◎ワークショップ:伝統芸能体験から学ぶプロフェッショナルマインド
ワークショップでは、狂言師の十世三宅藤九郎さんが登壇しました。
三宅さんは、日本の伝統芸能として古い歴史を持つ狂言の世界で、3歳上の姉とともに史上初の女性狂言師として姉とともに女性狂言師として活躍する人物。狂言で現存する二大流儀の1つである和泉流19代宗家の次女として生まれ、1987年に十世三宅藤九郎の名跡を継承。国内外で多くの舞台に立つ傍らで、狂言の魅力や伝統を通じた教育・研修活動を行っています。
ワークショップに先立ち、坂井さんは、「三宅さんは、約600年の歴史を持つ日本の伝統芸能である狂言の世界で、女性として初めて狂言師となったお姉さんに続いて2人目の女性狂言師となった人。これまで女性が一人もいなかった狂言の世界を、女性として切り拓くとともに、600年前に生まれたこの伝統芸能を、意味あるものとして残していこうとする活動をしている。狂言を残していくという活動だけにとどまらず、三宅さんの有りようはプロフェッショナルそのもの。今回、紹介していただく狂言だけでなく、三宅さんの言葉や佇まいに触れることで、皆さんのアスリートとしての競技成績の向上や人間性の確立に役立ててほしい」と、三宅さんを紹介しました。
まず、三宅さんは、狂言とは、室町時代(600年前)に生まれた日本の伝統芸能のなかで唯一の喜劇であることを紹介し、現代劇との違い(型があり、それを守って伝えられてきたこと)、流儀の話、狂言の舞台となる能楽堂の説明や、舞台に立つ際の装束や構え(基本姿勢)、舞台上での決まりごと(本舞台内を1周することで場面転換したことにできる。舞台装置やマイクがなく動物の鳴き声や物の音は擬音で表現するなど)などを、わかりやすく説明していきました。また、和泉宗家においては、1歳半から稽古を始め、3歳でプロとしての意識を持って初舞台を踏むことや、和泉流には現行曲と定められた伝統的な演目が254曲あり、稽古は師匠からの口伝(くでん)によって覚えていくことなども明かされました。
続いて、三宅さんの口伝により、各選手が実際の稽古を体験。まず、「びょう、びょう、びょう、びょう、びょう」という擬音で表す犬の鳴き声に挑戦したあと、「兎(うさぎ)」という短い謡を、いくつかのフレーズに分けて、三宅さんの手本を真似て復唱していきました。最初は、恥ずかしさや戸惑いもあって、手本通りになかなか復唱することができませんでしたが、細かな点まで指摘を受けながら稽古を受けるうちに、選手たちの様子は変化していき、声の大きさや出し方、抑揚のつけ方、間のとり方などを、うまく復唱できるようになっていきました。
狂言に関する知識を紹介する三宅さんの言葉の随所からは、「伝統を引き継ぎ、プロフェッショナルとして舞台に立つ」ことの覚悟や心意気といったようなものを伺い知ることができたほか、実際に稽古をつけていく際には、
・初めてのことに取り組むときに、どういう姿勢をとれるのかが大事。能力の高い人は、何に対しても貪欲で、“自分はここまでできるぞ”というのを見せたがるし、実際に見せる。
・稽古では、うまくやろうとするな。8割の力でなんとなくうまくやっていても、10割でやろうとしてもうまくできない。自分が10割を出すとどうなるかがわかっていないと、本番だからと気合いを入れても空回りする。「稽古は本番のつもりで、本番は稽古と同じように」。
・間の取り方や時間の感覚は、経験則のなかでわかってくるようになる。それがわかるくらい身体に染み込めば、忘れないし、強みとなる。
・一度覚えたことは、応用が効くものがある。それを生かさないと意味がない。自分の中で、応用が効くか効かないかを判断する、あるいは別の演目で覚えたこととうまくつなぎ合わせていくことができるようになると、前に覚えたものがより膨らみをもつようになる。
など、陸上競技の場面でも大切と思える留意点が、いくつも投げかけられていたことが印象的でした。
取材・構成:児玉育美/JAAFメディアチーム
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