◆桐生選手に続く日本人選手の「9秒台」の可能性
桐生選手の更なる記録の短縮や、新たな日本人選手の「9秒台」を占うデータを紹介しよう。
2017年の「日本10傑」と世界リストでの順位は、「表14」の通り。
【表14/2017年日本10傑と2017世界リスト・世界歴代の順位】
順)記録 | 風速 | 氏名 (所属) | 月日 | 2017世界 | 世界歴代 |
---|---|---|---|---|---|
1)9.98 | 1.8 | 桐生祥秀 (東洋大) | 9.09 | 16位 | 98位 |
2)10.00 | 0.2 | 山縣亮太 (セイコー) | 9.24 | 20位 | 126位 |
3)10.05 | 0.6 | サニブラウンAハキーム (東京陸協) | 6.24 | 33位 | 198位 |
4)10.07 | 1.8 | 多田修平 (関学大) | 9.09 | 43位 | 236位 |
5)10.08 | 1.9 | 飯塚翔太 (ミズノ) | 6.04 | 47位 | 265位 |
5)10.08 | -0.9 | ケンブリッジ飛鳥 (ナイキ) | 6.23 | 47位 | 265位 |
7)10.13 | 1.9 | 原翔太 (スズキ浜松AC) | 6.04 | 70位 | 411位 |
8)10.20 | 1.9 | 九鬼巧 (NTN) | 6.04 | 124位 | 717位 |
9)10.22 | 1.9 | 諏訪達郎 (NTN) | 6.04 | 147位 | 861位 |
10)10.23 | 1.9 | 藤光謙司 (ゼンリン) | 6.04 | 161位 | 935位 |
10)10.23 | 0.6 | 宮本大輔 (洛南高) | 6.16 | 161位 | 935位 |
「10傑平均記録」は「10秒104」だった。
これまでの歴代最高は、2016年の「10秒181(10.01~10.27)」、歴代2位が2014年の「10秒201(10.05~10.27)」、歴代3位が2013年の「10秒223(10.01~10.33)」で、それらを大きく上回った。
「2017年世界100位」は10秒17で、7人が入傑した。
100位以内の国別人数は、
1)27人 アメリカ
2)15人 ジャマイカ
3)8人 イギリス
4)7人 日 本
5)6人 南アフリカ
6)4人 カナダ、トリニダード・トバゴ
8)3人 トルコ
9)2人 バルバドス、キューバ、中国、アンティグア・バーブーダ
13)1人 18カ国
で、日本は堂々の4位に食い込んだ。
よりハイレベルな「10秒09以内(計52人=10秒09はいなくて10秒08まで)」に限れば、
1)16人 アメリカ
2)8人 ジャマイカ
3)6人 日 本
4)5人 イギリス、南アフリカ
となって、イギリスを抜いて3位に進出する。
この層の厚さが、2016年リオ五輪・銀、2017年ロンドン世界選手権・銅という400mリレーでの連続メダル獲得につながったといえよう。
2017年に「10秒09以内」をマークしている6選手(桐生、山縣、サニブラウン、多田、飯塚、ケンブリッジ)の公認条件での「個人の10番目の記録」「10傑平均」「10秒0台以内の回数」を「表15」に示した。参考までに、2016年以前に10秒09以内で走った6選手のデータも付記した。
【表15/10秒09以内の日本人選手の個人別10位・10傑平均・10秒0台の回数】
PB ~10位 | 平均 | 10秒0台以内回数 | |
---|---|---|---|
桐生祥秀 | 9.98~10.09 | 10.043 | 11回 |
山縣亮太 | 10.00~10.10 | 10.061 | 9回 |
サニブラウン | 10.05~10.30 | 10.170 | 4回 |
多田修平 | 10.07~10.23 | 10.169 | 2回 |
飯塚翔太 | 10.08~10.35 | 10.256 | 1回 |
ケンブリッジ | 10.08~10.18 | 10.135 | 1回 |
PB ~10位 | 平均 | 10秒0台以内回数 | |
---|---|---|---|
伊東浩司 | 10.00~10.24 | 10.135 | 4回 |
朝原宣治 | 10.02~10.15 | 10.102 | 4回 |
末續慎吾 | 10.03~10.15 | 10.109 | 2回 |
江里口匡史 | 10.07~10.24 | 10.157 | 1回 |
塚原直貴 | 10.09~10.23 | 10.160 | 1回 |
髙瀬慧 | 10.09~10.27 | 10.179 | 1回 |
このデータを、9秒台で走っている125選手を含め10秒09以内の世界歴代選手(日本人12選手を含め307人。10秒0台は182人)と比較してみた。
- 9秒台がベスト記録の125選手のうち、桐生選手の9秒98は歴代98位タイ。
- 個人の10番目の記録が判明している9秒台の選手は123人で、桐生選手の自己10番目のタイム10秒09は69位タイ、個人10傑平均の10秒043は72位である。
- しかし、自己ベストが「9秒9台」の93選手に限ると9秒98は66位タイだが、自己10番目の記録が判明している91人中10秒09は39位タイ、10傑平均の10秒043は42位で、中位以上。
桐生選手がいかに安定したタイムをマークしているかということがわかる。
また自己ベストが「9秒90~94」の34選手との比較でも、自己10番目の記録は16位相当、10傑平均は26位相当で、何ら見劣りしない。
これと同じく2017年に10秒0台で走った他の日本人5選手についても「10秒0台がベスト記録(10.00~10.09)」の182選手のデータと比較した。
なお、182人のうち、個人の10番目までの記録が判明しているのは160人である。
日本人5選手の「ベスト記録」「10秒0台の回数」「10番目の記録」「10傑平均」の10秒0台の選手の中での各順位は「表16」のようになる(「自己記録」「10秒0台の回数」は182人中の順位。「10位記録」「10傑平均記録」は160人中の順位)。
【表16/10秒0台の歴代選手の中での日本人の順位】
自己記録 | 10秒0台回数 | 10位記録 | 10傑平均記録 | |
---|---|---|---|---|
山縣亮太 | 1位/182人中 | 2位/182人中 | 2位/160人中 | 3位/160人中 |
サニブラウン | 73位/182人中 | 24位/182人中 | 118位/160人中 | 94位/160人中 |
多田修平 | 111位/182人中 | 52位/182人中 | 76位/160人中 | 92位/160人中 |
飯塚翔太 | 140位/182人中 | 82位/182人中 | 135位/160人中 | 143位/160人中 |
ケンブリッジ | 140位/182人中 | 82位/182人中 | 36位/160人中 | 53位/160人中 |
以上の通りで、自己ベストが10秒00の山縣選手は、当然のことながら「10秒0台の選手」の中では「最も9秒台に近い位置」にいる。さらに「10秒0台の回数=9回」「10位記録=10秒10」「10傑平均=10秒061」もそれぞれ上位にいて、非常に安定していることを示している。なお、自己ベストが「9秒9台」で個人の10番目の記録が判明している91選手と比較しても、山縣選手の「10位記録」は47位タイ、「10傑平均記録」は51位タイで何ら遜色ない。
ちなみに桐生選手が9秒98をマークする以前のデータを上記に当てはめると、「自己記録=10秒01」は17位相当、「10秒0台の回数=10回」「10位記録=10秒09」「10傑平均記録=10秒054」はいずれも2位相当となる。
他の日本人4選手のベスト記録は、10秒0台の後半(10.05~10.09)ではあるが、200mが専門で100mを走る機会が少ない飯塚選手以外の「10傑平均記録」は160人中の二桁順位で、桐生・山縣選手と同じく安定したタイムを残していることがわかる。
さらに、自己ベストが10秒0台の182人の「10秒0台の回数」をベスト記録別に細かく見ていくと「表17」の通り。
【表17/自己ベスト10秒0台の選手が10秒0台をマークした回数】
PB | 1回 | 2回 | 3回 | 4回 | 5回 | 6回 | 7回 | 8回 | 9回 | 10回 | 11回 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
10秒00 | 4 | 2 | 1 | 1 | 3 | ・ | 1 | 2 | 1 | ・ | 1 | 16人 |
10秒01 | 2 | 3 | 4 | 1 | 1 | ・ | 2 | ・ | ・ | ・ | ・ | 13人 |
10秒02 | 2 | 5 | ・ | 2 | 2 | ・ | 1 | 1 | ・ | ・ | ・ | 13人 |
10秒03 | 3 | 3 | 3 | 2 | 2 | 1 | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | 14人 |
10秒04 | 7 | 2 | 2 | 2 | 3 | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | 16人 |
10秒05 | 6 | 1 | 2 | 2 | ・ | 1 | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | 12人 |
10秒06 | 18 | 4 | 1 | 2 | 1 | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | 26人 |
10秒07 | 21 | 6 | 2 | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | 29人 |
10秒08 | 17 | 3 | 1 | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | 21人 |
10秒09 | 21 | 1 | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | 22人 |
合計 | 101人 | 30人 | 16人 | 12人 | 12人 | 2人 | 4人 | 3人 | 1人 | 0 | 1人 | 182人 |
上記のように、10秒0台が「1回」という選手が182人中の101人で55.5%を占める。
当然のことながら、ベスト記録がいい選手ほど10秒0台の回数も多い。
が、ベスト記録10秒05で10秒0台を計4回マークしているサニブラウン選手は10秒05が2回に10秒06が2回という内訳。しかもすべてが2017年の記録である。
2017年に10秒0台で走った33選手の中では、ともに10秒00がシーズンベストのマイク・ロジャース(アメリカ。ベストは9秒85=2011年。9秒台は計39回)とユニエル・ペレス(キューバ。ベストも10秒00=2017年)の5回に続いて3番目の回数だ。
また、10秒07と10秒08の多田選手も自己11番目(10秒24)までの記録がすべて2017年のもの。
2017年のシーズンベストが10秒07以下の10選手の中で、2017年に複数回の10秒0台をマークしたのは、多田選手が唯一である。さらにシーズンベスト10秒06の6人を含めても2017年に複数回の10秒0台で走ったのは多田選手のみだ。
10秒08がベストのケンブリッジ選手も個人の10番目の記録は10秒18で、自己記録から0秒10以内で10回も走り、10傑平均記録(10秒135)ではサニブラウン選手(10秒170)と多田選手(10秒169)を上回る。「向風0.9m」の条件下での10秒08は大いに光る。
さらには、200mを得意とする飯塚選手、あるいは2016年に10秒09で走り、これまた200mを得意とする高瀬選手を含め、10秒09以内の現役選手が7人もいるのは何とも頼もしい限りである。
なお、2017年のベストが10秒0台の33選手のうち、9秒台の自己記録を持っているのは、13人(9.72~9.99)で39.4%にあたる。以上のようなことからしても、10秒00で「9秒台に最も近い位置」にいる山縣選手を筆頭に、10秒0台をひとつのシーズンに複数回マークしたサニブラウン選手と多田選手の他、10秒0台の自己ベストを持つケンブリッジ選手、飯塚選手、高瀬選手は、いつどこで誰が「9秒台」で走っても不思議ではない状況にあるといえよう。
★最終回<第8回>
・五輪&世界選手権の「ファイナリスト」への条件
に続く...
※記録情報は2017年12月31日判明分
文:野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:フォート・キシモト
記録と数字からみた「9秒98」や「9秒台」についての“超マニアックなお話”
▼第1回「世界記録と日本記録の進歩は?」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11324/
▼第2回「桐生選手のトップスピードは時速42.0㎞」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11327/
▼第3回「桐生選手のピッチ、ストライドの年別の変化/日本歴代上位選手とのピッチ・ストライドの比較」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11337/
▼第4回「「初9秒台」の以前とその後」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11338/
▼第5回「世界の9秒台選手の特徴」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11367/
▼第6回「「9秒台」の時の「風速」」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11366/
▼第7回「桐生選手に続く日本人選手の「9秒台」の可能性」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11368/
▼第8回「五輪&世界選手権の「ファイナリスト」への条件」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11369/
▼第1回「世界記録と日本記録の進歩は?」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11324/
▼第2回「桐生選手のトップスピードは時速42.0㎞」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11327/
▼第3回「桐生選手のピッチ、ストライドの年別の変化/日本歴代上位選手とのピッチ・ストライドの比較」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11337/
▼第4回「「初9秒台」の以前とその後」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11338/
▼第5回「世界の9秒台選手の特徴」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11367/
▼第6回「「9秒台」の時の「風速」」
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▼第7回「桐生選手に続く日本人選手の「9秒台」の可能性」
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▼第8回「五輪&世界選手権の「ファイナリスト」への条件」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11369/
▼2018年4月~「日本グランプリシリーズ」が始まります!
http://www.jaaf.or.jp/gp-series/
▼5月20日(日)「セイコーゴールデングランプリ陸上2018大阪」開催!
http://goldengrandprix-japan.com
▼6月24日(金)~26日(日)「第102回日本陸上競技選手権大会」開催!
http://www.jaaf.or.jp/jch/102
http://www.jaaf.or.jp/gp-series/
▼5月20日(日)「セイコーゴールデングランプリ陸上2018大阪」開催!
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