2月25日に開催される東京マラソン2018で、エリートの部に出場する選手の記者会見が2月23日、東京都内のホテルにおいて行われました。
アボット・ワールドマラソンメジャーズシリーズⅪ(11)として行われるこの大会は、今年で12回目。前回から東京都庁をスタートして、飯田橋~神田~日本橋~浅草雷門~両国~門前仲町~銀座~高輪~日比谷を経由し、東京駅前の御幸通りをフィニッシュ地点とする平坦なコースに変更されたことで高速化が進み、“記録の出るコース”としても認知されるようになりました。
日本選手にとっては、8月末にジャカルタで開催されるアジア大会日本代表選手選考競技会のほか、2020年東京オリンピック代表選考に向けた「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)シリーズ2017-2018」の男子第4戦も兼ねてのレース。日本の男子選手には、2時間06分16秒の日本記録(2002年)更新の期待に加えて、何人が「2時間11分00秒以内で日本人1~3位、あるいは2時間10分00秒以内で日本人4~6位」の条件をクリアして、2019年9月以降に開催予定のMGC出場権を獲得するかも注目されるところです。
男女招待選手の会見は、主催者会見、車いすマラソン招待選手会見に続いて午後に行われ、国内招待の井上大仁選手(MHPS)、設楽悠太選手(Honda)、市田孝選手(旭化成)のほか、海外招待選手として男子はウィルソン・キプサング選手(ケニア)、ディクソン・チュンバ選手(ケニア)、フェイサ ・リレサ選手(エチオピア)が、女子はルティ・アガ選手(エチオピア)、エイミー・クラッグ選手(アメリカ)が出席しました。
会見は、トークショー形式で行われ、まず、女子招待選手のアガ選手とクラッグ選手が登壇しました。
アガ選手は、女子エントリー選手リストのトップ記録となる2時間20分41秒を、昨年のベルリンマラソンでマーク(2位)している選手。この記録は、それまでの自己記録(2時間24分41秒、2016年)を一気に4分更新するもので、さらに今年1月に行われたヒューストンハーフマラソンでも、自己記録(1時間08分07秒、2016年)を大幅に更新する1時間06分39秒の好記録をマークするなど、著しい成長を見せています。
会見前日の夜、日本に到着したばかりのアガ選手は、「体調は良好。この大会に向けて、いい練習を積んできた」「東京(マラソン)は気候が厳しいが、いいレースができるかなと思っ(て出場を決め)た。寒さについては問題ない」とコメント。1つ1つの質問への回答は簡潔、かつ言葉少なでしたが、主催者側から渡されたボードには、当日の目標タイムとして、昨年樹立された日本国内最高記録でもある大会記録の2時間19分47秒を大幅に上回る「2時間18分(00秒)」というタイムを書き、会場をどよめかせました。「目標を達成するのに必要な条件は?」との問いに、「特にない。みんなと一緒にいいトレーニングを積んできたので出せると思う」と、これまた簡潔に答えていました。
昨年のロンドン世界選手権女子マラソンで銅メダル(2時間27分18秒)を獲得しているクラッグ選手は、今回が世界選手権以来のマラソンとなります。東京の印象を問われて、「東京は大好きな街で、毎回来るたびにわくわくする」とコメント。「コースを下見したが、道路の状態もよく、高速レースになると思う。(予報されている)日曜の天候も私にはとてもよい状態。アフリカ勢が非常に速く、競争も熾烈になると思うが、トップ3を目指して走りたい」と抱負を語りました。また、目標タイムとしては、2011年と2014年に2回マークしている自己記録2時間27分03秒を大幅に上回る「2時間22分59秒」を掲げ、「トレーニングはうまく行っている。かなり(実現の)確率は高いと思う」と自信のある様子をうかがわせました。
男子は、この大会の歴代チャンピオンでもあるキプサング選手(2017年優勝)、リレサ選手(2016年優勝)、チュンバ選手(2014年優勝)と国内招待の井上選手、設楽選手、市田選手、計6名が壇上に並んでの会見となりました。
キプサング選手は男子マラソン前世界記録保持者(2時間03分23秒、2013年)で、コースが変更された前回大会を日本国内最高記録となる2時間03分58秒で制している選手。現在の自己記録2時間03分13秒(2016年)は世界歴代6位となりますが、2時間4分を切るタイム(すべて2時間3分台)を4回マークしている唯一のランナーです。東京マラソンのコースについて、「自分はいろいろなところで走っているが、東京はベストのうちの1つ。天候さえよければ、世界記録(樹立)が可能なコース」と述べ、手渡されたボードに、当日の目標タイムとして、世界新記録となる「2時間02分50秒」と書き込みました。これは、1月22日に招待選手発表会見を行った際に表明した「2時間03分50秒」を1分上回る記録。キプサング選手は、この上方修正について、「あれは1カ月前のことで、その後、帰国してトレーニングもうまくいった。気温と天候次第にはなるだろうが、世界記録のペースで前半を走り、後半もプッシュして世界記録で走りたい」と強い意欲を見せました。
キプサング選手に昨年更新されるまで東京マラソンのコースレコード(2時間05分42秒)を持っていたのがチュンバ選手。これは終盤に登り勾配があった旧コースで行われていた2014年の第8回大会を制したときの記録です。以来、連続で出場(2015~2017年各大会とも3位)して今回で5回目の出場となります。昨年、2時間06分25秒で走った新コースについて、「いいと思う。35km地点から風が強く感じられたが、今回はもっとトライしたい」と話したチュンバ選手は、目標タイムとして自己記録(2時間04分32秒、2014年)に迫る「2時間04分58秒」を掲げ、「今年はもっと速く走りたいと思って準備してきた。トレーニングがうまくいったし、コンディションもいい。2時間4分台は目指すべきタイム。天候がよければ実現できると思う」と述べました。
旧コース最後の大会となった2016年に優勝(2時間06分56秒)し、ワールドマラソンメジャーズのタイトルを初めて獲得したリレサ選手。その半年後のリオデジャネイロ五輪では銀メダリストとなりました。「2016年に優勝したときのことはよく覚えている。それまで3年間ケガをしていたので、勝てたことがとても嬉しかった。そこから私の人生は変わった」とリオ五輪への弾みとなったレースをこう振り返り、「今年の東京マラソンは、また私にとって大きな転換点になると思う。すでにトレーニングはたくさん積み上げてきてベストの状態にある。自己ベストの更新を狙いたい。(2時間)4分を切ることはちょっと難しいかもしれないが、2時間4分台を目指したトレーニングはやってきた」として、目標記録として、2012年にマークした自己記録2時間04分52秒を上回る「2時間04分40秒」を掲げました。
2回目のマラソン挑戦となった前回大会で、自己記録を一気に4分34秒更新する2時間08分22秒をマークし、日本人トップとなる8位でフィニッシュした井上選手は、この結果で昨年夏のロンドン世界選手権(26位:2時間16分54秒)にも出場することとなりました。会見で、一緒に登壇している世界トップランナーの印象を問われて、「これまではテレビのなかの存在の人だったが、実際に(同じレースで)勝負することになっている。緊張もするが、やっと追いかけるところまできたのだなと感じている」と答えた井上選手。世界選手権代表の座を射止めた前回レースについて、「去年のレースはきつかったので、後半はあまりよく覚えていない。(日本人トップで)ゴールして初めて目立ったレースだったが、最後のほうで(順位を上げて)目立つことができて嬉しかったし、また、そこから自分の世界が広がっていくことになった。そのきっかけが得られたことはよかったと思う」と振り返りました。目標タイムとしてボードに記したのは、「2時間06分00秒」。日本記録(2時間06分16秒)を上回る記録を書いたことについて、「書こうかどうか迷ったが…」と前置きしつつ、「日本記録をどうこうというよりは、これから(マラソンを)やっていくなかで、このタイムであったり、もっと速い記録だったりを結果として出していければという思いで書いた。今回ももちろん挑戦するが、(記録が)出ても出なくても挑戦する思いを持ち続け、いつか自分が目指す世界レベルの選手になっていきたい」とコメント。現在の状況については、「年が明けてからもしっかり走り込みができ、調整もうまく行っている。仕上がりとしてはまずまず」と順調な様子をうかがわせました。
設楽選手は、前回、初めてのマラソン挑戦となったこの大会で、想定していた1km2分58秒のペースメーカーが不在になってしまったため、自身でペースを刻んでいく展開を余儀なくされましたが、そこで臆することなく10kmを29分12秒、20kmを58秒34秒、中間点を1時間01分55秒のハイペースで通過する果敢なレースを展開しました。さすがに35km以降はペースを大きく落としたものの最後まで粘り、初マラソンながら“サブテン”(2時間10分切り)を達成する2時間09分27秒でフィニッシュ。このときの思いを質問され、「2回目、3回目だったら速いなと感じかもしれないが、初マラソンだったから迷いもなく、前を追う気持ちで行けたのだと思う」と振り返りました。昨シーズンは、9月にベルリンマラソンの調整を兼ねて出場したハーフマラソンで1時間00分17秒の日本記録をマークすると、その8日後のベルリンマラソンでは2時間09分03秒(6位)でフィニッシュして自己記録を更新。その後は、12月に甲佐10マイル(優勝)、1月は全日本実業団駅伝(4区22.4km区間1位)、全国都道府県男子駅伝(7区13km区間1位)、2月には丸亀ハーフマラソン(2位)、唐津10マイル(優勝)と、レースを利用しながら東京マラソンに合わせてきています。ここまでの経過について設楽選手は、「年明けに試合も何度も重ねて、走りすぎかなと思ったが、練習も順調に来ている。記録が楽しみ」と語り、「高速レースを経験できるのは、東京しかできない。海外でもベルリン(マラソン)で世界のスピードを経験できたので、それを今回に生かしたい」とコメント。目標記録として自己新記録となる「2時間09分00秒」を掲げました。「(目標が)やや控えめでは?」との問いに、「今回の東京は、記録よりも勝つことを大事にしている。ゴールまで計算する走りではなく、先頭集団についていければタイムは出ると思う。9分以内で必ず走るということ。6分台の可能性もあると思う」と頼もしく応えていました。
「(前回の)レース後、井上選手や設楽選手のゴールするシーンを(録画で)見て“僕は(彼らと)比べられるレベルではない。(この)失敗をそのままにしないようにしよう”という思いで、この1年間やってきた」を話したのは市田選手。初めてのマラソン挑戦となった前回、序盤は先頭集団を追う果敢なレースを見せたものの中盤以降で失速し、2時間19分24秒で45位という結果に終わっています。目標としてボードに「2時間07分59秒」と書き込みましたが、「これは初マラソンで掲げたのと同じ記録。昨年、ゴールしたときから、“日本人トップでこの記録”という同じ目標でやろうと思った」と説明。「マラソンの実績がないなかで、こうやって(世界のトップランナーと)同じ席に立てることを光栄に思う。たくさんの方が応援してくれているので、持てる力を出しきりたい。ここまでいつも同じ流れできていて、調子はすごくいい。この1年かけてやってきたことを出したい」と力強い言葉を残しました。
文:児玉育美/JAAFメディアチーム
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