第37回大阪国際女子マラソンが1月28日、第102回日本選手権、ジャカルタ2018アジア競技大会日本代表選考会、2020年東京オリンピック代表選考に向けた「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)シリーズ2017-2018」を兼ねて、大阪府大阪市のヤンマースタジアム長居陸上競技場をスタート・ゴールとする42.195kmのコースで行われました。
レースは、昨年のロンドン世界選手権女子10000m代表で、初のマラソン挑戦となった松田瑞生選手(ダイハツ)が、初マラソン日本歴代3位の2時間22分44秒(日本歴代9位)の好記録で優勝。続いて、昨年8月の北海道マラソンで優勝している前田穂南選手(天満屋)が自己新となる2時間23分48秒で、さらに安藤友香選手(スズキ浜松AC)が2時間27分37秒で、それぞれフィニッシュ。すでにMGC出場権を獲得している前田選手に続き、松田選手、安藤選手の2人が、MGCファイナリストに名を連ねることとなりました。
スタート時(12時10分)のグラウンドコンディションは、天候曇り、気温5.0℃、湿度49%、北西の風1.2m(主催者発表のデータによる)。前日のテクニカルミーティングで、先頭集団には5km17分00秒から17分10秒の設定で、3人のペースメーカーが最大30kmまでつくことが発表される条件下で、レースはスタートしました。
最初の5kmは、先頭が18人の大集団。昨年11月のさいたま国際女子マラソン覇者のチェイエチ・ダニエル選手(ケニア)を含む3名のペースメーカーに、松田選手、安藤選手らをはじめとする11選手が17分06秒で、7選手が17分07秒で通過。5㎞を過ぎたあたりから1kmごとのペースも徐々に落ち着き、先頭が34分10秒(5kmのラップは17分04秒)で通過した10kmは、それから3秒以内で全17人が続きました。先頭は、その後の5kmを1km3分25秒の正確なラップを刻みましたが、ここで集団はやや縦長となり、12kmの手前あたりで古瀬麻美選手(京セラ)やネクストヒロイン枠で出場していた池満綾乃選手(鹿児島銀行)、棚池穂乃香選手(京都産業大)らが遅れ始め、ペースメーカーの3選手ほか、安藤選手、松田選手、前田選手、ユーニス・ジェプトゥー選手(ケニア)、ゴティトム・ゲブレセラシエ選手、グラディス・テハダ選手、吉田香織選手(TEAM R×L)の合計10人に。15kmを51分13秒で通過した直後にテハダ選手と吉田選手が遅れ、8人になりました。
20kmは1時間08分14秒で通過。このあたりでジェプトゥー選手、ペースメーカーのダニエル選手が遅れ始め、中間点を1時間11分59秒で通過した時点でペースメーカーのイロイス・ウェリングス選手(オーストラリア)が離脱。さらに21.3kmすぎでゲブレセラシエ選手もペースダウンし、先頭は4人に絞られました。
レースが動いたのは、この4選手が1時間25分20秒で通過した25km過ぎ。昨年の北海道マラソン優勝者でMGCファイナリスト第1号の前田選手が飛び出し、ペースメーカーのラーマ・ツサ選手(エチオピア)の前に出ると、松田選手と安藤選手を置き去りにして、ぐんぐん差を広げていきました。松田選手と安藤選手も26kmを過ぎたところでツサ選手を抜き、前田選手を追う展開に。安藤選手は27kmを過ぎたあたりで遅れ始めたものの、松田選手は30km地点で前田選手との差を4秒まで縮めると、30.7kmで追いつき31.9kmで逆転。30~35kmを16分19秒の今大会最速ラップを刻んで前田選手を突き放し、独走態勢を築きました。単独走となった35kmからの5kmは16分53秒とさすがにペースを落としましたが、その後もよく粘り、2時間22分44秒でフィニッシュ。2時間28分00秒以内で日本人1~3位という条件を文句なく満たし、初マラソンで優勝を遂げるとともにMGC出場権を獲得しました。
松田選手に続いたのは前田選手。30~35kmを16分50秒、35~40kmを17分26秒、最後の2.195kmを7分31秒と、ペースダウンはあったものの最後までよく粘り、北海道マラソンでマークした2時間28分48秒の自己記録を、一気に5分も更新する2時間23分48秒でフィニッシュしました。さらに、3位に入った安藤選手も2時間27分37秒をマーク。MGCへの出場権を獲得しました。
レース後の記者会見で尾縣貢日本陸連専務理事は、「2020年の東京オリンピックに向けて夢を持たせてくれる結果だった。我々はMGCをつくった際、“トラックからマラソンへ挑戦する選手”、そして“夏のマラソンも走れるランナーづくり”を大きな目標を掲げていたが、その期待にしっかりと応えてくれた。これから多くのランナーが、あとを追ってくれるものと期待している」と、今回のレースを高く評価。また、瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーは、松田選手について「期待通りの走りをしてくれた。前半のハーフが1時間11分59秒、後半は1時間10分45秒と、前半より後半のほうが1分14秒も早いレース。初マラソンとは思えない素晴らしい走りだった」とほめ、前田選手についても「中盤過ぎ(25km)で思いきり行ってくれた。松田選手に負けたけれど自己記録を5分更新したのはすごいこと。松田選手がいい記録が出たのは、前田選手が思いきりよく行ったおかげ」と絶賛。また、安藤選手についても、「中盤から遅れてしまったが、MGC出場の設定記録をなんとか切ってくれた。次につながるレースができたのではないか。力を持っている選手なので、これで自信をもって次のレースで記録を狙っていける。いい流れをつくってくれたことが嬉しかった」と述べました。
このほか日本勢で注目を集めたのが2001年・2005年・2007年世界選手権に出場している42歳の小﨑まり選手(ノーリツ)。終盤で徐々に順位を上げて2時間30分03秒・6位でフィニッシュ。2時間30分切りにはわずかに届きませんでしたが、自身が持っていた40代最高記録(2時間32分46秒、2016年)を更新しました。また、同時開催されていた大阪ハーフマラソンは、男子は、伊藤和麻選手(住友電工)が1時間02分10秒の大会新記録で優勝。2位には2012年ロンドンオリンピック6位、2013年モスクワ世界選手権5位の実績を持つ中本健太郎選手(安川電機)が1時間02分12秒の自己新(大会新)でフィニッシュし、出場を予定している4月のボストンマラソンに向けて順調に推移している様子を伺わせました。女子は、芦麻生選手(九電工)が1時間11分26秒で制しています。
【MGC出場権獲得者コメント】
◎松田瑞生選手(ダイハツ)
1位 2時間22分44秒
今回は、MGC出場権を獲得することが最低限の目標だったので、その目標を着実に獲得することができて、本当によかった。自分のなかで想定していたタイムよりも速かったが、これはレース展開によるもの。まだ通過点だし、今の実力では、世界で戦えないと思っている。満足せずにこれからも練習を積んでいきたい。
ペースメーカーが30kmまでいるということで、監督からは必ずそこまではついていくようにと言われていた。なので、25kmで前田選手が出たときも、(差を)徐々に詰めていくのに焦りもなかったし、「後半強いのは自分」という自負もあったので、冷静に追っていった。(30~35kmのラップが16分19秒になったが)自分ではそんなに速く行っているイメージはなく、ラップを見て「あら、速かった」という感じ。“一人旅”が長いレースとなってしまったが、(地元の)大阪の地で、大阪の(皆さんの)応援が大きかったので不安は全くなかった。超楽しかった。
反省点を挙げるとしたら、16分19秒にペースが上がったあとに1人で走ったとはいえ、次の5kmが17分を切るペース(16分53秒)まで落ちてしまったこと。そこをもう少し一定のペースで運べるようにしたい。1人で走ってそれができるようになったら、もっと上を目指せると思う。あとは、前半でもう少し余裕を持てるようにしていけたら…と思った。また、練習の段階で、距離の長いポイント練習をやると次の日にダメージが大きく残ることが大きかったので、これからは、それが少なくなるような身体づくりをしていけたらと思う。
東京オリンピックの選考レースとなるMGCは、激しい戦いになると思う。今回のレースは今回のレース。冷静に見直して反省し、次に戦うときに最高のパフォーマンスができるように頑張りたい。
◎前田穂南選手(天満屋)
2位 2時間23分48秒
今回の目標は、2時間26分を切って自己記録(2時間28分48秒)を更新することだった。まず、それを達成できて、とても嬉しく思う。
25km過ぎで前に出ることは、監督から言われて今日決めた。言われたときは、そんなに深く考えていなくて、身体が元気だったらやってみようという感じだった。25kmを過ぎても元気だったので飛び出したが、後半で失速する怖さとかは考えずに行った。(すでに北海道マラソンで)MGCをとっているということで、恐れず挑戦していくことができたと思う。
気象条件はかなり違うとはいえ北海道(マラソン)のときは25kmのところで、けっこう身体にきつさがあった。今回はペースメーカーがいたこともあるとは思うが、前半を落ち着いて走ることができた。また、故障があって練習不足のなかで臨んだ初マラソンの昨年(ネクストヒロイン枠で出場)と比べると、今回は、しっかりと継続して練習することができていて、その成果を出すことができたかなというのもある。なかでも1月のアルバカーキ(アメリカ)合宿で、40kmと30kmの変化走で質の高い練習をやったとき、しっかり我慢してできていたことは、今日のレースにつながったと感じている。
後半は、けっこうきつくなって、途中で身体が動かなくなり、(大阪薫英女学院高校時代の1学年上となる)松田瑞生先輩に追いつかれ、離されてしまった。ここで対応できなかったことが課題。これから筋力強化やスピードの切り替えをしっかりやっていきたい。次のレースに向けて強化できるよう、継続して練習していきたいと思う。
◎安藤友香選手(スズキ浜松AC)
3位 2時間27分37秒
正直、すごく悔しい結果となってしまったが、今の自分の持てる力は出しきった。結果をしっかりと受け止めて、次に生かしていけるよう反省し、身体を休めたうえで、新たな気持ちで次に向かいたい。
課題として感じたのは、予期せぬことが起きたときに、まだ冷静に対応することができていないということ。今回でいうと前田さんが(25kmで)一気に出ていったのは想定外で、そこで気持ちの面で一歩引いてしまった。30kmまでついてくれることになっていたペースメーカーがすべてではないというのは自分でもわかっていて、どこかでレースが動くかもしれないと予想はしていたが、前田選手が前に出るとは思っていなかった。まだまだ考えが甘かったなと思う。予測する以上のことが起きる可能性も常に想定したうえで、練習に取り組まねばと感じた。
(現役最速記録となる2時間21分36秒をマークした)昨年の名古屋ウィメンズに比べると、思うように練習を詰めなかった部分は多々あった。ただ、今日の試合で得た収穫以上に、試合までの道のりにおいて、葛藤したり何度も挫折しそうになったりしながらも自分と向き合ってスタートラインに立てたことが私にとっては大きな成長だと感じている。今回得た自分の進歩を糧に、これからも取り組んでいけたらいいなと思う。
文:児玉育美/JAAFメディアチーム
写真提供:フォート・キシモト
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