい感覚がつかむことができた。この競技場のピットを一度経験したことはかなり大きい。今後に生かすことができると思う。今シーズン、目指しているのは、(8m)30後半の記録。まだシーズン序盤ということもあり、まだまだ行けるという感覚が一番大きい。そうはいっても、(8m)25という記録は侮れないというか、運が悪いとこのまま(8m)22で今シーズン終わってしまうかもしれないので、そこは慢心しないで、自分のできる限りの練習をしっかりして、自分のパフォーマンスの再現性などを突き詰めて、より高い記録を目指せるように頑張っていきたい。
◎男子走高跳
衛藤 昂(味の素AGF) 2位 2m29
いい跳躍ができた。(2m23、2m26、2m29はすべて3回目のクリア。跳ぶことができたのは)気合いと、皆さんの手拍子のおかげだと思う。(2m)29を跳んだときは、(2m)26を跳んだ時点で4番だというのがわかっていたので、「メダルを取らずに日本に帰るのはいやだな」という思いだった。そうしたら、もう(2m)29を跳ぶしかない(笑)。意地でも跳んでやろうと思って跳んだ。
自分には、どうしても重心が低くなって、踏み切りも深くなる癖があったので、それを高い位置で踏み切ることができるように、冬の間を通して取り組んできた。しかし、まだ癖として残っているところがあって、今回は、そのせめぎ合いという感じだった。(バーを)落としたときは、(重心が)低くて、それをなんとか高いほうに戻して、それでクリアして…という感じだった。目標とする動き自体はできてはいるのだが、それが出せる確率が3回に1回という状態。その3回に1回が今日は出せたので、御の字というところである。ただ、この確率が高まれば、どの試技も一発でいくことができる。少ない本数で(2m)30までバーを上げていけるようにすることが、今シーズンのこれからの課題である。
(ワールドインドアシリーズの戸邉選手の活躍については)2010年の世界ジュニア(現U20世界選手権)に一緒に出た。そのとき、私のほうは予選落ちで、向こうは3位。そこから常に自分の目の前にちらつく存在である。今年の室内シーズンでは、そのときの差がまた開いたのかなとも感じたが、今は、その差を1歩ずつ縮めていくことから始めていけばいいと思っている。
今季の目標は2m33。東京オリンピックの参加標準記録が明確に発表されたので、5月以降は、その(2m)33を目指してまずはやっていきたい。
◎男子走高跳
戸邉直人(JAL) 3位 2m36
(1回でクリアした2m)26まではイメージ通りの試合展開ができて、「ここからだな」というところだったのだが、(2m)29の跳躍で踏み切り位置を一度見失ってしまった。そこから立て直して(2m)31で勝負だなと思っていたのだが、屋外初戦ということもあり、そこの修正がうまくいかなかった。踏み切り位置が近くなってしまっていたと思う。
(2m)23の1回目は失敗したが、跳躍時代は、様子を見ながらだんだん状態を上げていくというつもりだった。今日の追い風の感じやトラックの感じを見て合わせていくというイメージで、(2m)26をクリアしたところで1回つかめたなという感触があったのだが、(2m)29に上がって、ちょっと見失ってしまった。もともと(勝負が動くのは2m)29かなとは思っていた。その気合いが入った状態のときに、どうしても技術的に乱れてしまう部分があって、それは試合を重ねていくなかで洗練されていく面でもあるので、実戦不足を感じた内容だった。
追い風が強かったというのはあったが、そこまで難しいというわけではなく、今回はうまく修正がきかなかった、準備不足かなという感じである。ドーハに来た段階ではすごく調子がよかったので、そこからここまでの調整失敗というか…。まあ、それも屋外シーズン初戦ならではのことなのだが、うまく合わせきれなかったという部分があった。そういう面も含めて、これからもっともっと調子を上げていけるかなと思う。
次の試合はゴールデングランプリ。ダイヤモンドリーグは6月から転戦していく。(秋のドーハ)世界選手権で、ここで自己ベストが跳べるように、いいイメージを持って、またここに戻ってきたい。
◎女子4×400mR
日本(広沢、青山、武石、岩田) 3位 3分34秒88
・広沢真愛(日本体育大)
夢だったメダルを取ることができてうれしい。1走だったので、次の人にいい流れをつくろうと、そのことだけを考えて走った。走り自体は、もう少し前半から行けていればよかったなと感じているが、最後は粘ることができたと思う。
・青山聖佳(大阪成蹊AC)
1走の広沢が、本当にいい流れでバトンを持ってきてくれた。私はその流れをしっかり武石さんと岩田につなぐことが役目だと思ったので、そのことだけを考えて走った。(53秒0という正式のラップを聞いて)久々に後半も大きく失速することなく走れたので、このナショナルチームでやってきたことが生かせていると思うし、自信になった。次の世界リレーに向けて、チームとしても個人としてもいい流れで向かえるなと思う。
・武石この実(東邦銀行)
前の走者の2人がいい位置でバトンをもってきてくれたので、しっかりと、冷静に自分の走りをしようということを意識して走った。もうちょっと速く走りたかったなという気持ちはあるのだが、追われる立場のなかで、冷静に走ることはできたと思う。ここで走って、メダルをとれたことはすごく自信になるし、プロジェクトチームとして一緒にやってきたみんなと走れたことは心強かったし、チームとしての一歩にもなった。ここからまた世界リレーに向けて頑張っていきたい。
・岩田優奈(中央大)
先頭のインドにしっかり食いついていこうという気持ちで走った、ラストでたれてしまい、(後ろから抜かれた)バーレーンとインドに突き放されてしまい、最後はぎりぎり3位という結果になった。ラストは脚が動かなくなっているのは自分でもわかっていたので後ろがすごく気になって、「来るな」と思いながら必死に脚を回した。3位でフィニッシュできて本当によかったが、世界で戦うためには1人あたり1秒以上タイムを上げていかなければならない。プロジェクトチームでとしてはベストなので、そこはすごく嬉しいが、これに満足することなく、もっともっと上を目指していきたい。
◎男子4×400mR
日本(ウォルシュ、佐藤、伊東、若林) 優勝 3分02秒94
・ウォルシュ ジュリアン(富士通)
ラップはあまりよくないが、結果的にメダルを取れたのはでかい。うまく流れをつくるということで、僕が1走になったので、そこを果たせたことはよかったと思う。3分02秒94というタイムは、そんなにすごい速いタイムではないが、この時期ということを考えるとまずます。次の世界リレーにつながる走りができたと思うので、世界リレーでは日本新記録を出して、世界陸上と東京オリンピックにつなげられたらと思う。
・佐藤拳太郎(富士通)
ウォルシュ選手がいい位置でバトンを持ってきてくれたので、2走の役割として、とにかくこの順位を守るということと、後ろとの差を開くということを意識した。まあまあ、そこそこ走れたのではないかと思っている。(世界大会でメダルを獲得している)4×100mRの活躍は僕たちにとって喜ばしい半面、悔しく感じるところもある。「日本はマイルも強いんだぞ」というふうに世界から思ってもらえるように、僕たちも、チーム一丸となって頑張っていきたい。世界リレーを今日のメンバーで走れるとは思っていないので、そこに入っていけるように準備をしていきたい。
・伊東利来也(早稲田大)
先頭でバトンをもらって、ほかの選手のことを気にせず走れるということは、僕のなかでものすごく大きかった。前の2人の選手にはものすごく感謝している。今回は、トップで走っていても攻める走りをしようということを、マイルチームみんなでレース前から決めていたので、「僕のなかでは攻めすぎず、でも守りすぎず」という走りができたのではないかと思う。
・若林康太(駿河台大)
僕までの3人がすごいしっかりといい流れをつくってもってきてくれた。自分のやらなければならないことは明白で、あと逃げること。とにかく逃げきるということでがむしゃらに走った。(追われて走る展開は)もう、すーごく怖かった(笑)。が、守りに入ったら負けると思ったので、前半から攻めて、ラストも“逃げなきゃ、逃げなきゃ”で走った。無事にフィニッシュして、「よかったー」という感じ(笑)。本当にホッとしている。
■総括コメント
麻場一徳(アジア選手権日本選手団チームリーダー、強化委員長)このアジア選手権の位置づけは、トラック&フィールド種目の東京オリンピックに向けたプロセスのスタートという位置づけもあり、各種目にエントリーして男女合わせて80名近い選手を派遣した。4月のこの時期の開催ということもあり、コンディショニングは難しかったはずだが、そのなかで、うまく調子を合わせてきた選手はそれなりの成果が得られたのではないかと思う。なかなかうまくいかなかった選手もいるが、まだシーズンはスタートしたばかり。時間はあるので、まずは世界選手権を目指し、そして東京オリンピックに向けてパフォーマンスを上げていってくれたらと願っている。
世界選手権が9月末から10月上旬にかけての開催になるということで選手たちには、長いシーズンになる。コンディションをコントロールしながら過ごしていってほしい。そういう意味では、今回金メダルを取った選手は、少し余裕を持ってシーズンを送れるのではないかと思う。また、10000mでは新谷さん(仁美、NNTC)が東京オリンピックの参加標準記録を突破した。彼女は復帰してから順調にパフォーマンスを上げているし、(競技から離れた前の)全盛期のころに比べると、まだパフォーマンスを上げていく余地もあると思う。ぜひそのへんに取り組んでもらいたい。
このアジア選手権で獲得したポイントは、東京オリンピックに向けて有効になる。ここを足がかりとして今後はポイントを積み上げて出場を狙う選手と、標準記録を突破して出場を狙う選手との2パターンに分かれてくると思う。それぞれの選手が、自分の今の立ち位置を見極め、どういうプロセスで東京に向かっていくのか、しっかりと戦略を立てていってもらえたらと思う。もちろん、我々陸連の強化がいろいろなアドバイスをしながら、ともに進んでいくという形で、東京オリンピックを目指していきたい。
今回は、メダル云々ということよりも、各選手がどういうスタートを切れたのかということのほうが大事だと思っていた。そういうなかでの金メダル5つは、まずまずの成果だと思っている。そして、最終種目で、頑張らなければいけない男女4×400mRが手応えを示してくれた。私のなかで、「これからやっていけるんじゃないか」と気持ちが高まってきている。
また、世界選手権会場となるこの競技場に、事前に来て、競技を行えたことは非常に意味があると感じている。競技場の中は想像していた以上に冷房が効いていて、競技開始までのコンディショニングや着るものをどうするかなど、リハーサルとなる面が多かった。特に、冷房については、ユニフォーム姿で出てこなければならない選手たちにとってはものすごく大事。今回、そこを見極めることができたのは、けっこうなアドバンテージになると考えている。しっかり対策をとって、臨めるようにしたい。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォートキシモト
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