2018.10.19(金)その他

【Challenge to TOKYO 2020 日本陸連強化委員会~東京五輪ゴールド・プラン~】第1回 アジア大会総括と東京五輪への強化全体像(3)

「第1回アジア大会総括と東京五輪への強化全体像(2)」から

5 コーチ陣の連携にSNSを活用

──山崎さんの話にも河野さんの話にも、強化スタッフとパーソナルコーチとの関わり方がチラッと出ましたが、強化委員長はそのあたりをどう考えてますか。


麻場一徳 強化委員会 強化委員長 情報の共有、連携というのは、大きなテーマだと思っています。ジャカルタでも大会の運営には大変なところが多々あって、例えばタイムテーブルが突然変わったり、コールの場所が変更になったり。その中で我々が大きなストレスなく競技に集中できたのは、陸連事務局から渉外担当でデレゲーション入りした平野(了)さんや岩瀧(一生)さんが、大会本部に張り付いて常に情報を流してくれたからなのです。最近はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)という便利なツールがあるので、誰かがそういう情報を入手したら、それぞれの持ち場で判断して強化コーチ、パーソナルコーチにパッと流す。そういう流れがうまく稼働したのは、今回の一番の収穫だと思います。

代表チームなので、パーソナルコーチとの関わりについては、ある一定のところで線引きしないといけないのは確かなのですが、しかしそうやっていい関わりを持ちながらやっていければいい結果につながる。今回、そういう手応えを持ちました。




──それは今までになかった試みですか。

麻場 リオ五輪(2016年)の時も、スタッフの皆さんには「情報共有をしっかりしましょう」と話しました。その成果の1つが、男子50km競歩で荒井広宙選手(自衛隊体育学校)の失格を回避して銅メダルにつなげたことです。テレビの解説で現地に行っていた山崎さんが映像を見ていて、我々に連絡をくれたところから、あのメダル獲得のプロセスは始まったのです。我々はゴール近くにいて、ダンフィー選手(カナダ)と荒井選手との接触現場を見ていませんでした。

山崎一彦 強化委員会 トラック&フィールド ディレクター 私は映像で荒井選手とカナダの選手が接触する場面を見て、「絶対にカナダはプロテスト(抗議)するから」とチームスタッフにメッセンジャーで送ったのです。荒井選手は自分からぶつかっていませんから、そうしたら日本側も抗議しないといけない。それには競技終了後30分以内という規則があるので、時間が大事だと思ったのです。

麻場 それが現地では午前中の出来事で、その日の夜に男子4×100mリレーで銀メダルです。そういう流れというのは、関係ないようであるんですよね。

河野匡 強化委員会 長距離・マラソン ディレクター そして今回のアジア大会では、男子マラソンの井上君がゴール前の直線でバーレーンの選手と競って、インから抜こうとした相手と接触した。そのシーンを日本のテレビで見ていた陸連事務局員がすぐに「相手が内側から無理に来ている」と正面から撮影された動画を送ってくれました。プロテストされるだろうな、と読んでいたら案の定やってきました。

麻場 実は、我々もプロテストしていたのです。

河野 強化委員長が「プロテストをやり返そうよ」と言うから、「なんで?」と聞いたら、「園田君が3番に繰り上がるかもしれない」と。なるほど、と思いました。

山崎 もちろん井上君を守ろう、という意味が先にありますよね。


──リオでの経験がジャカルタで生きましたね。

河野 国内にも「チームジャパン」のメンバーがいて、現地に的確な情報を流してもらったということですね。

麻場 今後はワールドランキング制度になるわけですから、そうしたネットワークを生かして、どういう試合がある、どんな試合に出たらポイントが稼げるなどを含めて、いろんな情報交換、情報共有ができるような態勢になると、いい成果を挙げられるのではないかと思います。


6 競歩

──勝木隼人選手(自衛隊体育学校)が男子50kmで金メダルを取った競歩を忘れてはいけませんね。男子20kmでは山西利和選手(愛知製鋼)が銀、女子20kmでも岡田久美子選手(ビックカメラ)が銅メダルを獲得しています。

麻場 競歩は私がお話します。競歩については強化の体制が確立していますので、今後もこの流れを継承し、これまでやってきたことの集大成を、この2年間かけてやっていただけたらと思います。今は誰が出てきてもそれなりの結果を出せるレベルに上がってきていますし、山西君のような若い力も出てきています。この流れをあえて変えていく必要はないと思いますね。50kmの丸尾知司君(愛知製鋼)は、あれだけ暑熱対策をしても暑さにやられました。東京五輪はジャカルタ以上の過酷な気象条件になりますから、本当にサバイバルレースになるでしょうね。

山崎 勝木君も給水直後に吐いていましたね。私たちが思っている以上に過酷で、あの場にいて「東京ではどうなるんだ」と思いましたよ。

麻場 そういう意味で、東京の暑熱環境にどう対応するか。そこに絞り込んでいくことが、競歩では重要になってきます。シミュレーションとしては、来年のドーハ世界選手権があります。

河野 暑熱対策のシミュレーションとして、ドーハ世界選手権がどれぐらいの意味を持つか読めない部分はあるのですが、パフォーマンスをしっかり発揮して東京五輪につなげていく。ワールドランキング制度を含めて、五輪を狙うには絶対にはずせない大会になると思います。MGCがあるので、マラソンだけはそこからはずれるわけですが。


7 トラック&フィールド plus

山崎 先ほど河野さんが長距離・マラソンのところでかなり個人の名を挙げて説明されたので、私もトラック&フィールドで触れたい選手がいるのですが……。


──お願いします。

山崎 男子の4継は「良かったね」という高い評価なのですが、男子短距離としてよくがんばってくれたのが、200mとマイルリレーに出た飯塚翔太君(ミズノ)です。本当だったら4継に出てもいいわけです、リオ五輪の銀メダルメンバーですから。今回、小池君もマイルリレーでしたが、やはり4継でも良かった。しかし、マイルも何としても東京五輪に出場しないといけない、という男子短距離陣の戦略で、今回は2人ともマイルリレーで走ってくれて、特に飯塚君は44秒6台のラップで貢献してくれました。このあたりはぜひ強調したいです。マイルリレーも2004年のアテネ五輪では4位に入賞している種目です。みんなの目が4継にばかり向いていますけど、トータルでがんばるという方針の中で、マイルも絶対に必要なのです。


──近ごろ元気がないロングスプリント陣の強化策もお聞きしたいところですが……。

麻場 それは今、仕掛けを考えていますので、今後お話できる機会があろうかと思います。

山崎 あと1人、男子走高跳の戸邉直人君(つくばツインピークス)の名を挙げさせてもらいます。金メダルは取れなかったですが、今季はダイヤモンドリーグ(DL)のファイナルに進出した、というシーズンの流れの中で、跳躍チームのスタッフと意思疎通を図りながら、短期間の合宿を頻繁に行っていました。その強化の仕方も良かったのではないでしょうか。仮のワールドランキング・ポイントは今、日本選手で最高位ですから、来年の世界選手権はもちろん東京五輪に一番近い位置にいると思います。

麻場 さらにつけ加えるなら、私たちの予想をいい意味で裏切ってくれた男子200mの小池君と棒高跳の山本聖途君(トヨタ自動車)。山本君には、自身も棒高跳でキャリアがある小林史明コーチと、計画的にやってきた成果が出ました。小池君は、走幅跳で実績のある臼井淳一コーチから指導を受けるようになって、新たな展望が開けたというか、自分でも気づいていなかった才能を臼井コーチに引き出してもらった。2人ともそういう過程が成果としてうまく現れたのだと思っています。


「第1回アジア大会総括と東京五輪への強化全体像(4)」に続く…


構成/月刊陸上競技編集部

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